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浮世英伝 ―大正ウキヨ英士伝―  作者: 本堂ポンタ


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静と動、揺るぎなき忠義

挿絵(By みてみん)

 光から影へ。

 俺たちは、帝都の平和を守るため、人知れず、戦いの舞台へと向かっていた。

 俺たちが駆けつけた先は、祭りの喧騒が嘘のような、静まり返った裏路地。

 その奥で、既に複数の惡魂が、まるで統率の取れた軍隊のように陣形を組み、こちらを待ち構えていた。

「散開!」

 清長の号令と、豊春さんの鋭い目配せが同時に行われる。

 その瞬間、俺たちはただの祭りの男たちから、帝都を守る戦士へと変わった。

 地を蹴り、それぞれの龍輝筆刃を抜き放つ。

 ブォン

 重低音と共に光の刃を解き放ち、叫び声が大地を震わせる。

 地獄絵図の幕が上がった。

「浮世組! 左右から回り込み奴らを逃がすな!」

「龍人会! 正面から奴らを一掃するぞ!」

 清長と豊春さん、二人の頭領が的確な指示を飛ばす。

 その声に呼応するように、仲間たちが動く。

「歌麿、行くぞ」

「ええ、任せて頂戴、北斎ちゃん!」

 北斎と歌麿が、まるで石垣のように惡魂の退路を塞いだ。

 二人の間には、一寸の隙もない。

「広重、浮世組で得たもの。見せてもらうよ」

「了解です!」

 豊広さんと広重の二人は、まるで疾風のように戦場を駆け、その華麗な連携で敵を翻弄する。

 そして、一方。

「オラァ! 祭りの邪魔すんじゃねえぞ、カスどもがァ!」

「派手に行こうぜ、豊国の兄貴ぃ!」

「お前らを野放しにするわけにはいかない!」

 豊国さんと国貞・国芳の兄弟が、敵陣のど真ん中に突撃し、その剛腕で惡魂の陣形をかき乱していく。

(……すげえ)

 俺は、その光景に圧倒されていた。

 浮世組の、洗練された剣。

 龍人会の、荒々しくも強力な剣。

 二つの組織が、それぞれのやり方で、しかし一つの目的のために共闘している。

 俺の役目は? 俺にできることは?

 焦りが、刃を鈍らせる。

「写楽!」

 不意に、北斎の鋭い声が飛んだ。

「目の前の敵に集中しろ!」

「っ……!」

 そうだ。

 俺は今、戦いの中にいるんだ。

 俺だけの戦い方。

 それは、仲間との「絆」を力に変えること。

 俺は、龍輝筆刃を強く握りしめた。


「次、左から二体!」

 清長の指示で、体が動く。

 連携の勢いのまま、俺たちは路地裏の惡魂の群れを掃討した。

 だが、祭りの喧騒の裏で、まだ邪気の気配が渦巻いているのが分かった。

 俺は、仲間たちと別れ、別の路地裏へと駆け込む。

 その先で、信じられない光景を目の当たりにした。

「——らぁっ!」

 豊国さんだった。

 彼が振るう剛剣が、惡魂の一体を壁ごと吹き飛ばす。

 まさに暴風。

 だが、その背後から別の惡魂が忍び寄っていた。

 危ない、と思った瞬間。

「——お前の相手は俺だ」

 静かな声。豊春さんだ。

 彼は、一歩も動かずただ、青く光る龍輝筆刃を真っ直ぐ前に突き出しているだけ。

 しかし、惡魂が懐に飛び込んだはずが、まるで空間が歪んだかのように、その爪は空を切る。

 そして、次の瞬間には、豊春さんの刃が、ありえないほど伸びたかのように惡魂の心臓を貫いていた。

 静と動。

 理知と本能。

 豊国さんの荒々しい剣と、豊春さんの間合いを支配する剣。

 二人の戦いは、まるで一つの完璧な生き物。

「……終わりだ」

 豊春さんの静かな呟き。

 それが合図だった。

 豊国さんの刃が、最後の一体を一刀両断する。

 あっという間の、出来事だった。

「……すげえ……」

 俺は、その圧倒的な連携に、ただ息を呑むことしかできない。

「見事なもんでしょう?」

 不意に、背後から飄々とした声がした。

 豊広さんだ。

 いつの間にか、俺の隣に立っていた。

「あの二人は、特別なんですよ」

 豊広さんは、どこか誇らしげに、そして懐かしむように目を細めた。

「特に豊国さんはね。あの人があれだけ強いのは、豊春の兄貴のためだけに、その刃を振るってるからなんです」

「……豊春さんのためだけに?」


 豊広さんは、静かに語り始めた。

 まだ豊国さんが、ただ血気盛んなだけの若者だった頃の話を。

 それは、彼がウキヨ英士となるための『初摺の儀』でのこと。

 彼の指南役を務めたのが、若き日の豊春さんだった。

 持て余した力でくすぶっていた豊国さんは、豊春さんの圧倒的な実力と、どんな状況でも揺るがない冷静さ、そして何より筋を通す「漢気」を目の当たりにして、雷に打たれたような衝撃を受けたらしい。

『——俺は、この人についていく』

 自分には、彼のような知略センスはない。

 ならば、自分は豊春さんの「剣」となり、どんな敵をも打ち砕く力になろう。

 豊国さんは、その日にそう誓ったのだと。

「だからね、写楽」

 豊広さんは、悪戯っぽく笑う。

「あいつは、ただの脳筋じゃない。自分が惚れ込んだ男のために、誰よりも強い剣であろうとする、純粋で、どうしようもなく真っ直ぐな男なんだよ」

 豊国さん。

 ただ好戦的なだけだと思っていた、彼の、本当の姿。

 俺は、路地の奥で静かに刃を収める二人の姿を、改めて見つめていた。

 豊春さんの意志を、豊国さんが剣となって貫く。

 豊国さんの忠義を、豊春さんが力として受け止める。

 その揺るぎなき絆が、二人を無敵の存在へと昇華させている。

 俺の胸に、じわりと熱いものが込み上げた。

 俺も、ああいう風に、仲間と背中を預け合える関係を築けるだろうか。

 いや、築いてみせる。

 俺は、強く拳を握りしめた。

 未来を変えるために。そして、この頼もしい仲間たちと共に、生き抜くために。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回は7月11日(土)19時に更新予定です。

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