共闘リベンジ
歌舞伎のような国芳のセリフを合図に、戦場の空気が一変した。
これまで防戦一方だった豊国さんと国貞の動きが、まるで息を吹き返したかのように鋭さを増す。
「国貞、右!」
豊国さんが、剛剣で惡魂の一体を弾き飛ばしながら叫ぶ。
「了解!」
国貞が、その隙を逃さず、別の惡魂の体勢を柔の剣で崩す。
そして、その中心で、黒猫が舞う。
「ど真ん中は、俺に任せな!」
国芳の動きは、まさに奇想天外。
敵の攻撃を紙一重でかわしたかと思えば、次の瞬間にはありえない角度から斬りかかっている。
豊国さんと国貞という強固な軸を得て、彼の奇の剣は、その真価を発揮していた。
歌川龍人会の三人が見せる、阿吽の呼吸の連携が、惡魂の陣形を切り裂いていく。
(……すげえ)
俺は、その完成された連携に、一瞬見惚れていた。
だが、すぐに自分の役割を理解する。
(あの三人の邪魔をしねえように、横から来る奴らを叩く!)
俺は龍輝筆刃を取り出し、右手の極印に集中する。
ブォン、という重低音と共に、鮮やかな赤い光の刃が伸び上がった。
「頼んだぜ、写楽!」
俺の心を見透かしたかのように、国芳の声が飛ぶ。
その信頼の声に背中を押され、俺は三人の死角をカバーするために駆け出した。
俺は龍輝筆刃を握り直し、三人の周囲を動き回る。
一体の惡魂が、三人の連携の隙を突いて回り込もうとするが、俺は、その進路に滑り込み、光の刃でその胴を薙ぎ払う。
「させっかよ!」
ただがむしゃらに刃を振るんじゃない。
三人の動き、敵の位置、次の一手。
その全てを、読むんだ。
「写楽、大丈夫か!」
俺を気遣う、国芳の声が飛ぶ。
「おうっ!」
四人の力が合わさり、統率された惡魂衆を、一人、また一人と斬り伏せていく。
俺にとっての、共闘リベンジだった。
「写楽、右!」
背後から国芳の声が飛ぶ。
「了解!」
俺は即座に反転し、別の惡魂の爪を弾き返した。
これまでの稽古とは違う。
実戦の中で、仲間と呼吸を合わせる。その感覚が、不思議と心地よかった。
(……すげえ。これが、連携か)
一人で戦っていた時とは、見える景色がまるで違う。
「危ねぇ!」
俺は、国貞の背後を取ろうとしていた惡魂のリーダー格と思しき大柄な一体に、正面から斬りかかった。
これまでとは違う、手強い相手。
だが、今の俺は一人じゃない。
「——図に乗るなよ、三下ァ!」
獣のような咆哮。
俺と斬り結んでいた惡魂の巨体が、横から突っ込んできた豊国さんの一撃で、いとも簡単に吹き飛ばされる。
そして、そのがら空きになった懐に、国芳の奇襲が突き刺さった。
勝負あり。
最後の一体が光の塵となって消え去ると、路地裏に束の間の静寂が訪れる。
「……はぁ、はぁ……」
俺は、龍輝筆刃を杖代わりに、荒い息をつく。
目の前では、同じように肩で息をする豊国さん、国貞、そして国芳が、俺をじっと見ていた。
やがて、沈黙を破ったのは、豊国さんだった。
彼は、ちっ、と一つ舌打ちをすると、ぶっきらぼうに、だが確かに俺を見て言った。
「……てめえ、なかなかやるじゃねえか」
豊国さんの想像してなかった言葉に、俺は思わず目を見開く。
「なかなかどころか、大したもんだぜ!」
国貞が、太陽のような笑顔で俺の肩を力強く叩く。
「なあ、芳!」
「がははっ! 当たりめえよ!」
国芳が、胸をどんと叩いて豪語した。
「こいつの才能は、俺が最初に見抜いたんだからな!」
その言葉に、胸の奥から、じわりと熱いものが込み上げてくるのが分かった。
これは、任務が成功したという達成感とは違う。
本当の意味で仲間として認められたという、確かな喜び。
俺は、照れ隠しに頭を掻きながら、三人の顔を見て笑った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回は6月27日(土)19時に更新予定です。




