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浮世英伝 ―大正ウキヨ英士伝―  作者: 本堂ポンタ
第五章 絆(後編)

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気張って行こうぜ、相棒!

挿絵(By みてみん)

 翌朝。

 浮世組には、いつもとは違い、張り詰めた空気が漂う。

 政信の旦那の前に、俺たちウキヨ英士が全員集められた。

 ウキヨ英士ではない応為は、この場にはいない。

 目の前に立つ旦那のその表情は、いつになく真剣だった。

「てめえら、よく聞け」

 政信の旦那が、重々しく口を開いた。

「昨夜、清信らと協議した結果、これより当面の間の警邏体制を強化することにした。二人一組での行動を徹底し、少しでも異変を察知した場合は、必ず応援を要請すること。いいな」

「応為ちゃんはどうするのかしら?」

 歌麿が尋ねると、清信さんが質問に答える。

「応為は、通常通り業務を行ってもらう。もちろん万が一に備え、私が影から見守る予定だ」

「で、組分けは?」

 広重が尋ねると、政信の旦那は俺たち一人一人の顔を見渡した。

 俺はごくりと唾を飲む。

「北斎と清長、広重と歌麿、そして——」

 旦那の視線が、俺と、俺の隣でそわそわしている黒猫に注がれる。

「写楽と国芳だ」

「っしゃあ!」

 その言葉に、国芳がガッツポーズを取った。

 俺は、思わず天を仰ぐ。

 よりにもよって、この一番騒々しい男と組むことになるとは。

「写楽! 気張って行こうぜ!」

 国芳が、俺の背中をばしばしと叩く。

「へっへ。面白くなってきたじゃねえか!」

「……お手柔らかに頼むよ」

 俺は苦笑しながら、そう返すしかなかった。

 だが、不思議と嫌な気はしない。

 昨日、攻助さんの店で飯を食ってから、この男の豪快さが、どこか頼もしく感じられるようになっていた。


 俺たちは、それぞれの相棒と、浅草の街へと散っていく。

 強化された警邏任務。

 俺は、隣で鼻歌交じりに人力車を引く国芳の背中を見ながら、極印が刻まれた右手に、力を込めた。

「派手に行くぜ!」

 しかし、国芳の威勢のいい声とは裏腹に、俺たちの警邏は地味なものだった。

 表向きは、ただの人力車夫。

 街の景色に溶け込み、人々の会話に耳を澄ませ、邪気の痕跡を探る。

 その繰り返しだ。

(……だが、確かに空気は変わった)

 政信の旦那が言っていた通り、街の空気がどこかピリついている。

 先日までの穏やかな日常とは、明らかに違う。

 その時だった。

「……写楽」

 隣を歩いていた国芳の声のトーンが、一瞬で変わった。

 黒猫の眼が、鋭い視線で路地裏の一点に向けられている。

「……いるぜ」

 俺も、肌で感じていた。

 複数の、そしてこれまでとは比較にならないほど統率された、禍々しい気配。

 それが、路地裏の奥から感じられる。

 俺と国芳が顔を見合わせ、頷いた、その瞬間。

 路地裏の奥から、怒号が響き渡った!

「らぁっ!」

「ちいっ、こいつら、やけに動きが統一されてやがる!」

 俺たちが駆けつけると、そこでは既に、二人の男が数体の惡魂を相手に戦っていた。

 黒いスーツに、鋭い眼光。

 歌川龍人会の若頭、豊国さん。

 そして、その背中を守るように立ち、刃を振るう、国芳の双子の兄、国貞。

 だが、二人の表情は険しい。

 惡魂は、これまでの奴らとは明らかに動きが違った。

 一体一体は弱くとも、巧みな連携で二人を取り囲んでいる。

「面白え!」

 その光景を見た国芳の口から、獰猛な笑みがこぼれた。

「そういうことなら、こっちも見せてやろうじゃねえか!」

 国芳が、龍輝筆刃を取り出す。

 ブォン、という重低音と共に、柄から鮮やかな黄色い光の刃が伸び上がる。

 次の瞬間、彼は猫のような跳躍力で地を蹴り、豊国と国貞の間に割って入った。

「国芳!?」

「芳!?」

 驚く二人に、国芳はニヤリと笑いかける。

「助太刀、あ、参~上ぉ!」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回は6月24日(水)19時に更新予定です。

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