気張って行こうぜ、相棒!
翌朝。
浮世組には、いつもとは違い、張り詰めた空気が漂う。
政信の旦那の前に、俺たちウキヨ英士が全員集められた。
ウキヨ英士ではない応為は、この場にはいない。
目の前に立つ旦那のその表情は、いつになく真剣だった。
「てめえら、よく聞け」
政信の旦那が、重々しく口を開いた。
「昨夜、清信らと協議した結果、これより当面の間の警邏体制を強化することにした。二人一組での行動を徹底し、少しでも異変を察知した場合は、必ず応援を要請すること。いいな」
「応為ちゃんはどうするのかしら?」
歌麿が尋ねると、清信さんが質問に答える。
「応為は、通常通り業務を行ってもらう。もちろん万が一に備え、私が影から見守る予定だ」
「で、組分けは?」
広重が尋ねると、政信の旦那は俺たち一人一人の顔を見渡した。
俺はごくりと唾を飲む。
「北斎と清長、広重と歌麿、そして——」
旦那の視線が、俺と、俺の隣でそわそわしている黒猫に注がれる。
「写楽と国芳だ」
「っしゃあ!」
その言葉に、国芳がガッツポーズを取った。
俺は、思わず天を仰ぐ。
よりにもよって、この一番騒々しい男と組むことになるとは。
「写楽! 気張って行こうぜ!」
国芳が、俺の背中をばしばしと叩く。
「へっへ。面白くなってきたじゃねえか!」
「……お手柔らかに頼むよ」
俺は苦笑しながら、そう返すしかなかった。
だが、不思議と嫌な気はしない。
昨日、攻助さんの店で飯を食ってから、この男の豪快さが、どこか頼もしく感じられるようになっていた。
俺たちは、それぞれの相棒と、浅草の街へと散っていく。
強化された警邏任務。
俺は、隣で鼻歌交じりに人力車を引く国芳の背中を見ながら、極印が刻まれた右手に、力を込めた。
「派手に行くぜ!」
しかし、国芳の威勢のいい声とは裏腹に、俺たちの警邏は地味なものだった。
表向きは、ただの人力車夫。
街の景色に溶け込み、人々の会話に耳を澄ませ、邪気の痕跡を探る。
その繰り返しだ。
(……だが、確かに空気は変わった)
政信の旦那が言っていた通り、街の空気がどこかピリついている。
先日までの穏やかな日常とは、明らかに違う。
その時だった。
「……写楽」
隣を歩いていた国芳の声のトーンが、一瞬で変わった。
黒猫の眼が、鋭い視線で路地裏の一点に向けられている。
「……いるぜ」
俺も、肌で感じていた。
複数の、そしてこれまでとは比較にならないほど統率された、禍々しい気配。
それが、路地裏の奥から感じられる。
俺と国芳が顔を見合わせ、頷いた、その瞬間。
路地裏の奥から、怒号が響き渡った!
「らぁっ!」
「ちいっ、こいつら、やけに動きが統一されてやがる!」
俺たちが駆けつけると、そこでは既に、二人の男が数体の惡魂を相手に戦っていた。
黒いスーツに、鋭い眼光。
歌川龍人会の若頭、豊国さん。
そして、その背中を守るように立ち、刃を振るう、国芳の双子の兄、国貞。
だが、二人の表情は険しい。
惡魂は、これまでの奴らとは明らかに動きが違った。
一体一体は弱くとも、巧みな連携で二人を取り囲んでいる。
「面白え!」
その光景を見た国芳の口から、獰猛な笑みがこぼれた。
「そういうことなら、こっちも見せてやろうじゃねえか!」
国芳が、龍輝筆刃を取り出す。
ブォン、という重低音と共に、柄から鮮やかな黄色い光の刃が伸び上がる。
次の瞬間、彼は猫のような跳躍力で地を蹴り、豊国と国貞の間に割って入った。
「国芳!?」
「芳!?」
驚く二人に、国芳はニヤリと笑いかける。
「助太刀、あ、参~上ぉ!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回は6月24日(水)19時に更新予定です。




