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302/303

302・今までと同じようにやれる事をって話

信じがたい、有り得ない光景が眼に飛び込んできた、絶対にそんな事が起きるはずがないと勝手に思い込んでいた光景が。

デイジー叔父さんがその大きな身体をくの字に曲げて、激しく咳き込み、大量の血を吐いている。

フランコが何かしらの攻撃をしたのか、いや、それは有り得ないと断言できる。

いくらフランコが異神と魔王躯体の合わさった凄まじい神なのだとしても、デイジー叔父さんにあそこまでのダメージを与えられるはずがない、例えそうでないとしても、フランコが今何かをしたとは考えにくい。

何故なら、フランコ自身がデイジー叔父さんの姿に困惑しているからだ。

フランコはデイジー叔父さんが血を吐いているのを見て、何が起きているのか理解できず怪訝な表情を浮かべ、俺たちへの攻撃すらも止めていた。

それはいい、どうでもいい、頭が回らない、どうすればいい、何をすればいい、あのデイジー叔父さんが、明確なダメージを受け、血を吐いている、死ぬ? デイジー叔父さんが? マレッサは疲弊して、パルカも疲れから深い眠りについている。

セヴェリーノだってかなりグロッキーだし、フィーニスとナルカなら今の現状をなんとか出来るだろうか。

――出来なくはないだろう、だが、あのフランコを相手に無傷でどうにか出来るとは思えない、ダメだ早くなんとか、どうにかしないと。

そうだ、いきなりやってきた、アロガンシア様とアリスはどうだ? デイジー叔父さんが吐血するなんていう想像だにしていなかった事態に、あれほど凄まじい勢いで地上へと激突した二人の事など頭の中から完全に消えていた。

二人ともデイジー叔父さんとは面識がある、そこまで悪感情はないはず、頼めば助けてくれるかもしれない……本当に? あの二人にそんな人間的な物を期待していいのか? 

二人ともデイジー叔父さんに負けず劣らずの規格外な存在、その精神性がデイジー叔父さんのように普通とは限らない。

アロガンシアは神だし、アリスは人間ではあるがどこか常人離れした何かを感じさせる。

だが、何もしないよりは――


「カカカカカ、久方ぶりに血が滾る、だが足りぬ、まるで足りぬッ!! もっと踊れぇッ!!」


「アハハハハ、ワルツにタンゴにジルバはいかがかしらッ!! でもアロガンシア様に付いてこられるかしらッ!!」


地上の二人は共に満面の笑顔を浮かべて戦いを再開し始める、一瞬で幾十もの衝突音が響き、二人の戦闘の軌跡が光の線となって空中に刻まれていく。

その戦い様を見て、俺はこの二人に助けを求めるのは無理だと悟る。

あれはダメだ、もうお互いしか見えていない、俺たちはもちろん、フランコも血を吐くデイジー叔父さんも全く見えていない。

これではフランコからではなく、あの二人の戦いに巻き込まれないようにこの場から逃げた方がいいレベルだ。

どうする、どうする、どうする、どうする、自然と息が荒くなり、数秒程度の時間が数時間にも感じられるほどに感覚が狂っていく、誰か、助けて――――


パチンッ


唐突に頬を軽く叩かれた、というより挟まれた感覚、痛みはない、ほのかに暖かく少し湿ったような感触、これはナルカの手だ。

ハッと我に返り、マジックバッグの中のナルカに眼を落す。


「人間さん、あの時よりずっとひどい顏してた。お顔叩くと気合がはいるんでしょ、これで元気になった?」


一瞬、何の事かと呆然として、思い出す。

少し前に俺は自分の顔を叩いて気合を入れた時の事を、あの時、俺は顔を叩くと気合が入るとナルカに言った。

あの時よりずっとひどい顔、か。

確かにあの時以上に焦っていたのは事実だ、ただ、そのせいでナルカに心配をさせてしまった。

そうだ、あの時俺は自分で言ってたじゃあないか、今できる事を一つずつ全力でやると。


「ありがとう、ナルカ。気合が入って目が覚めた、もう迷わないぞ」


そう言って、ナルカを撫でるとナルカは嬉しそうにぷるぷると震えた。

後の事は後で考える、今ここで俺にやれる事だけを考える。

いつだって俺は誰かに頼ってばかりだった、みんなを助けられるくらい強ければと思う事は沢山あった、でもどうあがいたって俺が今すぐにフランコやアロガンシアやアリスみたいに、デイジー叔父さんみたいに強くなれる訳がない。

だから、俺は今回も誰かに頼る、後先考えずに全力で。


「マレッサ、パルカ、ナルカ、フィーニス、セヴェリーノ、あとセヴェリーノに宿ってる神様ッ!! 俺はデイジー叔父さんを助けたい、力を貸してくれッッ!! その為の力は俺がなんとかする、してみせるッ!!」 


大きく声を張り上げて、助力を乞う。

あぁ、なんとも情けないとは思うが、俺に出来るのはこんな事だけなのだと、自嘲気味に笑う。

それでも、これだけが俺に出来る事なのだ、今までだってそうしてきた、身体や魂がどうなろうが知った事か。

デイジー叔父さんを、大切な家族を、助けるんだ!!


『ヒイロ、この人数を信仰するつもりもんかッ!? やめるもん、せめて一人くらいに――!!』


『フガ!?』


「ナルカ、がんばる!!」


「ザコお兄さん、まさか――」

 

「ヒイロ、何をッ!?」


制止するマレッサ、驚いて目覚めるパルカ、ヤル気満々のナルカ、何をするのか察するフィーニス、ただ困惑するセヴェリーノ、それぞれの反応を見て俺はエスピリトゥ大洞窟での出来事を思い返す。

恐らく俺はまた昏睡するだろう、今度は何日眠る事になるかは分からない。

それでもと覚悟を決めて、俺は思い切り息を吸い込んだ。

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