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301/303

301・ほかの勇者はどうしているのかって話23後編

一方、マレッサピエー城にはとある人物が訪れていた、それは勇者同盟が七勇者の一人、仮面をつけたスーツ姿の男、ジョウジ・クギョウ。

ジョウジは勇者兵の歪みがもたらす世界の修正、それの連鎖反応による影響を考えた結果としてマレッサピエーと限定的な協力関係を結んでいる。

その際、オラシオと結んだ契約魔法の影響でマレッサピエーを裏切る行為は全て禁じられており、もしその禁を破った場合、彼は魂が破壊されて死よりもおぞましい最期を迎える事になる。


「やぁ、私はジョウジ・クギョウ。君たちの主であるオラシオ・エスピナルとの契約に従い、マレッサピエーに助力する為に参上した。彼と通信をつなげてもらえるだろうか? 話したい事があるのでね」


勇者同盟がマレッサピエー連合と協力関係である事は一応情報として共有されているが、勇者同盟がマレッサピエーの一都市で陥落し、奪った事もまた知られており、良く思っている者は少ない。

堂々とマレッサピエー城正門に姿を現したジョウジに門衛は怒りと困惑を覚えたが、彼らとの協力関係は既に周知されている以上、無下には出来ない。


「しばし待たれよ、上の者に確認を取る」


「いいとも、いくらでも待とう。ただ、人に許された時間は有限だ、あまり無駄にはしないでもらえると助かる、君たちの為にもね」


「決まりは決まりだ、門衛の勝手な判断で人を通す事は許されていない」


「フフフ、素晴らしい。己の職務を全うするその姿勢、実に尊敬に値する。たとえ、それで罰を受ける事になったとしても君は後悔はないのだろう」


門衛はジョウジの言葉が嫌味なのか本音なのか分からない、元々勇者として召喚されたのにマレッサピエーの都市を乗っ取って反旗を翻しておきながら、魔王国との戦争に協力する姿勢を見せる、あまりに支離滅裂な行動、何がしたいのか分からないと門衛は考えていた。


「世界の救済と我らを無理矢理召喚したマレッサピエーへの復讐、そして元の世界に帰る事、それが我ら勇者同盟の掲げる願いであり理念だ。これらの願いの元に我らは集った訳だが、これらの願いは世界がなくては叶わないモノだ。魔王国との戦争において、世界がなくなってしまう可能性がわずかにあった、それだけは防がなくてはならない、たとえ復讐すべきマレッサピエーと協力しようともね。理解してくれたかね? 我ら勇者同盟が復讐すべきマレッサピエーと一時的とはいえ手を結んだ理由を。そう、世界の為だ、世界の為ならばあらゆる理由は棚上げ出来る、人とはより大きな物事を前にすれば、小さな物事は無視できるのだよ。大事の前の小事、世界の救済の前にはあらゆる出来事が些事に過ぎない。そう、この戦争すらも」


ジョウジの言葉は道理があるようでデタラメのようで、なんとも理解に苦しむ物であった。

ただ、自分の思考が読まれていたかのような気持ち悪さに門衛は僅かに身震いする。

そこに別の門衛が走ってやってきて、すぐにジョウジを城内に通すよう耳打ちした。


「特例により入城が許可された。案内役に従い、マレッサピエー城内では行動に気を付けるように」


「もちろんだとも、心遣いに感謝を」


案内役である侍従長の案内でジョウジはオラシオの私室へと通され、そこである箱を渡された。

少し大きめアタッシュケースのような箱には厳重な封印が施されているにも関わらず神聖な魔力が漏れ出ているのを感じ取り、ジョウジは箱の中身が何なのかを察した。

それは今回の協力の対価としてジョウジに、勇者同盟に差し出された物だった。

その意図を考え、ジョウジは仮面の下で笑う。


「さすがはオラシオと言うべきか。対価としては十分に価値のある代物、加工次第では魔王躯体と同等の物を生み出しうる素材だ。だが、そのリターン以上のリスクがある、それをこちらに押し付けるか。道理で戦争の本陣に私を呼びつけなかった訳だ、あそこではアロガンシアと近すぎて、これが露見すると考えた訳だ。受け取りを拒否する事はもちろん出来るが、今回の件で失う物を考えれば穴埋めとしては十分過ぎるのも事実、さてどうしたものか」


案内役兼監視役である侍従長の前でジョウジは楽し気に独り言を続ける。

その時、空中にオラシオの姿が投影された映像が映し出された、映像の中のオラシオが軽くを手を振ると侍従長はうやうやしく頭を下げて部屋から退室していった。

バタンと扉が閉じ、完全に侍従長が離れたのを確認してからオラシオは口を開いた。


「まずは今回の対魔王軍への助力に感謝を。そして、それが今回の件に対するマレッサピエーからの報酬じゃ。マレッサピエーを裏切り、都市を奪った貴様らへの報酬としては破格も破格、神遺物レリックと呼ばれる神の創造物、しかも大罪神由来のな。聞けば、大罪神の権能を探しているとか、ならばそれは十分に利用できる物じゃろう」


「これはこれは感謝の極み、と言うべきか。ただ、私たちが裏切ったのも拠点として都市を奪ったのも元を辿れば君たちの行いが招いた事だ、被害者として振る舞うのは感心できないなオラシオ。しかもこれを大罪神由来とは、あまりに悪趣味な物言いだ、怒りを越えて呆れる他ない。そして、感謝を伝えるならば商人たちにも、彼らの思惑で私たちはこの千載一遇とも言うべき機を捨て、助力する事にしたのだから」


互いに牽制し合うかのような上辺の話合いがしばらく続いていたが、主戦場での動きがその意味のない会話を終わらせた。

冥域の炎を含んだ巨大竜巻、戦場に満ちる異常な魔力、もはや人の域を遥かに越えた存在が介入している事は火を見るよりも明らかだった。


「ふむ、ソロモンの撃破、その後にバルディーニが負傷し撤退、これだけなら十分過ぎる大戦果じゃ。だが、この存在はこの戦争どころか世界規模での破滅をもたらすやもしれんな」


「とはいえ、あの場にはヒイロが、そしてデイジーがいる。今までと同じ様に彼らは世界を救うだろう、何もなければ、だがね」


「……あれとの敵対は魔王国ですらしておらぬ、まぁ例外はいるようだが。下手に突けば、あれは真っ先に貴様らを排除するじゃろう。貴様、何を企んでおる?」


「当然、悪だくみだとも。デイジーは今、恐ろしい程に疲弊している。それでも先々代魔王ソロモンを容易く屠る程度の力は有してはいるが、それでもデイジーはかなり弱体化していると言っていい状態だ。弱った所に付け入るようで非情に心は痛むのだが、デイジーを排除するのなら今しかないのだよ。この機を逃せば、もう二度とこのような機会は訪れないと断言できる」


「……何が言いたい?」


「今、勇者兵はデイジーと繋がっている別の空間に保護されている。そことこの世界を繋ぎ、全ての勇者兵の勇者特権を発動させ続ければ、とある現象が必ず引き起こされる。それは世界を破壊しかねないものだが、デイジーならばそれを抑え込む、どんな状態であろうとも。恐らく引き起こされるその現象の規模はジャヌーラカベッサのそれに劣るだろう、それでも今のデイジーになら致命傷を与えるには十分。さぁどうするオラシオ?」


ジョウジの問いかけにオラシオは沈黙し、そして大きく息を吐いた。

瞬間、オラシオの私室の像がぶれて、壁も床も天井も全てが金属で構成された部屋へと変化していった。


「――舐めるなよ若造が、そのような話に私が乗るとでも思ったか? 我が願いはマレッサピエーの繁栄のみ。確かにデイジーが敵となれば世界すら滅びよう、だが、そうならぬように御せばよい。アレの性質は善であり、その在り方はヒイロに強く依存している。敵対しないだけならば、そう難しくもないのだ。先に述べた戦果を以て、貴様ら勇者同盟との契約は果たされた事とする、もはや貴様らの助力は不要だ。即刻、退去願おうか。誓約で今この場で貴様を始末する事が出来ぬのが残念でならんよ」


壁、天井、床一面に幾何学模様が浮かび、魔法陣が展開されていく。

ジョウジは抵抗する様子すら見せず、映像の中のオラシオに顔を向けたままでいる。


「ふむ、転移魔法か。オラシオ、私への対応も君の行動も想定の域を出てはいない。世界の救済の為、最短の道を歩みたかったのだが、致し方ない。サンドラ、アデリナ、後は任せるよ」


転移魔法が発動してどこかへ転移される刹那、ジョウジはそうオラシオの背後に向けて言葉を投げかけた。

その声に反応し、オラシオは咄嗟に振り返ったが、そこに誰かが居る形跡も気配もなかった。

ただの悪あがきかと思考するオラシオの目の前に眼を閉じたメイド服の女性が突如として姿を現し、オラシオの顔をがしりと掴み、固定した。


「い、いつの間に!? 何十もある警戒網を抜け、私に気取られる事なく背後を取るなど!? ――貴様、アデリナ、まさか裏切ったかッ!?」


アデリナと呼ばれた少女はうつむき、オラシオを見ようとしない、ただ小さく「ごめんなさい」と繰り返すだけだった。

オラシオの顔を掴むメイド服の女性はジョウジに仕えるメイドのサンドラであり、通常ならその両目を黒い紐で縫い付けて封印しているのだが、今はその封が解かれていた。

サンドラがゆっくりと開眼すると真っ赤に染まった眼から血涙が溢れだした。


「申し訳ありませんオラシオ様、これより旦那様の命により、オラシオ様を操作して勇者兵の勇者特権を強制発動させていただきます」


「ッ!? その眼、魔眼かッ!?」

 

血涙を流すサンドラの眼には幾何学模様が刻まれており、それが魔眼の一種であると気づいたオラシオだったが時すでに遅く、サンドラの魔眼はオラシオに対して効果を発動していた。


「か、身体が言う事を聞かぬ、く、支配の魔眼かッ!? おのれぇえええッ!!」


サンドラは支配の魔眼を用いて、オラシオの自由を奪った後、懐から虹色に光る小さな石を取り出して、それを触媒にしてとある魔法を発動させる。

次の瞬間、空中にこぶし大ほどの小さな黒い渦が現れる、それはあらゆる空間に繋がる可能性を持つ次元の穴、サンドラが発動させたのは召喚魔法、そしてそれの触媒にしたのは勇者石と呼ばれる勇者を召喚する為の石だった。


「勇者とは勇者特権を持つ者、ゆえに勇者特権を持つ者は全て勇者であると拡大解釈させてありますので、オラシオ様の近くで召喚魔法を使ったならば、その縁に近しい勇者の場所へと繋がる、との事です」


淡々とそう話すサンドラ。

こぶし大の黒い渦の奥、オラシオの目に自身が作りあげた勇者兵の姿が映った。

これから起こる事を想像し、何としても防がねばと全力で抵抗するがオラシオの身体が完全に自由になる事はなかった。

オラシオは体内の魔力をなんとか練り上げて、全身に巡らせる事で魔眼の支配を無理矢理弾こうと試みるも上手くいかず、歯噛みする。


「さすがはオラシオ様、このままでは数分と経たず、私の魔眼の支配から脱しましょう。ですので、手早く事を済ませます」


「貴様、分かっているのか!! これは明確なマレッサピエーへの裏切り行為、誓約が果たされたとはいえ完全にその影響がなくなった訳ではない!! 少なくともこの戦争が完全に終わるまでは効果が続く、それゆえに私は奴を始末出来なかった!! このままでは貴様の主は誓約によって魂を破壊され蘇生すら叶わぬ事になるのだぞ!!」


支配の魔眼に抗いながら、オラシオはこのままだとジョウジの魂が誓約魔法によって破壊されて蘇生すら出来なくなると告げるがサンドラの表情は一切動かない。

サンドラの眼から流れる血涙がボタボタと音をたてて、床に滴り落ちていくがそんな事をまったく意に介さず、サンドラは何事もないかのように口を開く。


「その点につきましては、あらかじめ旦那様から言伝を預かっております。『魂に干渉する魔法への対処法については既にその解を一人の勇者が示している。そしてこの身は既にそれを成し遂げている』との事、悪しからず」


「な、なんと、魂に干渉する魔法への対処法だと!? まさか、奴は、魔剣の勇者と同じく自らの魂を別の何かに置換したと言うのか!? ――ぐぅッ!?」


驚愕するオラシオの足元に光り輝く魔法陣が展開され、何かの魔法が発動する。

それと同時に小さな黒い渦の向こうで微動だにしていなかった勇者兵たちが動き出すのがオラシオの眼に映った。

ほどなく小さな黒い渦は消えてなくなり、デイジー空間との繋がりは消えてなくなってしまった。


「勇者兵に対し、勇者特権の強制使用の指示を完了しました。これでデイジー様の空間の中に保護されている勇者兵はその身が滅び去るまで勇者特権を使用し続けます。これにて私たちの任務は終了、オラシオ様、手荒な真似をして大変申し訳ありませんでした。では、アデリナ様参りましょう」


眼を閉じたサンドラが血涙をハンカチでぬぐい、いまだ身動きの取れないオラシオに丁寧にお辞儀をする。

悲痛な面持ちのアデリナがサンドラに触れると、オラシオの目の前からサンドラとアデリナの姿が消え去った、気配も魔力も、まるで初めからそこに誰もいなかったかのように。

オラシオが自由となる数分の間に主戦場では信じがたい事が起きるが、今のオラシオにはそれを確かめる術はない。

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