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297・弱体化してるから万が一があると思うよねって話

俺の眼に映ったのは闇色の炎に包まれて、全身火だるまになっているデイジー叔父さんの姿だった。

余りの光景に自分の眼を疑った、あのデイジー叔父さんが燃えている、そんな事が果たしてあり得るのか? 

そんな思いとは裏腹に、事実としてデイジー叔父さんはフランコとバルディーニの間で闇色の炎に包まれてしまっている。


「デ、デイジー叔父さんッ!?」


思わずデイジー叔父さんの名を叫び、手を伸ばす。

焼け付いた手の痛みが、目に映る光景がまぎれもない現実であると思い知らせてくる。


「ぬぉおおおおおおおおおおッッ!!」


デイジー叔父さんの叫び声まで聞こえてきた、こんな声は今まで聞いた覚えはない。

死者ですら殺すという炎に包まれているのだ、いつものデイジー叔父さんならいざ知らず、色々とあって弱体化しているデイジー叔父さんにとっては致命的に危険な物に違いなかった。


「なんとか、助けないと!!」


俺に今のデイジー叔父さんを助けられる手立てがあるだろうか、パルカは眠り、マレッサは疲弊している状態、ナルカやフィーニスは確かに凄く強い存在ではあるが、あの闇の炎に触れるのは今のデイジー叔父さん以上に危険だろう。

マジックバッグに入れている魔法のスクロールや魔法道具はあくまで一般的な威力の物に過ぎない、この場で役に立つとはまるで思えない。

それでも何か無いかと必死で考えていると、フィーニスにトントンと肩を軽く突かれた。


「ねぇ、ザコお兄さん。デイジーちゃん、あれ別に痛がってないわよ。なんか別の事に苦しんでるっぽいんだけど」


「え?」


フィーニスの言葉に俺は改めてデイジー叔父さんを注視した。

よくよく見たら、確かにデイジー叔父さんの身体が焼けているような様子は見られない、いやしかし死者を殺すってパルカが言ってたくらいだから、もっとこう精神とか魂とかそんな物に作用する炎なんじゃあないだろうか?


「いやぁああああんもぉおおおおおう!! あたくしの一張羅がぁあああああああああ!! 思ってた以上に火力があって身体の内部から温まるのはいいけれど、このままじゃあ、あたくしの裸体が晒されちゃうじゃなぁあああああい!!」


いや、結構余裕だなデイジー叔父さん。

うん、弱体化しててもデイジー叔父さんは凄いや!!


『ツッコミ放棄するなもん!! こちとら魔力からっぽでキツイもんよ、変なツッコミさせるなもん!!』


「マレッサが勝手にツッコんだ癖になんで俺が怒られるんだよ!? ってか心を読むなよ!!」


『読んではないもん、ヒイロが変な事考えてる顔してたもん!! それより、セヴェリーノのヤツを回収してここを離れるもん!!』


「セヴェリーノを? なんでかは知らないが分かった!!」


マレッサがそう言うのだ、きっと何か理由があるに違いない。

今はそれをいちいち聞いている暇はない、俺に出来る事はあまりないが出来る事なら全力でやるまでだ。


「フィーニス、俺に出来る範囲で何でも言う事聞くから、マレッサが言ったようにセヴェリーノを助けて、この場から離れてくれ、ナルカも協力してほしい!!」


『今、なんでもって』


『お前は寝てろもん』


花提灯を出したまま、むくりと起き上がったパルカにマレッサがチョップを喰らわせて再び眠りに落とす。

無理に起きて俺たちを助けようとしてくれたのだろう、パルカは優しい神様だな、うん。


「……パルカと同じ感じになりたくないから別にそういうのはいいわよザコお兄さん。フィーニスちゃんってばとーーっても優しいから、お願いされたら嫌とは言えないしー」


「フィーニス嫌なの? 嫌ならナルカだけでやるから、引っ込んでてもいーよ?」


「嫌とは言ってないでしょ!! ほら、急ぐんでしょ、舌噛まないように口閉じててよザコお兄さん!! ナルカも邪魔が入ったら対処しなさいよね!!」


「よく分からないけど分かったー!! 邪魔する奴は死なすー!!」


石の鎧を纏った状態でフィーニスは疾風に乗って、セヴェリーノの元へと一気に飛んだ。

それを見て、フランコが手をこちらに向けるのが見えた、死の視線をハッキリと感じる、俺を死に至らしめる何かが来る。

そう確信し、身構えた瞬間。


「いやぁああん、痴漢だわぁあああああん!!」


『ッ!?』


バヂィンッ!! と轟音が響き、大気が震える程の衝撃が走った。

どうやら服が燃えてほぼ裸体になったデイジー叔父さんが、フランコの頬に強烈なビンタをかましたようだ、そのビンタの衝撃のおかげか、デイジー叔父さんを包んでいた闇の炎が消え去っていた、だがデイジー叔父さんの体には火傷のような跡があちこちに残っている。

恐らくだが、デイジー叔父さんはフランコが自分を触ろうとしたと勘違いしたのかもしれない、それはそれとして俺たちを守ってくれたのだろう。

しかし、驚くべきはフランコだ、異神が魔王躯体を取り込んで受肉しているとは言え、デイジー叔父さんのあのビンタを受けて数回回転して数メートル後ずさっただけで済んでいる。

並みの者なら首が数十回転して頭部がロケットさながらに吹き飛んでいたか、頭部が消し飛んでいたとしても不思議じゃない。


『……』


フランコがデイジー叔父さんを睨みつける、その眼にはっきりとした敵意が見てとれる。

それはすなわち、神がデイジー叔父さんを敵として認識したと言う事だ。

そんな事はお構いなしにデイジー叔父さんはバルディーニの側へと近づく、意識を失っているバルディーニの身体は今も自壊し続けている。

デイジー叔父さんは掌をグッと握りしめてグググッと力を込める、すると光る何かが拳からしたたり、バルディーニの身体に降り注いだ。

ピカッとバルディーニの身体が光ったかと思うと、バルディーニの身体の自壊速度がさっきよりも緩やかになっていた。

ふぅと息を吐いて、一安心したそぶりを見せたデイジー叔父さんがバルディーニから服を奪い取り、雑に破いて腰に巻いた。


「代金として服を拝借するわよぉん、バルディーニちゃん。応急処置としてデイジーちゃん特製のラブパゥワーでその胸にぽっかりと空いた冥域とやらの繋がりは塞いだわぁん。まだ影響は残ってるけど、ゆっくり養生すれば死ぬ事はないはずよぉん」


そう言ってデイジー叔父さんは唐突にバルディーニを投げ飛ばした。

いや、嫌で気に食わないロクデナシだったとしても、瀕死の状態の人をそんな勢いで投げ飛ばすなんて、いくらなんでもやり過ぎだ、と思ったが、バルディーニの飛んでいった先に人影が見えた。

どうやら、デイジー叔父さんはその人影目がけてバルディーニを投げたようだ、俺から数百メートル以上は離れているその人影はものすごい勢いで飛んできたバルディーニを掴むと一瞬で氷漬けにしてしまった。


「バルディーニちゃんのお友達かしらぁん? バルディーニちゃんをよろしくねぇん」


かなり離れてはいたが、デイジー叔父さんの声が聞こえているのか、バルディーニを氷漬けにした人影はデイジー叔父さんに軽く頭を下げて、そのまま離れていった。

あの人影は一体誰なのだろうか、気にはなるが今はセヴェリーノを助けるのが先だ。

さっきの凄まじい雷の一撃のせいかかなりフラフラでいつ倒れてもおかしくない様子だ、俺たちは急いでセヴェリーノの元に向かった。

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