296・神と人の差って話
「魂ごと燃え尽きろッ!! 冥獄浄罪炎ッ!!」
フランコに飛び掛かったバルディーニが両腕から放出する闇色の炎を一点に集中させ、バスケットボール大の暗黒の球体を作り出す。
どこか先程パルカの放った神位魔法に似た印象を覚えたのは、その球体から感じる死の視線のせいだろうか。
濃厚な死を内包した凝縮された暗黒の炎、以前バルディーニがデイジー叔父さんに放った冥極炎という闇色の炎に比べれば、規模こそ小さく見えるが俺ですら感じる程の魔力の圧、あの暗黒の球体に込められている魔力はあの時以上だとハッキリと理解出来た。
ただの闇色の炎でもナルカやフィーニスには危険だとパルカは言っていた、ならばアレはそれ以上の存在にも届きうる炎なのではないか?
フランコは暗黒の球体が目の前に迫ってなお、その視線をセヴェリーノから外さずにいる。
その余裕とも無視とも取れる態度を前に怒りで顔を歪ませ、バルディーニは暗黒の球体をフランコの身体に押し込んだ。
瞬間、暗黒の球体を押し当てられている部位から大量の黒煙が溢れ出した、その煙からすら死の視線を感じるのだから俺なんかが一呼吸でも吸えば即お陀仏だろう。
「神だからと驕るなよ、この冥極浄罪炎は対デイジー用に編み出した、死者すら殺す冥域の炎を更に凝縮し、濃度を高めた死の概念そのもの!! パルカ様の死に勝るとも劣らぬ死だ!! 如何に魔王躯体を奪おうと不可避の死があると知れッッ!!」
怒り叫ぶバルディーニ、暗黒の球体が大量の黒煙を吹き出しながら徐々にフランコの身体にめり込んでいくが、フランコの顔に焦る様子は微塵もない。
『ふむ、冥域の炎を固めたか、器用な事だ』
暗黒の球体が半分以上、フランコの身体にめり込んだ時、ようやくフランコはその視線をバルディーニに向けた、直後、バルディーニの顔が青ざめるのが見えた。
『この身が死の神の身体でなければ、皮膚を焼く事くらいは出来ただろう。だが、しょせんは人の技、神の業には到底及ばぬ』
フランコが軽く腕を振り払うとフランコの身体にめり込んでいた暗黒の球体は容易く砕けて、黒煙となって霧散した。
次いで、信じられないという表情のバルディーニの両腕が宙を舞う。
両腕の肘から先を失い、もはや戦う術を失ったバルディーニだが、その眼はまだ光を失ってはいない。
「ハッ!! 我が力が神に及ばぬからなんだというのだ!! あれで足りぬと言うのなら、更に呼び、更に凝縮させるまで!! 我が身体、我が魂、そのことごとくを燃やし尽くし断章の魔法すら越えた神の領域へと至らん!! 見るがいい、これが魔王国元帥、獄炎のバルディーニの最期の炎!! 開け、冥域の扉!! その炎で我が敵を灰塵となせ、炎熱冥域!!」
空気すら焦がすような凄まじい熱がバルディーニを中心に広がっていく、あまりの熱に呼吸すらままならない。
たった一呼吸で肺が焼けつくような痛みを覚える、もしデイジー叔父さんがとっさに庇ってくれていなければ、身体の中から燃えていたんじゃないかとすら思える程の熱量に襲われ、思考する余裕すら消え失せていく。
『あぁもう、守護神が守護神ならその守護対象も守護対象もん!! アイツ、身体も魂も燃料にして、僅かとは言え、地上と冥域を繋ぎやがったもん!! やべぇもん、死が撒き散らされて、ここら一帯が死の領域に、冥域に落ちちゃうもん!! 炎とわっちじゃ相性最悪過ぎて対応しきれないもん、おい、パルカ、お前の所の奴のやらかしもん、お前がなんとかしろもんッ!!』
大慌てのマレッサが寝ているパルカを往復ビンタするが、パルカが目を覚ます様子はまったくない。
熱で歪む視界の中で、バルディーニの身体が末端から塵になっていくのが見えた。
生きたまま灰となって魂すら燃え尽きる、バルディーニの事が好きではないし、むしろ嫌いではあったが、こんな終わり方はあんまりじゃあないか、気づかず俺はバルディーニに向かって手を伸ばしていた。
手の先に火が灯り、その熱さと痛みで顔をしかめる。
その時、デイジー叔父さんが溜息をつくのが見えた。
「やっぱりだめねぇん。そういうのは見過ごせないわぁん。フィーニスちゃーん、ヒイロちゃんたちの事、お願いねぇーん!!」
「へ? えぇええええええええっ!?」
唐突にデイジー叔父さんに後方へと投げ飛ばされ、グルングルンと回転する視界の中でデイジー叔父さんがフランコに突撃していくのが一瞬見えた。
「ぶべッ!?」
硬い何かに思い切りぶつかった、投げ飛ばされた方角にはフィーニスが居たはずだがフィーニスがこんなに硬かっただろうか?
「こんな状況じゃ、し、仕方ないわね。デイジーちゃんに頼まれたし、ザコお兄さん、ザコ過ぎてすぐ死んじゃうし、まぁいいわよ、ついでにマレッサもパルカもナルカもまとめて守護ってあげるわよ。優しいフィーニスちゃんに感謝する事ね」
明後日の方向を向いているフィーニスだが、何故か全身を岩で覆っており、まるで岩の鎧を着ているような状態だった。
なるほど、この鎧にぶつかったからあんなに硬くて痛かったのか、納得だ。
「ありがとうフィーニス。それはそれとして、なんでそんな格好してるんだ?」
「いいでしょ、別に。こういう気分なのよ」
よく分からないが、精霊王ともなると岩の鎧に身を包みたくなる気分になるのか、なるほど……。
それはさておき、今はデイジー叔父さんだ。
俺は慌てて、デイジー叔父さんが居るだろう方向に眼を向けた。




