其ノ五拾七 美味な果実を育てる村
奇妙な村だった。
ポリネシア中心付近の公海上に位置する、無国籍の小さな島。火山と森とサンゴ礁から成るこの島の住人たちは、持ち前の好奇心で世界中から様々な生物を採集してきては、自分たちの島に放ってきた。それらが大事に維持されることで、今では極めて特異な固有種の宝庫となっている。
音楽に応じて様々な巻きの殻に成長するカタツムリ、3対6枚の翅を使って飛ぶ大型のトンボ、デンプンではなく甘い乳液を蓄えるイネ科の穀物。例えばこういった珍奇な生物の楽園であり、私も1年に1回は調査に訪れている。
「さーて、ついに始まりました! 第2回、雨季フルーツオリンピック!!」
ついに始まった。この島における雨季のフルーツを食べ比べる、4年に1回のビッグイベント。私は今回が初の現地観戦となり、しかもそれは特別審査員としてである。どんな果物を味わえ、五感で楽しめるのか。もう本当にワクワクさせられている。
「生物学部門長殿。2回目となる今大会では、どういったフルーツを期待するでしょうか?」
おっと、発言を求められている。そうだな。第1回となる前大会では、多種の果実が密集した形で実るクワ科のフルーツが優勝している。他種の花粉を利用することで、1つ1つの粒が異なる味と香りと食感を呈していく斬新さは、他の参加フルーツを圧倒していた。特に美味しい粒は、それ単体でも上位入賞を狙えるほどであり、当たりばかりの中に大当たりもある、という楽しさまであった。
しかし、それは数多くの素晴らしいフルーツを実らせる、この島の環境に依存する面が大きい。今回は、単一の強さで勝負してくるものに期待をしたい。
「殿堂入りした優勝果と同じ路線では、どうしても見劣りしてしまいそうですしね。粒よりの参加フルーツたちに期待です!」
こんな具合に、残りの4人の特別審査員からも簡単なコメントが述べられると、開会式はさっと終わり、1週間にも及ぶ本戦の幕が盛大に開いた。歓喜の声を上げる観客たち。エントリー数は100の大台。楽しみである。
「では、エントリーナンバー1番、どうぞ!」
体格の良い青年が、特別審査員の座るステージに上がってきた。この大会は、村人たちがそれぞれの推しフルーツを披露していくスタイルなのだ。ふむ、青年がこちらに配っているのは、焼きバナナ…いや、
「加熱して食べる、プランティンでしょうな」
審査員長に言われてしまった。バナナの仲間には変わりないが、その中で呼び分けされるグループの1つ。他にも候補はあるものの、まあ、プランティンと言っても問題は無いだろう。
それでは、青年が自分の分をその場で食べているのを真似して、私も焦げた皮を剥いての実食としよう。
「とってもいい香りね。濃厚な甘〜い芳香が、加熱されて最高に引き立ってるわ」
「味も甘いですよ。ねっとり系の焼き芋みたいな仕上がり、ですね。…おや、種が入っているのですか」
「種入りバナナ〜〜? 食べにくそうっすね」
いや、この種は食べられるタイプだ。しかも、チョコレートの風味が強く感じられる。
「あ、ほんとっすね! サクサク食べれて、クリスピ〜~」
「ミルクチョコレートの風味、が確かにしますね。ミルク味とチョコ味のバランス、はひと粒ごとに少々違うようですが」
「本当に、発酵カカオ豆の香りがするわ。この芳香、みっちり詰まった果肉の中に閉じ込められてるから、噛むとそこで香りが変わるの。面白い!」
「加熱することで甘味を増すプランティンだからこそ、種がちょうど食べやすいタイミングを選べるわけですな。おや、種は白黒の斑模様になっています。これは…?」
トランスポゾンが移動した結果だろうな。おそらく、単に種をクリスピーに食べられるプランティンだったものに、チョコ的な種になる近縁種を掛け合わせた。そして、それが相手の中で眠っていたミルク感のある種を復活させた。そういうF1雑種なのだと思われる。
「生物学部門長殿。観客の皆さん向けに、解説をしてもらえるでしょうか?」
まず、これはクリスピーな種のプランティンと、チョコ風味な種のバナナの一種を、交配したものだと考えられる。そうすることで、クリスピーなチョコ感のある種を持つプランティンとなり、それ単体で新手のチョコバナナみたいに仕上がっている。
「はい、そこまではイメージしやすいです」
このフルーツの面白いところは、その先にある。片方の親のクリスピーな種では、本来はミルク感を出す遺伝子が働いてもいたはずだ。しかし、それはトランスポゾンという、ゲノム上を動く遺伝子によって分断され、働けなくなっている、のだと思われる。
一方で、もう片方の親のチョコ風味な種では、このトランスポゾンを再び動かせる別の遺伝子が発現するのだろう。両者を掛け合わけることで、トランスポゾンは別の場所への移動が可能になる。そうして、分断されていたミルク感を出す遺伝子が、復活する運びになった、という理屈だと考えられる。
「種が、白黒の斑模様になっているのは、なぜでしょうか?」
それは、トランスポゾンが動いたり動かなかったりするから、と説明することが出来る。動かなければチョコ味のままで黒、動けばミルク味が強く加わり白になる、ということだろう。同様の例は、トウモロコシで有名だ。
「なるほど、よく分かりました! いや〜、1果目から凄いのがきましたね。観客の反応もいいですよ!」
観客は一般審査員という立ち位置であり、この場に来た者たちは皆、参加フルーツを食べることが出来る。その数や量はまちまちなので、どれだけ分け前があるかはケースバイケースとなるが。
「強いて言うなら、ミルク感の少し弱い種が多いですな。このバランスが良くなれば、更に高評価になると思います」
うん、1果目から良かった。現地での観戦を出来て、実に嬉しい。
「では、エントリーナンバー2番、どうぞ!」
次の村人は若い女性だ。蔓を編んで作られた浅めの容器を両手で持っていて、それにビー玉くらいのサイズな赤い実がこんもり盛られてある。
「伽羅の様な芳しさが漂う、レーズンを思わせるフルーティーな香り……。その粒は、生の完熟コショウね」
流石は、今大会で香り担当のフレーヴァリストだ。それが本当なら、育てる果実の数を絞ったくらいでは説明出来ないほどに大きな実だが、そんな視覚的な情報には惑わされることもなく、己の武器たる嗅覚のみで確信したのだろう。
「んん〜〜、本当にコショウの風味っ! でも甘さもあって、すごく奇妙な実っすね。でも美味しくって…不〜〜思議!」
「一般的なものより遥かに肉厚でジューシーな果肉、コショウの風味と共に強いベリー感のある甘酸っぱさ、がいいですね。芳醇な旨味と長い余韻はまさに官能的。小粒の種はピリリと刺激的です」
甘酸っぱさと鮮烈な香りのコンビネーション、前菜にも締めにも使える逸品ではなかろうか。
「カレーリーフの実や、フルーツ生姜などと合わせて、スパイシーなフルーツカクテルに仕立てるのも良さそうですな」
うん、それも実に美味しそうだ。観客のために補足すると、フルーツ生姜とは、ショウガ科の果実の中で特にフルーツ感の強いものの俗称だ。ショウガの風味と甘酸っぱさが一体になっているのが特徴で、エトリンゲラ属の実がそれなりに有名だろうか。まあ、その名前は知らなくても、この島には結構な種類が導入されているはずだ。
「シンプルながら確かな個性! 他のフルーツとの組み合わせにも期待です!」
まだ、今日だけで10以上の果実を楽しむ必要がある。こんな感じに少ない量のものが合間に挟まると、助かるかも知れないな。何が供されても、美味しく味わわねば!
…ん、次の人だと思われるゴツい壮年の男性が、まず観客へと参加フルーツを配っている。あれは……
「では、エントリーナンバー3番、どうぞ!」
サッカーボール大な球状の部分と、それに被さっている部分の2パーツから成る構成。そんなわりと大型の果実が、放射状にカットされた状態で配られてきた。
「これはまた、美麗ですね。赤・白・橙・桃色の果肉、が種の周りから重層していますよ」
「カシューナッツとマガダミアナッツの香ばしさに、カシューアップル、ピーチ、オレンジ、マンゴスチン、ザクロの香りね。見た目の美しさと同じに、香りも中心から順に広がってくるわ」
「真ん中のデカいナッツだけ焼かれてるんか。…うまっ! ナッツ、うまっ!」
「食し応えのあるナッツ、ですね。大味ではないですし、芳香だけでなく味も2種類のミックス、になっています。…ある種のササの実のニュアンス、も少々感じられますね」
「ササの実…! 確かに、少し香るわね」
「ではっ、果肉の方も頂きますかね〜~」
「その必要はありません」
「ビビィーーーーッッ!!!」
「規定違反、失格です。これは、自然には生じ得ない果実ですな?」
審査員長が、私を見ながら発言している。そう、その通りだ。この果実は、オーストラリア政府の研究機関によって創られた、人工的な植物が実らすものだ。異種交配や選抜交配、単純な変異導入までという大会規定からは大きく逸脱した、極めて高度なキメラ植物、その果実で間違いない。私は以前、それを丸ごと食べたことがある。その経験から保証しよう。
「えー、情報を照会した結果、生物学部門長殿からの説明の内容で、間違いありません。エントリーナンバー3番、失格です!」
まあ、大会の規定上の問題が無かったとしても、上位入賞は難しかっただろうな。面白くはあるが、一般的なフルーツの単なる集合体みたいなものであるし、前回の優勝果の下位互換、その代表例とも言えるような実なのだから。付け加えると、ナッツは評価外になるわけだし。
……それにしても、あの施設から地下茎を秘密裏に採集してきて、この島で栽培したということか。流石だなあ。問題になる前に、処分してしまわないと。
「それでは気を取り直して、エントリーナンバー4番、どうぞ!」
司会の者がそう言うと、妙齢の三姉妹がくるくると踊りながら現れた。そして、妹たちは一般審査員に、長女のお姉さんは特別審査員へと、陽気に舞い踊る動きの中で推しのフルーツを配っていく。オレンジ色で、握り拳ほどのサイズ感の、よく見慣れた形の果実である。
「ミカンっすね」
「オレンジとの交雑種、タンゴールのようではありますな」
「奇をてらったフルーツ限定の大会、ではないですからね。まずは食してみましょう」
主に味覚を担当する美食家が、1つずつ配られたその柑橘の実に手を伸ばした。ところが、彼が皮を剥こうとしたところ、長女は色気のあるジェスチャーでそれを制止する。そして、皮ごと食べて見せたのだ。
「なるほど、そうして食べるんすね。がぶり! 〜〜うまっ!! 皮ごとうまっ!!」
「この皮は、凄いですね…! 分厚いのに白い部分はほとんど無く、オレンジ色の油胞がたっぷり詰まっています。オレンジピールの様な加工を経ずに、この様な美味とは…!」
「リモネンの芳香が素晴らしいわ。これはもう、皮だけでも十分にフルーツよ!」
「果肉も極上です。瓤嚢膜が極めて薄く、多汁な砂瓤と共に口の中でとろける柔らかさ……品種の特性に加えて、隔年交互結実法も実施しているでしょうな」
「なにこれ?? ぷるぷるなゼリーみたいっすね〜〜」
「ゼリーと形容したくなるほどに仕上げられた本来の可食部は、愛媛果試第28号に似てはいます。しかし、この素晴らしい外皮と組み合わさることで、トータルでは別次元にまで高められていますな」
「完全に同意、しますね。これは凄い」
房を包む薄皮と顆粒を限界まで柔らかくして、油胞に富んだ皮のフルーツ感を極限まで高めた至高の品。丸ごと食べる系フルーツの極みの1つと言えるだろう。先のコメントで触れた、単一の強さを見事に示してくれている。
「おお〜っと、4果目にして、特別審査員の5名全員が大絶賛!! これは早くも、優勝は決定か〜!?」
いや、うん。本当に美味しい。単純に美味しい。くるくると舞い続けている三姉妹が、「ねっ、美味しいでしょ?」といった感じに笑いかけてくる。感謝と同意を込めた微笑みを返し、次のフルーツへと気持ちを切り替えていく。
「では、エントリーナンバー5番、どうぞ!」
次は、小さな男の子だ。特別審査員1人ずつの前に、バナナの葉っぱの切れ端をせっせと並べている。その上にちょんちょんと、自分のお気に入りを置いてく様が可愛らしい。
配されたのは、円筒形の白い果実のスライスが2枚。あまり量を確保することが出来なかったのだろう。観客たちが食べられるのは更に少ないっぽく、お母さんらしき女性が試食コーナーでの様に、ダイス状の小片を配って回っている。
「ん〜っ、この量でも圧倒される強さの芳香ね。パイナップル、アップル、キウイフルーツの香りを調合したような感じだわ」
「ああー、これ知ってる。最近ニューヨークで流行りの、ボソボソしたバナナみたいな食感のやつでしょ。あっさりしてて好きっすよ、俺」
「一般に流通しているものとは別物、でしょうけどね。どれ……食感、は少しねっとり。オレンジとパッションフルーツを合わせた様な甘酸っぱさ、がかなり強いですね。淡く感じるイチジクに似た風味、が通常の味だと思います」
「確か、寄生植物のファミリーでしたな。宿主の味が上乗せされているのではないでしょうか?」
また、私に向かって言葉を放っているな。うん、その通りだろう。まず、これはヒドノラ科に属するフルーツで間違いない。そして、この島で有名な、オレンジとパッションフルーツのミックス果汁の様な樹液を内包する木、その根に寄生したものだと予想する。
「イチジクの風味がするもの、は以前に食したことがあります。ですが、味だけでなく、プチッと潰れる種を含めた全体の食感、もこちらの方が優れていますね」
「寄生植物という珍しさだけではない、こちらもシンプルに強い個性を伴った美味しさですな」
味と香りと食感が、それぞれを意外に思わせてくる組み合わせで面白いし、偏見を排すれば普通に美味しい。かなり強い風味によって、少量で満足を出来ることも注目ポイントだ。
この島で自然に生じた変わり種を、この少年がいち早く発見したのだろう。大会にエントリーしようと、島中を探し回ったのかも知れない。グッジョブだ。
「はいっ! 午前の部はここまでです。引き続き、昼からも楽しんでいきましょ〜う」
1週間後、閉会式。
昨夜は、特別・一般の両方の審査員が熱烈に議論を繰り広げて、上位10果のフルーツを選出した。そしてこれから、それらの中から投票により、ついに今大会の優勝果が決まり、発表される。
ふう……素晴らしい果実の数々が思い出されるな。
「グミみたいな食感のグミ」
「エアロゾル状の果肉な風船フルーツ」
「ハチが蜂蜜を蓄えるイチジク」
「花弁が肥大化するハイビスカス」
「ブッシュカン的なカキ」
「ココナッツミルクになっているココナッツ」
「特大オンコの実」
「果汁が炭酸のマスカット」
「ほとんど果芯だけが占めるキウイフルーツ」
「凄まじく甘いデーツ」
「母乳と組成が近い果汁のおっぱいフルーツ」
「アンコの様な甘さのアケビ」
「ミカン状果的なスイカ」
「キイチゴ状果のイチゴ」
「房が1つしかない八朔」
「唾液と空気の混ざり具合で味が変わるモモ」
「風味が強化されたジャボチカバ」
「甘くてジューシーなナスビ」
「メロンの様なカボチャ」
「キュウリ型のメロン」
「紅はるかの焼き芋に近しいカニステル」
「特大コケモモ」
「皮も美味しいマンゴスチン」
「ナスビ的なタバコの実」
「エタノールを蓄えるカクタスペア」
「新属新種のバンレイシ科の果実①」
「新属新種のバンレイシ科の果実②」
「新属新種のバンレイシ科の果実③」
「新属新種のバンレイシ科の果実④」
「新属新種のバンレイシ科の果実⑤」
「新属新種のバンレイシ科の果実⑥」
「新属新種のバンレイシ科の果実⑦」
「爽やかな香りの強いワンピ」
「牛に寄生して結実するブラッドフルーツ」
「集合果になったヤマブドウ」
「単果になったパイナップル」
「ヨーグルト風味のビワ」
「小型なエクアの実」
「メロンパンの実」
「洋ナシとリンゴのハイブリッド」
「脂肪分も多いドリアン」
「地下茎から地中に実る棒状フルーツ」
「液果になったトウモロコシ」
「マンゴーを極めたマンゴー」
「キャンデーの様なフサスグリ」
「噛むと爆ぜるヘビイチゴ」
「わたパチみたいなバオバブの実」
「文献上だけで知られていたカフの実」
「もっちりしたフトモモ」
「グミみたいな食感のリュウガン」
「皮を剥きやすいレンブ」
「大蛇の様なスネークフルーツ」
「雲内で育ち、雷で落果するスカイフルーツ」
「鶏肉みたいな味のザクロ」
「まさに百香果なパッションフルーツ」
「とても甘酸っぱいタマリンド」
「特大ヤマボウシの実」
「とろける食感のハスカップ」
「風味が強化されたクバルフルーツ」
「気体を含んで軽い食感のガックフルーツ」
「マンゴー風味の強いフェヒバナナ」
「濃厚でクリーミーな種なしナラメロン」
「ほぼゼリー状のフェイジョア」
「ガムみたいな食感のサポジラ」
「カラメル感の強いマウンテンパパイヤ」
「バニラ風味なドンドゥルマの実」
「まりも羊羹の様に食べるペダライ」
「トロピカルなフルーツトマト」
「酸味と甘味のバランスが良いピニュエラ」
「カルダモン風味の種を持つフルーツ生姜」
「寄生する幼虫ごと食べて美味しい蟠桃」
「青カビで熟成するチーズフルーツ」
「皮が美味しく肥厚したバクパリ」
「甘い部位と酸っぱい部位のあるアセロラ」
「十放射状のスターフルーツ」
「種をビスケットの様に食べられるアサイー」
「ジューシーで種も柔らかいマビンロウの実」
「皮ごと食べられるポーセリンメロン」
「杏仁ごと食べられるアンズ」
「アンズの様な果肉のアーモンド」
「イチゴの香りがするブルーベリー」
「ゼリー状に熟すプティゲル」
「外果皮に金を濃縮するゴールドベリー」
「特大ゴジベリー」
「とろける食感のクコの実」
「少し冷やすとシャーベット状になるランサ」
「素手で搾れる海綿状のグアバ」
「マンゴー風味のカシューアップル」
「バター並みに高脂肪な種なしアボカド」
「全体が蜜入りのリンゴ」
「鎖状に連なるリング型の洋ナシ」
「凄まじく甘くもある激辛トウガラシ」
「自然発火するアークドラゴンフルーツ」
「海中で実るシーベリー」
「リラックス効果の高いホオズキ」
「第2回雨季フルーツオリンピック!! 栄えある優勝果は!! エントリーナンバー、47番ですっっ!!!」
盛大な歓声と拍手が鳴り響き、祝勝ムードが最高潮に達している。やはり、あの新科新属新種のフルーツになったか。正直、昨日の上位10果にも真っ先に選ばれていたし、納得でしかない。私もこれに投票してるしな。
「あ〜〜れは、スゴかったっすねえ」
「初めて嗅ぐ香りなんて、いつ以来の体験になったかしら。完璧に新しいフレーバーなのに、それでいてフルーティーなのも驚きだったわ」
「味もそうですよ。ユニーク且つ繊細、それでいて世に出れば正統派になれる味覚、でしたね」
「食感は野性的な強さなのがまた、良かったですな。非の打ち所の無いバランスと言えましょう」
新規性と唯一無二の個性を示し、それでいて人を選ばない風味なのだから、納得でしかない。仮に、食べたことが無い人にその説明をするならば、パイナップルの芯を超絶美味しくしたような、とでも表現するだろうか。もちろん、これでは1%もその素晴らしさを伝えられはしないが。
「それでは、第2回雨季フルーツオリンピック、これにて閉幕いたします! また、次の大会でお会いしましょ〜う」
今回は前回と違って、育種的なものが多かったな。それもまたいいだろう。2年後の乾季大会を今から楽しみにしながら、私は次の村へと歩みを進めた。




