信長への提案(後編)
「そのために、信長様にご提案したいことがございます」
俺は信長の顔を見ながら話を続けた。
「四輪荷車を継続して製造し、織田家の領内で販売する事業を立ち上げたいと考えております」
「事業、とな?」
信長が興味深そうに聞き返した。
「はい。織田家と私で共同して行う事業でございます」
俺は、あらかじめ考えてきた計画を説明することにした。
「まず、資金と人員については、織田家からご支援いただきたいと考えております。私は製品の開発や製造方法の改善、職人の育成、製造現場の管理を担当いたします」
「ふむ。わしが金と人を出し、そなたが作るための仕組みを整えるということか」
「そのとおりでございます」
信長は腕を組み、続きを促した。
「販売先は、まず織田家を優先といたします。戦場での物資の運搬や、領内での荷物の輸送など、必要な場所で使っていただきたいと考えております。そのうえで、織田家の領内にある商家にも販売いたします」
「織田家の領内で売るのだな」
「はい。まずは領内で需要を確かめ、製造と販売の仕組みを整えていきます」
俺は一度、息を整えた。ここからは、事業を継続するために重要な話だ。
「利益につきましては、必要な経費を差し引いたうえで、織田家と私で折半する形を提案いたします」
その言葉に、周囲の家臣たちがざわついた。柴田勝家が眉を寄せ、俺に問いかける。
「正男。おぬしは三百石を与えられた織田家の家臣だ。その身で商いまで始めるつもりか?」
「はい」
俺は、はっきりと答えた。
「ただ利益を得るためだけではございません。得られた利益を、新たな道具の開発や設備の充実に回したいと考えております」
「新たな道具、か」
信長が口を開いた。
「はい。四輪荷車だけではなく、農具など、領内の暮らしや生産に役立つ道具も開発していきたいと考えております。製造の仕組みを整え、職人を育てれば、より多くの道具を安定して作れるようになります」
俺が目指しているのは、一台の荷車を作って終わることではない。職人を育て、製造の仕組みを整えることで、この時代の生産力そのものを高めることだ。
信長は、しばらく黙って俺を見ていた。やがて、問いかけてきた。
「いつから作れる?」
「まずは二か月ほどで試作と少量の製造を始めたいと考えております。その後、職人の習熟と製造設備の整備を進め、三か月ほどで量産できる体制を整える計画でございます」
「二か月で試作と少量の製造。三か月で量産体制か」
「はい。ただし、職人の確保や材料の調達状況によって、多少前後する可能性はございます」
できもしない約束をするつもりはない。製造業では、材料がそろわなければ作れないし、職人が育たなければ品質も安定しない。だからこそ、段階を踏んで進める必要がある。
信長は再び腕を組んだ。
「五郎左」
「はっ」
呼ばれた丹羽長秀が、一歩前に出た。
「この話、どう思う?」
「四輪荷車が実用に耐えるのであれば、検討する価値は十分にあると存じます。織田家が資金と人員を出す以上、費用や販売方法、利益の分配については、あらかじめ定めておく必要がございましょう」
「うむ」
信長は俺に視線を戻した。
「正男。五郎左と話し合い、計画を詰めよ」
「はっ。承知いたしました」
よし。ひとまず、話を聞いてもらうことはできた。あとは長秀殿と具体的な条件を決めていくことになる。
信長は満足したようにうなずいた。
「五郎左、あとは頼むぞ」
「はっ」
そう言い残すと、信長は足早に庭を去っていった。
その姿が見えなくなったところで、俺はようやく大きく息を吐いた。
「はあ……なんかすごく疲れた」
思っていた以上に緊張した。信長を前にして、共同事業の話を持ち出す。現代なら会議室で説明するところだが、ここは戦国時代だ。少し言葉を間違えれば、計画そのものが頓挫しかねない。
「正男!」
声をかけてきたのは藤吉郎だった。
「よかったのお。わしまで冷や冷やしたぞ!」
藤吉郎は、まるで自分のことのように喜んでいた。
「ありがとう。お前の変な顔のおかげで、緊張がほぐれたよ」
「変な顔とはなんじゃ! あれは、そなたを励ますための顔じゃぞ!」
「いや、あれは誰が見ても変な顔だったぞ」
俺が笑うと、藤吉郎も豪快に笑った。その様子を見て、五兵衛も微笑んでいる。
桜は、手にしていた検査基準書を大切そうに抱え直した。
「正男様。これから忙しくなりそうですね」
「ああ。ここからが本番だ」
信長から許可を得ただけで、事業が成功したわけではない。資金の使い道、人員の配置、材料の確保、製造工程の整備。決めなければならないことは山ほどある。
それに、量産体制を整えるには、職人たちに新しい製造方法を覚えてもらわなければならない。俺一人が頑張ったところで限界がある。
大切なのは、誰が作っても同じ品質の荷車を作れる仕組みを整えることだ。そして、そこで得た利益を次の開発につなげていく。
「よし……やるか」
俺は改良した四輪荷車に目を向けた。この荷車が、俺の新たな出世の足がかりになるかもしれない。
だが、焦るつもりはない。一つずつ問題を解決し、確実に前へ進む。それが俺のやり方だ。
戦国時代で製造業を発展させる。そのための新たな一歩が、今、始まろうとしていた。
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【鈴木 正男】
年齢:18歳
身分:織田家家臣
石高:300石
統率:74
武勇:38
知略:85
政治:87→89
【兵科適性】
足軽:B
騎馬:D
弓:C
鉄砲:A
水軍:D
【スキル】
危険予知:Lv.5
危険回避:Lv.2
5S:Lv.5
改善思考:Lv.5
標準化:Lv.5
品質管理:Lv.5
工程改善:Lv.5
生産性向上:Lv.5
安全意識:Lv.5
戦術思考:Lv.2
立身出世
【経験】
危険回避:60
戦術思考:20
【実績】
現場改善:8回達成
【現在の改善対象】
四輪荷車
【改善状況】
完了
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここから章のタイトルである「織田家共同事業編」の織田家共同事業が本格的に動き出しました!
正男の製造業が一気に動き出します。楽しみにしていてください。
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明日の朝6時も更新予定です。よろしくお願いいたします。




