領地視察
「さて、次は領地の視察だ」
「僕も一緒に確認します」
五兵衛がうなずく。なつきもくろから降り、熊蔵と一緒に俺たちの後ろへついた。
「「いってらっしゃいませ」」
お花とお梅が、笑顔で俺たちを見送ってくれる。お梅は熊蔵にも手を振り、帰ってきたらごはんをあげようと楽しみにしていた。
屋敷を出て、俺たちは周囲の土地を確認しながら歩き始めた。屋敷の近くには、畑にできそうな土地が広がっている。少し離れた場所には、資材置き場として使えそうな空き地もあった。
「この辺りなら、将来、建物を増やすこともできそうだな」
「そうですね。道を整備すれば、荷車で資材を運ぶのにも便利そうです」
五兵衛の言葉に、俺はうなずいた。製造業を発展させるには、建物だけでなく、資材を運ぶための道も重要になる。
さらに歩いていくと、少し離れた場所に古びた蔵が建っていた。俺は蔵の前で足を止めた。
「この蔵は、今は使われていないのか?」
「そうですね。以前は農具や収穫物を保管していたんじゃないでしょうか」
五兵衛が答えた。俺は蔵の戸を開け、中を確認した。内部は広く、屋根も大きく傷んではいない。不要な物を片づけ、床や壁を補修すれば、十分に活用できそうだった。
「ここなら、工房として使えるかもしれないな」
「工房ですか?」
五兵衛が尋ねた。
「ああ。新しい建物を一から建てるより、今ある蔵を改造したほうが早い。まずはここを拠点にして、荷車の試作を進めよう」
「なるほど。建物を有効活用するわけですね」
「そういうことだ。ただし、鍛冶仕事をするなら、火を使う場所や煙を逃がす仕組みも考えなければならない」
なつきが興味深そうに蔵の中をのぞいた。
「鍛冶仕事もできるの?」
「必要な設備を整えればな。安全面も確認してから始めよう」
「だったら、あたしも手伝うよ。鍛冶の道具なら、何が必要かもわかるし」
「頼りにしているよ」
俺は蔵の中をもう一度見渡した。ここで最初に取り組みたいのは、戦用の荷車の開発だ。隠し山城での戦いを通じて、兵糧や武器を効率よく運ぶことの重要性を改めて感じた。戦では兵士の強さだけでなく、物資を運ぶ仕組みも勝敗を左右する。
今使われている荷車は、道の状態によっては扱いにくく、一度に運べる量にも限界がある。そこで、俺が考えているのが四輪の荷車だった。
「四輪の荷車を作ろうと思っている」
「四輪ですか?」
五兵衛が首をかしげた。
「ああ。車輪を四つにすれば、荷台を大きくして、より多くの物資を運べる可能性がある。ただし、車輪の向きや車軸の構造を工夫しないと、曲がるときに扱いにくくなるだろう」
「なるほど。大きくすればいいというわけではないのですね」
「その通りだ。重い荷物を積んでも壊れにくく、引く人や牛の負担も減らせる構造にしたい」
なつきは腕を組み、蔵の床を見た。
「車輪や車軸を作るなら、丈夫な木材が必要だね。それに、金具もいる」
「そうだな。材料の確保も課題になる」
俺は蔵の入口から外を眺めた。この領地には、まだ整備されていない場所が多い。だが、逆に言えば、これから自分の考えに合わせて整えていけるということでもある。
「まずは蔵の中を片づけて、使える場所と補修が必要な場所を確認しよう。そのうえで、荷車の設計に取りかかる」
「わかりました。僕も手伝います」
「あたしも、できるところから手伝うよ」
「助かる」
俺たちは蔵の中にあった古い道具や不要な荷物を確認し、外へ運び出す作業を始めた。熊蔵も、俺たちのそばで大人しくしていた。くろはなつきの近くで、時折、鼻を鳴らしている。
作業を続けるうちに、蔵の中の様子が少しずつ見えてきた。壁の一部には補修が必要だったが、床は思ったよりもしっかりしている。天井も、すぐに崩れるような状態ではなかった。
「思ったより使えそうだな」
俺が言うと、五兵衛もうなずいた。
「はい。必要な箇所を直せば、十分に使えると思います」
「よし。ここを最初の工房にしよう」
そして、荷車を試作するだけでなく、将来的には鍬などの農具も作り、量産できる仕組みを整えたい。一つの工房だけで、すべてをまかなうのは難しいだろう。いずれは、量産するための工房群を建設する必要もある。
そのためには、俺一人の力だけでは足りない。織田家や商人たちと協力し、資金や人材を集めることも考えなければならなかった。
「まずは、この蔵を工房にする。ここで荷車の試作を進めながら、次の計画も練っていこう」
「はい」
五兵衛が力強く返事をした。なつきも笑顔でうなずく。
「あたしも、いいものを作れるように頑張るよ」
「ああ。みんなで少しずつ進めていこう」
俺は蔵を見上げた。そして、工房を動かすためには、計算が得意な人材も必要になる。俺の頭に、伊藤家の商家が浮かんだ。
「五兵衛、明日は商家へ行こうと思う」
「商家ですか?」
「ああ。計算が得意な人材を紹介してもらえないか頼んでみたい」
「わかりました。僕も同行します」
まずは人材を確保し、工房を動かすための準備を整える。その先には、荷車や農具の製造、そして量産するための工房群の建設も待っている。すぐに実現できることばかりではない。それでも、一つずつ課題を解決していけば、道は開けるはずだ。
俺は蔵を振り返った。
ここを、俺の新しい挑戦の拠点にしてみせる。
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