戦の準備【前編】
軍議が終わった翌朝。
俺たちは、織田家の兵たちが集まる城の一角にいた。いよいよ、山中に潜む敵の城を攻める準備が始まる。柴田勝家は兵たちに武具の点検を命じ、丹羽長秀は兵糧や物資の手配を進めていた。俺たちも、出陣に向けて準備を進めなければならない。
「正男、あたしの具足、早く着たい」
なつきが、待ちきれないといった様子で俺の前に立った。その隣では、五兵衛が支給された具足を抱えている。
「二人とも、まずは具足を着てみてくれ。体に合わないところがないか確認する」
「よし! これを着れば、あたしも立派な武士だな!」
「なつきは、具足を着る前から十分に迫力があると思うけどね……」
五兵衛が苦笑する。
「なんだよ、五兵衛。褒めてるのか?」
「ええ。半分くらいは」
「もぅ~。照れるじゃねえか」
なつきが五兵衛の背中をバンバン叩いた。
「痛い! 痛い! 痛いから!」
五兵衛は苦笑いしながら、さっそく具足を身につけ始めた。俺は二人の様子を見ながら、思わず笑みを浮かべた。
戦の準備だからといって、ずっと深刻な顔をしている必要はない。緊張しすぎれば、普段ならしないような失敗をする。戦場でも、きっと同じだろう。
「正男、背中の紐がうまく結べないんだけど」
「どれ、見せてみろ」
なつきの後ろに回り、具足の紐を確認する。少し長さが合っていない。俺は紐の通し方を確認し、長さを調整して締め直した。
「よし、これでどうだ?」
「おお! さっきより楽だ!」
なつきは腕を回したり、腰をひねったりして具合を確かめた。それから、いつもの大きな金槌を持ち上げる。
「これなら金槌も振り回せるな!」
「振り回すのはいいが、味方に当てるなよ」
「当てるわけないだろ!」
「この前、柱にぶつけていただろう」
「あ、あれは柱が邪魔だったんだ!」
「柱のほうが先に立っていたと思うけどね」
五兵衛が横から口を挟んだ。
「五兵衛!」
なつきが頬を膨らませ、五兵衛を睨んだ。
「はい、すみません!」
五兵衛は慌てて口を閉じた。俺はとうとう吹き出してしまった。
「まあ、具足を着たままでも動けることは確認できたな。次は五兵衛だ」
「はい。僕のほうは、腕を動かすと少し肩が引っかかります」
五兵衛は腕を上げたり、腰を落としたりしてみせた。
水輪流は、相手の攻撃を受け流し、流れるような動きで身をかわす剣術だ。動きを妨げる部分があれば、せっかくの技も使いにくくなる。
俺は肩の部分を確認し、具足の紐を調整した。
「これでどうだ?」
「おお、ずいぶん動きやすくなりました」
五兵衛は軽く足を踏み替え、身体を回転させた。その動きは、まるで水が流れるように滑らかだった。
「さすがだな。具足を着ても動きが変わらない」
「ありがとうございます。でも、実際の戦場では、泥や汗で動きにくくなるかもしれません」
「確かにそうだな。出陣前に、具足を着たまま何度か動いておこう」
「はい!」
こうして、なつきと五兵衛の具足の調整は無事に終わった。織田家から支給された具足は、二人の体にも合っている。あとは戦場で落ち着いて動けるかどうかだ。
……まあ、なつきについては、落ち着いて動くという部分に少々不安があるのだが。
「正男、今、何か失礼なことを考えただろ?」
「いや、何も」
「くろが言ってるぞ。あたしのことを心配してるって!」
「それは失礼なことじゃないだろ!」
「じゃあ、何考えてたんだ?」
「戦場で金槌を振り回して、味方まで吹き飛ばさないか心配していただけだ」
「やっぱり失礼じゃないか!」
なつきの声が響いた。五兵衛は腹を抱えて笑っている。俺も笑いながら、次の仕事に取りかかることにした。
人間の装備が整ったら、今度は動物たちの番だ。
城の外へ出ると、くろがのんびりと草を食べていた。その少し離れた場所には、大きな熊が座り込んでいる。山中の隠された施設で助け出してからというもの、その熊はなつきによく懐いていた。
なつきが近づくと、熊は嬉しそうに立ち上がり、大きな頭を彼女にすり寄せた。
「おいおい、そんなにくっつくなよ。くすぐったいだろ!」
なつきは笑いながら熊の頭を撫でた。熊は気持ちよさそうに目を細めている。
「すっかり懐かれたな」
俺がそう言うと、なつきは得意げに胸を張った。
「へへん! あたしとこいつは、もう友達だからな!」
「友達、か。そういえば、こいつにはまだ名前がないんだったな」
俺は熊を見上げた。大人の男よりもはるかに大きな体格で、太い前脚に鋭い爪。見た目は恐ろしいが、なつきのそばにいるときは、まるで大きな犬のようだった。
「名前か……。うーん、何がいいかな?」
なつきは腕を組み、真剣に考え始めた。
「大熊だから、熊丸……いや、なんか違うな」
「くまはどう?」
五兵衛が提案した。
「なんか普通すぎる!」
「じゃあ、熊之介とか?」
「それも違う!」
五兵衛は困った顔で俺を見た。
「名前を考えるのって、意外と難しいね」
「本人に聞いてみたらどうだ?」
「熊にか?」
「まあ、返事が分かるかは知らないけどな」
俺が冗談めかして言うと、なつきは熊の前にしゃがみ込んだ。
「おい、お前。どんな名前がいい?」
熊は首を傾げた。そして、なつきの顔をじっと見つめたあと、大きな口を開けた。
「ガオッ!」
「うわっ! 近い近い!」
なつきが思わず後ろにのけぞる。俺と五兵衛は、そろって吹き出した。
「名前を聞いたら、返事をしてくれたね」
「五兵衛、絶対に今のは違うだろ!」
なつきは頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻った。そして、もう一度熊の頭を撫でる。
「よし、決めた!」
なつきは勢いよく立ち上がった。
「お前の名前は、熊蔵だ!」
「熊蔵?」
俺が聞き返す。
「そう! 熊みたいに強くて頼りになる感じがするだろ?」
「いや、熊そのものなんだけどな……」
「細かいことはいいんだよ!」
なつきは熊蔵の首に抱きついた。
「今日からお前は熊蔵だ! よろしくな、熊蔵!」
熊蔵は、まるで名前を気に入ったかのように大きな声で鳴いた。
「おおっ! 気に入ったみたいだな!」
なつきは大喜びだ。
そのとき、少し離れた場所から、くろの低い鼻息が聞こえた。
「ん? どうした、くろ?」
なつきが振り返る。くろは、なつきと熊蔵を交互に見ていた。どうやら、自分以外の大きな動物がなつきに懐いているのが気に入らないらしい。
「なんだよ、くろ。お前も熊蔵と仲良くしようぜ!」
なつきがくろの首を撫でると、くろはすぐに彼女のそばへ歩み寄り、顔を押しつけた。
「わっ! 分かった、分かったって!」
なつきは両手でくろの顔を撫でた。その様子を見て、俺は苦笑した。
どうやら、熊蔵という新しい仲間が増えたことで、くろには新たな悩みができてしまったらしい。
「さて、名前も決まったことだし、二頭の装備を考えるか」
「おう! くろも熊蔵も、格好よくしてくれよ!」
なつきは期待に満ちた顔で俺を見た。俺は頷き、紙と筆を取り出した。
俺はまず、くろの体格を測ることにした。胸の幅、胴回り、腰回り。さらに、脚の付け根や肩の動きも確認する。走ったときや体をひねったときに、どの部分が大きく動くのかも調べた。
「正男、くろをくすぐってるのか?」
「違う。鎧を作るために寸法を測っているんだ」
「でも、くろが笑ってるぞ!」
確かに、くろは鼻を鳴らしながら体を揺らしていた。
「くろ、真面目にやってくれ。戦の準備なんだからな」
俺がそう言うと、くろはぴたりと動きを止めた。
「おお! 正男の言うことを聞いたぞ!」
なつきが感心する。
五兵衛は、くろの寸法を書き留めていた。
「正男様、くろの寸法はこれで全部ですかね?」
「ああ。次は熊蔵だ」
熊蔵の前に立ち、同じように体の寸法を測ろうとする。ところが、熊蔵は俺の手にある縄を見つめたあと、前脚を差し出してきた。
「……なんで前脚を出すんだ?」
「手を測ってほしいんじゃないか?」
五兵衛が答える。
「いや、手じゃなくて前脚だろ」
俺が突っ込むと、なつきが大笑いした。
「熊蔵、正男に手を測ってもらいたいんだってさ!」
熊蔵は、まるでその言葉が分かったかのように、もう片方の前脚まで差し出した。
「はいはい。分かったから、両方とも測るぞ」
こうして、熊蔵の寸法も無事に測り終えた。
……動物の装備を作るだけなのに、ずいぶん賑やかな仕事になってしまった。だが、設計に必要な情報は集まった。
俺は紙を広げ、まず自分の武器から改善することにした。今回の戦では、俺も奇襲部隊の案内役として危険な場所へ向かう。武芸に秀でているわけではない俺にとって、武器が壊れにくいことは重要だ。
俺が使うのは、扱いやすいこん棒。ただの木の棒では、強い衝撃を受けたときに割れたり、折れたりする可能性がある。そこで、こん棒に鉄の輪を取り付けて補強する。
俺はこん棒を手に取り、改善システムを起動した。視界に、見慣れた画面が浮かび上がる。
【改善対象を確認しました】
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【改善対象:こん棒】
問題点:
・木製のため、強い衝撃で折れる可能性がある
・繰り返し使用すると、木が割れたり傷んだりする
・戦闘中に破損すると、武器として使えなくなる
改善難易度:低
改善による効果:
・鉄の輪で補強し、耐久性を高める
・戦闘中の破損を防ぎやすくする
・武器を長く使用できるようにする
・重量の増加によって、打撃時の衝撃を強める
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改善内容を確認した俺は、さっそく作業に取りかかった。こん棒の補強する部分に鉄の輪を取り付け、ずれたり外れたりしないように固定する。取り付けた鉄の輪を手で確かめ、こん棒を軽く振ってみた。
「よし。これなら大丈夫そうだ」
これで一つ目の改善は完了だ。
【改善が完了しました】
【こん棒の改善に成功しました】
【改善効果を確認】
【耐久性:向上】
【破損しにくさ:向上】
【打撃力:向上】
続いて、くろの鎧に取りかかる。
くろの最大の武器は、あの巨体から繰り出される突進力だ。しかし、鎧を頑丈にしようとするあまり、重くなりすぎては意味がない。
胸部には鉄板を配置し、後躯と脇腹にも装甲を取り付ける。ただし、脚や肩の動きを妨げないよう、装甲を分割し、体の動きに合わせて取り付け位置を調整する。さらに、なつきが背中に乗れる鞍と、走ってもずれない固定具を設ける。
俺は設計図を確認しながら、改善システムを起動した。
【改善対象を確認しました】
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【改善対象:くろの鎧】
問題点:
・胸部が敵の槍や刀による攻撃にさらされる
・後躯や脇腹が側面や後方からの攻撃に弱い
・装甲を重くしすぎると、突進力や機動力が低下する
改善難易度:高
改善による効果:
・胸部に鉄板を配置し、敵の攻撃から体を守る
・後躯や脇腹に装甲を取り付け、側面や後方からの攻撃に備える
・装甲の重量と配置を工夫し、突進力と機動力を維持する
・なつきが騎乗するための鞍と固定具を取り付ける
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「よし、やるか」
俺は必要な材料を揃え、作業を始めた。
胸部の鉄板は、くろの体に合わせて形を整える。後躯や脇腹の装甲は、体をひねったときに引っかからないよう、取り付け位置を慎重に決めた。そして、背中には鞍を設置する。なつきが乗った状態で走っても、簡単にずれないように固定具を調整した。
作業の途中、くろが何度も俺の手元を覗き込んできた。
「くろ、もう少し待ってくれ。あと少しで形になるからな」
くろは鼻を鳴らし、なつきのほうへ歩いていった。
「なんだよ、くろ。もうすぐ完成するんだから、楽しみに待ってろよ!」
なつきが首を撫でると、くろは嬉しそうに目を細めた。
やがて、胸部と後躯、脇腹の装甲が取り付けられ、鞍と固定具も完成した。俺は装甲の固定状態を確認し、くろに装着してみる。
「よし、完成だ!」
【改善が完了しました】
【くろの鎧の改善に成功しました】
【改善効果を確認】
【防御力:向上】
【突進力:維持】
【機動力:維持】
「おおっ! くろ、格好いいぞ!」
なつきが目を輝かせた。くろは胸を張るように立ち、得意げに鼻を鳴らした。その姿を見て、俺も満足した。
ただし、実際に走らせて、動きやすさを確かめる必要がある。
「なつき、乗ってみてくれ。ただし、最初はゆっくりだぞ」
「分かった!」
なつきは鞍にまたがり、固定具を確かめた。くろがゆっくり歩き始める。鞍はずれず、なつきの体も安定していた。
「おお! 乗りやすいぞ!」
「くろ、少しだけ走ってみてくれ!」
くろは、なつきの合図に合わせて駆け出した。速度を上げても、鞍が大きく揺れることはない。くろはそのまま少し走り、なつきを乗せたまま戻ってきた。
「すごいな、正男! これなら戦場で思いっきり動けそうだ!」
「まだ無理はするなよ。実戦では地面の状態も違うからな」
「分かってるって!」
なつきは笑顔で答えた。くろも満足そうに鼻を鳴らしている。
これで二つ目の改善も完了した。残る改善は、熊蔵の鎧だけだ。熊蔵がどんな姿になるのか、なつきは今から楽しみで仕方がない様子だった。
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【鈴木 正男】
年齢:18歳
身分:織田家家臣
石高:50石
統率:74
武勇:34
知略:85
政治:87
【兵科適性】
足軽:C
騎馬:D
弓:C
鉄砲:A
水軍:D
【スキル】
危険予知:Lv.5
危険回避:Lv.2
5S:Lv.5
改善思考:Lv.5
標準化:Lv.5
品質管理:Lv.5
工程改善:Lv.5
生産性向上:Lv.5
安全意識:Lv.5
戦術思考:Lv.2
立身出世
【経験】
危険回避:20
戦術思考:0
【実績】
現場改善:6回達成
【現在の改善対象】
こん棒
くろの鎧
【改善状況】
こん棒:完了
くろの鎧:完了
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