軍議【前編】
俺は、その日のうちに軍議へ参加することになった。
俺は広間へと案内された。襖を開けた瞬間、思わず足を止める。広間には、すでに何人もの武将が集まっていた。その場の雰囲気に圧倒される。
「……すごいな」
思わず小さな声が漏れた。俺は気を引き締めた。今はゲームの世界じゃない。ここにいるのは、実際に戦場で命を懸けて戦っている武将たちだ。そんな人たちの前で、俺はこれから山中で見つけたものを説明しなければならない。
しばらくすると、家臣たちの視線が俺に集まった。山を下りてきたばかりなので、俺の服は泥だらけだった。部屋の隅に木下藤吉郎が座っていたので、俺もその近くに座った。
広間の中でも、ひときわ目立つ大柄な男がいた。がっしりとした体格で、太い眉に鋭い目。顎には濃い髭を蓄えている。黙って座っているだけなのに、周囲を圧するような迫力があった。
やがて、大柄な男が俺を見て口を開いた。
「それで、山中で何を見つけた?」
俺は慌てて立ち上がり、姿勢を正した。
「はい! まず、山中で野盗が根城にしていた砦を見つけました」
「野盗の数は?」
「約五十人です」
周囲がざわつく。
「五十人だと?」
「それをどうした?」
「俺たち三人で制圧しました」
一瞬、広間が静かになった。
「三人で?」
「はい」
「どうやってだ?」
「自分の家臣の力が大きかったです。俺もできる範囲で戦いました」
俺は続けた。
「その後、砦からさらに山奥へ進みました。そこで、武器を製造・保管していると思われる施設を発見しました」
「武器の種類は?」
「刀、槍、弓、鉄棒などです」
「数は?」
「かなりの量がありました」
俺は施設で見たものを、一つずつ説明していく。鍛冶場があったこと、武器を作るための道具や材料が置かれていたこと、そして大量の武器が保管されていたこと。
「施設にいた男たちの会話から、武器をどこか別の場所へ運んでいることも分かりました。『例の場所への搬入』という言葉を聞きました。ですが、その『例の場所』がどこなのかは分かっていません」
家臣たちが顔を見合わせる。
「そして、さらに山奥へ進むと……隠し通路がありました」
「その通路の先で、隠された城を見つけました」
広間が再びざわついた。
「城だと?」
「山中に城が?」
俺は頷いた。
「山奥に、周囲から隠すように築かれた城です。その後、俺たちの存在に気づかれました。敵に追われながら山を下り、途中で何度か身を隠しました。最後には前後を敵に挟まれましたが、なんとか突破して町まで戻ってきました」
俺が話し終えると、広間には重い沈黙が落ちた。
すると、大柄な男が口を開いた。
「ならば、敵が動き出す前に攻めるべきだ」
大柄な男の声には力があった。
「武器を大量に作っている施設があり、そのさらに山奥には城まであるのだろう?」
「はい」
「ならば、敵が何を企んでいるか分からずとも、放っておく理由はない」
大柄な男は拳を握った。
「兵を集め、一気に攻め落とせばよい!」
「お待ちください」
細身の男が言った。大柄な男とは対照的で細身の体つきだが、姿勢がよく、無駄のない動きをしている。黒髪はきれいに整えられ、髭も短く整えられていた。穏やかな表情をしているが、その目には鋭さがある。
「敵の数も分かっておりません。城の構造も分からない。それに、山中という地形です」
細身の男は落ち着いた口調で続けた。
「正面から攻めれば、こちらが不利になる可能性があります。まず周囲を調べ、敵の数や逃げ道を確認するべきでしょう」
大柄な男が眉を寄せた。
「調べている間に敵が動いたらどうする?」
「だからこそ、慎重に動く必要があるのです」
「慎重すぎれば、敵に準備する時間を与えることになる!」
「だからといって、何も分からぬまま攻め込むのは危険です!」
周囲の家臣たちも口を挟み始めた。
「柴田殿の言う通り、先手を取るべきだ!」
「いや、丹羽殿の意見にも一理ある!」
「敵の数が分からぬのでは危険すぎる!」
「攻めなければ、敵がさらに武器を増やすぞ!」
広間が一気に騒がしくなった。大柄な男と細身の男も互いに譲らない。
「今すぐ攻めるべきだ!」
「いや、まず情報を集めるべきです!」
「何を悠長なことを!」
「無謀な攻撃をするよりはましです!」
議論は、もはや軍議というより口論に近くなっていた。
俺は黙って二人を見ていた。どうやら、攻めるべきだという大柄な男は柴田勝家。慎重に動くべきだという細身の男は丹羽長秀のようだ。どちらの意見にも理由がある。
そのとき。
「静まれ!」
低く、鋭い声が広間に響いた。一瞬で、全員が黙った。
広間の入口に、信長が立っていた。
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