隠された巨大施設【前編】
俺は門の向こうを見る。
巨大な木造建築。
「正男」
なつきが小声で呼んだ。
「ん?」
「あそこ」
なつきが門の横を指差す。
そこには、小さな建物があった。
見張り台のようだ。
「人がいる」
俺は目を細める。
確かに、屋根の上から男がこちらを見ている。
「まずい!」
五兵衛が刀に手をかける。
だが、俺は手を上げて止めた。
「待て」
「正男様?」
「まだ気づかれているとは限らない」
男は遠くを見ている。
こちらには気づいていないようだった。
「門を守るための見張り台か……」
俺は周囲を見る。
門の左右には高い木が生えている。
正面から近づけば、確実に見つかる。
「別の入口があるかもしれない」
「探しますか?」
「ああ」
俺たちは門から少し離れ、周囲を調べ始めた。
なつきは地面を見ながら歩く。
くろも鼻を動かしながら周囲を嗅いでいる。
しばらくすると、なつきが立ち止まった。
「正男」
「どうした?」
「こっち」
なつきが手招きする。
俺たちが近づくと、木々の間に細い道があった。
「道?」
「うん」
草が踏み倒されている。
しかも、最近使われた跡がある。
「こっちからも人が出入りしてるみたい」
五兵衛がしゃがみ込む。
「足跡があります」
「……十人以上はいますね」
俺は道の先を見る。
「門を通らずに出入りできる道か」
「なら、ここから中へ入れるかもしれません」
五兵衛が言った。
俺は少し考える。
「よし。この道を使おう」
俺たちは慎重に細い道を進んだ。
しばらく進むと、木々の向こうに建物の裏側が見えてきた。
巨大な建物だ。
近くで見ると、さらに大きく感じる。
壁には小さな窓がいくつもある。
「まるで工場だな……」
思わず呟く。
「こんな山奥に、こんなものを作るなんて」
五兵衛も驚いている。
「しかも、武器を大量に作っている」
俺は建物を見る。
ここまで来て、ようやく一つの疑問が浮かんだ。
「この場所は、誰が作ったんだ?」
「野盗でしょうか?」
「それにしては規模が大きすぎる」
「誰かが支援している?」
俺が呟いた、そのときだった。
「正男様」
五兵衛が指差した。
建物の裏側に、小さな扉がある。
扉は完全には閉まっていない。
「入れそうですね」
俺は扉を見る。
「どうします?」
俺は少し考えた。
そして、くろを見る。
「くろ、お前はここで待機だ」
「モォ……」
なつきが、くろの首を撫でながら言った。
「仕方ないよ。扉が小さいから」
「いい子で待ってて」
「モォ」
俺は扉を見る。
「慎重に行こう」
五兵衛が刀を抜いた。
俺も手にしていた棒を握り直す。
なつきは金槌を構えた。
そして、五兵衛が扉をゆっくり開ける。
ギィ……。
小さな音が響いた。
俺たちは中へ入った。
中は暗かった。
外から見たよりも広い。
壁際には木箱が積まれている。
「また武器か?」
俺が近づく。
木箱の一つを少し開ける。
中には矢が入っていた。
別の箱には鉄の部品。
さらに奥には、弓の弦に使うと思われる材料まで置かれている。
「ここは倉庫ですかね」
五兵衛が言う。
「鍛冶場だけじゃない」
俺は周囲を見る。
「武器を作るための材料まで、ここで管理している」
製造現場。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
材料を運び込み。
加工して。
完成した武器を保管する。
「ほんとに工場だな……」
「工場?」
「いや、何でもない」
俺は倉庫の奥を見る。
そこには、もう一つの扉があった。
「行ってみよう」
俺たちは音を立てないように進む。
扉の向こうから、声が聞こえてきた。
「……次の分はいつ届く?」
「明日の夜だ」
「鉄は足りているのか?」
「ああ。鍛冶場の連中が急いでいる」
俺は足を止めた。
五兵衛も同時に止まる。
「聞きましたか?」
「ああ」
「でも、誰がこんなことを……」
そのとき。
別の声が聞こえた。
「それより、例の場所への搬入は?」
「問題ない」
「そうか」
「今度の分も、全部あちらへ運ぶ」
俺は眉をひそめた。
「あちら?」
五兵衛が小声で呟く。
「この建物の他に、さらに別の場所がある」
俺が一歩後ろへ下がった。
その足が、近くに置かれていた木箱に当たった。
ドンッ!
「……!」
俺は思わず木箱を見る。
「しまった……」
「誰だ!」
男の声が響く。
俺たちは一斉に身を固くした。
「まずい!」
五兵衛が振り返る。
「逃げますか?」
俺は周囲を見る。
倉庫。
木箱。
武器。
そして、俺たちが入ってきた裏口。
「隠れる」
俺たちは急いで木箱の陰に身を隠した。
ガチャッ。
扉が開く。
男が二人入ってきた。
「誰かいるのか?」
「気のせいじゃないか?」
二人の男が倉庫を見回す。
俺は息を殺した。
五兵衛も動かない。
なつきも動かない。
男の一人が、こちらへ歩いてくる。
一歩。
二歩。
もう一人の男が首を傾げた。
男達は顔を見合わせる。
そして、扉の外へ出ていった。
バタン。
扉が閉まる。
俺はゆっくり息を吐いた。
「……危なかった」
五兵衛が小声で言う。
「すまん。ドジを踏んだ」
だが、すぐに表情を戻す。
五兵衛となつきが俺を見る。
「俺たちがまだ知らない別の搬入先がある。手掛かりを探そう」
「はい」
俺は立ち上がった。
俺たちは倉庫の奥へ向かった。
なつきが、突然俺の袖を引いた。
「正男」
「どうした?」
「動物が怖がってる」
「動物が?」
「この建物に、いるみたい」
五兵衛が眉をひそめる。
「何がいるんだ?」
なつきは少し困った顔をした。
俺たちは倉庫の奥へ進んだ。




