山の奥に潜むもの
古い砦を制圧した俺たちは、しばらくその場から動かなかった。倒した野盗たちは五兵衛たちによって一か所に集められ、逃げられないように縄で縛られている。
「捕まっている人たちを見つけました」
「米もありましたし、武器もありました」
五兵衛が報告する。
「ということは、ここは野盗たちの拠点だったんだろうな」
「はい」
ただの山賊の隠れ家にしては、物資が多すぎる。
「……やっぱり変だ」
「何がですか?」
「この人数だ」
俺は縛られた野盗たちを見る。
「五十人近くいる」
「それが?」
「五十人分の食料を、ずっとこの山で用意するのは簡単じゃない」
五兵衛の表情が変わった。
「つまり……」
「誰かが、この砦に物資を運んでいた可能性がある」
「なるほど」
そのときだった。
「正男!」
なつきの声が聞こえた。振り返ると、なつきがくろに乗って戻ってくるところだった。
「どうした?」
「あたし、動物たちに聞いてみた」
なつきはくろから降りると、俺のところまで走ってきた。
「何人くらいいる?」
「わかんない」
なつきは首を横に振った。
「鹿も鳥も、正確な人数まではわからないみたい」
「そうか」
「でも、変なんだって」
「変?」
「野盗たちが、山の奥にある道を何度も通ってるみたい」
俺は眉をひそめた。
「道?」
「うん」
なつきが指差した。その方向には木々が密集している。一見すると、ただの森だ。だが、よく見ると草が踏み倒されている。人が何度も通った跡だ。
「……本当だ」
俺は地面にしゃがみ込んだ。足跡がある。何人もの人間が同じ方向へ向かっている。しかも、砦から山の奥へと続いていた。
「正男様」
五兵衛が低い声で言った。
「この先を調べますか?」
「……調べたい」
だが、すぐには動けなかった。情報が足りない。俺は山道を見つめた。
「野盗に聞いてみよう」
俺は縛られた野盗の前へ歩いていった。
「お前たちは、山の奥で何をしている?」
野盗は黙った。
「答えたほうがいいぞ」
五兵衛が静かに言う。野盗は五兵衛を見て、怯えたように目を逸らした。
「……知らねえ」
「本当に?」
俺が聞き返す。
「俺たちは、ただ命令されていただけだ」
「誰に?」
「知らない」
俺はため息をついた。
「モォ」
くろが鳴いた。すると、なつきがしゃがみ込んだ。
「ねえ」
「なんだ?」
「あの人、嘘ついてるよ」
「え?」
「くろがそう言ってる」
野盗の顔が引きつった。
「な、なんで牛が……」
野盗の顔が明らかに変わった。五兵衛が刀に手を添える。
「では、もう一度聞きましょう」
「ひっ……」
「山の奥には、何がある?」
しばらく沈黙が続いた。やがて野盗が、小さな声で答えた。
「……屋敷だ」
「屋敷?」
俺は顔を見合わせた。
「山の奥に、大きい屋敷がある」
「誰の屋敷だ?」
五兵衛が、なつきを見る。
「モォ」
「嘘だって言ってる」
なつきが答えた。野盗は震えながら叫んだ。
「なんなんだよ。おまえらは」
俺は野盗の顔を見ながら、もう一度聞いた。
「誰の屋敷だ?」
「誰かまでは本当に知らねえんだ。近づくことも許されてねえ」
野盗は怯えた様子で続けた。
「顔を隠したやつに、言うことを聞けば金も飯もくれるって言うから来ただけだ」
俺は立ち上がった。
「五兵衛」
「はい」
「まだ戦いは終わってない」
「そのようですね」
俺たちは砦を制圧した。だが、これは山に潜む野盗の一部にすぎなかった。そして、この砦に物資が集められていた理由もわかっていない。
俺は山の奥へ続く道を見た。
「行こう」
「正男様?」
「このまま放っておくわけにはいかない」
なつきが笑った。
「あたしも行く!」
「もちろん、くろも一緒だよな」
「モォ!」
俺は巨大な黒牛を見る。
「戦力としては、俺たちの中で一番頼りになるかもしれない」
「モォ」
くろが誇らしげに胸を張った。なつきが笑う。
「ほら、くろもやる気満々だよ」
「……頼むぞ、くろ」
「捕まっている人たちは、ここで解放しよう」
「分かりました」
捕まっていた人たちを解放し、野盗たちは逃げられないように拘束しておいた。準備を終えた俺たちは、山道へ向かって歩き始めた。
そのときだった。
森の奥から、再び鳥の鳴き声が聞こえた。なつきが立ち止まる。
「正男」
「どうした?」
「鳥が言ってる」
「何を?」
なつきは森の奥を見つめ、そして小さく呟いた。
「人間だけじゃないって」
「……え?」
「もっと大きな何かがいるって」
俺は山の奥を見つめた。
野盗だけではない。この山には、まだ何かがいる。
そして俺たちは、その正体を確かめるために歩き出した。




