第51景:『しぶとさの設計図』
さて、まず確認しておこう。――この身体に収まる“心臓”は私自身のものではない。この胸で拍動しているのは、“竜の心臓”である。
かつて私は、ある竜の娘からそれを譲り受けた。いや、正確には奪い取った。
そしてさらに。自らの魂の基礎構造部分は、彼女へと移植してある。端的に言えば、私は“非常にしぶとい”存在である。
だが、不滅の肉体とまではいかない。
爆散すれば死ぬ。四散すれば死ぬ。千切れた腕は、勝手に生えてくるわけではないし、頭を吹き飛ばされれば、二度とものは考えられない。
――そう、私はピッコロさんには遠く及ばないのだ。
私は、彼を心より尊敬している。彼が孫悟飯に向けた父性。あれこそが、我が生き方の模範のひとつだ。
悟空はダメだ。あいつはクソだ。家を空け、妻を泣かせ、子に修行を強要し、死をイベントとしか思っていない。
それに比べてピッコロさんはどうだ。初登場こそ悪役だったが、過ちを悔い、命をかけて少年を守った。血の繋がりなど関係ない。あれこそが“父”というものだろう。
……私は、まだ彼のようにはなれない。だが、せめて少しでも近づきたいとは思っている。
いや、話が逸れたな。つまり私の魂の基礎は、その竜の娘……アジュールの中にある。私の本体は、彼女に"取り憑いている"ようなものだ。逆に言えば、アジュールが死ねば、私も一緒に滅びる。
まあ、その点についてはさほど気にしてはいない。あの女が簡単に死ぬとは思えん。
だが、それでも胴が潰れた程度では、死なない。頭蓋が砕けても、神経伝達が残っていれば蘇る。切断された手足も、適当にくっつけておけば、ある程度は再接続される。
要するに、“死にかけてからの戻り”が異常に強いのである。
言ってみれば、“死にかけ性能”に全振りした耐久型タンク。ガッツ重ねがけのサーヴァント(FGO ver)のような存在だ。
だが、それはあくまで“元の世界”での話である。異質な構造により独立した、異界の空間。この街では、私の身体強化機構は働かない。
なぜなら、私の強化機構は"アジュールとのリンク"により機能するからだ。彼女の身体となんらかの接続があればこそ、私の肉体は“竜の心臓”としての性能を引き出せる。
だが――この街は、そのすべてから完全に遮断されている。魂の共鳴や魔力の循環どころか、全ての量子場の連続性すら途絶されている。ここでは私は、朝倉未来以下の肉体強度しか持たない、理系男子である。
そんな私が、あの瓦礫の崩落に巻き込まれ、生還した?
……信じがたい。
「……まさか」
私はぼそりと呟き、身を起こす。
「スヴェルカくん」
「はいっ! あっ、生き返って本当に良かったです! でも無理しないでください! 僕、あのっ、その、またお茶とか持ってきましょうか!? それとも……」
「ちがう、私の白衣…ハンガーに掛けてあるやつだ。内ポケットにある、直径10cmほどの薄い金属円盤。90年代のシングルCDみたいな奴だ。それを持ってきてくれ」
「いや、その例えはわかりませんけど……。あっ!先生が使ってた"ポータル"ですね!」
「そう、それだ」
「はっ、はい!了解です!」
数秒後、スヴェルカがやや前のめり気味に、銀色の小さなディスクを手渡す。私はそれを受け取り、左手で術式を走らせる。
――ポータルが、静かに起動する。表面に浮かぶ座標情報に、私は一瞬だけまばたきを忘れた。
「……繋がった、だと……?」
転送機能までは使えない。座標も定まらず、数値は大きく振れ続けている。
だが、それでも明確に反応があった。今までは、“存在しない”としか返さなかったポータルは、私のラボの存在を感知した。
今、“ラボはある”。そして、“すぐ近くにある”とさえ示している。
――この意味は、ただ一つ。この街と、私の元いた世界が“地続き”になっている。
空間的には断絶されている。転送も、視覚も、何も通らない。だが、“存在”そのものは、同一座標系にある。ここは……我々の世界が内包する異空間。
最初から、そうだったのではない。だが、どこかの時点で、そうなったのだ。
――では、いつから? 途切れた建造物を調査しながら確認した際は、ポータルの座標系は断絶していた。
つまり、あの収縮現象の最中か、私が眠っている間か。もしくは……死に瀕したその瞬間か。
いずれにせよ、もはやこの街は異なる宇宙ではない。"我々の世界のどこかにある閉鎖空間"なのだ。
私は、ポータルを見つめながら、静かに息を吐いた。世界が、変わった。それだけは、確かである。
――第52景へ……




