第二話 ノルテ王と冷気の泉①
《七本槍メンバー》
008 ナギト ♂(17) 武器:長剣
魔法剣士(マナの剣士)資質 王下Eランク
マナ寄せ、マナ返し、マナ回転返し
開眼(マナ寄せ開眼)
011 ストナ♀(18)武器:大剣
聖騎士資質 王下Bランク
聖回復 聖流剣 遠投 他
015 オーウィズ王子♂(16)
探求者資質
探求
《付き添い》
001 ラーナキュアル♀(35)武器:三叉の槍
火炎防御士資質 王下Aランク
炎槍、火壁、投炎槍
002 バキア♀(21)
植物士資質 王下Dランク
植物サーチ 調合 育成
003 マトゥキ ♂(51)武器:細剣
聖騎士資質 Aランク
一閃 他
004 マリアン♀(42) 武器:ロッド
魔法使い資質(土)
土壁、投獄、蟻地獄
北国ノルテ。スルーニルの北に位置し、帝国領に挟まれた国。首都は王都ベッゲン。魔王大戦直後は大陸最大都市であった。魔王大戦でも、大地の英雄ウルロールを輩出し、大戦にも終始一貫して最大の支援を続けた貢献国である。領土も東西に長くノーズアンダーの魚の鼻?からヒレ(西ラーフィン山脈)まで、東西の長さだけなら大陸最大となる。また東側には鉱山が多く存在しており、西側は小麦の耕作地帯で有名である。
その中でも大陸最強を言わしめた理由は金の産出にある。ノルテ中央部にあるローレイ山脈は山が金で出来ているのかと言われる程、金が産出されている。その金が国力を支えていた。
しかし、その金を失う事で国力は一気に衰退した。俗に言うハルダンゲの戦いの勃発であった。
10年前、ノルテと帝国を隔てる平原ハルダンゲで帝国との武力衝突が発生した。
最初は些細な事だったと言う。ノルテ側の訓練中で使用した矢が国境警備にあたっていた帝国兵の肩に刺さったと言うのだ。その事が発端で2国間戦争に発展した。
この小競り合いに帝国は勝利し、損害賠償としてローレイ金山の権利を奪い取った。
ローレイ金山にはノルテの東西を通る巨大な街道が通っていた。この街道まで抑えられた為、金融と物流の喉元に短刀を突きつけられた事になり、ノルテは大陸最弱国へと国力が一気に衰退した。
僕達七本槍の道化衆は今そのノルテへ向けて出発していた。
七本槍のメンバーは僕、ストナ、オーウィズ、バキア、マトゥキ、マリアン。なぜがマトゥキとマリアンまで七本槍の道化衆に入って同行してくれる事になった。
なぜこんな事になっているのか?そもそもなぜノルテに向っているのか?と言うと話は5日前に遡る。
5日前はちょうどワルトの洞窟から帰還して2週間が経った時だった。
結局ルイーゼ王女はスルーニル国内を隅々まで探したが見つからなかった。港から船で出た記録は無い。しかし、大陸である以上歩けばいつかは聖京都には着く。ルイーゼ王女を狙う本当の理由は分からない。考えられるのは蠱惑を使いルイーゼを操り、第4王子の王位継承に賛成票を入れさせる事だろうか?確かにルイーゼの票が加われば鬼に金棒ではある。
問題はその後、価値の無くなった彼女を生かしておく必要はないだろう。
僕達は正式な王位継承手続きの完了までにルイーゼを助け出す必要がある。
時は刻一刻と進んでいる。しかし、僕達はまだルイーゼ王女の邸宅にいるだけだった。
この2週間、僕達は邸宅で軟禁状態にあった。理由はたぶん2つ。ひとつはこの国で勝手な事をされたくないと言う事。もうひとつはオーウィズ王子が正式に国家反逆罪で大陸全土に指名手配された事にあるのだろう。
指名手配は国から冒険者連合へと連絡が回り、その国内で指名手配をかけるかどうかは国が決める。スルーニルは現在その狭間にいた。オーウィズを指名手配しなければ、聖京都との関係が悪くなる。その中間で揺れているのか、安全の為なのか、警備が置かれて外出禁止で過ごしていた。
スルーニル王からの命令はこの国での自由行動は禁止、但し出国の是非は問わない。要するに出ていけと言う事だろう。
たとえ軟禁状態であってもあのオーウィズが何もしないでただ時間が過ぎるのを待っているとは思えない。気持ちはすぐにでもスルーニルを立ち聖京都へルイーゼ奪還に向かいたいはずなのに……。
この2週間待ってなくても情報はどこからともなくやって来た。決して悪い話だけではない、聖九華戦姫の隠密部隊ジニア隊長が戻ってきた。彼女だけが聖京都へ行ってリリラ達の動向を調査していた為、今回の戦いに巻き込まれなかった。聖九華戦姫として今生き残っているのは、護衛部隊はラーナキュアル隊長のみ。庶務部隊はフィラモネ隊長、カンパーラ、バキア。隠密部隊はジニア隊長。結果9名中5名。ラーナキュアルは休養中の為、実質4名の半数以下の状態であった。
ジニアが聖京都から戻って来た事で聖京都の実情が明らかになった。国は2分化している。第4王子の王位継承賛成派と反対派で。聖騎隊も国王軍も2分した。
聖騎隊1番隊2番隊カラコロ厶とブルドを中心とした第4王子派(正確には王女リリラ派と言っていいだろう)。俗に言う超エリート集団。国王軍も1軍メンバーはほとんどこっちに帰属している。
もう一方がマーロン率いる反対派。
現時点では紛争や戦闘は起こっていないが、いつ内乱が始まってもおかしくない緊迫状況が続いているらしい。
マーロン達はセタ村に防衛線を張って抵抗勢力を募っている状況だと言う。セタ村とは僕の生まれ故郷。聖京都から南西にある農村。琵琶の湖から流れ出すセタ川中心に聖京都の東側が繁華街、住宅街となっており、西側が農村となっている村である。そんなところで立てこもって何をすると思ったがオーウィズの反応は違っていた。
ジニアの話を聞いてオーウィズは少し拳を握りしめた。
「悪くない。まだ、勝機はある。」
「悪くない?セタ村では攻撃されればもたないと思う。あそこはただの農村たがら、別の場所へ陣営を移した方がよくない?」
僕の反応にオーウィズは不思議そうな顔でこっちを見た。
「ナギトは知らないのか?セタ村を?」
「知ってるよ。僕の生まれ故郷だ。」
「いや、そうではなくて歴史だ。」
僕は首を傾げた。
「セタ村、特に俗に言う農村側は魔王大戦の防衛線最大の防衛地だ。」
「え?」
そこへストナが割り込む。
「知らないわよ。一般市民には伝えてないそうよ。私もこの前初めて知ったけど、あそこは防衛地であり、聖京都のアキレス腱だからね。」
「アキレス腱?」
話の内容が分からずに唖然としてしまった。その状態の僕を見てストナ近寄ってきた。
「セタ村はセタ川を利用した天然の要害になるの。その要害は今も壊してないから、逆に言えば他国が聖京都を攻める時にセタを抑えられたら脅威になるの。だから、あまり口外していない事実よ。村も一部の人達しかこの事を知らせてないそうよ。セタ村の最大の弱点は……。」
そう言うとオーウィズが手書き簡易地図を机に広げた。
「セタ村は背後に弱い。魔王城そして聖京都に対して鉄壁の防御を築いている為、後ろからの攻撃には無防備になる。その為にこそ。」
オーウィズはそう言ってオツの港を指差した。
「ここを抑えられるかが、この戦いキーポイントだ。」
「オツの港町。」
「オツの港からセタ村までの街道を確保すれば、防御の砦は確実に機能する。現在、オツの港はマーロン側に付いている。しかし、オツの港町自体防衛力が乏しい。だから……。」
そう言うとオーウィズは指を今度は簡易地図でスルーニルまで動かした。
「ここから部隊を出してもらう。最低500、オツの港町を防衛するだけの兵力でいい。」
「でも、どうやって。」
空間に沈黙が続いた。その沈黙をストナが破る。
「覚悟を決めた?」
ストナがオーウィズに向けて言った。その問いに暫く彼は黙っていた。沈黙の音が再びあたりに響く。その音を掻き消すのはいつもストナだった。
「ルイーゼ姉さんがいない今、王位継承権はあなたに託された。私が姉さんなら自分に何かあった時、その意思を託すのはオーウィズあなたよ。意思を貫きなさい。あなたのスキルはこの為にあるのよ。」
そのストナの語りかけにオーウィズが大声を出した。
「分かっているよ。でも、自分には聖の資質がない!」
オーウィズの叫びに応えるように、奥で座っていたヒツメジが腰を上げた。
「殿下。これは私が聞いた話ですが、2代目王であるローゼル様も聖の資質はなかった言う噂があります。ローゼル様も自分にその資格があるのか悩みスルーニルで王位の儀の試練を受けて王位に就かれた聞いおております。王が揺れると国も揺れます。大切なのは信じて突き進む心です。私はオーウィズ殿下。あなたにはその資格があると考えております。」
ヒツメジからの言葉でオーウィズの心が揺れているのが分かった。僕も後押しをしたい。そう思った時、ふとオーウィズからもらったコインを思い出した。僕はそのコインを取り出して、彼の前に置いた。そして僕自身も膝をかがめた。
「オーウィズ殿下。僕もこのコインに誓って最後まであなたを助ける事を誓います。」
僕が顔を起こすと、オーウィズが僕に手を伸ばして立たせてくれた。
「ナギトよりはもう少し位の高い人からの忠誠が欲しかった。庶民だろ。お前は。」
笑いながら、そう言って僕達に着いて来いと言う合図をした。
「ロトアル城へと行く。王へ直談判だ。皆にそこまで言わせて私が黙るわけにはいかない。私自身の命を賭ける。ナギト付いて来い。」
オーウィズは僕の腕を取り進み始めた。その後にストナ、ヒツメジと続いた。オーウィズはこちらの方を見ずに一言「ありがとう」と誰に向けて言うわけでもなく言葉を発したのだった。
スルーニル王との謁見は20分程で完了した。
王の問いはルイーゼの最悪の場合どうするのか。
オーウィズはこれから何をしたいだけだった。
オーウィズはそれに対してルイーゼが亡くなっている場合は自分が王になる所存と言い切った。そしてスルーニル王に聖京都の現状を伝え、内乱を治める為に兵500を貸して欲しいと要望した。
断られる事を覚悟、無理を承知での要望に向こうは条件をひとつ突きつけて、それが出来れば貸してもいいと応じてくれたのであった。
その条件は北国ノルテから魔晶門のカギをもらって来る事だった。
魔晶門とは北国ノルテとスルーニルの海岸沿い東海街道に両国を隔てる様に建てられたマナの力で開閉される門である。オーバーテクノロジーのひとつと言われており、現時点で同様な物を作る技術は残っていない。いつ、何の為に作られたのかは謎のままである。魔王大戦前から存在していたが使う理由がなく飾り状態だったと言う。魔王大戦時に北からの魔王軍を防ぐ為にノルテとスルーニルの科学者が集結して復活させた物であるらしい。
魔晶門を閉じると周囲にもマナのバリアが張られる為、マナの攻撃すら防ぐ力があると言われている。
魔王大戦時の魔晶門復活の式典でバリアが張られて以来実際に使った事はないと言う代物である。100年以上前から使って無いので実際には使えるかも分からないらしい。
この魔晶門を閉じるには特殊なカギが必要だと言う。そのカギを持っているのが代々ノルテ王であると言うのだ。
僕達は今からそのノルテ王に会い魔晶門のカギを譲ってほしいと頼むのが役割である。
元々北からの魔王軍襲来を防ぐ為に復活した魔晶門のカギをノルテ王が持っているのかと言うと、2国の力で復活した為、ノルテがスルーニルに逃げ込んで使う事が前提だったのである。現在もノルテとの関係は良好である。
どうして魔晶門のカギが欲しいのかと言うと、帝国の脅威から身を守る為にあると言う。
ローレイ金山を帝国に奪われてから国力の落ちたノルテはいつ帝国に侵略されてもおかしく無い状態が続いている。
この状況でノルテが落ちれば魔晶門は帝国側の手に落ちる。それは防御壁の中に敵が砦を作ると同じ事と言える。それだけは避けたいスルーニルは現在聖都騎士団の3師団を魔晶門近くに派遣して国境警備を行っている。
仮に魔晶門のカギが手に入れば、ここへの師団投入が半分以下で済むことになる。
そこで手の空いた師団をオーウィズに貸すと言うのがスルーニル王の回答だった。
ノルテまでの道案内を含めてマトゥキとマリアンが同行してくれる事になった。この2人がいないとそもそもノルテ王に会うことすら出来ない。その為、彼らが七本槍の道化衆に入って、ノルテ王に謁見を求める事になった。
七本槍の道化衆にまた有名人が加わった。
スルーニルに来て最初に七本槍メンバーへ登録したのは実は第七王女であるセアリーであった。彼女自身がワルトの洞窟を案内する予定だったので、あの戦いの後、こちらの了解も得ず勝手に登録してしまったのだ。
幻のメンバーが生まれた事をマトゥキ達を登録する際に知ったところだった。
一番登録にゴネたのはバキアだった。
彼女は何も語らない人だと思っていたけど、あの時の爆発は今でも忘れられない。
「嫌よ!絶対に嫌!何で私なの?フィラモネ隊長もジニアさんもメンバーはいるんでしょ!何で私なの?」
オーウィズが頭に手を置きながら少し困った表情を見せて言った。
「サーチスキルは君だけなんだ。」
バキアは更に怒涛の口撃をしてきた。
「は?サーチスキル?なにそれ、私のサーチは植物サーチよ。あなた達薬師か何か?冒険者でしょ、冒険者なら冒険者を雇いなさいよ。私は事務員採用で聖京都の職務試験を受けたの、冒険者なんかになりたく無いの。それが何かの手違いで聖九華戦姫に任命されただけなの。戦い何て知らないし、したくも無い。もう血を見るのは懲り懲り。絶対にいや!」
「でも、王下Dランク持ちでしょ。」
ストナが声を掛けると更に口撃が飛ぶ。
「要らないわよ。今すぐ返上するわ、そもそも王下Dランクなんて聖京都職員なら皆持っているわよ。おまけよ。おまけ。」
そのおまけにも入って無い僕は何なんだと思うけど、ここは僕が口を出す場面ではないので黙って聞いていた。
「冒険者資格だって、ルイーゼ様と同行する為に取っただけ。ルイーゼ様はどうなっているの?今何でノルテなの?聖京都へ戻るべきでしょ。」
「バキア!」フィラモネが無い様を慎むように注意したがあまり効き目が無い様で再び声を荒げた。
「あなた達はバカなの?私が戦力なると思う?ワルトの洞窟はモンスターがいないと言うから行ったけど、それでもあの惨状でしょ?今度はどこ?ノルテ?いつ帝国との戦いが起こっておかしくないと言われる土地でしょ。いい!戦闘が起こって真っ先に殺されるのは逃げ遅れた弱い女、子供よ。私でしょ。他を当たってください。」
ドンと何かのカードを机の上に置いた。
「どうしてもと言うならこれを返上して聖九華戦姫も辞めます。」
彼女決意に全員が沈黙した。これ以上彼女に強要出来ないだろう。そんな雰囲気だった。しかし、この沈黙を破るのはいつもストナだった。
「でも、今聖京都に戻りたいの?大丈夫?キンデルダル第四王子いやリリラが平和な国を作ると思う?向こうに戻ってもモンスターの餌にされちゃうかも?聞いているでしょリリラは3魔女のバンパイアだって。つい先日のアタゴ山の戦いで何人が亡くなったか知ってる?」
その言葉にバキアの顔色が曇った。
「本当に大丈夫?聖九華戦姫を辞めるとこの国から出て強制的に聖京都へ戻されるわよ。良いの?聖九華戦姫だから、聖京都の同盟国に自由に入れるけど、聖京都に戻されて大丈夫?1人でやっていける?」
ストナの反撃に彼女は何も返せない様だ。
「それなら、こうしない?今回のノルテの旅に付いて来てくれれば、聖京都職員の地位を維持した状況でスルーニルかボルケーノ、どこでも好きな国にこの内乱が治まるで留まる事を許可するって言うのはどう?もちろん、ここでも良い。他のメンバーに気まずいなら炎英離都のオーウィズ邸で面倒を見る手もある。どう?悪くないでしょ。もちろん職員手当も出すわよ。」
そこまで言うとストナはバキアに握手の手を差し出した。暫く考えいたバキアだったが決心してストナの手を握ったのだった。
スルーニルから3日、海岸沿いに歩き続けるととても不思議な建物が見え始めた。大理石の回りに玻璃を付けた様な色彩の壁で出来た2本の塔が街道を挟む様に建てられていた。塔には外側から螺旋階段がついており、かなり上空に櫓の様な建物が設置されていた。
これが魔晶門だろうと説明を受ける前に感じ取れる代物だった。
10メートルくらいある柱の塔は近くで見ると中にまだら模様の物体が玻璃の様な透明な石の中で封じられている様だった。
「何か見える?」
僕が壁を眺めているとストナが隣で話しかけてきた。
「何も。黒い物体だけだよ。」
「噂によるとこの柱を見て光が見える人は将来死ぬんだって。」
「そうなの?…………誰でもいつかは死ぬだろう。なんだよそれ、どこの迷信だよ。」
「わたし」
「なんだ、そんな事か。」ストナの話を信じて奥まで眺めてしまった自分を恥じた。
「それより、バキアさんは落ち着いた?」
ストナは首を横に振る。
「今、マリアンさんが面倒見てくれてる。ここからノルテだからね。」
目の前の街道は既にノルテ領となる。ここは国境をふさぐ様にノルテとスルーニルの兵が国境を守っていた。
ここまでは特にモンスターに会うこともなく、淡々と道を進んで来た。でも、ここからはノルテ領となる。
「出るかな?」僕が聞くとストナは無言で頷いた。
ノルテ領は帝国にローレイ金山を押さえられてから、国力の低下による治安の低下が冒険者の仲間内で問題となっていると言う。
野犬や狼の類の徘徊、野盗の襲来など危険度は日増しに増えていると聞く。バキアが嫌がる理由のひとつである。
暫く待っていると、入国の許可が下りた。
僕はノルテの地へ足を踏み出したのだった。




