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七本槍の道化衆3 (テイルエンドとミルロワールの王女)  作者: 熊野文助


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第八話 復活と継承②

 アグリナ・ストナ。父アグリナ・パーシウルと母ミルサとの間に生まれる。歳は僕よりひとつ上。しかし、世間的には2歳上の20歳と公言している。既に父、母、弟を亡くし天涯孤独の身と言ってもおかしくないのにその孤独さを人には見せない。

 言いたい事を後先考えなしに言うタイプなので周りにも敵は多い。

 その刃は時より僕にも向けられて、最初の出会いは最悪以外の何物でも無かった。

 口は悪いけど、どちらかと言うと純粋。一緒に過ごしているそんな印象を受け始めていた。

 その猪突猛進のストナが好きだった。自分にない強さを持っていた。何より誰よりも優しさがあった。


 そのストナが今僕の腕の中で……。

 息を引き取ろうとしている。そんな事はさせてはならない。僕はストナの傷口を止血しようと試みる。しかし、クロユリの鎌攻撃が腹を貫通しており、その貫通傷も数箇所にあるため、止血のしようがない。

 僕はただ「ストナ」と叫び続けるしなかった。


「ナギト!」

 エージナの声で我に返った。気づくとクロユリが僕の真横に立っていた。

 やばいと思い、咄嗟にストナをかばうように抱きかかえた。相手に背を見せる事になってもこれしか考えられなかった。

「ハイヒール!」クロユリがその一言を発した。

 ストナの顔色に血の気が蘇ってくる。傷口が肉を盛り上げた様に刺し傷が消えていく。

 僕がクロユリを見あげると、クロユリは軽蔑した視線で僕を見ていた。「ありがとう」と言う声が一瞬で引っ込む程の形相だった。その苦々しい面持ちで吐き捨てる様に僕へと向かって声を発した。

「隊の編成がなっていない。一部隊を預かる長としてなんなんだ、この体たらくな編成は!攻撃に偏り過ぎだ。おまけに、回復役が最前線に出るなら、最低回復役を2命名いれるのが基本編成だ!今まで何を学んだ。ライガ隊長の名を汚すな!」

 そこまで言うと、クロユリはライガの方を見た。

「ライガ隊長。お手合わせありがとうございます。私に残された時間はもうありません。ご存じと思いますが、私の中には2つの人格があります。私がバンパイアになる瞬間この子が私を胎の中にかくまってくれました。でも、もうそれもここまでです。これ以上私を押さえる事が出来ません。ありがとうございます。私達親子はここまでです。」

『死神の鎌、乱発狂!』

 クロユリがそう唱えると、鎌がクロユリと夫のシャントリエトに向かって現れ、一斉攻撃を開始した。

 目の前にいたクロユリの身体は粉々に砕かれて散って行った。


「まだ終わってないわよ。いよいよ本番よ。」

 僕に抱かれて倒れていたストナがむくっと立ち上がった。

「ストナ!大丈夫?」

「もちろん。あのクロユリさんの回復魔法なかなかね。50点くらいあげるわ。」

「どこから記憶があったの?」

「さあ?内緒!でも、最愛の人の最後かもしれなかったのよ。告白くらいはしてくれても良かったじゃないの?」

「どうやらいつものストナ嬢復活じゃな。」

 エージナが僕の方に手を置いてきた。

「良かったです。」

 元気なストナを見て良かったと言う気持ちでいっぱいになる。どうしてクロユリは助けてくれたのだろうか。それは永遠の謎となった。彼女の中に残っていた人としての心、それもライガへの純愛なのだろうか。その心がストナを助けてくれたのだろうか?そんな不思議な感じの人だった。

 それでもストナが無事で本当に良かった。



 ドン!

 大きな衝撃音に音の方向へと振り向いた。

 そこには、シャントリエトと戦うマーロン達の姿があった。クロユリは確かにシャントリエトへ向けて心中の鎌を向けたはずなのに、全くダメージを受けていない様子だった。

 シャントリエトはマーロンに向けて拳を振り上げた。その攻撃を躱すも衝撃波でマーロンが壁際まで飛ばされ、身体がめり込む。その衝撃音が再び通路に響いた。良く見るとカールも同じ様に壁際に倒れている。先程の衝撃音はカールが壁に激突した音だったのか。

 シャントリエトが今度はテロットを狙ってきた。

 まずい!

 僕が動くより先にライガが動いた。ライガの突撃がテロットに向けて振り下ろした腕に横からぶつかる。

 これなら腕ごと捉えた。


 しかし、次の瞬間、ライガ、テロットも吹き飛ばされて壁に激突していた。


 何が起こっているんだ?

「ナギト、気をつけろ!マナ攻撃が通用しない!」

 少し奥で倒れていたカールが意識を取り戻した様で僕に投げかけてきた。僕とストナとエージナはシャントリエトから少し距離をとってカールのいる方へと向かって行った。

 ストナの聖回復でカールを回復させる。

「カールさん、大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう。ダメージはそれほどではない。ただ、身体が一瞬黒く光ったかと思うと、いきなりマナ攻撃が通用しなくなった。」

「マナ攻撃が?」

「エルフ薬と身体が順応したようじゃな。」

「したようじゃな、じゃなくて、なんとかしなさいよ。ドワーフの知恵はないの?」

「わしに言うな、そんな伝承の薬の対処方法なんか伝わってないわ。」

 ストナとエージナが言い争いをしている間にも、向こうはこっちに標的を定めた様だ。

 シャントリエトが向かって来た。


 エージナの言う通り、シャントリエトの体外を渦巻いていたマナが身体に吸収されている様に見える。これがエルフ化なのか?膨大なマナを吸い込んで身体が膨れ上がっていた様に見えていたけど、今はその膨れも引いている。おまけに肌が茶褐色になり、マナを帯びている様に見える。

 雰囲気がレフト・カサブレラにどことなく似ている。けど……、目は死んでいる。

 今まで会ってきたカラコロ厶増殖薬を飲んで我を失った人達と変わらない目だ。レフト・カサブレラとは全く違う。

 身体だけ薬に耐えられたが心は崩壊したそんな感じだった。


 来る!

 シャントリエトは右手を振り上げてこっちに向かって来た。攻撃に移った瞬間に体内から腕にマナが集まって来た。それも膨大なマナが。

 これがライガの吹き飛ばされた正体だ。


 ストナが前に立って剣を構えた。

「ストナ気をつけて、目に見えないマナが腕の周りに渦巻いているよ。」

「大丈夫!クロユリの攻撃とは違うから。」

 クロユリとは違うから気を付けてと言っているんだけど!と言いたかったけど、やめた。

 シャントリエトが勢いよく向かって来た。

 

 ストナが前に出て応戦を開始した。

 最初にシャントリエトはストナへ殴り攻撃を仕掛けてきた。ストナはその攻撃をすり抜ける様に聖流剣で避けて懐へと入った。そして、剣を振るう……。振るわない。再び流れをすり抜けて戻ってきた。

「無理、剣が弾かれる。」

「弾かれてないよね。見てたけど。」

 戻って来たストナは剣をしまった。

「弾かれる感覚がしたの、その瞬間に左手で殴られる感覚があった。でやめた。」

「さすがストナ嬢じゃ、ライガの攻撃でも効かなかったんじゃ、そう簡単に打ち崩せぬぞ。」

「崩壊の一撃しかないか。」

「そのようじゃな」

 ストナが亜空間から魔吸石を取りだそうした時、再びシャントリエトが迫って来た。

 ストナを狙っている。右拳を振りかざして再び攻撃してくる。

 危ない!僕は咄嗟にストナをかばうようにストナとシャントリエトの間に立ったけど……。剣を構えていない。このまま殴られるのか!

 その時、カールが僕達とシャントリエトの間に投網を引いた。

 助かった。

 投網にシャントリエトの拳がぶつかった瞬間に投網がはじけ飛んだ。そんな馬鹿な!

 僕達は投網のはじけ飛んだ衝撃で数メートル飛ばされ壁に叩きつけられた。

 さっきの衝撃でストナ、エージナ、カールも同様に壁に叩きつけられて倒れている。

 なんだったんだ。あれは。シャントリエトの拳と投網が触れた瞬間に両方のマナがはじけ飛んだ?マナとマナが衝突して爆発した、そんな感じだった。

 シャントリエトを取り巻くマナが普通のマナではないのだろう。

 僕は近くに倒れているストナに近寄って、ストナに声を掛けた。でも、気を失っている様だった。エージナ、テロット、カール、ライガそしてマーロンも倒れている。

 ただの衝撃波ではないのか?ストナやエージナは分かるが、ライガ、マーロンが衝撃波で壁に叩きつけられて倒れ続けているなんて考えられない。

 衝撃波自体が何か特別なのか?

 それとも、マナに反応、反射する?僕はマナが無いからただの衝撃波で済んだ?

 

 シャントリエトは再びこっちに向かって来た。マナに反射する特殊なマナ。それならこのマナの剣はうってつけの武器になる。

 僕は剣を構えた。シャントリエトは再び拳を振り下ろしてきた。正面から戦っては駄目だ。僕その拳を避けて、横から腕をきり裂く様に斬りつけた。

 剣が相手の肉にめり込み、黒い血しぶきを上げる。

 攻撃は通る。仮説は間違っていない。それなら相手の核をつぶすのみ。

『マナ寄せ開眼!』

 相手の核を見極める、シャントリエトの心臓部に核がある。…………、いや、左側の心臓と逆の位置にも同じ様に核があった。…………。そして、頭の中枢にも核がある。

 核が3つある化け物か!

 3つの核が互いに連なって三角形を作りマナの環を形成していた。

 3つを潰さないといけないみたいだ。ライガの攻撃なら一気に全てのマナを貫けるけど、僕には無理だ。しかし、やるしかない。

 シャントリエトをよく見ると、さっき斬った腕から黒い煙が噴き出していた。治りは遅い?それなら一気に狙わなくていい、ひとつひとつの核を潰して行く。

 僕はシャントリエトへ向かって詰め寄った。まずは右の心臓、核を狙う。


 シャントリエトと距離を詰める。右拳の攻撃が来る僕の左肩付近を狙って飛んで来る。心臓から敢えて遠い左へと避ける。そして右手を手の付け根から斬り落とす様に剣を振るった。


 手を斬り落とせた。……。思った以上に簡単だった。手からは黒煙をまき散らす様に闇のマナが溢れている。やはり、マナの剣なら貫ける。

 痛みは感じていない様で、手をきり落としたのに顔を歪める様子は全く無かった。

 斬られた感覚はあるのか、右手を振り回して腕で攻撃をして来た。僕はその右腕をしゃがんで避けた。次は左腕が飛んでくる。両方の腕を回転させて回転攻撃を仕掛けてきたが、返って好都合だった。

 その回転が弱まった瞬間にマナの剣で心臓の核を一気に突いた。


 ひとつ目の核を潰した。

 核は三角形の均衡を崩した。シャントリエトの体内において綺麗な三角形の循環をしていたマナが均衡を崩し丸い形で循環し始めた。

 途端に顔面を悲痛でゆがめた。その後で僕が斬り落とした腕をおさえてもがきはじめた。核の一個を破壊した事で痛覚が戻って来て様だ。腕を斬った僕へ怒の表情を示している様だ。そして再び向かって来る。

 良く見るとマナが体内なら漏れ出している。身体も一回り大きくなっている。エルフ化が止まった?

 シャントリエトは苦痛に満ちた顔で僕との距離を数メートルまで詰めて、動きが止まった。

 左手を振りかざしたまま、時間が止まった様に身動きひとつしなくなり、数秒間の沈黙があった。

 次の瞬間、内部から爆弾が破裂する様に肉体が破裂して、跡形もなく消えて行った。

 

 クロユリとシャントリエトがいなくなると、睡眠から目覚めるかの様にストナやライガ達が起き上がってきた。

「エルフもどきは?」

 ストナが頭をおさえながら立ち上がってきた。

「爆発して消えた。」

「そう、やっぱりね。はい。ポーション飲んでおいて、疲れも癒えるから。」

 ストナに渡されたポーションを一気に飲み干して他のメンバーの元へと向かった。




 僕達は体勢を整えて謁見の間へと向かって走っていた。クロユリ以外に立ちはだかる敵はおらず、ひたすら走って進むだけだった。

 ただ、全員の表情は重い。クロユリは地面が揺れる事を段階で捉えていた。クロユリと戦う前の揺れに第二段階と言っていた。そしてシャントリエトを倒してこっちに向かっている途中に再び地面が揺れて第三段階に入った事を示していた。

 何段階で魔王が復活するかは分からないけど、段階が進むにつれてルイーゼ王女の命は危険にさらされる。あまり余裕はない。不安を隠して謁見の間を目指して進んで行くしか無かった。


 


 ギー!

 謁見の間の扉がゆっくりと開く!

 ドックン、ドックン、ドックン。謁見の間の鼓動が通路まで響いて来る。部屋全体が生きている様だ。さっきまでは眠っていたモンスターが鼓動を始めて起き始めた。そんな感覚だった。

 地面に張り巡らされている管が鼓動と共に波打つ様に動いている。部屋の四隅に浮かんでいるグラスの様な容器も鼓動と共に膨らんで縮む、収縮と拡張を繰り返している様だった。

 そして王座にはキンデルダルらしき男性が座っている。部屋全体が鼓動しているのに、王座だけは静まり返っている様だった。その不思議な隔たりが生と死の境を象徴している様だった。


 そして謁見の間の王座の真下には3人の人影が並んでいる。その中央の影がこちらに数歩近づいて来た。

 照明の関係で影に見えていた人影も光を浴びて姿がはっきりと見え始めた。

 カラコロ厶隊長、その人だった。

「逆賊の七本槍の道化衆諸君。君達は本当に光栄だ。今から魔王様の復活をその目で見るからな。魔王キンデルダル、バンパイアロードの誕生だ。」

 マーロンが数歩前に進み出る。

「死にたい奴から前に出ろ。ルイーゼ王女は無事なんだろうな。」

 カラコロ厶は左手を上げて部屋の隅を指差した。

「そこにいるだろう、もう血を抜かれているだろうが……。あ、間違えた、身体ごと液体で溶かすと言っていたので、今はもうスライムみたいになっているぞ。会いたのか?会わせてやるぞ。地獄で再会なんて甘味だな。」

 マーロンのマナが全身に巡っている。完全に相手に のまれている。

「マーロンさん!」

 マーロンが手を横に開いた。

「大丈夫だ。こいつは俺がやる!お前達はこの装置を停めろ!」

 カールが僕の肩を手をおいて来た。

「そう言う事だ。ルイーゼ様の事は挑発か事実かは知らないが、とにかく今はあの装置を停めるしかない。頼んだぞ。」

 カールもマーロンの横に出た。

 カラコロ厶がまがまがしいマナを放つ大剣を亜空間から取り出した。その大剣には闇と邪のマナが渦巻いていた。

「最初に死にたいのは、元聖騎隊の総騎士団長と隊長殿ですか。リリラ様から賜ったこの魔王の剣の餌食にしてやろう。」

「聖騎隊最強とも言われた聖騎隊一番隊長が今では闇堕の暗黒騎士か笑えないな。聖騎隊最強の座を俺に取られて落ちぶれたか?情けない。同情くらいしてやるぞ。」

「黙れ!」

 横からカールも少し挑発する様に口を出した。

「カラコロ厶さん、早くあの薬を使ってください。待ってますから、薬依存症なんでしょ。」

「我々をブルド達と一緒にするな!我々は人間の状態で闇のマナを受け入れるのに成功し最強の戦士だ。このテレジ、ノミンは選ばれし者達だ。」

「笑えるな!最強か!お前は本当の強さを知らない。本当の強さは己の強さを極める事にない!仲間、弱き者を守る、そこに働く力こそ最強の力だ。それも知らない奴は永遠に最強とは全く別の次元をさまよっているわ!」

「黙れ!」

「ナギト、行け!俺達でこいつらは食い止める。」

 そう言うと、マーロン、カールそれにライガが加わって、カラコロ厶、テレジ、ノミンの暗黒騎士軍団との対峙し、そして戦いが始まった。

 

 マーロンがカラコロ厶と正面から対峙し、ライガが残り2人をひとりでおさえる。カールが僕達に戦いの衝撃が飛ばない様にスキルで壁を作ってくれていた。

 それを横目に僕達はこの装置を破壊するために、奥へと急いだ。


 ストナが王座への段の前で止まった。僕達もストナの後に続いて王座の高台で立ち止まった。見えない壁がある様だった。

「ダメね。ここに結界が貼ってある。ミリアンの時と同じ?」

 ストナに言われてマナ寄せで辺りを確認する。ミリアン戦の時は結界士を魔晶石化させて永久結界を作っていたけど、今回はこの装置自体から結界が出ている様に見えた。

「この装置を停めないとこれ以上は進めないみたいだ。」

「どうやって止めるんじゃ?」

 僕は沈黙してしまった。例のリトダの悟りの書にもそんな事はご丁寧に書いてない。

 テロットが一番近くにあるグラスの装置に大地の鉄槌を使って攻撃したが、全く効かなかった。次にエージナが火炎鳥で同じ様に攻撃するがこちらも全く効果がない。マナ攻撃を受け付けない。

 ……。

 マナ攻撃を受け付けない。

 僕と同時に全員が僕の持つマナの剣を見た。

「やっぱり、最後はナギトの出番ね。」

「でも、どうやって?」

「管を適当に斬ればいいじゃないのか?王座に向かっている管を斬ればエネルギーの供給は終わるじゃろ。」

 その時、僕の脳裏にひとつの言葉が浮かんだ。それは「反転」だった。

「反転か?」

「何か言った?」

「反転だよ。悟りの書に書かれていた文字。もしかすると、魔王復活を止める方法とか?」

「なんでリトダがそんな事を書くのよ。人間時代ならともかく、バンパイアになってからの研究でしょ。書く必要がないわ。」

「リトダにも人間の心が残っていたら?」

「人間の心?」

「クロユリみたいに。」

「…………、クロユリは特別でしょ。」

「でも、バーブル、ユウも核を潰した瞬間、一瞬だけだけど過去の記憶を取り戻していた。心の奥底に人間時代の記憶があっても不思議ではないと思う。」

「……、それがもし正しいとしても、反転って何?」

「マナの流れを変える。」

「変える?どうやって?」

「この管から王座に向かって流れている巨大なマナの流れは4つ。その流れを断ち切るのではなく、マナ返しで流れを逆にするんだ。」

 エージナがその話を聞いて賛同してきた。

「ほお、それは面白い、マナの流れを遮断してもこれまで流れたマナを使って魔王は復活するかもしれん。それなら流れを変えれば、今まで流れたマナも逆に吸い出せるかも知れんな。」

「でも、結局管を斬れば遮断と一緒でしょ。」

「ストナ、斬るじゃなくて裂くんだよ。でも、この管は少し固そうだから、テロットさん、一回そのハンマーで思いっきり叩いてください。その叩い部分に裂け目を入れてマナ返しをします。あと、ストナ、聖回復よろしく。」

「分かったわ。」

 この巨大なマナの流れをマナ返しで返せばこの装置を止められるかもしれない。


 僕達は主管と思わしき管の前に立った。この管は他と比べてマナの量が多い。正解は分からない。けど、やるしかない。

 テロットが思いっきりハンマーで管を叩いた。管が歪む。歪みをマナ寄せ開眼で注視した。管と同時に管を覆うマナも波の様にしなっている。管とマナの波は一定ではない。不均等なふたつの流れは次第に均等になり、落ち着きを取り戻す。

「テロットさんもう一回、今度は特大なやつで。」

「はあ?お前さん人の扱い方が段々雑になってきたな。まあ、それが隊長と言うものか…………。」

 テロットはぶつくさ言いながらも再び管を思いっきり叩いたのだった。

 管と共に周りのマナが波の様に揺れ始めた。僕の眼は一瞬を捉える為に集中する。管の揺れとマナの揺れが複雑に交差する一瞬、そこに管を取り巻くマナが薄くなる瞬間のある事に気づいた。

 僕はそこに剣を差し込んだ。予想通り管の内部へ剣が差し込まれる。そこでマナの流れとは逆向きに管を斬り裂く様に剣を振り上げて……。

「マナ返し!」

 スキルを使った。

 次の瞬間、管のマナが逆流して、グラスの装置へと流れた。グラスの装置は逆流して来たマナに耐えられず、亀裂が全体を覆った。

 次の瞬間、爆発する様に砕け散った。

『聖回復!』


 僕の身体にマナ返しの反動が来る前にストナが回復をしれくれた。僕は残り3方向のグラス装置を見た。

「いける。」

「でも、あの爆発だと、ルイーゼ姉さんはどうなるの?」

 その言葉に僕の身体は停まってしまった。早く助けないと行けないけど、やり方はまずいのか?

 その時、謁見の間全体に響く様にマーロンの声が聞こえた。

「やれ!全ては俺が責任を持つ!時間がない!ナギト、お前は考えるな!」

 その声にストナが小声で反応する。

「そうね、姉さんなら、魔王復活を阻止する事を望むわ。ナギト、行くわよ。」


 

 

 僕達は2つの装置を同じような手順で破壊していった。残り1個。

 目の前には3つのグラスがひとつになった装置が浮かんでいる。

 この中に3聖女がいる。装置のマナに撹乱されて中で生きているのかどうかは全く分からない。でも、やるしかない。

 僕はテロットと一緒に剣を振るった。

 ……。

 マナ返しをすると今まで同様にグラス装置にひびが入る。そして、爆発する様に砕け散る。

 その時、ひとつのグラスから人の姿をしたものが落下してきた。残り2つはドロドロに解けた液体だった。

 ストナが駆け寄る。聖のマナ寄せと聖回復でその人の姿をした物体は全身が火傷の様に赤みがかっていたが、聖回復でその赤みが引き始めた。身体の形も元に戻り始めた。

 裸のままであったのでストナは亜空間から大きなシーツを掛けた。

 ただれていた女性の顔もしっかりとした輪郭が戻ってきた。

 見た事のある顔だった。あの迷いの森で出会ったナディだった。

 ストナはその女性を看病しながらも、大粒の涙を流していた。口にからは声を一切上げないで……。

 その女性がナディと言う事は、ルイーゼ王女は目の前でドロドロに溶けて形もない2つの液体の内のどちらかと言う事だった。

 ただ、誰一人その事を口にはしなかった。

 犠牲は大きかった。

 しかし、この戦いは無事に終える事が出来たのだ。

 


「なんだ!」

 カールの声が謁見の間にこだまする。

 マーロン達はカラコロ厶隊との戦いを既に終えていた。隊長のカラコロ厶を生け捕りにして、残り2名は戦いで息絶えていた。捕らえたカラコロ厶をライガが謁見の間中央で縛りあげていた。

 マーロンとカールが王座にいるキンデルダルを捕まえに行ったところでカールの叫びが聞こえたのだった。

 マーロンが王座のある高台から一気に駆け下りて来て、カラコロ厶の胸ぐらをつかんだ。

「何をした!」

 僕はナディをストナに任せて一緒に降りてきたカールに近寄った。

「何があったのですか?」

「キンデルダルは死んでいた。腐敗がかなり進捗している。今の何かで死んだ訳では無い。」

 どういう事だ?

 僕は天井の装置を見あげた。この装置はキンデルダルの肉体に魔王の魂を入れる為ではなかったのか?


「クククククク……。」

「何がおかしい!」

 静かに笑うカラコロ厶の胸ぐらを掴んで高く上に上げてマーロンが怒りの声を上げた。

「おかしい?おかしくないな。アハハハ……。まさかリトダ様の遺言通りになるとは誰が思ったか。」

 更に首を絞める様にカラコロ厶を持ち上げる。

「何が遺言だ。」

「く、苦しい……。」

 カールがマーロンの肩に手を置くとマーロンはカラコロ厶を床に叩きつけた。ロープでぐるぐるに縛り付けられたカラコロ厶は顔だけをこちらに向けた。

「この儀式は魔王様を復活させる最後の儀。それには膨大な力が必要。マナの流れを逆流させる力がな。」

 まさか!

 僕は天井の装置をマナ寄せ開眼でもう一度見た。装置には大小合わせて数十の管が付いているが、マナの流れを受けている管は2つ。ひとつは王座へと流れていく僕が先程斬った管。もうひとつは壁を通って上へと流れていた。

「まさか屋上!」


「正解だ。反転の儀を今リリラ様が見守っている。魔王様の復活だ!アハハハハハハ……。」

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