第六話 ウブキ山脈と悟りの書①
《七本槍メンバー》
008 ナギト ♂(17) 武器:長剣
魔法剣士(マナの剣士)資質 王下Eランク
マナ寄せ、マナ返し、マナ回転返し
開眼(マナ寄せ開眼)
011 ストナ♀(18)武器:大剣
聖騎士資質 王下Bランク
聖回復 聖流剣 遠投 他
019 エージナ♂(80)武器:炎のロッド(仮)
鍛冶細工資質
熱風、火炎球、分解、適合(サーチ系)
奥義火炎鳥
020 テロット♂(80)武器:大地のハンマー
鉱山守資質
大地の鉄槌、稜角の翼、鉄板
イーダーオーツから聖京都へと北側経由で行く街道を北方街道と言う。通称魔王進行道。魔王大戦の始まりに魔王軍はこの街道を通って北側から西側へと攻め込んだとされており、この名称が付いている。
街道とは名ばかりであまり整備もされておらず、海側への崖が一部壊れていたり、山側も崖崩れで岩が転がっているなど、一般人が通るには難所と言っても過言でない場所が多く存在している。
僕達はその街道をシオツに向けてイーダーオーツ軍のリューゲン総隊長達と一緒に進んでいた。北方の海風がただただ強かった。強風にさらされると身体が芯から冷える様に感じる。でも、この人の笑い声は冷えを吹き飛ばす様に山間へと響くのであった。
「ナギト殿、それは大変だったな。まさかこのクラスタルにもバンパイアが来ていたとは知らなかったわ。」
イーダーオーツ軍の総隊長のリューゲンは女性である。背丈や雰囲気がユームに似ていて、ついつい前回のクラスタルでのミリアンとの戦いを話してしまった。彼女はその事を彼女自身の抱擁力で受け取るように聞いてくれた。話していて心地よいと言う感じにさせられる。
リューゲンは大剣を使う剛力無双資質の持ち主である。聞いた事もない資質ではある。本人も同じ資質の者には会った事が無いと言う。何でも魔王大戦時代には多くいた資質らしい。
リューゲンの裏を無口で歩くのがデッサウ副隊長。弓を使うアーチャー資質である。
イーダーオーツ軍の特徴は軍と言っても傭兵部隊に近い。全体に訓練しているのではなく各自が有事に備えて訓練をする規則になっているらしい。今回500名が支援部隊として僕達に与えられたが、リューゲン自身は部下を持っていないそうだ。イーダーオーツ軍は1500名近く所属しているが、必要に応じて人選されて軍を作る。特に今回の様な緊急性のある案件ではその隊をまとめ上げる時間は無く、集めたメンバーを引き連れていると言う。
リューゲンはそんな国家内情を暴露しても良いのか?と思う程に気持ちよく腹を割って話すタイプの人であった。
彼女はとても親近感が湧くのに、他の人達は少し雰囲気が違う。
何でこんな任務にと言う思いが伝わってくるほど、嫌々感が伝わって来る。それ以上に深刻な事もある。連携の無さである。先程魔狼の群れが襲って来た時、リューゲンとデッサウの2人で応戦してほとんど倒してしまった。
しかし、実際に魔狼の数がもう少し多ければ、多くの取りこぼしで魔狼がこちらへ来る可能性だってあったのに、全く応戦する気配すらなかった。大丈夫か?と言うか軍としてどうなのかが気になって仕方がない。実際に数匹の取りこぼしを倒したのはストナと僕だった。
不安になる援軍だが、当人本人達はあまり気にも留めずに僕の肩を思いっきり叩き、なかなかやるなと褒めてくれた。雰囲気だけでなく、性格もなんとなくユームにそっくりだった。なぜか一緒にいると不思議な安堵感がある。
そう言えば、ユーム亡き今、炎勇旅団のメンバーは元気だろうか。ボールスの心の傷少しは癒えたのだろうか。あの戦いが悲しくも懐かしく感じてしまった。
僕達は今クラスタルを出て再びテイルエンド、聖京都へと向かう。リリラとの戦いが始まる。土のマナ獣の話では魔王バンパイアロードも倒す必要があると言うのだ。倒せるのだろうか?オーウィズ達は無事だろうか?見えない不安と緊急の壁に向かって歩いている様だった。その不安を吹き飛ばすのがこの人リューゲンの笑い声だった。
クラスタルとテイルエンドの国境まで来ると街道が広く整備された状態になった。
「恥ずかしい話がこの有様だよ。もう数年前、聖京都側から『街道整備を共同事業として取り上げてほしい』と我々側へ打診はあるのだが、議会が一向に動こうとしないからな。情けない。国境を境に街道が無くなっているなんて言う奴らもいるくらいだ。」
確かに目の前にある荒地は僕の直前で街道に変わっている。
「予算的な問題ですか?」
「そうだな。あまり大きな声では言えないが、政治的な問題だ。」
彼女の大きな声とはどんなものだろう?と思えてしまう程の大声で話し出した。
「今、クラスタルは大きく2つに割れている。イーダーオーツ側の現状維持派とガーマイン側の発展派だ。発展側は帝国とのつながりを強めたいと思っている。」
そこまで話すとデッサウが咳払いをした。帝国とは驚きだが、言われてみるとガーマインにリーゼルハント商会があったのはそう言う事だろう。
聖京都もそれなりに発展をしているが、西の帝国領やノーズアンダーに比べるとその発展度合いは比較の対象にならない。
「帝国が問題なんだよな。」
デッサウの咳払いを無視してリューゲンは更に話し出した。
「今、我々アホ議会が考えているのはゴスラルから西ラーフィン山脈を通る山道ルートを広げる方法。もしくは魔障の沼地を通るルートだ。」
「魔障の沼地か?どうやって?」
黙々と聞いていたエージナがここで話に入って来た。
「それが無いから困っているんだよ。山道ルートはあの山の標高を考えても数カ月は通れなくなる。流通を維持するなら魔障の沼地に道を通したいんだ。結局、そこが決まらず、案も出ない。かと言ってこちらの街道事業に着手すると今度はアイデアがあっても動けなくなる。そんなこんなでこのザマだ。」
そう言ってリューゲンはクラスタル側の道を思いっきり踏みつけた。
どこの国も大変なんだと思ったしまった。
僕達は暫くクラスタルの愚痴を耳に入れながら街道を前進した。
そのまま進んで行くとようやくシオツが見えて来た。
ウブキ山系の南西にテイルエンド北側中心都市(村)のシオツがある。聖京都からイーダーオーツへと向かう交通の要所であり、北側の要塞的な役割もしている。
更にはテイルエンド北側の地域鉱物が一度ここに集まり各地へと運ばれる仕組みなっている。テイルエンド北側の鉱山は全てシオツに繋がるっと言っても過言ではない。そして聖騎隊北の詰所がある場所でもある。
シオツの自治は聖京都の王族が担当している。このシオツの自治を担当しているのがキンデルダル第4王子であった。
キンデルダルが王になれば、この地域は別の者が担当する事になるが、キンデルダルの王位継承式典が終わるまではこの地はキンデルダルのが治める地域のまま。リリラ軍ではなく純粋なキンデルダル派が治めていて戦いになる可能性もあり、僕達は様子を見ながらゆっくりと近づく事にした。
しかし、事の他心配の必要無かった。シオツに近づくと街囲いの上に聖京都とスルーニルの旗がなびいていた。
オーウィズ達、反乱軍が既に手中に収めていたのだった。
今、このシオツに2つの国の軍隊が集結した。ひとつはイーダーオーツ。もうひとつはスルーニル(軍と言うより聖都騎士団だけど)である。
イーダーオーツはリューゲン総隊長を中心とした500名ほどの軍隊。スルーニルは人数100名と少ないが、スルーニル最高聖騎士マトゥキが率いている。
リューゲンはシオツへ入らず北東に陣を構えて待機する事になり、僕達だけがシオツへと入って行った。
僕達はシオツの街に入ると、マトゥキ達と会うために中央のキンデルダル邸へと足をむけたのである。
キンデルダル邸(聖騎隊北の詰所の別名らしい)に着くとラーナキュアルが僕達を迎えてくれた。
「ナギト殿、ストナ様、お待ちしておりました。マトゥキ様がお待ちです。」
「ラーナキュアル、戦況はどうなの?」
ストナがラーナキュアルに話すとラーナキュアルが笑顔でこちらに答えた。
「現状は大変有利に動いている。リリラやカラコロ厶達は城から出てきていない。その間に私達は北側をほぼ手中に収める事が出来た。」
「良かった。」それを聞いてストナと僕は胸をなで下ろした。
「その事でマトゥキ様のお話がありますので奥へどうぞ。」
そう言ってラーナキュアルは僕とストナを奥の間に通してくれた。奥の部屋にはマトゥキとマリアンがいた。
「よく来たな。」
マトゥキの机の上にはウブキ山脈の地図が置かれていた。
「あとは転移陣だけだ。」
そう言って地図に何箇所かマークが付いていた。
「このマークの上に何があるんですか?」
「我々がここの総括官を倒した時に何名か残党を生かして逃走させた。その残党の逃げ込んだ洞窟がこの3カ所だ。このどこかに転移陣のある可能性がある場所だ。」
「ひとつひとつ探すんですか?」
「いや、明日の朝に我が軍隊が3箇所に分かれて一気に叩く。ナギト達は後で順番で洞窟に入って来てほしい。」
「どう言う意味ですか?」
「オーウィズ殿に聞いているが、転移陣を封印するにはナギトの力がいると言う事、それで待っていた。手伝ってくれるか?」
「もちろんです。」
ここ数日決着させたい思いが伝わっている。オーウィズ達は無事にリリラ退治の準備を進めている。マトゥキとラーナキュアルが北方討伐隊としてここで必要に応じて戦い地盤を固めてきた。全てが順調である。
その順調が逆に恐ろしい。
リリラが何もしていないとは思えない。こちらに攻めて来ないと言う事は城の中で何かをしている。いや、魔王復活の準備を着々と整えている可能性の方が高い。そうであるならあまり時間を掛けてはいられないのだ。
その日僕達は宿に泊まって休む事になった。
イーダーオーツ軍のリューゲンには今回の作戦を説明して、このシオツを守ってもらう。少し身を引いてリューゲン達はシオツ北側に陣営を引いてそこを拠点とした。
今回のイーダーオーツ軍の状況をマトゥキに説明すると、マトゥキもイーダーオーツ軍の弱さが気になった様で、マリアン含めて聖都騎士団20人はシオツで待機させる作戦へと変更した。
編成はマトゥキが20名、ラーナキュアルが30名、僕達が30名のパーティーを組むことで、各チームが残党の逃げ込んだ洞窟へと向かう。最終的に転移陣を破壊する作戦を決行する事になった。
今回の作戦で道案内が連れて来られた。名前はゴンザ、テイルエンド側生まれのドワーフ族である。
七本槍の道化衆は僕、ストナ、エージナ、テロット、ゴンザの5名と更にスルーニルの軍隊30名でひとつの洞窟へと向かう事になったのだった。
翌日早朝。ドドドドドドドド。
空から聞こえる何か異様な音に目が覚めた。
僕が部屋から出ると、ストナも同じ様に出てきていた。
「何?この異音は?」
「分からない。けど、嫌な予感がする。」
「ナギトの嫌な予感って大概当たるわよね。転移陣が開いたの?」
僕達は東門へと向かって走り出した。東門にはマトゥキやリューゲン総隊長が既に東側にあるウブキ山脈を眺めていた。
「マトゥキさん。何があったんですか?」
「ゴブリンの大群がこっちに向かってきている。さて、どうするかだな。」
「各地の鉱山にいる人達をまずは助けないと。」
僕がそう言うと、マトゥキが笑った。
「大丈夫だ。オーウィズ殿下からの命令で既にウブキ山脈の鉱山は閉じて、鉱山工達は別の場所に避難させているからな。安心して戦え。ただ、これで転移陣の場所が明確になったと言うわけだな。」
「場所が分かったんですか?」
「分かるも何もゴブリンが出てきている洞窟が転移陣のある洞窟だ。そこを目指せばいい。」
「それってこの量のゴブリンをなぎ倒して行くしかないってことですか?」
「そうなるな。予定変更だ。私とラーナキュアル殿で先頭を行く。お前達は後から付いて来い。」
そう言うとマトゥキとラーナキュアルで隊と2つに分けて突き進んで行った。
転移陣が開けばモンスターの巣窟とこの地上が繋がりその巣窟のモンスターが大量に流れ込む。今まさにそれが起こっている。いや、起こってしまった。しかし、逆に言えばこのモンスターを追って行けば転移陣へと繋がっている。ピンチなのかチャンスなのか?分からないけど、今はマトゥキ達に付いて転移陣を破壊しかない。
ざっと1000体のゴブリンがこっち向かって攻めてきた。ウブキ山系ゴブリン襲撃事件はこんな感じだったのだろうか?
ストナの父の命を奪った大事件。ユウやアイカも絡んでいるこの事件の発端はこの山から始まった。
……?
ふと、昔聞いたゴブリン襲撃事件の内容と今の状況に違和感を覚えた。
僕は一瞬足を止めた。
「ねえ、ストナ、嫌な思いさせたらごめん。」
「何?多少はいいわよ。許してあげる。剣買ってもらうからね。」
そこ?こんな、明日のあるか分からない状況でも前をみるストナの性格がとても羨ましい。
「ストナのお父さんの事。ウブキ山系ゴブリン襲撃事件ってどこからゴブリンが出てきたってなっていたっけ?」
「どこ?それは分かって無かったと思うわよ。」
「違う。イヒラ山系の……。」
「塩の洞窟!」
「そう、それ。」
「塩の洞窟はゴブリン襲撃事件前に起こった、ゴブリンの急襲場所よ。ゴブリン襲撃事件ではないわよ。」
「それだよ。おかしいと思っていたんだよ。レフト・カサブレラの言葉。」
「言葉?」
「あいつはテイルエンドの魚の尾びれ先端に転移陣があると言った。それなのに北側はウブキ山脈だと言い切った。実際は先端はイヒラ山脈だろ。」
「そう言えばそうね。……まさか?」
「そうだよ。本命はイヒラの塩の洞窟の可能性がある。レフト・カサブレラはこっちにもリリラ側にも有利な情報を提供したんだろう。どっちに転んでも影響が無いように。」
「じゃあ、マトゥキやラーナキュアルにも知らせないと。」
「いや、まだはっきりとした訳では無いから……。」
「面白い。乗った。」
エージナが話に乗ってきた。
「その話面白い。わしはナギトの案に賛成だ。3つの洞窟を調べたら、その足で塩の洞窟へ行けばいいだけじゃろ。のお?」
エージナはゴンザの方を見た。ゴンザは胸を叩いて言った、
「任さておけ。わしがお前達をすべての洞窟まで案内してやる。」
やるべき事は決まった。
しかし、その前にこの目の前のゴブリン集団と戦わなくてならない。僕達もマトゥキ達の後を追う事にした。
マトゥキの目の前まで迫っていたゴブリンが一瞬で崩壊した。崩壊と言う言葉が一番相応しいのだろう。マトゥキは全く動かないのに、目の前に現れるゴブリン達が次々に崩れ落ちていった。
マトゥキが動かないのではなく、彼の動きを僕達が可視出来ない。これがマトゥキの聖流剣だ。その聖流剣で中央を切り開いていく。右側をラーナキュアルと30名程の聖都騎士団が応戦する。
ラーナキュアルは火炎防御士資質。武器は三叉の槍を使う。炎槍と言うスキルで広範囲にゴブリンを攻撃している。彼女は聖九華戦姫(ルイーゼ護衛団)である為、聖都騎士団のメンバーとは初の戦いになるのに、聖都騎士団は彼女の動きに合わせて隊列を変えて援護している。やはり聖都騎士団は強いと言うイメージだ。ラーナキュアルの炎槍は広範囲に強力な攻撃スキルである。更には彼女の使う三叉の槍がその強力さを押し上げる。炎槍は炎系の3段付きの様な攻撃だが、三叉の槍の効果で9段付きの様な攻撃となる。前方一面が炎の攻撃で特化される様な感じである。
しかし、ゴブリンの急襲とはそんな生易しいものではない。槍の炎を掻い潜ってこちらに攻めて来る。完璧な城壁でなければ、その隙を見つけて入り込む蛇の様な執念さが伺える。仲間の死も気にも留めずに攻め込んで来る。
その隙を上手くカバーするのが聖都騎士団だ。ラーナキュアルいや彼女の攻撃を中心にして最大の効果が出るように動いている。
マトゥキの左手の隙間を残りの聖都騎士団で補っている。マトゥキやラーナキュアル程の攻撃はないが、無難にゴブリンを倒して行く。
ほとんど僕達の出番は無い。後ろをゴブリンの死骸を乗り越えて進んで行った。何もせずに……。
でも、僕のやるべき事は転移陣の封印である。僕は手に持っているマナの剣を見つめた。
これは僕にしか出来ない事だ。やるべき事をやるまでだ。
突然、マトゥキ達の動きが止まった。
ゴブリンの大群がいなくなった。あの大群を倒したのである。しかし、問題は転移陣がどこにあるのか分からなくなったと言う事である。
このゴブリンの大群をなぎ倒して行けば、転移陣のある洞窟にたどり着けると思ったけど、思った以上に早くゴブリンの強襲が終わってしまった。
マトゥキが周りを眺めながら言った。
「少ないな。まだどこかに潜んでいるか?」
僕はマナ寄せ開眼で辺りを見回した。ゴブリンどころか、生き物の気配は無い。
「特に何もいないです。」
あたりは不気味な程に静まり返っている。
「ここが分岐点だ。」
「分岐点?」
「北に1つ、南に2つ。例の残党の逃げ込んだ洞窟がある。見てみろ。」
そう言うとマトゥキは僕達に分岐の道を指差した。僕達はその道の真ん中に立った。
「何ですか?」
「足元だ。何が見える。」
僕は足元を見た。…………。あ!ゴブリンの足跡が東側から来ている。と言う事は……、転移陣はウブキ山系の洞窟ではなく、東のイヒラ山から来ている。
「ウブキの3洞は囮?」
僕達は分岐点で各方向をそれぞれ眺めていた。全員が黙っていた。これから進むべき道に迷っていた。僕もどうしていいか分からない。けど、ウブキ3洞も決して無視して良いとは思えない。いや、ここを押さえるべきではないか。囮ではなかった場合。このままイヒラ山系へ行った場合、3洞から挟まれる可能性も残っている。
僕は意を決してマトゥキに提案した。
「3手に分かれて先に3洞を叩きませんか?元々の予定通りに、これが囮なら良いのですが、そうでないなら挟まれる可能性もあります。ここで3洞を叩けば、安心して前に進めます。」
マトゥキは暫く黙った。
沈黙が続く。何か余計な事を言ったのだろうか?僕はもう一度周りを見渡した。山間の獣道に近い山道。左手北への道は登りとなり、3洞のひとつにつながっている。右手側は少し道幅が広がり、3洞のふたつに繋がる。その3洞を超えて更に南西へ進むと光の坑道がある。
目の前の道は完全に下りである。このまま下ると山間の川へとつながっている。そこから山系がイヒラとなる。塩の洞窟はその更に東にある。
距離からすると3洞の方がはるかに近い。先に叩く事はルート的にも間違ってないと思う。
「分かった。我々はこのまま北へと進む。君達は2部隊で南側の2つの洞窟を調査してくれ。深追いは禁止とする。洞窟の位置と状況の調査をして戻ってくる。分かったか?」
「はい。」
その時、ゴンザが話に入り込んできた。
「ひとつ良いか?お前さん達が言っている3洞だかな。南のこの洞窟はイワクの古道と言われる洞窟だ。冬の経路として我々が昔掘った穴だ。10メートル程進むがそれ以上は岩盤が硬くて工事はそこで終了した。後の2つの位置に洞窟はない。」
「ない?」
「正確には我々ドワーフが認識している洞窟はないと言う事だ。ただ、割れ目や空間はあるかもしれん。」
そこまで言ってゴンザは黙ってしまった。すると、ラーナキュアルが地図を手を置いた。
それなら私達が最南端のイワクの古道を調べるから、ナギト殿はその上を調べてくれ、単なる空洞ならすぐにこっち向かってもらえれば早く片付く。」
「分かりました。」
僕はそれぞれの役割を確認して隊を3つに分けて出発した。
僕達はストナ、エージナ、テロット、ゴンザと聖都騎士団が10名付いて空洞調査に向かった。ラーナキュアルの隊はメンバーを多めにして本命の可能性のあるイワクの古道へ行く事になった。
山間の別れ道で僕達はラーナキュアル隊と別れた。
「ここを進めばすぐに空洞があるとされる場所だ。」
そう言ってゴンザは僕達の前へと進んで行く。僕達はゴンザの後を追って歩き、両側が壁の崖となっている細道を進む。
「なんだか、この小道自体が洞窟よね。」
「そうだね。となると洞窟ではなくこの先に何かがいるかもしれない。宿営地になっているかも。」
僕達は剣の柄に手を置いて前へと進んで行く。小道はくねくねと小さな曲がりが何箇所もあり、最初の曲がり角は既に見えないくらい入り組んでいた。
暫く進むとゴンザが止まった。
「この先が行き止まりだ。」
僕が前へ出ようした時に聖都騎士団のひとりが僕の肩に手を置いた。
「私達が先頭をいきます。」
それはケリケリと言う弓士だった。この小部隊の隊長的な役割の人物である。そう言うともう2人と一緒に前へとゆっくりと進む。もうひとりも弓士、後ひとりは剣士だ。
広場手前に来た。この奥に広い空間がある。確かに誰かが中にいる。ケリケリが合図するとケリケリの真後ろにもうひとりの弓士が立ち、その裏に剣士が並んだ。
ケリケリ達は何か奥から聞こえる話声に聞き耳を立てている様子だった。
ケリケリが手を上げると3人は一斉に奥の空間へと入り込む。次の瞬間、既に片が付いていた。
僕達が奥へ入った時には2名が捕縛されていた。その捕縛された人を見てストナが言った。
「彼らはキンデルダルの直属の部下よ。」
僕達がキンデルダルの部下に目を向けている間に、ケリケリ達はこの周囲を探っていた。
ストナが彼らに話しかける。
「ねえ、ここで何をしていたの?」
2人は暫く黙っている。
「キンデルダルは妃の正体はバンパイアよ。知っているの?」
「違う。」
「違う?」
「あの方は由緒正しきミルロワールの王女様だ。決してバンパイアではない。」
意外と正気でリリラを慕っている感じがして驚いた。
「あなた達、会った事があるの?」
「もちろんだ。決してバンパイアではない。我々だってバカではない。バンパイアなら分かる。」
目が普通だった。洗脳下にはない。僕も質問をした。
「いつ会いました?ミルロワールの王女に?」
「2年前だ。」
「最近は?」
「最近は会っていないが、変わりなく美しいと聞いている。」
「聞いている?誰によ。キンデルダルか?」
「無礼なキンデルダル様だ。王になるお方だぞ。キンデルダル様ではない。フェアラー殿だ。」
「フェアラー?」
フェアラーは元聖騎隊、6番隊長。バンパイア側に付き、聖京都を貶めようとした反逆罪で死刑が確定した人物。
「ストナ、フェアラーって……。」
「まだ、生きているわよ。この様子だとリリラに釈放されたようね。」
その時、角笛が鳴った。
崖の上から矢が降り注でくる。
敵襲だ。
エージナが僕達の手を取って岩陰に身を隠させた。
「ゴブリンの襲撃だ。」
ここ自体が罠だったのか?
数分間、雨の様な矢が降り注いだ。僕達は、ただ、暫く身を隠すだけだった。崖の窪みに数人の身を隠すスペースがあり、そこに無事に隠れる事が出来た。
しかし、捕縛されたふたりは矢の標的にあって、既に息が無いだろう。矢が無数に身体に刺さっている。
ケリケリ達の中にも怪我をしたメンバーが数人のいるようで一部が手当てをしていた。
さて、どうやってここから逃れるか。
それが問題である。




