第一話 王女ルイーゼと聖九華戦姫①
《七本槍メンバー》
008 ナギト ♂(17) 武器:長剣
魔法剣士(マナの剣士)資質 王下Eランク
マナ寄せ、マナ返し、マナ回転返し
開眼(マナ寄せ開眼)
011 ストナ♀(18)武器:大剣
聖騎士資質 王下Bランク
聖回復 聖流剣 遠投 他
015 オーウィズ王子♂(16)
探求者資質
探求
《付き添い》
000 ヒツメジ♂(72)
収集家資質
※王の執事
サンフィッシュ大陸の南東はノーズアンダーと呼ばれている。サンフィッシュ大陸を魚とするなら鼻孔から下と言う意味である。このノーズアンダーには4カ国の国家が存在する。
北国ノルテ、東国オエスト、南西国スルーニル、中央国センテン。
現在、帝国に次いで国力があるのは南西国スルーニルである。魔王大戦前後は北国ノルテが最大軍事国であったが、ここ数年帝国とのいざこざで負けが重なり、国力が衰退しており、スルーニルに取って代わられた。
スルーニルは聖の英雄を生み出した地。聖の資質はこの国が発祥と言っても過言ではない。スルーニルの王家は聖の資質を受け継ぐ伝統はない。しかし、現在、大陸最強と謳われている聖騎士はこの国にいる。聖京都が模範とした国家形態は全てこの国なのである。
スルーニルの王都ロトアル。国の中央に位置している。サンフィッシュ大陸の鼻孔から海岸沿いに南下していくと、鼻孔から45度の辺りに魚が口を開けたように湾がある。(もちろん、本当の魚の口は鼻孔の真下にあるけど。)
この湾を中心に建設された都市が王都ロトアルである。北東に山があり、南西に湾で守られている。湾も水門が作られていて、水門が閉まれば湾は防御の要をなり、水門が開けば湾は貿易の要となる。
北西には東海街道があり、ノルテ、帝国へと続いている。南東には南海街道がのび、東国オエスト、炎英新都(昔は炎英王都)まで続いている。貿易の中心都市として今も栄えている。
また、東海街道のノルテとの境界線には魔晶門と呼ばれるマナの力で開門閉門をする特殊な門もある。海岸線の多くは断崖絶壁となっている為、ロトアル城自体が天然の要害と魔道門によって守られているのである。
僕達が乗った船は巨大な水門をくぐり抜けた。そこにはスルーニルの王都ロトアルが待ち構える様にその壮麗な御城を僕達に見せつけてきたのであった。
水門をくくるまでは街の存在すら分からない奥まった作りに驚かされた。
「ナギト、見て、お城、白い……。綺麗。」
隣でストナも同じ様に感じたのだろう。感嘆の声を上げている。
感動をする女性の斜め後ろで震えながら僕達を眺める男がいた。
「大丈夫でしょうか?我々は入国許可がないのですよ、もし、その事が公になれば、殿下の身が危ない事はご存じですよか?」
オロオロと周りを確認しながらも不安そうな声を上げているのがヒツメジである。そして彼が訴えている相手はもちろんオーウィズだ。
「大丈夫だ。入国許可ならある。」
オーウィズはそう言うと、上着の内側から一枚の紙切れを出した。そこにはオーウィズの祖父の名でスルーニルへの出国許可が書かれていた。
「その陛下はもういないんですよ。言うなれば、その許可書の効力はないと捉えられないでしょうか」
オーウィズは少し面倒な顔をしながら、ヒツメジの方へ向きを変える。
「今の王は誰だ?」
「第四王子であるキンデルダル様です。」
「叔父は即位したのか?」
「いえ、まだです。」
「なら、これは有効だろ。叔父が即位するまでは祖父の権限は残っていると考えていいはずだ。違うか?」
彼は更にオロオロと不安を寄せている。
オーウィズの考えも間違いではないのだろう。ただ、リスクと言う面なら、ノーリスクではない。
この局面に安全の文字は存在しない。このまま、リリラ(キンデルダル)の命令に従ってのこのこと聖京都に帰れば、オーウィズの首は飛ぶ。僕達だって同じだ。政治的にはオーウィズが敵かもしれないけど、感情的なら妹2人を倒したのは僕達なのだ。
どこかに逃げれば、お尋ね者になって一生を隠れて生きるか、捕まって死ぬかだ。
リリラと対峙するには、スルーニルの力が必要である。
船は港に到着した。
一部の商人達は我先にと降り始めた。僕達はそれぞれ準備を整えから、船を降りた。北緯は聖京都と変わらないと思うけど、風が冷たく感じる。西から吹き付ける風が肌寒さを強く感じさせた。
しかし、その風も港から城門をくぐり、ロトアルの城門街に入るとパタリと止んだ。不思議な構造だった。
「綺麗、私こんな都に住みたい。」
ストナのテンションが更に上る。
「ストナお嬢様、こちらの物価は聖京都の2倍ほどになりますので、長期滞在にはそれなりのご覚悟を。」
ヒツメジの一言にそれ以上何も言わなくなるストナだった。
「ヒツメジさんはここへ来たことあるんですか?」
「もちろんです。オーウィズ王子のお父様と大陸全土を歩きました。」
「すごい。」
「すごいと言われますが、私は大陸全土の主要都市しか行っていません。死の不腐洞、蜃気楼の街モガナート、境界なき魔境。そんな噂でしか聞かない未開の地に足を踏み入れた皆様の方がはるかに素晴らしいと思いますよ。先日、皆様からその話を聞きた時、私の心は躍りました。私も資質次第では冒険者になりたかった。」
先程のオロオロ感が無くなった。船を降りて落ち着いたのか、それとも落ち着い振りをしているのか分からないけど、ここまで来たら後に引けないのは全員が一緒だろう。
「ヒツメジさんの資質は?」
「私の資質は収集家と呼ばれる類のものです。」
「収集家?初めて聞きました。」
「そうでしょう。基本的に冒険者に不向きな資質です。普通に暮らしていると聞かない資質です。でもレア資質としては多い方です。私は特に情報収集に長けていますので、こうしてこの歳まで城勤めをさせていただきました。」
「ヒツメジさんは聖京都の事詳しいですか?」
「聖京都?ま、人並みには知識はありますよ。」
僕はチラッとストナの方を見た。ストナの生い立ちを聞いてみたくなった。
ストナとオーウィズは何か話しながら、少し前方を歩いている。ストナは自分の生い立ちをあまり語りたがらない。オーウィズも基本にストナのその辺りの事は本人に聞いた方が良いと黙りを決めている。ヒツメジがどこまで知っているか分からないけど、聞くチャンスではある。王の愛人の子供。そんな噂ばかりが先行しているが、ストナとオーウィズの話からそんな様な素振りは全く見せていない。
個人的に気になる。聞いて良いのか?葛藤の末、知っていたらと言う体で聞いてみることにした。
「ストナの事、噂では色々言われているけど、本当のところは?僕にはあまり教えてくれなくて。」
ヒツメジは僕の方を少し伺う様に見つめてきた。暫く考えいる様だったけど、突如として話し始めた。
「ストナお嬢様は王の子供と言うのは本当です。」
「…………。」
「もちろん、養女ですが。聖の英雄の家系はご存じですか?」
「聖英雄ウリエルと弟ローゼルの二人だけですけど。」
ヒツメジは少し顔をかしげながらこちらを見た。勉強不足と言いたそうだったけど、優しく教えてくれた。
聖の英雄にはウリエル、ローゼル以外に弟(次男)モーグル、妹(次女)サーラン、弟(末)カイダンがいた度言う。
ローゼルとモーグルは聖の英雄に仕えた。サーランとカイダンは聖京都に残ったが、王家側に入らず、市民側へと立ち姉に仕えたと言う。
その為、サーランとカイダンの家系図的なものは残されていない。ストナはこのサーランかカイダンの家系に繋がると考えられている。
特にストナのスキル聖回復はサーランが使えた特殊スキルである為、サーラン家系の可能性が高いそうだ。
ストナの父パーシウルは王下聖騎隊で当時王子だった王の右腕だった。そして王の息子(オーウィズの父)と歳も近く、子供達は昔から仲が良かった。パーシウルは王の紹介を受けてある女性と結婚、ストナとシールト(ストナの弟)を授かる。そのある女性(ストナの母親)がサーラン家系の女性と言われている人だったそうだ。
サーラン家は同じ市民へと下ったカイダン家と違い、家系自体が消えてしまった。その保護を含めてパーシウルに頼んだと言うそうだ。
それを他の人達は王の愛人を引き受けたと揶揄し、その事が一部の噂になっている。
ストナの母親はシールトを生んで暫くすると病にかかり亡くなる。
パーシウルが任務中にはストナ達はオーウィズの家で過ごしていたと言う。
そして、数年前の鉱山ゴブリン襲撃事件で戦死、それによって王はストナを養女として迎え入れた。シールトはそれを断った。本人は聖の資質を継いでいないと言う理由で。
ここまでが、ヒツメジの知るところのストナの生い立ちだった。
今まで聞いていた部分と不明だった部分が繋がった様な気がした。
今から会いに行く、ルイーゼ王女はオーウィズの姉だけでなく、ストナに取っても姉なのだろう。
こころなしか、前を行く二人の表情が明るい。
僕も楽しみでしかない。
城下町を中心くらいまで歩いた頃、ヒツメジがもう一度僕の方を見て薄笑いを浮かべた。
「そうそう、王位継承権のルールをご存じですか?」
「ルール?」
「現在ストナ様の王位継承権は何位だと思いますか?」
「うーん?結構下の方と聞いた事あるけど、20位くらい?」
「37位です。」
まあまあ低いんだ。低いのか?高いのか?良くわからないけど。でも、第四王子が王位に就けば全ては無と帰す。
「ナギトさん、キンデルダル殿下が王位に就けば全てが無駄と思っていますか?」
「……」何で分かるんだ?
「それです。国王陛下を殺した理由は。近日中に王位継承順位見直しの勅令を出す手前でした。」
「え?」
「本来順位は勅令が出ないと、対象者が現れても順位は最後尾になります。前回出したのは、オーウィズ様の生まれた直後が最後でした。」
「そうなんだ。ん?あれ?それって。」
「その通り、現在王位継承権4位はオーウィズ様です。」
「そうなの?オーウィズ王子からは自分は聖の資質を受け継いでないから継承権は無いって言っていたけど。」
ヒツメジは人差し指を立て、それを左右に振りながら言った。
「そんな法律はどこにもありません。確かに聖の英雄ウリエル様以来全ての国王は聖の資質を受け継いでいますが、実際には慣習でもありません。噂話程度の話です。」
「でもオーウィズは……。」
「オーウィズ様はルイーゼ様に王を継いでもらい一心なのです。殿下自身の身の振りは考えてないのでしょう。」
「ルイーゼ王女ってどんな方ですか?」
ヒツメジはにっこりと笑い「素晴らしい方ですよ。」と言った。ヒツメジのその笑顔の奥にルイーゼ王女の人格が垣間見られる様だった。僕達はもう暫くしょうもない世間話をしながらも、ルイーゼ王女の住む邸宅へと向かった。
王都ロトアルの王城より東側に迎賓街と呼ばれる住宅街がある。各国の特別待遇の人達や国内でも有力者が住んでいる。オーウィズと一緒でなければ絶対に足を踏み入れないエリアである。
ルイーゼ王女の邸宅はその街でも王城近くにある。聖京都国として、昔から外交官や王族が住んでいた場所らしい。この一帯だけは、庭付き豪華な屋敷が並んでいる。
「入るだけでも、勇気がいる。」
「バカな事言ってないで入るわよ。お姉様を待たせてはだめ。」
ストナに怒られた。気持ち何時もより背筋が伸びている感じもする。敬意の現れ?なんか国王陛下の前に立つより敬意を持って無いと思ってしまう。
「そう言えば、会う連絡ってしてあるの?」
僕の一言でオーウィズの足が止まった。
「してない。」
………………。大丈夫か?居ないって事はないよな。
「大丈夫でしょ。聖九華戦姫の誰かは居るわよ、会ってから考えましょう。」
そう言うと僕の手を取って屋敷の中へ進んで行く。
「ストナ、聖九華戦姫って何?」
「ナギトは知らなか、ルイーゼ王女を守る9名の護衛よ。」
「親衛隊?」
ストナが入り口の扉の前立つやいなや、扉が開く。
「ストナ様、オーウィズ様、お久しゅうございます。どうぞ中へ。」
扉を開けてくれたのはカンパーラと言う名の聖九華戦姫の1人だった。
聖九華戦姫と言うのはルイーゼ王女を守る9人構成の護衛部隊の事を言う。9名は各3部隊に分かれて所属している。3部隊は護衛部隊、庶務部隊、隠密部隊となる。
護衛部隊はラーナキュアル隊長、シャクヤ、カトレアの3名で構成されている。別名赤い薔薇。名称通り、ルイーゼから離れず護衛している。赤い薔薇の由来は隊長のラーナキュアルが火系の資質(属性)持ち、その上狙ったからの様に3名が槍使いである。綺麗な薔薇には棘がある。棘よりも完全に矛だろ。と聞いていてツッコみたくなった。
庶務部隊はフィラモネ隊長、カンパーラ、バキアの3名。この部隊は非攻撃部隊事務系能力に長けたメンバーである。
最後は隠密部隊、ジニア隊長、キンセカン、マリーゴールドの3名で構成される、その名の通り裏方部隊。戦闘と情報収集を得意としている。オーウィズも全員と会ったことがない程、この部隊は特殊である。王女と言う立場だけでこれだけの部隊を持ち、それを従えているルイーゼ王女とはと考えてしまう。
それとも王族とはそういうものなのだろうか。
僕達は応接室に通された。王宮?と思える程のきらびやかさがここにはある。
オーウィズの邸宅も広さは変わらない、いや、それ以上かもしれないけど、何か雑。口には出せないけど、雑。清掃が行き届いてないのではない。ただ、邸宅全体に広がる気品と言うのか分からないけど、何かがここにはあった。もちろん、口には出さないけど。
暫くすると、お茶と一緒にフィラモネ隊長が姿を現した。
「オーウィズ王子殿下、お久しゅうございます。今日は何か御用でしょうか?」
「姉に会いたい。」
「殿下には重ねて申し上げておりますが、ルイーゼ様の日程は極秘となっており、誰にも伝える事はできません。」
何で極秘?聞いているだけだと、謎が謎を呼ぶ会話だ。
「姉は幻影石を取りに行ったのか?」
「…………。」
フィラモネの顔色が明らかに変わった。
何なんだその幻影石とは?
分からないけど、何かある。
その時だった。
急に辺りが騒がしくなった。扉の外から声が漏れる。
「待って下さい。ここはルイーゼ王女の邸宅です。あなた達でも勝手に入ることは出来ないはずです。」
…………。
何か会話が続いているのが分かるがこちらまで聞こえてこない。
と、突然扉が開いた。
「オーウィズ王子、及び、七本槍の道化衆。そなたたちに逮捕状が出ている。不法入国、並びに国家反逆罪の容疑だ。」
気がつくと、数人の軍隊らしき人たちに囲まれていた。
「捕らえよ!」
隊長とおぼしき人物が大声を上げる。
「私が責任を持つ抵抗しろ!」
オーウィズが逆に声を上げた。
僕とストナは剣を抜いた。残念な事にマナ寄せ開眼は使えない。開眼で対応するしかない。数人が僕に向って攻撃を仕掛けてきた。威嚇の剣だ。3人に囲まれたが、恐れる必要はない。
僕は取り囲む3人を全体を眺める様に見流す。ひとり、ひとりの動作ひとつひとつを見逃さない様に。
目の前の剣士が多分3人の中でリーダー格だろう。左右二人の視線が常に中央を追っている。中央が最初に攻撃してくるか、それでなければ、何かの合図で左右が攻撃をしてくるだろう。
その合図は意外に簡単だった。中央の男が右側へ視線を送って足を軽く奥に引いた。
次の瞬間、男が前に出てきた。右の男をいなせば次は左、そして中央の男と戦う事になる。それはそれでありだけど、彼らの今までの動きから、実力はそこまで強くない。それなら、右の男を攻撃する様に見せかけて、中央を一気に叩く方が決着は早い。
僕は右から来る男の剣を避ける様に中央側に一歩引き、そのまま剣を振る様に中央の男の喉元に剣先を突き出した。
3人は力が落ちた。
これで互いに血を流さないで済む。
「剣を置け。」
僕がそう言うと左右の剣士が剣を置いた。更に目の前の剣士を睨みつけると、その男も持っている剣を手放した。
剣がゆっくりと落ちていく。
ふと、安堵をした瞬間、背筋が凍った。何だ。何かがいる。
中央の剣士が落とした剣。その剣が床へと落散る前に僕の首筋にその剣先が突き刺さっていた。
よく分からないが、そのまま後ろへと倒れ込んだ。僕は死んだのか?
「マトゥキ様。」
「こいつらを投獄しろ。」
その声を最後に記憶が消えていく。
マトゥキ。その名を知らない人はいないかもしれない。大陸最強の聖騎士。
気がつくと、冷たい石畳の上で倒れていた。
「起きたか。」
オーウィズの声がする。声のする方向を見ようとするが、手足が縛られていてうまく見る事が出来ない。
しばらくしてやっとオーウィズの顔を見る事が出来た。顔がかなり腫れている。結構殴られた様だ。
「オーウィズ大丈夫か?」
「大丈夫だ。さて、どうやって抜け出すかな。」
やはりこの男、懲りないな。オーウィズらしくてこう言う時に頼りなる。そう思う限りだった。




