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七本槍の道化衆3 (テイルエンドとミルロワールの王女)  作者: 熊野文助


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第四話 迷いの森と一分の残像③

 僕達はゆっくりと小さな丘を登って行った。そこは巨大な円形状の敷き砂の広場になっていた。

 ここだけを注視して見れば違和感しかない。こんな森の中、周りには露出した土肌や崩れた木くず、落ち葉等で作られた墨色の背景の中に乳白色の円が突出して目を引く。そう、ここはあの死狂の館があった場所である。

 僕はゆっくりとその円状の敷き石のところまで近づいた。微かにマナを感じる。

「バキアさん、サーチをお願いします。」

 バキアのサーチスキルと同時にマナ寄せ開眼を使った。

 僕の眼前に円状のマナのサークルが姿を現した。

「ナギト何か分かる?」

 ストナが僕の横から視線を同じにして覗き込んでいる。しかし、彼女にはこのサークルが見えていない様である。

「スルーニルで見た転移陣と同じものがある。砂に埋まって隠されている様になっているけど、砂の下に同様の転移陣がある。」

「それならどこかに転移装置があるの?」

 そこまで考えていなかったけど、これがスルーニルと同じならどこかに転移装置があるはずだ。あの時はマトゥキの半脅しの視線が怖くてあまり転移陣に目を凝らして見なかったけど、このサークルが転移陣と繋がっているなら、マナの流れがどこかへと通じているはずだ。僕は開眼、自分の目に更に集中した。転移陣のマナの全貌がゆっくり見え始めた。

 この転移陣は8種類のマナが八方から中央へ向かう様に描かれている。(描かれているという言葉が適切かどうかはよく分からないけど。)北が火、南が水、西が土、東が風。北東が聖、南西が邪、北西が光、南東が闇。これらのマナが地面、大地からマナを吸い上げる様に地表を巡り中央付近に集まりマナを貯めている。そして、集まったマナは螺旋状に中央へと圧縮される様集まっていた。

 このサークルは単体で存在しており、他の何かと繋がっている様には思えない。

「装置があるのか分からないけど、どこかに繋がるマナの流れは存在しないかな。」

 僕の横にオーウィズもやってきた。

「違う装置かもしれないな。とにかく壊せられるか?」

「やってみる。あのレフトの話が本当ならこの短剣で中央を突き刺せばこの転移陣は壊れると言っていたから。」

 僕はそう言いながら短剣を眺めた。あのレフト・カサブレラから渡された短剣である。どことなくマナの剣に雰囲気は似ている。しかし、持った感触とマナの流れで分かる。この剣はマナの剣とは似て非なる物だ。

「ストナ、オーウィズ。下がっていて、何が起こるか分からないから。とにかくこのサークルに近寄らない方がいい。」

「ナギト、大丈夫?」

 僕はストナの方を見た。

「大丈夫。」そう笑顔で答えた。そう答える以外になかった。やるしかない。何が起こるのか誰も想像できないのだから。


 

 僕は一人敷砂の中央に立った。

 ほんの僅か、もしかすると思い込みの類になるかもしれないけど、周りから中心へ向けてマナが流れる様な感じがする。気のせいかな?

 レフトから渡された短剣を取り出す。レフトは封印の短剣と呼んでいた物だ。

 短剣を逆手に持つ。僕の手前にサークルの中心がある。この中心に剣を突き刺せばサークル、転移陣は崩壊する。

 僕は周りを見回す。ストナ達は丘の端で僕の方を眺めている。ストナと目が合い、僕が頷くと向こうも頷いた。

 やるしかない。心を決めてもう一度中心と向き合う。大きく深呼吸して心を落ち着かせるが、心臓は気持ちとは逆に鼓動を強く揺らした。

 行く。

 剣をそのまま中心に刺そうとした。

 ……。

 何かが違う。

 心に落ち着かない。

 手が止まる。

 何が違う?

 分からないけど、このまま突き刺すのは危険だと、心が騒ぐ。何が違う?緊張とは違う緊迫感。嫌な予感がする。

 僕はゆっくりと後退りした。

 もう一度転移陣を眺める。

 

 レフト・カサブレラの罠なのか?

 剣を中央に突き刺せば終わる?

 ……。

 その行為、マナの剣をバンパイアの核へ突き刺すのに似ている。あの時、剣の周りに火、水、土、風、聖、光のマナをマナ寄せして魔王やバンパイアの持つ闇と邪のマナで相殺する様に核へ突き刺した。

 それでマナ自体が崩壊する様に崩れるから崩壊の一撃とエイディは命名していた。

 同じ原理でこれを刺せば……。

 マナ寄せの為の魔吸石が必要だ。僕はストナの方へ石を取りに行こうとした時に……。足元に目を落とした。マナはある事に気が着いた。

 この転移陣にマナは集まっている。このマナを使えばいいだけなのか。


 僕は再び転移陣と向かいあった。

 再び深呼吸をする。先程より迷いがない。この方法に不思議な安心感がある。この安心感が何から来ているのか分からないけど、自分の感を信じるしかない。再び目に集中する。転移陣のマナが鮮明に見え始める。

 最初に足元の水のマナ溜まりに剣を落とす。落とした瞬間にマナ寄せをする。水のマナが剣の周りを周り始めた。やはりこの剣はマナの剣に似ている。

 次は隣の闇のマナ溜まりに行く。その瞬間また心が騒ぎ出した。順番があるのか?

 今はこの感覚に頼るしかない。僕は感覚に従い、水火土風光闇邪聖の順番に剣にマナ寄せした。

 聖のマナを寄せた時、剣の周りをマナが勢いよく回り出した。このマナは僕には扱いきれない。このまま待つのは危険、いや出来ない。すぐに転移陣の中央に行った。そして転移陣の中央に剣を突き刺した。何のためらいもなく。躊躇する猶予がなかったと言う方が正しいかも。

 


 転移陣は点滅する様にマナが放射する。次第にマナがゆっくりと消えて行く。マナが消えた瞬間、空間がガラスの様に割れる様に感じた。

 

 次の瞬間、死狂の館の空間のあった場所がなくなっていた。僕達は森の中に立ち尽くしていた。敷石の敷きである丘も不思議な広さの広場も無くなっていた。

「不思議、空間が無くなるってこんな感じ?」

「いやいや、普通は空間がなくなるなんて事ないから。」

 僕達が感慨にふけっているとオーウィズが後ろから声を掛けてきた。

 「お二人さん。まだ終わってないぞ。転移陣はもう一つある。そっちが本命だぞ、忘れるな。しかし、ナギトよくやった。どうやってやり方に気づたんだ?」

 僕は本能に従った事をオーウィズ達に話した。

「まさか魔族の力?」

 カールがそこまで言うとマーロンがカールの頭を思いっきりどついた。

「やめろ、くだらない邪推は!」

 マーロンがそう言うと僕の方まで近づいてきた。

「もうひとつも頼むぞ、この森の危険性は必ず排除させたい。」

「分かってます。」

 

 レフトの話からオーウィズの推測をまとめると、ここの転移陣は聖京都とつながっている陣。そして迷いの森奥にある陣が魔物の巣窟につながる転移陣である。魔物の巣窟って何なのか?不明である。しかし、このまま放置する訳にはいかない。




 僕達は迷いの森南東にあると言う洞窟を探した。

 

 思ったより目立つところにその洞窟はあった。

「こんなところにあれば、誰か疑問に感じない?何で今まで話題にもならないの?」

 ストナが多分全員の思った疑問を口にした。

 ……。……。

「何で皆黙るの?おかしいでしょ。おかしくない?」

 ……。……。

「迷いの森は暫く立ち入り禁止だったから。」

 誰も答えないのでなぜか僕が答える。

「立ち入り禁止?それは建前ね。たてまえ?あ、違うか。一般冒険者はが正しいかな。聖騎隊のメンバーは調査に何度も入ってるわよ。何で誰もここを見つけられないの?」

 ……。……。

「何が言いたい?」マーロンがストナ問い掛けた。

「罠。罠しかないでしょ。こんなところにリーダーを進ませる事はできません。それだけです。」

「ストナ姉、罠でも進むしかない。」

 ストナはオーウィズの目前に人差し指をかざした。

「あなたが行く?それならどうぞ、止めないから。」

「それは殿下の仕事ではない。」

 マーロンが話に入って来た。

「それは私達の仕事だ。我々が先に入る、ナギトにはこの封印を開いてほしい。出来るか?」

 僕は頷いてマーロン、カールと一緒に洞窟の手前までやって来た。

 マナ寄せ開眼で見ると、確かに封印がされている。剣で核の部分を切ると封印が解けた。マーロンとカールが先に中へと入り僕達が後へと続いた。


 洞窟と言うより、円形状のドームで出来た洞穴と言った感じだった。円形状と言う地形が先程の死狂の館跡と類似して気になるところではある。

 洞穴には光の魔吸石で出来たランタンがいたるところに設置されており、光を灯していた。

 洞穴の中央には人工的に作られたと思われる円形状の水をたたえた窪地があった。

 この水面下に転移陣があるのだろう。ドームの中に入って数歩歩くと先にマーロンとカールが武器に手をかけた。次の瞬間に僕にも何かが動いている感覚を感じた。

「気をつけろ!何かがいるぞ。」

 マーロンが剣を取り出して構える。

 僕はマナ寄せ開眼をすると数十体の姿の見えないマナの塊の様な者がうごめいていた。透明人間か、ゴーストの類だ。

「右に2体、中央8体、左に3体、透明人間かゴースト系のモンスターかいます。あと、池の奥にも数体。」

「ナギトは右、俺前方、カール左を頼む。」

 マーロンの合図で僕達は飛び出した。右手に2体、一気に間合いを詰める。1体が僕に気づいたが、その瞬間胴に斬り込んだ。身体が2つに割れるように裂けて消えた。もう1体も同様に、一気に倒した。

「なんだ、たいした事はないな。」

 マーロンとカールも戦闘を終えている様だった。マーロンはそのまま右手側から池の奥へと進んで行く、カールは逆に左手側から回り込んで行った。透明人間が残り1体になった時、マーロンとカールの動きが止まった。

 そこには透明になりきれていない人が無気力でこっちを見ていた。ただ、この、雰囲気!微かだけバンパイアのマナを感じた。

「バンパイア?」

 僕の声に、向こうがこっちを向いた。

 透明になりかけの存在は僕には目をくれず、マーロンとカールに向かって頭を下げた。

 誰なんだ?

「サファイか?」

 サファイと言われている透明になりかけの男はマーロンに向かって更に深々なお辞儀をした。

「マーロン様、お久しぶりでございます。ようこそ、見捨てられた地に。マーロン様から引き受けた任務遂行出来ずに申し訳ありませんでした。私は近々姿を失い、いずれ消えて行くでしょう。最後にあなた様とお会いできて嬉しゅうございます。あなた様の読み通り、キンデルダルの妃はバンパイアでした。それにグリーデル・リトダもバンパイアとして生きており、魔王復活を目論んでおります。王下聖騎隊の中にもバンパイアに組する者が現れております。6番隊隊長フェアラー、11番隊副隊長ボウアローです。」

 少し情報が古い。それこそ僕がこの迷いの森に初めて訪れて来た頃からここに閉じ込められているのだろう。思えば、透明人間の様な存在には死狂の館でも会った。

 透明な存在にはマナを感じなかったが、その前のサファイにはバンパイアのマナを感じる。バンパイアなのか?

「サファイさん、あなたはバンパイアなのですか?」

 僕の質問にサファイかこっちを見た。

「マーロン様、新しい部下ですか?生きの良い人物が入隊している様でなによりです。ご存知ですか?あいつらはバンパイアを3種類に分けています。原始バンパイアと呼ばれるバンパイアロード。直下バンパイアと呼ばれるロードに眷属された者。これは3魔女達を指します。そして、配下バンパイアと呼ばれる者達。眷属化の力を3魔女に眷属化された者。そしてそのどれにも属さない、ゴミバンパイア。それが私達です。」

 ゴミ……クズ……。3魔女の一人、ミリアンが使っていた言葉を思い出した。

「サファイさん、あなたはどうやってバンパイアになったのですか?」

「ゴミバンパイアはゴミクズ作製装置によって作られます。」

「ゴミクズ?作製装置?それって……。」

 そこまで話すとサファイの身体が更に薄く変化した様に感じた。そして態度も変わり始めた。挙動不審で落ち着が無くなった。彼の視線はもうマーロンしか見えていない様だった。

「マーロン様、す、すみません。」

 マーロンが少しサファイに近寄ろうとした。

「どうした?」

「近づいていけません。私はバンパイアです。ゴミバンパイアの核は1年しか持ちません。核が崩れれば、マナを保持できなくなり、姿を失い消えて行きます。私はもう何年もここにいる。ただあなた様に謝りたい一心でマナを保っていたと思います。核を失えば魔女達の命令から解放されます。しかし、私もバンパイアであった時には何人も殺しました。罪のない人々を。ですが、これだけは、ご報告させて下さい。容疑者であるユウとアイカは黒です。彼らだけではない、あの4人全員が事件に関与しております。その為、彼らは私をバンパイアに引き渡した。必ず、仇を、いえ、聖騎隊として正しい裁きを……。」

 そこまで言ってサファイは消えていった。他の透明人間の様になる事もなくマナが尽きたのだった。


 ユウとアイカ?

 ユウとアイカってあの?彼ら4人って七本槍の道化衆の事?

 僕の頭なかを疑問符が回転していると、マーロンが僕に近づいて来た。

「サファイは元俺の部下だ。そして、ある任務中に消息を絶った。その任務が七本槍の道化衆への潜入捜査だ。」

「七本槍の道化衆って、僕達の?」

「そうだ、お前が入る前の七本槍の道化衆だ。あいつら、いや、ユウには3つの大きな嫌疑が掛かっていた。ストナから聞いているかも知れんが、ひとつはストナの父パーシウル殺害。もうひとつは創立者のひとりダグネル殺し。そして、調査員殺しだ。」

「そんな事が……。」

 ダグネルやパーシウルの事は噂には聞いていた。そして、ユウの最期の言葉を思い出した。『俺は、七本槍の道化衆の為に大きな過ちを犯した。何人もの人間を殺した。アイカも、グロスも、コハルも同罪だった。』コハルも関与している?考えたくも無かった。死人に口無しと言うが誰も弁護出来ない。

「七本槍の道化衆創設にはかなりの闇がある。そもそも、あいつらが権利を取得したウブキ鉱山ゴブリン襲撃事件、ここでパーシウル殿を殺した疑惑が浮き彫りになった。その首謀者が白骨遺体で発見された。」

「え?遺体がダグネルって行方不明って噂だったけど……。」

「お前が正規にリーダーになるまでは明るみにしていなかった。あいつらの素性を暴きたかったからだ。ユウの身辺調査にひとりの探偵を雇ったのだが、その探偵もウブキ山で焼け焦げて発見された。」

「焼け焦げて……。」

「ユウとアイカは間違いなくグルだと確信した。その為、サファイを七本槍に送り込んだ。サファイとの関係性を上げて内情を探りやすくする為に冒険者連合へと協力してもらい体の良い任務を持って行った。最低必要メンバー5名として。それが迷いの森での地図作製だ。だが、サファイはその任務前に行方不明となり、ナギトお前が借り出された。たが、まさか迷いの森にこんな罠があるとは俺も予想だにしていなかった。」

「あの任務に……そんな事が……。」

 僕が七本槍に入隊して初めての任務、あの4人と一緒にした最初で最後の冒険だった。今思えば、時より見せた歯切れの悪い言葉の数々……。何かを抱えているとは思っていた。ただ、それは冒険者としての上へと上がる者の持つ重圧か何かだろうと勝手に想像していたけど、もっと深い闇を背負っていたのだろうか。

 コハルとグロスにはそんな事は無いと信じたい。ただ、ユウの最期の言葉が今となって何かを暗示していた様に感じる。


 カールが僕の肩を叩いた。

「ま、気にするな。」

 気にするなと言われても……。ここまで聞かされると、僕はこの七本槍の道化衆を本当に引き継いで良かったのか?

「私達も同罪だ!」

 後ろのオーウィズが声を掛けてきた。

「ナギトが七本槍を引き継いだ事に問題があるなら、私もストナ姉もマーロンもカールも同罪だ。だから、心配するな。私達はそんな事承知の上で七本槍の道化衆に名前を置いている。いいか考えてみろ、冒険者部隊は一度隊に入れば、基本的に名前を抜く事は出来ない。重犯罪者を除いてだが。不名誉な部隊に入れば一生不名誉部隊入隊の肩書は刻まれる。アタゴ山の戦い後、マーロンなら七本槍の道化衆を一旦解散させて、再度七本槍の道化衆を立ち上げさせる事も出来た。そうすれば、マーロンの経歴にも傷が付かない。なぜ、やらなかったか?ナギト、お前を信頼したからだ。そのままで問題無いと判断したからだ。お前はお前の思いのままやればいい。仲間から受け取った大切な部隊ならお前が守ってやれ。」

 ストナも僕の横にやつまで来て短剣を手渡してくれた。

「ナギト、まだ終わりではないよ。ここからだから。」

「ありがとう。」

 ストナの言う「ここからだから」が暫く頭を離れなかった。まだ、このリリラとの戦いは終わりではないと同時に七本槍の道化衆の歩みもここで終わりではない。

 その両方に聞こえた。

 僕は剣を抜いた。そして水をたたえた窪地へと入っていった。転移陣を消滅させる為に……。



 ふたつの転移陣を消滅させて僕達は迷いの森から宿営へと戻ってきた。

 朝早く出たのに、もう日が暮れかかっていた。

 パチパチパチ

「素晴らしい。本当にあのヒントだけで転移陣を封印してしまうとは驚きです。さすがはローゼルとエイディのご子孫方。ちょっと残念です。あなた方がもう少し動揺するのを期待したのですが、まさか完璧にやり抜くとはからかいがいの無い人達だ。私からのささやかなプレゼントです。お食事を用意してあります。皆さんで楽しんで下さい。」

「レフト・カサブレラ、もしあのままマナをまとわずに中央を刺したらどうなった。」

 僕は少し怒気味にレフトへ言い放った。こいつは信頼出来ない。先程の会話でそう思った。

「お、お、怖い。そんなに怒らないでください。エイディこ末裔殿。私はウソを言ってませんよ。中央を刺せば封印できたでしょう。」

「どうなっていたかを話せと言っている。」

「おっと、マーロン殿もそういきり立たない方が長生きしますよ。私の様に……。簡単な事です。あの転移陣の発動方法は中央部に振動を与える事。そうすれば、死狂の館跡地ならリリラ様の眼下へ。森の沼地ならモンスター大軍勢のただ中へひとっ飛びだったのですが、封印してしまうとは、エイディと同じ面白味のない人ですよ。だが、本当に面白い。」

 舐めた口調と態度、普通なら怒しか覚えないが、この人を食った様な態度の奥底に得体の知れない闇を持っている。だからこの距離でも誰も取り掛からない。いや、取り掛かれない。

「まずは、これを返してもらいます。」

 そう言うと、彼の手元に封印の短剣が握られていた。

 僕はすかさずストナを見た。ストナも僕を見て首を振る。なぜだ?ストナの亜空間にあの剣は入れていた。どうやって?人の亜空間に入れるのか?

「それと、代わりにこれをお貸しします。」

 そう言って僕に別の短剣を投げ渡してきた。

「オーウィズ殿下、私との約束覚えておられますか?」

「もちろんだ、光の坑道の件だろう。1ヶ月でも2ヶ月でも好きにすればいい。」

「おお、ありがとうございます。その剣は私との盟約としてあなたが王になるまでエイディの後裔殿にお預けしておきます。あなたが探していた遺宝です。一般的な呼び名は炎のロッド。もうひとつ別名は炎粉飾剣です。」

 僕は手に持っている剣に視線を注いだ。これが炎粉飾剣。炎帝御輪の相方と呼ばれる短剣。

「エイディやリグナは炎帝御輪を単体では使いこなす事が出来なかった。だからカルメが師匠のサーゴに頼んで作らせた物。それがこの炎粉飾剣です。炎帝御輪から流れるマナを循環させる触媒。それがなければあの時代、誰一人炎帝御輪を使いこなせなかった。誰一人……。本当に面白い。」

 数メートル先にいたと思っていたレフトが僕の真横に来ていた。そして炎粉飾剣を手に取って僕の左脇に着けた。そして僕ではない別の何かを観るように眺めてから話し出した。

「うむ、悪くない。この脇差しはそのまま付けておきなさい。炎帝御輪の効果を高める。楽しみだ。」

 そう耳元で囁くと一瞬にして姿を消し、また数メートル先に現れた。

「それでは、皆様のご武運を。」

 最後に一礼をして去っていった。


 ストナが真っ先に近づいて来た。

「ナギト大丈夫?何かされなかった?」

「この剣をここに付けておけって言われた。」

 今度はオーウィズが剣をまじまじと見つめた。

「これが炎粉飾剣か。なかなか美しい。」

「でも、ナギトはこれがなくても炎帝御輪が使えるんでしょ。」

「ストナ姉、ナギトはエイディとは若干特性が違うんだろう。亀も言っていただろう。ナギトには栄養が無いって。ナギトとエイディは持っている物が違うと言う事だ。獣魔を従えたエイディと炎帝御輪を単独で扱えるナギト。」

「レフトは何でこの剣をナギトに渡したの?」

「さあ?あのペテン師の事だから罠の可能性もある。そうでなければ、本当にどうなるのか見たいだけか。」

「どうなるのか?ナギトが何かなるの?」

「ストナ姉、もしエイディが炎粉飾剣を使ってどうにか炎帝御輪を動かしていたなら、ナギトが炎粉飾剣を使って炎帝御輪を作動させたらどうなると思う?」

「うーん、他のマナも防ぐ?」

「それが見たいのかも知れない。もちろん罠や偽物の可能性も否定出来ない。あとはナギトがどう扱うか。危険だと思えば、ストナ姉の亜空間に入れておけば作動しないからな。」

 ふたり。いや、全員が僕の方を見た。僕は腰に着けられた炎粉飾剣へと手を置いた。マナの動きから持っていて悪い感じはしない。むしろ今より何か調子は良い感じがする。

「悪意がある様には感じないから持っておくよ。」

 


 迷いの森での長い1日が終わった。

 僕の冒険者生活最初の地、そこで再びユウ達の話を聞く事になるとは思っても見なかった。ユウは確かに冒険者になって何かが変わって来ていた事は分かっていた。でも、他のメンバーはどうだったのか。アイカは本当にユウに与していたのか。コハルやグロスは?

 ただ、考えてもしょうがない。

 それより、レフト・カサブレラの真意の方が気になる。

 僕はそう思いながら炎粉飾剣を手に取った。不思議な感覚の短剣。何か五感に不思議な感覚を覚える。この剣には何かあると思えてしまう。

 そして、あのレフトとは近い将来、必ず敵対する。

 そう思える。この剣を握ると不思議とそう思えてしまう。そしてもうひとつ、あの男は闇側の人間である。バンパイアではない、しかし決して人ではない。魔族。カールの言ったその一言が僕の脳裏を離れない。

 今日らこれ以上は考えるのをやめた。


 ただ、オーウィズの語った七本槍の道化衆への思いはそれ以上に嬉しい一言だった。

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