第三話 オツの港町と新女王下聖騎隊③
角笛が強く吹き鳴らされた。
それを聞いてオーウィズが立ち上がり、外へと駆け出した。僕もオーウィズを追った。
「予想通り来たな。新女王下聖騎隊?くだらない名前だ。どこまでもいっても偽物は本物にこだわる。」
僕達は町長宅の西にある少し小高い丘へと駆け上って行く、時より遠くを睨んでいる様な横顔が垣間見られる。先頭を行くオーウィズが丘の上で足を止めて遠くを眺めている。僕もオーウィズの横に並び彼と同じ風景を見下ろした。
オツの港町北方を大群がこっちに向ってひしめきあいながら向かってきていた。
ストナもその状況を見て僕に視線を送ってきた。
「どうするの?」
「僕に聞く?そこの王子様がなんとかしてくれるでしょ。」
僕がオーウィズを見ると、オーウィズは腕組みをしながらもう一度敵を睨みつけた。
「戦うしかないだろう。」
「これだけの敵は予想通りかな?王子様?」
「何が新女王聖騎隊だ。ほとんどがモンスター軍団だろ。」
「だから女王下でしょ。上がモンスターなら下もモンスターよ。でも、そのモンスターを退治出来なければ、こっちの負けよ。分かってる?」
「私の怒はそこではない。」
「ネーミングの悪さだ!」
「はあ?何言っているの?」
「おかしいだろ。新王下聖騎隊か女王下聖騎隊なら分かる。でも、新女王下聖騎隊っておかしいだろ!何が新なのかはっきりとしろ!」
「そんな事どうでもいいでしょ。それを言うなら七本槍の道化衆だってかなりネーミングセンス無いわよ。」
え!こっちに飛び火する?
「確かに七本槍もおかしい。七本ってなんだ?」
え!そこ聞く?オーウィズ達の視線がこっちを攻める様におくってきた。
「い、いや、七人の強い仲間を集めたいと言う思いだけど……。」
「そこ!」オーウィズが僕の声に反応した。何言って来るんだ?
「七人だろ?志が低すぎる。何考えてるんだ?冒険部隊って一生ものだぞ、それが七人?おかしいだろ!七部隊とか、七つの国をとかなら分かるけど……。七人?いやいや、何考えてんだ?」
僕に聞かないで下さい。
「それなら、道化衆はどういう意味?」
「知らない、それは教えてもらってない。」
「ストナ姉、よく名前変えなかったな!」
「変えたいわよ。でも、ナギトの意思が重要なの。どんなくだらないネーミングでも、隊長の意思を私は尊重するわ。」
ストナ、それって愚痴ってる?褒めてる?
「まあ、確かに、仲間の意思を継ぐ決意。それ自体嫌いではない。そうだな、七本槍の道化衆で我慢してやるか。」
「ちょ、ちょっと待って、今その会話関係ないだろ。」
オーウィズが一度僕の方見て無邪気な笑顔を見せた。僕達もつられて笑い合った。
つかの間の雑談の後でオーウィズは短剣を引き抜いた。
「私も父、祖父の意思を継ぐ!ここで負ける訳にはいかない。」
オーウィズはそのまま短剣を天へと向けた。それに合わせてストナが大剣を抜く。
「王は義理ではあれ、私の父。それに両親の愛したこの聖京都をバンパイアの手に渡す訳にはいかない。」
そう言うとストナも剣を上げたオーウィズの短剣に合わせた。
「僕だって、バンパイアに仲間奪われた。このまま手を引くわけにはいかない。」
そう言って僕は剣を2人に合わせた。オーウィズが僕達に視線を合わせて来た。
「七本槍の道化衆!行くぞ!」
「オー!」
その声は直ぐに辺りの音にかき消されていったが、僕の脳裏には強く響き渡ったのだ。
僕達はその後町の入口へ向けて出発した。
昨夜の砦と町長宅を襲撃した僕達の奇襲は概ね成功した。砦にいたウィンザーと言うバンパイアはいつの間にか居なくなっていた。しかし、今回の任務は砦(正確には砦の周囲にある砲台)を押さえる事である為、消えたバンパイアはそのままにしておく事になった。
町長宅の方も無事にモンスターを始末した。そこにたのはモンスターとあと元王下聖騎隊の隊員だった。彼は自身を新女王下聖騎隊と名乗ったのだ。
現在、実質的に王下聖騎隊は壊滅状態となっている。第1、2部隊はリリラ側につき、新女王下聖騎隊と名乗り。残りの物はセタ村で反乱軍として抵抗している。どうやら、僕の知人や友人達は全て反乱軍側にいる事が分かり一安心である。しかし、捕らえた隊員の話では、明日(今日)のお昼には新女王下聖騎隊の2番隊がオーウィズの首をはねにやって来ると言うのだ。僕は至急迎え撃つ準備をして新女王下聖騎隊が来るのを待っていた。
新女王下聖騎隊側に行った隊員は数十名。国王軍を含めても100に満たない。こっちは800近い聖都騎士団でオツの港町と街道を包囲しているので、向こうも簡単には手が出ないと予想していたが、その予想を上回る大群がオツの港を取り囲もうとしていた。
新女王下聖騎隊の隊長がこの大群のどこにいるのかは分からない。ただ見えるのは、魔狼や魔熊、ゴブリン、オークの大群団であった。
これが新女王下聖騎隊?と言いたくなるが、この大群に押される様なら、僕達の勝利はないのである。
僕はオーウィズの後を追いながら、北門まで走ってきた。
北門と言っても木て軽く補強してある門である。町の周囲も2メートルに満たない薄い木の壁が町を囲んでいるだけである。モンスターが突進してくれば、一瞬で壊れてしまうくらいの強度の弱い町囲みである。一言で言えば、無いよりはまし。もしモンスターの大群(こう言った方な正確な気がする)に怒涛の如く突っ込まれれば、即座に町は崩壊するだろう。守るより攻めるしか手は無い。すなわち乱戦への突入である。
戦略は単純、3方向から攻める。東側へマトゥキ率いる200兵が攻め、西からは街道を守っている8師団テルマーが半数200兵を動かす。
そして北門から第7師団の残り200の兵で街を守りながら全面を固める作戦である。
街道を守る200兵以外全ての聖都騎士団が撃って出る。向こうの数はざっと見て2000から3000程だそうだ。
数では数倍の差はある。しかし、こっちは精鋭部隊だ。モンスターの大群ごときに負ける訳はない。ただ、気がかりはこの中にバンパイアなどの上級モンスターの存在。そうなると話は変わってくる。
僕達が北門に到着すると、スルーニルの聖都騎士団が既に門の外に出て構えていた。
門の入口からグリイが近づいてきた。
「オーウィズ殿、敵の大将がオーウィズ殿お話をされたいと言っております。」
「カラコロ厶とか言ってましたか?」
「いえ、ブルドと名乗ってます。」
「ブルドか、全滅は難しそうだな。」
カラコロ厶は元聖騎隊一番隊長。ブルドは元聖騎隊二番隊長。ブルドはカラコロ厶の元部下。カラコロ厶をここで倒せれば、新女王下聖騎隊の8割くらいを削ったと言って過言ではない。しかし、彼はここにはいない。それを残念がっている様だ。
スルーニルの聖都騎士団は契約上このオツの港と街道の守り、このメンバーで戦うのはこの場所でしか出来ない。この戦い、オツの港町の防衛戦だけでなく、今後の戦況を大きく変える勝利が必要である。その為にはモンスターだけでなく、隊長を仕留めなければならない。元は仲間であるが、リリラがバンパイアと分かっていてバンパイア側へとついた者たちに同情する余裕はない。
オーウィズがグリイに守られる形で最前線へと出ていく。そこにはブルド率いる女王下聖騎隊(王下聖騎隊二番)の主要メンバーが馬に跨りこっちを眺めていた。ブルドは一歩前に馬を進めてオーウィズに話し始めた。
「オーウィズ王子。今、ここで降参するなら、あなたの命は助ける事を約束します。また、スルーニルの兵隊は無事にスルーニルに帰国する事も保証します。条件はそこにいる七本槍の道化衆メンバー全員の首を差し出す事です。どうですか?」
はあ?何でと思ったけど、リリラからしたらバーブルとミリアンを倒した僕達の首を要求するのは当然か。
「いいだろう。」
おい!良いのか?よくないだろう。と僕が答える前にオーウィズは話を続けた。
「今ここに反逆者キンデルダルリリラの首を持ってきたら考えてやる。」
「それはキンデルダル様に対する反逆の意ありと取って問題ないか!」
「何がキンデルダル様だ!女王下と言う部隊名を名乗った時点でキンデルダルへの忠義はないと言っているだろう。バンパイアの闇の力を手に入れなければこれ以上強くなれないと忠義を捨てた時点でお前達に勝利の文字はない。今日ここで首を取り、祖父と父の墓標に添えてやる。喜べそれが貴様の最後の忠義だ!」
「黙れ!クソガキが!いいだろう!我々と他国の雑兵部隊とどちらが強いか決着を付けてやる。やれー!」
そう言ってブルドは剣をこっち傾けた。それを合図に魔法の矢が飛んできた。火、氷、風?様々な矢に交じり、槍などもこっちに飛んできた。
「風速剣!」
「火炎烈風!」
振り注ぐ矢に向けてこちらから業火と暴風の剣技が矢に向かっていくように天空の轟音となって鳴り響いた。
その後で降り注いで来た矢が全て勢いを失って落ちていった。業火は言わずと知れたグリイだ。そして、暴風を繰り出した人物は聖都騎士団第7師団長ジェラルである。
ジェラルが突撃の合図をするとメンバーは女王下聖騎隊に向けて突っ込んていった。
あたりから金属のぶつかり合う音が響き渡り始めた。戦況はこちらに分がある様だ。ただのモンスターと鍛えられた聖都騎士団では明らかに力の差は明白である。
戦況を伝える音が徐々に遠ざかっている様に感じられた。先頭にいたブルド達も一度奥へと引き下がった様だった。
ゴブリン軍団の中には上級クラスになるとスキルを使う輩が現れる。そこが厄介。スキルも下級スキルから上級スキルまで使ってくる輩はいる。
金属音よりスキルの爆音の響く事が多くなった。戦況が変わったのだろう。
それでも、こちらの優位は変わっていなかった。
問題はこのどさくさに紛れてブルド達が逃げる事である。それだけは避けたい。
僕達は戦況を確認しつつ、ブルド達の動きを把握しようと探っていた。
「くそ、見失ったな。」
オーウィズが悔しそうに声を上げる。
「そんな簡単にこっちの思い通り動かないんだから、その都度軌道修正するのがあなたの努めでしょ。」
ストナがオーウィズの背中を叩いた。
「ストナ姉、わかってるよ。ナギトの眼でブルドの動きはとらえられないか?」
僕は再度マナ寄せ開眼する。マナがあちらこちらで動いているのは分かるが、誰のマナかまでの特定は難しい。
「誰かまでは……。」
「そうか、分かった。全員、前方向への注意を怠らない。特に馬の動きに注意。」
何名かの隊員が「は!」とオーウィズに敬礼した。
ここはオツの港町の北門。
僕、ストナ、オーウィズ、バキア、ラーナキュアルの七本槍の道化衆?とグリイ率いる聖都騎士団第七師団の30名程でオーウィズを守る様に戦況を確認していた。こちらの頭はオーウィズなので、トップを守りつつ攻める布陣を敷いている。僕達より20メートル程前に支援魔法攻撃部隊が並び、そのさらに前を攻撃隊が円周上に攻めていた。
オーウィズを中心に3重の囲いを作っている布陣である。今のところ、陣形の崩れもない。唯一の難点はブルドを見失った事だろう。
右手側で大きな砂煙があかった。
何かが起こった。
見ると3メートル以上ある巨人が3体程暴れていた。
「巨人か?」
「ゴブリンオーガの類だな。」
「そんなモンスターどこにいるのよ。北の山中?これでもテイルエンドの巨大モンスターはあらかた狩ったつもりよ。」
「ストナ姉が見逃してなければ、どこかから召喚されたか。」
「召喚?どこから?」
オーウィズは肩をすくめた。
「いい加減。」
「知らないから、仕方ないだろ!」
2人が言い合っていると、左手側から黒い影がこっちに向って来た。「ブルド!」だった。
右手方向に注意がよっている合間をぬって、一気に突破してきた。目的はオーウィズ王子。
ブルド達新女王下聖騎隊が駆け上がってくる。騎馬兵3騎だ。
元王下聖騎隊2番隊は騎兵力が高いと言われているらしい(ストナ談)。2番隊は帝国の騎兵隊から馬術を伝授されている。特に上位6名が有名であると言う。
隊長ブルド、エニデール、フバートル、ホスタリ、オルホン、バートルは聖騎隊6騎衆と言われているとか。(僕は聞いたことはないけど。)バートルはノルテの洞窟で亡くなっているので、実質は5騎になる。
隊長ブルドの愛刀は大聖剣アヴァロン。剣を振るだけで聖なる稲妻が走ると言われている。たぶん属性的には聖と光を持つ者が使えるのだろう。聖騎隊最強と称される1番隊のカラコロ厶やマーロンではなく、彼がその大聖剣を受け継いでいる。魔王大戦の時、8勇士のローゼルがスルーニル王から授かった聖京都一の名刀と称されている。味方なら頼もしいが敵ではこの上ない強敵である。
こちらに攻めてくるもう2騎は大槍使いのエニデールと小槍使いのフバートルだ。この2人は双子だ。兄のエニデールが大技を繰り広げる間に弟のフバートルが小槍の小技や投げ技で相手を押さえるのが得意と言われているらしい。
廃村ハイデールで戦った双子バンパイア剣士に近い戦い方をしてくるのだろう。(さすがに魂の入れ替えはないと思うけど。)
馬の足音が力強く地響きの様に伝わって来る。
スルーニルの兵がオーウィズを囲むように陣を敷く。僕とバキアが右手側、ストナとラーナキュアルが左手側に分かれて相手と対峙した。
狙いはオーウィズ、ただ一人。たぶん騎兵の流れから、ブルドの聖剣技で隊列を崩して、左右の2人が両サイドと威嚇している間にブルドが孤立したオーウィズを撃つ作戦と思われる。
しかし、こっちにはグリイがいる。グリイがブルドと対峙して逆に向こうの陣を崩した隙に僕とストナで両サイドの2人、いや馬を押さえる。騎馬の力を失ったところをスルーニル兵一斉攻撃で畳み掛ける。
オーウィズはブルドの動向を確認した瞬間でこの作戦を考えついたのだろう。僕達に伝えて戦闘体制を取るように指示した。
マナ寄せ開眼を使う。3騎のマナが僕の脳裏に映る。その時、この戦場において違和感が僕の脳裏を包んだ。なんだ?これは?何かが違う。なんだ。僕達の布陣に問題はない。向こうも3騎がこっちに向ってきている。ここまではオーウィズの予想通りだ。なんだ?何がおかしい?
ブルドが剣を振り上げた。その時、違和感の正体に気が着いた。そう言う事か。自分なりに納得してしまった。
ブルド達の狙いを間違えていたのだ。
彼らの狙いは僕だったんだ。
オーウィズを倒してこの戦いを終える事が問題ではないのだ。あえて言うならオーウィズはどうでも良かった。重要なのはリリラにトドメをさせる力を持つ僕の存在だったんだ。
ブルドの剣先にマナが剣先に集まる。このマナの動きは見覚えがある。マーロンが使っていた聖閃光だ。僕は剣を構える。マナ返ししか防ぐ方法はない。この斬撃を全て返す事が出来るのか?
でも、やるしかない。
ここで簡単に僕が崩れれば、それを機にオーウィズ達へ攻撃の波紋が広がる可能性もある。
確かにリリラを倒せるのは今の時点で僕だけかもしれない。けど、この戦いで本当に必要なのはオーウィズだ。彼を失う理由にはいかない。
ここでどうなろうとこの一撃は僕が防ぐ。
剣先からマナがあふれ出す。大聖剣アヴァロンがブルドのマナと融合してとてつもない力が周りに波及している。
来る。
その時、後方で新たなマナの力が光出した。これは?スキルを覚えた時の流れるマナだ。
『火炎繊槍』
グリイの声だった。
その声と同時に僕の左手後方から炎のマナの練られた様な細い閃光がブルドに向けて放たれた。その閃光はブルドの肩を貫いた。それと同時にブルドは剣を落とし、そのまま後方へと落馬したのだった。
練られたマナ。
そのマナはライガの力に近かった。
「大丈夫か!ナギト!」グリイが僕の前へと壁になる様に立ち塞いだ。ブルドの落馬で残りの2騎の勢いが止まった。2人は馬を歩かせてブルドに近寄り、何かを話している様だった。
「グリイさん、今のマナは?」
「お、わかるか!俺様の最強スキルだ。今ひらめいた。」
「何かマナが異様に凝縮されている様に感じたんのですが……。」
「さすが不思議な目の持ち主だ。昔、セアリー団長に負けた時言われた事を思い出した。『マナを細く槍の様に集めろ!そのマナを渦を巻く様に細く細く針の穴を通す様に細くしろ!』今、少し分かった気がした。その言葉が脳裏を駆け巡った時に今の技を生んだ。どうだ。」
マナの気配が歪む。
グリイもそれに気づいた。
後ろでブルドが立ち上がった。大聖剣アヴァロンを取り上げた。
来るのか?
エニデールとフバートルが馬を降りた。
こちらを見て槍を構えた。エニデールが先頭に立ち、大槍を構え、右手側に立ち小槍を構えている。
その裏でブルドがエニデールの乗っていた馬にまたがった。そして、剣をしまった。
何をするんだ?
僕とグリイも剣で対抗する様に身構えた。ブルド達の後方の空が黒くなっていく。雨?
違う。ドラゴンだ。
ワイバーン系のドラゴンがこっち向って大量に飛んできている。
なんだあれは?
ブルドが後ろを振り向いてから再びこっちを見た。
「時間だ!なかなか感のいいヤツだ。じゃあな!」
そう言うと、ブルドは馬を後退りさせて東の方へ駆けていった。
「まて!」グリイの声がむなしく響いた。
ブルドに注目していたが、いつの間にか、エニデールとフバートルも2人で一騎の馬に乗ってブルドを追って駆け出した。
「しまった。」
僕達が気づいた時には既に遅く逃がす形となってしまった。
しかし、僕達の戦いはここで終わった訳では無い。目の前にはドラゴンの大群か向ってきている。
この戦いはまだ終わりが見えていないのだ。




