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七本槍の道化衆3 (テイルエンドとミルロワールの王女)  作者: 熊野文助


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第二話 ノルテ王と冷気の泉⑤

 ノルテの首都、王都ベッゲンに到着したのは、霊薬を手に入れて3日後の事だった。

「治るのかな?」

「傷だけならと言う話だけど。」

 霊気の泉の奥深くに出来るマナの結晶。「霊気の霊薬」と勝手に僕達が名付けた名称だ。

 サカアエの言う話ではどんな傷をも治す事が出来るらしい。但し、傷のみしか治せない。ノルテのトロソム王女の痩腐病のそのものを治す力は無いと言うのである。

 痩腐病とは身体の表層部が腐って行く病気である。表層面の傷が癒えれば、それは患部自体を癒すことになるのでは?その可能性だけに期待してベッケンまで戻って来たのであった。

 しかし、城門をくぐった瞬間、その期待が打ち砕かれた様に感じた。

 王都内に掲げられている国旗の下に黒の旗がなびいていた。ノルテではこれは喪に服する事を意味する。


 トロソム王女の死を街中が悲しんでいた。


 その日、僕達は以前使っていた宿に宿泊する事とした。今更霊薬を持って行っても全く意味がない。

 しかし、このまま帰る訳にはいかない。魔晶門のカギを貰わないといけない。冷気の泉まで行ってきたのだから。

 ただ、この状況でカギを要求する事も出来ず、喪が明けるのを待つことにした。



 お城から使者が来たのは僕達が王都に戻って翌日の事だった。

「ガイランゲル王妃が皆様を待っておられます。至急王城までお越しください。」

 それだけを告げると使者は戻って言った。

「どうする?行く?」

 ストナの問いに間髪入れずオーウィズは「行く」と答えた。

「霊薬はどうするの?」

 今度は僕に質問してきた。

「要るかどうかは分からないけど、この霊薬と交換でカギをもらえればいいじゃない。それより喪服はどうしよう。」

「もう手配してある。心配要らない。まず、喪服に着替えて王城へ行くぞ。」

 そう言ってオーウィズは僕達を連れ出した。

 昨日の王都へ着いた時点でこの状況を想定して、お店を探して、準備していたと言うのだ。さすがとしか言いようがなかった。



 僕達が王城へ入ると最初ガイランゲル王妃に会った王女の部屋に通された。

「ご苦労様。冷気の泉まで行ってくれてありがとう。」

 テーブルの上には魔晶門の鍵が無造作に置かれていた。王女の亡骸はまだベットの上にそのまま置かれていた。

「ごめんなさい。何も考えられなくて。このままこの子を葬ってあげるべきなのは分かっているのよ。けど……。」

 僕は何かに導かれる様に許可もなく、王妃の隣に立ち、王女の亡骸を眺めた。

 最後まで病と戦った女性の姿がそこにはあった。身体中の皮膚がただれてかきむしった様な痕が全身を覆っていた。ただ、顔だけは静かな表情で眠りについている様だった。

「これでもこの国一番の美女と言われた子だったの。面影もないでしょう。この病が憎い。怒りしか湧いてこないわ。」

「失礼かもしれませんが、この霊薬はお嬢様の為に取ってきたものです。使っても良いでしょうか?」

 死人に霊薬を使っても蘇る事はない。そんな事は百も承知だった。けど、僕に出来る唯一の事だとその時思ったのだ。

 僕は霊薬を取り出し、彼女の額の上にその霊薬を置くように注いだ。

 霊薬は白く光を輝きながら、彼女の中へと消えていった。暫くすると、彼女の皮膚が光り輝き始めた。何かが起ころうとしていた。何が起ころうとしているのか分からないけど、密かに彼女の蘇る事に期待した。霊気の泉の深くに出来るマナの結晶。それに蘇りの力があってもおかしくない。

 光はゆっくりと光が弱くなっていく。弱くなると言うより、光が体内へと吸い込まれていく様だった。いつの間にかストナやオーウィズだけでなく、王妃の次女達も王女の姿をのぞき込み魅入っていた。

 光の引いていく皮膚が綺麗な状態に戻っている事が目視で確認出来る。

 密かに期待が高まる。


 トロソム王女は病気発症前の身体に戻っていた。

「綺麗。」

 彼女姿は美しかった。この国一の美女の肩書きはお世辞ではないと感じた。


 しかし、彼女が再び目を覚ますことは無かった。


 彼女の姿が元の姿に戻った事で王と王妃は国葬の準備を進める事が出来た。

 国中の民が王女の死を嘆き、葬儀に参列した。悲しみの中に何か温かいものを感じた葬儀だった。


 


 その日の夜、僕達は再び王城へと呼び出された。

「ナギトさん、本当にありがとう。これをあなた達に贈ります。」

 王妃はそう言うと指輪を7つ僕の手の上に乗せた。その指輪は魔晶門と同じ素材で出来ていた。透明な玻璃の中に大理石の様な模様がひしめいていた。

「それは魔晶門の指輪と言います。」

「魔晶門の指輪?」

「この指輪があれば魔晶門が閉じていても出入りが出来る指輪です。」

「え?それは皆さんが魔晶門へ逃げる時に大事なものではないのですか?」

 王妃はにっこりと笑って手に持っている魔晶門のカギを撫でながら言った。

「そうです。それがあれば、仮に門が閉じても逃げ込める最終手段です。」

「そんな大事なものを受け取る事は出来ません。」

 僕はその指輪を王妃に渡そうとしたが、王妃は受け取ろうとしなかった。

「もし、この指輪が帝国に奪われた場合どうなりますか?」

 僕はそれに答える事が出来なかったが、オーウィズが代わりに答え始めた。

「間違いなく、その指輪を精鋭部隊に渡して、魔晶門を内部破壊する様に手を打つでしょう。」

「私もそうします。ですから、信頼出来るあなたがたにこの指輪を託したいのです。そしてある事をお願いしたいのです。」

「なんでしょうか。」

「この城にはオーバーテクノロジーの一つが眠っています。どんなものかは言えません。帝国にこの城を奪われた時にはそれを破壊して欲しいのです。」

 僕達は顔を見合わせた。

「どうやってですか?」

「その時教えます。この部屋に必ず来てください。」

「でも王妃がここにいるとは……。」

「もちろん、私は捕まっているかもしれない。死んでいるかもしれません。しかし、必ずわかる様にしておきます。この部屋に来てください。」

 僕達はもう一度お互いを見合わせてから「分かりました。」と答えた。

 それを聞いて満足したのか、魔晶門のカギを僕達に譲ってくれた。

 ここ数日一番泣いていたのはバキアだった。

 

 

 僕達七本槍の道化衆はマトゥキとマリアンの7人と帰路についただった。

 



 スルーニル、王都ロトアルで最初に待ち構えていたのは王女様だった。

「さすが我が弟子。本当にカギをもらってくるとは驚きだ。」

 ロトアル城に入るやいなや。待ち構える様に仁王立ちで立っているセアリー王女がいた。

 僕達は王女に魔晶門のカギを見せた。

「これがカギです。」

 王女は手に取って眺めて言った。

「思っていた程のマナを感じないな。やはり、特殊なマナでは無く、何か機械仕掛けでこのカギが使われる様だな。」

 そこまで口にすると、王女の隣にいた女性が王女の耳を強く引っ張った。

「師団長。これから大事な会議ですので、油を売らないで。急いで下さい。」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、いま調べものが……。」

 その女性はセアリー王女の耳を更に引っ張った。

「調べもの?それはあなたの仕事ではないでしょ。そもそもおのカギを頼んだのはお父様よ。行くわよ。」

「ちょっと、お姉ちゃん。」

「お姉ちゃんではありません。ケリーナと呼びなさい仕事中は。」

 と、彼女が連れ去られていった。その後でカギを持ってもう一人の女性がやって来た。

「こちらお返しします。父が待っていますので、ご案内いたします。」

「あなたは?」

 オーウィズがそう言うと、その女性は頭を下げた。

「私は第六王女で第三師団の会計係をしております。ティマと申します。先程の姉はケリーナ。姉は第五王女で書記をしております。私達3人で第三師団をまとめております。妹が色々とご迷惑をおかけしました。」

 そう言うと、ティマは再び頭を深々と下げた。そして、僕の方を見て笑った。さすがに姉妹、よく似ていた。

「ナギト殿の事は妹からよく聞いております。あまり大きな声では言えませんが、この任務は不可能と言われている人がほとんどだったのですが、妹だけは必ず成功すると言い切っていたので、うれしいと思いますよ。それではこの部屋で父が待っております。」

 そう言うと、ティマはドアをノックして、僕達の中に入る様に促した。部屋の中には王と数人の人達が座っていた。


 僕達はテーブルに座る様に促された。

「よくやってくれた。早速カギをもらっても良いかな?」

 僕は王に魔晶門のカギを手渡した。そのカギを食い入るように見始めた。そして周りにいた取り巻きにも渡して何人で確認していた。

 僕達はその場でただ待っていた。

「お、すまない。あまりにも立派なものだったので、魅入ってしまった。確かに文献に書かれていている通りの物だ。ご苦労。褒美を遣わそう。」

 王はそこまで言うと隣の大臣らしき人物に何かを指示した。大臣らしき人物は魔晶門のカギを持って出ていった。そして、暫くすると数人の学者らしき人物が部屋に入ってきた。学者達は一枚の地図と何か模型を持ってきて、テーブルの上に置いた。

「はじめまして、私はダウプトと申します。第7師団補佐を担っております。これからオツの港町上陸作戦の内容を説明致します。」

 僕達は王を見ると、王は軽く頷いた。

「約束だ。お前達に第7師団、第8師団の2師団800名の兵士を貸してやる。船は200名乗りの帆船1隻だ。大きくは兵を動かせない。下手に動かせば、帝国や近隣諸国から戦争を仕掛けると警戒や逆に攻撃を受ける可能性がある。その為、慎重に兵を動かす必要がある。彼の言う事を聞き入れてほしい。」

 王がそこまで話すとダウプトが地図に手を置いて再び話し始めた。

「まず、炎英新都へ出向いてもらい、我が国の船が火山島へ上陸する許可をもらう。その許可が降りたら、100人ずつ6回に分けて火山島へ兵士を送り込みます。兵士は火山島で手漕ぎボートを作り海峡をボートで渡る準備をします。今から丁度1ヶ月後の新月の夜にボートで大陸へ移動します。その翌日、我が国の帆船がオーウィズ王子を捕らえた言う名目で聖京都側へと引き渡す為にオツの港町へ入ります。同時に陸地部隊と合流してオツの港を押さえます。約半年。月2回程、我が国へ帆船を往復させて必要物資を運搬します。これがルイーゼ王女と私達が立てた当初の計画です。」

「姉が……。」

「はい、当初は300名程の応援を予定しておりましたが、今回皆様の協力で魔晶門のカギを手に入れられたので、800名の部隊を送り込む事ができます。それなので、ボルケーノ側への街道も一緒に押さえます。今から言う事が重要です。これが失敗した際には我が国はこのミッションから直ぐに手を引きます。肝に命じて下さい。」

 そう言うと、ダウプトは指でブイの字を見せつけて来た。

「ひとつはオツの港からの砲撃を防いで下さい。帆船は1隻しか出せません。その帆船がダメージを受けると、支援物資の輸送が不可能となります。七本槍のメンバーには先にオツへ行き、前日の時点で反旗を翻してオツの港を奪って欲しい。早すぎると、港街の争奪戦が始まる。そうなれば、輸送どころの話ではなくなる。遅ければ帆船が攻撃される。このタイミングを間違えて無い様にしてください。そして、もうひとつ。クラスタルを味方に引き入れて下さい。」

 

 クラスタルとは大陸中央部の北側にある地方の呼び名である。基本的には地都イーダーオーツを中心とした連合国家を指している。ドワーフと人間が共存する地域であり、政治的には中立的立場を維持している。

「クラスタルは元々中立立場なので、我々に協力をさせるのはなかなか骨の折れる仕事になると思われます。」

 オーウィズがそこまで言うとダウプトも頷いた。

「分かっております。しかし、この作戦は我々スルーニルが反乱軍に協力していると言う事実を帝国に知らせてはならないのです。例え、今聖京都を動かしている人物がバンパイアでも関係無く、帝国は聖京都へ援軍を入れてくる。そうなれば、この戦い勝ち目はありません。大切なの事は国外に情報が回る前に聖京都を押さえて、バンパイアを倒す事にあります。」

 僕は声を上げた。

「それなら、帝国にも協力をしてもらえば……」

 僕話し終える前にオーウィズが僕の話を止めた。

「それはだめだ。そのまま聖京都を帝国に乗っ取られる可能性がある。」

「その通りです。ナギト様、この戦いは戦争ではありません。あくまで、バンパイア退治です。我々がオツの港を押さえるのは、支援物資の援助と同時に情報が国外へ流れる事を防ぐためです。そして、情報の流出ルートは南と北です。」

 そう言うとダウプトは地図の聖京都テイルエンドの北側の街道を指差した。

「この街道を半年間閉鎖する。」

 その時、ひとつの疑問が生まれた。

「でも、一般人の出入りは出来ても、冒険者をとどめる事は出来ないのでは?」

「そうです。ですから、クラスタルを味方に付けるのです。北の街道には土砂崩れがあり、通行止めと嘘の情報を流してイーダーオーツ軍に街道を封鎖してもらう。北はイーダオーツ、南は我々スルーニル。両国でテイルエンドを封鎖している間に皆さんはバンパイアを退治してください。半年……いや、出来れば3ヶ月で。街道を封鎖しても出口はそこだけではない。情報はいずれ漏れる。リミットは帝国海軍が動き出すまでです。帝国が動き出せば、我々も応戦するわけにはいきません。街道封鎖を解き、スルーニルへ帰国します。以上が説明です。何か質問は?」

 

 要するに、オツ港を落とした後にクラスタルのイーダオーツへ援軍を頼み北の街道を封鎖してもらう。その間に聖京都にいるリリラを倒して、聖京都からリリラの手のものを追放するは。リミットは帝国が気づいて海軍をおくって来るまで。

 机上空論でなら、それほど難しく無い。クラスタルへはマナの剣を受け取る為に行かなければならない。受け取りの際に援軍を頼めば時間的にも問題無い。積極的に動いていけば、なんとかなるだろう。

 しかし、問題はどれだけ仲間がいるのかだ。当初はリリラの術で洗脳していると思っていたが、実際には意思でリリラ側に付いている人も少なくない。

 そう言う人が厄介だ。ほとんどがリリラ側に付いていた場合は、オツの港を落とす事自体が難しくなる。

 僕は気が気でなかった。オーウィズの顔を見ると、思ったよりすがすがしく見えた。

 オーウィズはスルーニル王に頭を深々と下げ礼を言って、僕達に部屋を出るように促した。


「ストナ姉、ナギト。行くぞ、出発の準備だ。」

 そう言ってオーウィズは部屋から出ていった。僕はオーウィズを追って部屋を出た。

「ま、待って。あの作戦でいいの?」

 オーウィズは笑いながら答えた。

「他にあるか?」

 あれば意見している。僕は首を傾げた。

「あれは姉が立てた作戦だ。私達はあれに乗るしかない。可能性は確かに高くない。しかし、不可能では無いはずだ。まず、私達でオツを落としてから、スルーニル軍をオツと街道へ配置する計画だ。その後にナギトとストナ姉にはクラスタルへ行ってもらう。私は残っている仲間と合流してリリラ退治の作戦を立てて待つ。ナギト達が戻ってきたら、作戦を実行に移すぞ。」

 ストナがオーウィズに質問を加える。

「結構綿密な計画だけど、クラスタルや炎英新都には根回しはできてるの?」

「炎英新都側には聖九華戦姫のジニアが交渉をしている。もちろん、聖京都を攻める事は伝えてない。ただ、火山島の調査をスルーニルとしたいと伝えてあるだけだ。」

「そんなんで許可してくれる?火山島って簡単に許可されないでしょ。」

 オーウィズはナギトとストナを指差した。

「いるだろ、うちにはマナ獣に会っている人物が。姉からナギトの名前を使いたいと少し前に連絡があり許可している。」

「僕?」

 何で僕なんだ?オーウィズも会っているだろ。と言いたかったが、それ以上は口を塞いだ。ストナも同じ考えの様で何で?と言う表情でこっちを見た。

「ナギトの名前を出す必要ある?」

「一応、マナ獣と取引をしたのはナギトと言う事になっている。もちろん、炎帝御輪をもらった事は避けているが、ナギトがマナ獣と取引をした事にさせてもらった。そして火山島の調査を命じられたと言う事でスルーニルと合同で調査をしたいと炎英王には伝えてある。」

「呆れた、常識はないの?ナギトの事が帝国に知られたらどうするのよ。」

「ナギトを直接出してない。七本槍の道化衆のリーダーと言う伝え方だ。とにかく、今しないといけないのは聖京都を正常に戻す事だ。」

 ちょっと2人の論争が白熱してきた。

「まあまあ、二人とも……。」

「黙ってなさい!」

 ……はい……。

「百歩譲って、七本槍のリーダーがマナ獣に何の調査を命じられたの。私ならスルーニルではなく自分達が手伝うって言うわよ。」

「分からない。」

「はあ?」

「姉が何を理由に交渉したかは分からない。ただ、さっきジニアに確認したらところ、炎英王からは火山島へ入る事の許可は出たそうだ。」

「そう、……高くつきそうね。」

「間違いなく、マナ獣に会わせろと言って来るだろう。」

 そこまで話すとオーウィズは話からハブられていた僕の方を見た。

「そう言うわけだ。火山島へ言ったらまず、マナ獣に会い、今の事を伝えてほしい。あと、炎帝御輪へのマナ補充も忘れるな。」

「オーウィズは何をするんだ。」

「火山島でのスルーニル誘導の手配をする。」


 僕は身支度を整えてスルーニルを後にした。いよいよ聖京都へ戻る事になる。

 いつもは家に帰る気分だけど、今回は魔王城へ向かう様な気分だった。戦いの時は刻一刻と近づいてきていた。


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