第20話 お嬢様と傭兵少女とコンビニ
そして放課後の教室。
授業が終わると同時にリリが詩織の席に駆け寄る。
「シオリ。行く」
「あらあらあら、そんなに急がなくても大丈夫ですよぉ」
「……」
リリが無言で詩織を見つめる。
そしてそんな二人を陸と麗華が見つめている。
さらにそんな四人の動向をクラスメイト達が興味深そうに見つめていた。
詩織は帰り支度を終えると、麗華の元に駆け寄る。
「麗華ちゃん。今日はリリさんを少しお借りしますね」
「えっ?」
麗華が驚いて目を丸くする。
「リリさんと、ちょっとお買い物があるんですよぉ」
「ん」
詩織とリリが小さく頷いて見せる。
「買い物なら、わたくしもご一緒しますわよ?」
「うーん。麗華ちゃん……連れてって良いのかなぁ」
詩織が顎先に指を当てて思案する。
そして判断をリリに委ねる事にする。
「リリさん。麗華ちゃんが一緒でも構わないかしら?」
「ん。別に構わない」
その答えを聞くと、詩織がにっこりと微笑みながら心配そうな麗華に話し掛ける。
「大丈夫ですよ。麗華ちゃんもご一緒ですね」
詩織がクスクスと笑う。
それを見ていたクラスの男子達から盛大な溜息が上がる。
「尊い……美少女が三人で……」
「あの破壊力は凄い……芸能クラスにいるみたいだ」
「ああ、こうしてずっと眺めていたい」
男子生徒の煩悩に満ちた言葉が零れ出る。
そして同じく、その様子を見ていた陸。
つい、麗華たちに話し掛けてしまう。
「俺は付いていった方が良いか?」
すると、リリがゆっくり振り返り陸に言う。
「だめ」
「えっ?」
「リクは付いてこないで」
「……」
陸の表情が凍り付く。
「おいおい、あいつふられてやんの」
「調子に乗って美少女を侍らしてるからだ……いい気味だ」
「ぷぷぷ。これはこれで、ずっと眺めていたい光景だな」
クラスの男子達が勝手な事を言って盛り上がっている。
暫くかたまっていた陸だが、小さくため息を吐くと片手を上げる。
「わかった。女子だけで楽しんで来ればいいさ」
陸はそう言うと、鞄に教科書を詰め込み始める。
「陸……」
麗華が小さな声で陸の名前を呼ぶが、その声は陸には届かない。
そして教科書を詰め込み終えた陸は、もう一度片手を上げて挨拶する。
「じゃあ、また明日な」
「はい。また明日」
詩織だけがにこやかに挨拶を返す。
そしてリリは無表情で、麗華は少し困ったような顔で陸の背中を見送るのだった。
◆
「ねえ、麗華ちゃん。本当にこの車で行くの」
「他に何か方法がありまして?」
「いや……いいけどね」
詩織は少々困惑していた。
此処は学園の正門。
詩織たちの前には黒塗りの高級車。
そして早乙女が後部ドアを開けて待機している。
空気を読まない麗華が早乙女に指示を出す。
「詩織が行きたい所があるそうなの。そこへ行ってくれるかしら」
「かしこまりました」
早乙女が丁寧にお辞儀をする。
「さあ、どうぞ」
麗華がそう言うと、リリがさっさと車内に入る。
「はう……これは想定外ですぅ」
「何か仰いました?」
「なんでもないですぅ」
詩織はそう言って諦めた様に車内へ。
そして最後に麗華が優雅に車内に体を滑り込ませる。
早乙女がドアを閉め、運転席に戻ってくる。
そしてシートベルトを装着しながら後ろに振り返る。
「どちらまでお連れすればよろしいですか?」
「えーと、一番近いコンビニをお願いします」
「……かしこまりました」
早乙女は無表情で頷くと、車は静かに発進するのだった。
◆
「ねえ、リリさん」
車内で不意に麗華がリリに話し掛ける。
「ん」
「先程の教室でのことなのですけど」
「……」
リリが車窓を見るのを止めて、麗華の方へ振り返る。
「なに?」
「……その陸に……あの言い方は少々冷たかったのでは?」
リリは目をパチパチとさせる。
「えっ」
そしてワンテンポずれてから声が出た。
「そんな事言ってない」
「リリさんにそのつもりが無くても、あれはそう聞こえてしまいますわよ」
リリの脳裏に教室での出来事が浮かぶ。
「でも、リクについてこられると困る……恥ずかしいし」
リリが真剣な表情でそういう。
「(ああ、この子はこういう子でしたわね……)」
麗華は困ったような表情で、リリを見つめる。
真ん中に挟まれた詩織だけが、このカオスな空間を楽しんでいた。
「(佐伯君に話してあげたい……けど乙女の秘密ですからねぇ)」
そうこうしているうちに、車はコンビニ到着するのだった。
◆
高級住宅街の一角にあるコンビニエンスストア。
その駐車場に黒塗りの高級車が静かに入ってきた。
車が止まり、運転席から早乙女が出てきて後部ドアに向かう。
ドアを恭しく開けると、乗車時と同じように優雅に麗華が車外に姿を現す。
続けて詩織が申し訳なさそうに、そしてリリは何も考えず車外に出た。
麗華がコンビニエンスストアを興味深そうに見つめる。
「いつも思っていたんですの……此処は何のお店なのかと」
「……ひょっとして麗華ちゃん、コンビニ入った事無いの?」
「はい」
そしてもう一人。
リリも興味深そうにコンビニを見つめていた。
「リリさんはコンビニ知ってますよね」
「うん。でもこんなに明るくなかった」
リリはそう言いながら店内の天井を指さす。
そこにはLED照明が、これでもかというくらいに煌々と輝いていた。
「……とにかく入りましょう……」
詩織が先頭になって店内に入る。
入店を知らせる電子音が鳴る。
「あら……賑やかですこと」
麗華が目を丸くしている。
「それにたくさんの商品が並んでいるのですわね」
「コンビニだからね」
詩織は立ち止まっている麗華の肩を押す。
「ほら、此処に止まっていると迷惑だから、奥に行きましょう」
「詩織、そんなに押さないでくれますか」
「はいはい。行きますよー」
そしてそんな二人の後をリリは静かについて行く。
「はーい。此処がチョコレートコーナーです」
詩織が指さす先には、様々なチョコレートが棚に並べられていた。
「これがチョコレート……ですか?」
「そうだよ」
麗華が興味深そうに棚を見つめる。
「チョコレートってケースに入っている物だと思っていましたわ」
そう言って麗華は両手で大きな四角形を作る。
「麗華ちゃんの家ではそうだと思うよ……」
「むっ」
麗華と詩織が漫才のような会話を繰り広げているなか、リリは一つのチョコレートを見つめていた。
「ハーシーズ……」
それはリリの知っているパッケージとは異なるものの、ロゴは同じハーシーズのチョコレートだった。
「レーションの時。これが入ってるとすごく嬉しかった」
リリはそう言ってチョコレートを掴む。
「シオリ。これにする」
「……はい?」
詩織はリリの手の中にあるシンプルなチョコレートを見つめる。
「もっと可愛いものとかありますよぉ?」
「これが良い」
そう言って、リリがギュッとチョコレートを握りしめる。
「はいはい。わかりました。では、それにしましょう」
一方、麗華はかわいいイラストの描かれたチョコレートを見つめていた。
「麗華ちゃん、それはお子様向けのチョコレートですよ?」
「し、知ってますわっ」
「(コンビニも知らなかったのに……)」
詩織は心の中で思っても、決して表情は崩さない。
「じゃあ、レジに行きましょう。麗華ちゃんも買うのならレジに行きますよ」
「わ、わかってますわ」
レジで麗華がチタンのカードを出してきて、少々騒ぎがあったのは後ほど。
こうしてリリは目的のチョコレートを購入したのだった。
「(チョコレート買うだけでこんなに疲れるなんて……佐伯君ってタフだったんですね)」




