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第13話 お嬢様と留学生とアジフライ定食

 

 休み時間の度にリリに近づこうとするクラスメイト達。


 それを牽制する麗華。


 それを見て詩織が調停役になる。



「まあまあ、リリさんも初日だし、落ち着かないと思うの。もう少し様子を見てあげましょうよ」



 詩織にそう言われてしまうと、何となく毒気が抜かれてしまう。



「それに麗華ちゃんも少し過保護ですよ。もう少しリリさんの自主性を大切にしないと」


「(リリの自主性に任せたらとんでもない事になるぞ(なりますわ))」



 陸と麗華の心の中の声が綺麗に重なった。



「そんな訳で、お昼休みですし、食事位ご一緒させて頂いても良いですよね、麗華ちゃん」



 当たりはソフトだが、『否』と言わせない圧力があった。



「……仕方ありませんわ。ご一緒しましょう」



 そう言って麗華とリリが立ち上がる。


 その姿を見ている陸に麗華が話しかける。



「何をしているんです。貴方も一緒ですわよ」


「えっ、俺も?」



「当たり前ですわ。リリさんの世話役は本来、陸ではなくて?」


「「「「えええええっ!?」」」」



 クラスの中に悲鳴のような声が上がる。



「何でアイツが」


「高校デビュー失敗したくせに」


「ボッチのくせに、何で回りが美少女だらけなんだっ!!」



 軽い殺意を感じた陸が、身体を震わせる。


 リリも怪訝そうな顔でクラスの中を見回す。



「どうしたんですの、リリさん」


「……ん、敵意を感じた……微かだけど」


「あら……」


「なら、さっさと食堂に行きましょう。ほらほらほら」



 詩織に押されるようにして3人は教室を後にする。



「何でアイツだけが……」



 初日に陸に絡んだ男子生徒がそう呟いたが、その言葉は誰の耳にも届かなかった。


 ◆


 食堂。


 お弁当を持参する生徒もいるが少数派だ。


 生徒たちの大半が食堂を利用する。


 食堂は学年ごとに利用時間がシフトしていて、一気に混雑しないようになっていた。



「此処が食堂ですよー。メニューはそこに表示されてますよー」



 詩織が指さす先には大きなディスプレイがあって、定食や麺類の写真が表示されている。



「支払いは生徒手帳をかざすだけですから、簡単ですよー」



 いつの間にか食堂の利用法をリリにレクチャーしている詩織だった。



「陸、場所を確保してきなさい。但し、迷惑にならないように」


「はいはい、お嬢様」



「返事は一回ですわ」


「はい。お嬢様」



 そう言って陸は場所を確保するために食堂の中に入っていった。



「リリさんは和食、大丈夫ですか?」


「ん、問題ない」



「なら今日は定食がお勧めですね。『銀だらの西京焼き』ですよー」


「ん……朝、魚だったから他のにする」



「あら、そうですか……なら、同じ魚ですけど『アジフライ定食』は如何です?」


「おいしい?」


「はい。此処の食堂はどれも美味しいですよ」



 リリは少し考えてから、小さく頷く。



「それにする」


「はい。ではこっちの列に並びますよー」



 結局。女性陣は皆同じものを頼むようだ。



 一方の陸。


 4人掛けのテーブルを確保して、女性陣の到着を待っている。


 既にテーブルにはコップに入った水まで用意してある。


 そんな陸だったが、今は別な事を考えていた。



 詩織に見せられた動画の事だ。


 あの後こっそりと動画を確認した。


 映っていたのは間違いなくリリで、再生回数も相当な数になっていた。



「(絶対に気付く奴が出てくる……しかし手の打ちようがないな)」



 陸は考える。



「(流石にタクシーの運転手さんを脅しているところの動画は見つからなかったのは幸いだけど)」



 と、そこへトレイに食事を乗せた3人がやってきた。



「お待たせ、佐伯君」



 当然のように詩織が陸の横に座った。


 一瞬、動きが止まっていた麗華が陸の正面に座る。


 そしてその横にリリ。



「じゃあ、今度は俺の分を選んでくるわ」



 そう言って陸が立ち上がる。



「ちなみに、何かお勧めあった?」


「和定食は『銀だらの西京焼き』でしたよ」


「そうか……旨そうだけど、朝も魚だったからな、俺は麵にするよ」



 そう言って陸が立ち去る。


 そして詩織が意味深に笑う。



「(皆さん……朝同じものを食べてきたのかしら……うふふふ)」



 すっかり狩りモードの詩織だった。


 ◆


「リリさんは何処で『お箸』の使い方を習ったの?」



 その質問で、リリの箸がピタッと止まる。


 眼だけが詩織の方を見つめる。



「聞きたい?」



 聞いてはいけない雰囲気だった。


 しかし、詩織は物おじしない。



「是非」


「「(やめてー!!)」」



 再び陸と麗華の心の声が綺麗に重なる。



「箸の使い方はステラに習った」


「ステラさん……どのような方なんですか?」



 詩織はズイズイと距離を詰める。



「……おにばば」


「……えっ?」



「カトラリーの使い方間違えると、手を叩かれる。凄く痛い」


「……」



「凄く痛い。箸もその一環で習った」


「そ、そうなんですね」


「ん」



 そう言ってから、リリは食事を再開する。


 相変わらず、綺麗な食べ方だった。


 陸は恨めしそうに目の前のどんぶりを見る。



「(ズルズル啜れねえ……)」


 ■


 九条邸


 庭が望める小さな和室。


 そこに綾香と早乙女が向かい合って正座している。


 二人の間には、袱紗に置かれた黒い物体……M36チーフスペシャル。



「タクシーの運転手の話からすると、新宿の南口……あの辺りは確かに玄武会が仕切っている地域です」



 早乙女はそこで大きく息を吐く。



「これは古いものですが、正規品です。ずっと摘発されずに生きながらえていたんですな……」


「拾うたから、返します……っちゅう訳にはいきまへんなぁ」



「無理ですね……まして彼女の話ですと、相当痛めつけてきたようですし……手打ちにはそれなりに……」


「ふう……こっちの件は、もう少し考えさせてもらいますえ」



「はい」


「で、あっちのお嬢さんは?」



「はい。大使館には連絡済みです。幸い、懇意にしている外交官がいましたので、こちらも問題ないかと」


「そうどすか。手間かけさせてしもうたなぁ」



「もったいないお言葉。ありがとうございます」


「いずれにせよ、向こうから何やら動きがあるはずや。その時は、わたくしに知らせとくれやす」



「承知いたしました」



 そう言って早乙女は袱紗で銃を包んで、懐に入れる。



「御屋形様には?」


「……まだ御屋形様には言わんでよろし。話す時は、わたくしから話しますえ」



 早乙女は黙って頷いた。


 そして二人はじっと黙ったまま、庭を見るのだった。



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