第十三話 最強魔術師、専属騎士になる
元パーティーやガイウスが帝国へと連行され、王都に真の平穏が訪れてから数日後。
エルフィア聖王国の王宮・大聖堂にて、建国以来最大規模とも言える『国家英雄授勲および専属騎士叙任式』が厳かに執り行われようとしていた。
大理石の床には美しい絨毯が敷き詰められ、天井のステンドグラスからは七色の神聖な光が降り注いでいる。
会場を埋め尽くすのは、王国の全貴族、名だたる騎士団長たち、そしてこの国の命を救われた神官たちだ。誰もが、数万の魔獣をたった一人で完封したという「伝説の結界術士」の姿を一目見ようと、固唾を飲んで中央の花道を見つめていた。
ファンファーレの清らかな音が大聖堂に響き渡る。
「――これより、王国の危機を救いし至高の英雄、アルス殿の入場である!」
重厚な扉が開かれ、俺は一歩を踏み出した。
普段の地味な冒険者服ではなく、エルナ様が直々に選んでくれたという、白銀とサファイアブルーを基調とした最高級の礼服(魔力防護の加護付き)に身を包んでいる。
緊張で心臓がバクバクと鳴っていたが、背筋を伸ばし、まっすぐに正面へと歩みを進めた。
その視線の先、玉座の隣には、純白の正装に身を包んだエルナ様が立っていた。
今日の彼女は、いつもの優しい少女の表情ではなく、国を代表する『聖女』としての気高さと、言葉を失うほどの美しさを放っている。彼女のサファイアブルーの瞳が、誇らしげに、そして温かく俺を捉えていた。
俺が玉座の前まで進み、片膝をついて頭を垂れると、国王陛下がゆっくりと立ち上がった。
「アルス殿。君が先日のスタンピードで見せた業績は、まさに神の御業、我が国の歴史に永遠に刻まれる奇跡である。帝国が君を『無能』と見誤り追放したことは、我が国にとっては至上の幸福であった。ここに、王国の最高栄誉である『救国聖十字勲章』を授与する!」
国王陛下の手によって、俺の胸元にまばゆい金色の勲章がピンで留められた。
割れんばかりの拍手と歓声が大聖堂を包み込む。かつて帝国でゴミのように扱われ、誰にも認められなかった俺の力が、今、一国の最高峰の場で完全に肯定された瞬間だった。
しかし、式典の本当のハイライトはここからだった。
国王陛下が一歩下がり、代わりにエルナ様が、一振りの美しい細剣を手にして俺の前に進み出たのだ。
大聖堂が、水を打ったように静まり返る。
エルナ様は細剣を抜き、その刃を優しく俺の右肩、左肩へと触れさせた。これは、騎士の叙任を意味する聖なる儀式だ。
「アルスさん。貴方は私を、そしてこの国を絶望から救ってくれました。……いいえ、聖女としてではなく、一人の人間として、私は貴方のその優しさと、誰かを守るための強さに救われたのです」
エルナ様の鈴を転がすような声が、大聖堂の隅々にまで染み渡っていく。
彼女は細剣を鞘に収めると、慈愛に満ちた瞳で俺を見つめ、厳かに宣言した。
「我がエルフィア聖王国の聖女の名において、ここに命じます。アルスさん、貴方を私の生涯の『唯一無二の専属騎士』に任命します。……これからも、私のそばで、私だけの盾となって、その力を貸してくださいますか?」
その言葉は、建前だけの主従契約などではなかった。
「生涯の」「唯一無二の」「私だけの」――そこには、一人の少女としてのエルナ様の、最大級の愛と誓いが込められていた。周囲の貴族や騎士たちも、そのあまりにも特別な響きに、息を呑んで推移を見守っている。
俺は顔を上げ、エルナ様の美しい瞳をまっすぐに見つめ返した。
胸の奥から、熱い感情が止めどなく溢れてくる。
「はい、エルナ様。この命が続く限り、俺の全ての結界は、貴方一人を守るためにあります。貴方の行く道を阻むすべての災厄を、俺が完璧に遮断してみせます」
俺がそう誓いを口にすると、エルナ様はついに張り詰めていた聖女の表情を崩し、いつもの、俺だけに最初に見せてくれたあの愛らしい笑みを浮かべた。
大聖堂を包み込んだのは、先ほどとは比べものにならないほどの、祝福と歓喜の嵐だった。
帝国を追放された行き倒れの結界術士は、今、名実ともに王国の至宝である聖女の「専属騎士」となり、誰よりも輝かしい未来への第一歩を正式に踏み出したのだった。




