35話
イベントが終わった夜、僕と真琴はノートを開いた。
──入場者数は40人。
座席は満席、さらに立ち見も出て、店はぎゅうぎゅうだった。
入場料は2000円。ファンクラブ会員は500円割引。
売上は合計8万円。
ペットボトル販売でさらに1万円。
──合計9万円。
だが、選手への謝礼、配信協力費、運営雑費。
支出もほぼ同額、9万円。
差し引き、収支はプラマイゼロ。
「誠、黒字じゃないね」
真琴が静かに言った。
「でも、赤字でもない。数字はゼロ。
だからこそ、一度きりの挑戦だったんだ」
観客の声は熱かった。
「選手の解説が最高だった!」
「サイン会で直接話せるなんて夢みたい」
「立ち見でぎゅうぎゅうだったけど、それも臨場感!」
こでまりがディスプレイの前に座り、尻尾を揺らした。
その姿はまるで「数字はゼロでも意味は残る」と告げているようだった。
僕はノートに書き込んだ。
──収支はゼロ。
──熱気は財産。
──一度きりの挑戦。
真琴が深く息を吐いた。
「挑戦は彩り。日常は基盤。
このイベントは彩りとして成功した。
でも、繰り返す必要はないね」
僕は頷いた。
──博打的イベントは、数字ではなく記憶を残した。




