第64話 お引っ越しするそうです
長らく更新できずにすみません。
あと一話で完結予定なのですが、
今年中に投稿できればいいな、とは思っています
楽しんでいただけますように
それでは、どうぞー!
「引っ越すか」
それは、何でもない日の朝。
朝食を食べてまったりしているときに、突然フォルが言い出した。
「お引っ越しって、どこに?」
今暮らしているこの森には、フォルの多重結界が敷かれている。
だからこそ、私も突然の襲撃とかに遭わずにのんびりと暮らしているわけだけど。
実際のところ、アルマが生まれてからそろそろ1年。
何もなく安穏とした暮らしだったわけじゃない。
大魔法使いとその伴侶の子供。
アルマの魔力を求めて、何度か襲撃にあっている。
まだ赤ん坊のうちに拐って、何もわからないうちに洗脳して利用しようと、何度も、国王からの使者も来たし、襲撃もあった。
とはいえ、仮にも前世からの大魔法使いと、同じ力を宿した私がいる。
私が使える魔法は、そりゃ、フォルに比べれば圧倒的に少ないけど、攻撃魔法を除けば、普通の大魔法使いレベルまで上がっている。
不老不死にもなったし。
だから、大抵はルドルフさんにお手伝いをお願いすることにはなるけど、三人で充分撃退できるのだ。
ていうか。
魔法省にも国王にも、あれだけ次はないって言ってるし、報復だってしてるくらいなのに、何で懲りもせずに何度も襲撃してくるのか、理解不能だよね。
国王は、襲撃に関しては関与してないって言い張ってるみたいだけど。
国王の配下である魔法省の動きを把握してないって、それはそれで問題だと思う。
まあ、国王の言葉を信じてるわけじゃないけど。
だから、フォルが引っ越しって言い出したのも、理解はできる。
新たに広大な敷地を得て、そこに多重結界を張るのは大変じゃないかなとは思うけど、まあそこはフォルだし、たぶん難なくこなせちゃうんだろう。
「東の、スプール王国あたりがいいかと思ってる」
春の国か。
ここでの雪景色も好きだったけど、春の国もなかなか良さそう。
「土地の目星はついてるの?」
「ああ、それに関しては心配いらない。俺はすべての大陸に土地を確保してあるから」
わあ、さすが何百年と生きてる大魔法使い様。
「お客さんとか、どうするの?」
「俺宛に連絡が来た時点で、引っ越したことを伝える。その上で、それでも俺に仕事を依頼したいってんなら、次の住処まで転移させる」
ぶっちゃけ、フォルはあらゆる魔法具を作ってきてるから、とんでもなくお金持ちだ。
不老不死だから、一生遊んで暮らせるほどではないけど、軽く数百年は仕事をしなくても暮らしていける、らしい。
つまり、たまーに思い付いたときに魔法具を作って売り出すだけで、ずうっと生きていけるのだ。
どんなにこの世界の文明が進化しても、私たちだってそれにあわせて生活をしているわけだから、時代遅れになることもない。
さらには、各地にいる大魔法使い同士で情報交換していて、人間が使いこなせないような危ない魔法具は作られないようにセーブしてもいる。
前の世界で言うなら、原水爆のようなものはつくらせない、ということ。
「ふーん。いつ引っ越すの?」
「今日は天気がいいから、今日にするか」
そんな、ちょっとピクニックに行きましょうみたいな軽いノリで。
「いやいや。引っ越しの準備とかあるじゃん?」
「準備?ああ、引っ越し先の結界か?」
「うん、それももちろん大切なんだけどね?そうじゃなくて、家具はむこうにもあるにしても、日用品とか服とか、運ぶのにまとめないと」
どうせ転移で飛ばしちゃうんだろうけど、それにしたってまとめておかないと、と思った私は間違ってないと思う。
「いや。家ごと移すからな。お前はアルマを抱いてソファにでも座っててくれればいいぞ」
ん?
家ごと?
荷物を転移させるんじゃなくて、家ごと転移させちゃうの?
もうやだ。
世紀の大魔法使い様のお引っ越しレベルってどうなってるの?
「心配しなくても、この森にはフェイクの結界を張っておくから、すぐには引っ越したことはわからないし、気づいたところで、他の国にいる魔法使いには手出しできん」
そうなんだろうけどさ!
「ちなみに、時差とかは?」
「この世界に時差はないぞ」
やっぱり。
この世界に来て何年も経つし、だいぶ慣れたつもりだったけど、まだまだ私の中には前の常識がこびりついていたみたい。
そういえば、別邸も前にフォルが住んでた場所から持ってきたものだとか言ってた気がする。
建物の基礎とかどうなってるんだろうとか、考えたら負けだ。
だってここは魔法のある世界で、お屋敷だって魔法で建ててるわけだし、ちょっとやそっとの大雪や台風くらいではピクリともしないように結界も張ってあるわけだし。
たぶん、地震が来ても大丈夫なんだろう。
そういった魔法は教わってないから細かいことはわからないけど、耐震構造もしっかりしているんだと思う、たぶん。
もっとも、前の世界のような物理的な耐震構造とかにしたいと思っても、私にもフォルにも仕組みがわからないんだけど。
それはそれとして。
「そういえば、ラズロさんて、今ちょうどスプールにいるんじゃなかったっけ」
「そういや、手紙来てたな。過ごしやすいからしばらくいるとかなんとか。向こうに越したら会いにくるんじゃねーの?」
「この子が生まれたときにも会えなかったし、久しぶりに会えるといいな」
「ん、そうだな」
フォルは、ラズロさんが私を好きだったことを知ってる。
知っていても、遠ざけようとはしない。
それは、ラズロさんのよく分からない薬のせいかもしれないし、二人の友情の問題なのかもしれない。
そこは、たぶん私が触れちゃだめなとこだ。
「うし。んじゃ、ちょっと俺は向こうに多重結界張ってくる。戻ったら引っ越しだ」
頷いた私に、フォルは真剣な顔をする。
「ここの多重結界は、都度都度最新版に更新してるし、今回はここの結界を張りなおすわけじゃねぇから、敵が攻め込んでくることはないと思う。だが、絶対とは言えねぇ。ルドに援助を求めるにしたって、戦うにはさすがに分が悪い。いいか、もし結界にゆらぎを少しでも感じたら、アルマを連れてすぐにルドの家に逃げろ。いいな、絶対に自分で戦おうとするなよ」
結界の揺らぎは、私にもわかるようにしてもらった。
アルマがまだ小さな今、戦うわけには行かない。
たとえ、戦っている間、ルージュさんがアルマを守ってくれているとしても、フォルがここにいない以上、これまでのようにはいかない。
私はしっかりと頷いた。
うん、ていうかね?
これ、フラグじゃないよね?
フォルがそばを離れるときに万が一のことを決めておくのはたしかに大切。
でも、そんな「この戦いから帰ったら結婚するんだ」みたいな、フラグの匂いがプンプンすることを言われても逆に心配になる。
不安になった私の頭をクシャリと撫でて、フォルは転移した。
参ったなぁ。
あんなこと言われたら落ち着かないんですけど。
んー、と考えて、私はルドルフさんに通信を繋げた。
「ルドルフさん、今平気ですか?」
「うん、どしたの?」
「えーっと、今日ってルドルフさんずっとご在宅ですか?」
「あー、いるにはいるけど、この後、うちの奥さんのとこに産婆さんが来るんだよね」
そう。
ルドルフさんは本当の意味での幼妻を娶った。
ずっとお付き合いのあった、お弟子さんを。
日本ではちょっとありえない年齢の奥さんだけど、まあ、二人で決めたことを他人がとやかく言うものではない。
それにしても、子供できるの早かったな、とは思うけど。
それにしても、そうか。
今日は定期診断の日だったか。
「どしたの、ラピスちゃん。何か用でもあった?」
「あー、確認っていうか、もしも今日この後、ルドルフさんのお宅に避難することがあっても大丈夫かなって」
「結界の書き換えの時期ではないよね?ちょっと待って。これ、魔法通信だから、万が一にでも盗聴とかされてるとまずいから、事情は聞かない。まあ、盗聴されるようなレベルの通信魔法をラピスちゃんが使ってるとは思ってないけど。とにかく、うちは来てもらっても大丈夫」
「ありがとうございます。もしもの時はお邪魔します」
「うんうん。うちの奥さんも妊婦の先輩としてラピスちゃんに会いたがってるから、いつでも来ていいよ」
ルドルフさんの奥さんには、何故かすごく懐かれているのだ。
なんでだろう。
歳もかなり離れてるし(他の高魔力保持者ほどではないけど)、特に何かをしてあげたわけでもない。
私たちの結婚式のときもほとんど話せなかった。
ルドルフさんたちの結婚式の時も、早々にルドルフさんたちが引っ込んでしまったので、またもほとんど話せなかった。
でも、結婚後にルドルフさんがうちを訪ねてくるときに一緒に来たりしていたら、なんだか懐かれたのだ。
私のことを「お姉さま」と呼び、何でも私の真似をしたがる。
元々しっかりした子だって聞いていたし、私なんかの真似をしなくても、と思うんだけど、ルドルフさんいわく、幼い頃に親元を出てるので、近所のあこがれのお姉さんとか、親戚のお姉さんみたいな位置づけらしい。
可愛いからウェルカムだ。
そんなわけで、一応逃げる準備もしていたわけだけど、結局、敵襲にあうこともなく、フォルが戻ってきて、一緒にお引越しした。
違う場所。
それも、離れた場所に大きなものを転移するのはそれなりに大変なことなんだけど、うちの大魔法使い様にかかれば、カップ麺が出来上がるくらいの時間で終わってしまう。
懐かしいな、カップ麺。
久しぶりに食べたいけど、この世界にはないのよね。
その後、私の顔色を見て、手のひらで私の身体をスキャニングしたフォルは、スプール王国でも信用のできるお医者様を連れてきた。
スプール王国には、治癒魔法師とは別に、お医者様がいるのだ。
そこで、フォルの見立てを裏付けるように第二子の妊娠を告げられて、ルージュさんがなぜかクルクルと回っていた。
そりゃもう、目が回らないのか心配になるくらいに。
アミュは喜びの舞とか言うのをしていた。
可愛い。
とにかく、第二子の妊娠も含め、我が家は新しい生活に向けて歩き出した。




