第62話 出産という戦いです
すでに産み月に入っていて、いつ産まれてもおかしくないというある日。
私はお腹がズクズクと痛み出して、これはもしや?とフォルとルージュさんを呼んだ。
痛みはずっとは継続しなくて、波が引くように収まっては、また痛み始めるを繰り返している。
フォルは、私のお腹に手をかざす。
「あー、降りてきてる。子宮も収縮してるし、生まれるぞ。ルージュ、産婆を呼んでくれ」
「かしこまりました」
その二人のやり取りを聞きながら、やっぱりいよいよ産まれるのか、とぼんやりしている。
「ラピス。必要なら、痛みを抑える魔法も使えるけど、どうする?」
無痛分娩というやつか。
でもあれ、完全な無痛じゃないんじゃなかったっけ。
いや、それなりに痛みがあったって仕方ないけど。
とりあえず、激痛は嫌だ。
子供のためとはいえ、私は痛みに超絶弱いのだ。
「是非お願いします」
「わかった」
分娩用に整えられた部屋に移動して、陣痛をなんとかやり過ごすうちに、産婆さんが到着した。
フォルは、立会出産をするつもりなので、部屋からは出ていかない。
ちょっとごめんなさいね、と産婆さんが子宮口を確認する。
フォルは一応、私の頭側に移動してくれた。
「まだまだ時間かかるけど、旦那さんも一緒にいるかい?」
「もちろん。俺にできることは?」
産婆さんの言葉に、食い気味に返すフォル。
「腰をさすってあげな。あと、のどが渇いているようなら水を飲ませてあげて」
「わかった。痛みを抑える魔法は、もう使ってもいいか?」
「5cm開いてるから、そろそろいいよ」
産婆さんとフォルのやり取りを聞きながら、波のように襲いかかる陣痛と戦う。
フォルが腰に手を当ててくれると、痛みが和らいだ。
それでも、腰は痛い。
フォルは一生懸命、腰をさすってくれる。
でも。
そこじゃないんだよなぁ。
微妙にずれている場所に、若干イライラする。
「そこじゃない」
「え?あ、悪い。えっと、ここ?」
「ちがう」
「旦那さん、ここだよ」
ぐいっと腰を押してくれた産婆さん、流石です。
そう、そこです!
フォルが見様見真似で、頑張って腰を押してくれる。
ちょっと場所が違うけど、まあいいか。
それから更に数時間。
「うん。子宮口開いたね。さて、息むよー」
産婆さんが頼もしい。
息むって、ラマーズ法でいいのかな。
ひっひっふー!
ひっひっふー!
「あら、お母さん上手。その調子よー。はい、息んで!」
息むたびに、身体の中を何かが押し出されていく。
「力抜いてー。大丈夫よー。はい、息んで」
そんなことを何回繰り返しただろうか。
私が力いっぱい握っているフォルの手も、痛いはずなのに、フォルは痛がりもせずに、私を静かに励ましてくれてる。
やがて。
部屋の中に赤ちゃんの鳴き声が響いた。
「お母さん頑張ったね。可愛い女の子よ。ほら、お父さんも見てあげて」
清められた赤ちゃんが、おくるみに包まれて私の胸の上に乗せられる。
可愛い。
ほんとに、めちゃくちゃ、すごい可愛い。
泣きそうになりながらフォルを見たら、泣いてた。
「お疲れ様。頑張ってくれて、ほんと……ありがとう」
そこまでは良かったのだけど。
「おかしいわね。出血が止まらないわ」
産婆さんの不穏な言葉に、私とフォルは顔を見合わせる。
「任せとけ」
フォルは、私の下腹部に手をかざす。
「あらすごい。出血が治まったわ」
うちの旦那様、チート過ぎるわね。大好き。
それにしても。
「この子、魔力が……」
「うーん、まあそうなるよなぁ」
そう。
生まれたばかりの我が子は、私ですらわかるくらいに、魔力が溢れている。
「まだ赤ん坊だからな。魔力暴走起こしても困るし、当分は吸い取ってやるよ」
フォルの話では、ある程度成長すれば、自分で魔力を発散できるようになるらしい。
でもそれまでは、さすが赤ちゃんというべきか、泣くたびに魔力暴走を起こす危険があるらしくて、頻繁に吸い取ってあげる必要があるんだそう。
産婆さんは、私の後産の処理もして、ルージュさんがシーツやタオルを清めるのを確認すると、帰っていった。
若干危うかったけど、結果的には問題のないお産だった。
フォルがいなかったら、本当に危うかったけど。
そう思いながら、赤ちゃんを抱っこしてもらおうとフォルの手を見て、私は血の気が引いた。
「ふ、フォルさん……?指が、変な方向に……」
「ん?ああ、ちょっとした骨折だな」
そう言って、軽く手を振って治してしまったけど、あれって、絶対私のせいだよね?
「ごめんなさい!力の加減ができなくて」
「大丈夫だよ、これくらい。お産の大変さに比べれば大したことない」
えーん。
うちの旦那様が男前で泣ける。
「だっこ、してあげて」
「お、おう」
フォルは、出産前にさんざん育児書を読んでいたので、緊張しつつも危なげなく赤ちゃんを抱っこする。
「これが……命の重みか」
赤ちゃんの髪色は黒。
ちらっと見えた瞳は金色。
まあ、両親がそうなんだから、そうなるよね。
それにしても。
「フォル、眠い……」
「おつかれ。寝ても大丈夫だぞ」
その言葉に甘えて、私は意識を手放した。
目が覚めたのは、赤ちゃんの泣き声と、アワアワしているフォルの声で。
「えーっと、ミルクか?ミルクだよな?ママ、寝てるから……」
「んぎゃー!」
そりゃね。
ママが寝てるからってミルクお預けは怒るよね。
私は腕を伸ばして赤ちゃんを受け取ると、そっと母乳を飲ませた。
どうやら、母乳は問題ない量がちゃんと出るみたい。
でも、お乳が張るといけないから、しっかりマッサージしないとなぁ。
「母乳が出るのは母親だけって、ズルくないか?」
フォルがわけのわからないことを言う。
あなたのその引き締まった胸からは、どう考えたって母乳は出ないでしょうに。
「搾乳しておくから、私が寝てる間に赤ちゃんがミルクを欲しがったら、それをあげて」
「おうっ!」
うわあ、すごい喜んでる。
そうだよね、この世界、粉ミルクとかないし。
母乳の出が悪い人は、貰い乳をするらしい。
パパがミルクをあげようと思ったら、搾乳した母乳をあげるしかないのだ。
それでも、生まれてしばらくすると、沐浴や、おむつ交換、授乳など、フォルは驚くほど色々としてくれた。
アミュは、一生懸命、自分がお姉さんだと教えている。
「アミュおねえちゃんなのですよー」
「あー」
「そう。アミュなのですよー」
うん、アミュ。
今のはアミュって言ったわけじゃないんじゃないかな。
まあでも、夢を壊してもかわいそうなので微笑ましく見守っている。
子供の名前は、生まれる前に決めていたものにした。
「アルマ。ご飯の時間よ」
うちの旦那様は、なぜかこの子がお腹にいるときから、女の子だと知っていた。
いや、本人から聞いたわけではないけど、名付けを考えていたとき、頑なに女の子の名前しか考えようとしなかったので、多分知っていたんだと思う。
アルマ・ウル・ペルペトゥム・アウストリアス。
真名は結構長いな。
どうか、この子が幸せになりますように。
ご覧いただきありがとうございます!
まもなく、完結します。
もう少しだけお付き合いくださいませ




