第56話 師匠の回想 7
結婚式当日。
俺はとにかく緊張しながら、ラピスが現れるのを待っていた。
今日この時まで、ラピスの花嫁衣装は見ていない。
ラピスならどんな服装だって似合うと思うが、花嫁衣装は特別だ。
俺の花嫁になるためだけの衣装。
(眩しいっ)
これが、花嫁衣装を纏ったラピスを見た時の俺の第一印象だった。
物理的に眩しいわけじゃなくて、なんていうか、とにかく、きらきらしている。ラピス自身が。
精霊女王かな。
この世のものとは思えない。
こんな美しくて可愛い女性が俺の妻になるとか、許されるんだろうか。
二人並んで、集まってくれた数少ない友人たちの前で結婚の宣言をする。
誓いのキスの時は、ラピスの可愛い顔が他の奴らから見えないようにしっかりガードした。
本当なら、この後はベールをあげたままにしなければならんのだろうが、ラピスの顔を見せたくない俺は、あえて下ろしたままにした。
夜。
この屋敷には、今は俺とラピスしかいない。
これから一週間は誰も入ってこれない。
これは俺のわがままなわけではなくて、この世界では元々そういうしきたりなのだ。
トントン、とドアがノックされたのですかさず開けると、ガウンをしっかり着込んだラピスが所在なさげに立っていた。
襟元を合わせて、モジモジしている。
なんだ、この可愛い生き物は。
とりあえず、部屋の入り口にいては身体が冷えてしまうので、中へ入るように促す。
そこで、俺はスポンと頭が真っ白になった。
ここから、どうやってそういうアレにもっていけばいいのか。
酒か?
いや、ラピスは酒に滅茶苦茶弱い。
飲ませたらすぐにでも寝てしまいそうだ。
どうしよう。
ラピスも、立ったままモジモジしている。
ここはやっぱり、俺がリードすべきだろう。
しかし、俺だって童貞。
そういう経験は皆無だ。
かといって、俺がモタモタした姿を晒すのはよろしくない。
男としてすごくよろしくない。
短い時間ですごく色々考えた結果、俺はそっと、ラピスの両手を握った。
風呂から出て少したっているからか、ほんのり冷えている。
そのまま、引き寄せるように小さな身体を抱きしめる。
抱きしめたことなら、これまで何度もある。
キスだって。
それなのに、触れ合っている身体も唇も、すごく熱くて、ドクンドクンと激しい心音は、もはやどちらのものかわからない。
そっと唇を離して、ラピスのガウンを肩から落としてみて、俺は心臓が飛び出るかと思った。
透けてる!
ラピスの身体の線とかその他とか、色々見えてる!
いや、これからすることを考えると、透けてるとかそんなのは序の口で、生で裸体を見ることになるわけだけど。
もっと言えば、見るだけじゃなくて触れるわけだけど。
ゴクン、と唾液を飲み込んだ音が聞こえていないといいけど。
ここまで来たら、後戻りは出来ないし、するつもりもない。
俺は思い切って、ラピスの夜着を脱がした。
その後は、なんか、いっぱいいっぱいだった。
いっぱいいっぱいだったけど、ラピスの声は聞きたくて、この屋敷には誰もいないから、と声を我慢しようとするラピスを宥めて、その声を堪能した。
ラピスとの初めての時間は、控えめに言って最高だった。
何しろ初めてなもんで、ちょっと最初だけぎこちないところもあったけど、ラピスも初めてだし、気づかれていない……と思う……たぶん。
肉体的な快楽や、精神的な充足感はもちろん、俺の魔力とラピスの魔力が混ざって、ラピスに吸収されるのを感じた時は、泣きそうなほどうれしかった。
試しに、ラピスに魔力を手のひらに集めてもらったら、明らかに俺の魔法粒子とラピスの魔法粒子がしっかり混ざり合っていて、ラピスは「俺の女」って、納得した。他の誰の目からもわかるようになったのが、何より嬉しい。
ちょっと色々と嬉しすぎて、我慢できなかった。
なんていうか、止め時がわからなかった。
というより、やめたくなかった。
ずっとずっと、抱いていたかった。
さすがに、ラピスが気絶したからやめたけど、俺は一週間堪能するつもりまんまん。
いや、むしろ一週間でやめるつもりもない。
だって、結婚したし。
ラピスとの子供はほしい。
ほぼ間違いなく、高魔力保持者になる。
それでも、子供には先立たれるだろうけど。
ラピスの子供だったら、絶対かわいい。
男の子でも女の子でもいい。
なんなら双子でもいい。
何人でもほしい。
その為の努力を怠る気はないけど、結婚して一年くらいは二人きりでもいいかな、と思ってる。
まあ、ラピスが妊娠してから出産するときの様子を見て、ラピスの負担が大きいようなら、別に子供は一人でもいい。
そのへんは、ラピスと要相談だな。
「し…フォル、どうしたの?」
いまだに俺を師匠と呼びそうになるラピスが、幸せに浸る俺に尋ねた。
ラピスの隣にいるというのに、考え事しすぎた。
「ベッドを買い換えようか考えてた」
適当に言ってみたら、ラピスは顔を赤くした。
可愛い。
「子供部屋もいるし、いっそ、屋敷自体を改装するか」
「えー。それは、気が早いと思うけど……」
「でも、今のままだと、俺とラピスの部屋遠いし」
そうなのだ。
今はまだラピスを俺の寝室から一歩も出してないからいいのだけど、一週間が過ぎたら、さすがにラピスも自分の部屋で過ごすことが当たり前になるだろう。
寝るときは俺の部屋に来るとしても。
俺とラピスの部屋は同じ階にはあるけれど、それなりに大きな屋敷なので、ちょっと離れているのだ。
俺の部屋の隣は作業部屋になっている。
その隣は書庫。
その隣がルージュの部屋で、更にその隣がラピスの部屋。
一人のときは、それが使いやすかったのだ。
ラピスを喚ぶことになったとき、俺の部屋の近くの部屋をラピスの部屋にすることも考えたが、ルージュに、初めてあったばかりの人の部屋の近くなんて嫌がられますよ、と言われて、泣く泣く距離を取ったのだ。
「毎朝毎晩、俺の部屋からお前の部屋まで着替えに行くのも面倒だろ?」
「え。毎朝毎晩て、毎晩この部屋で一緒に寝るんですか?」
「当たり前だろ?夫婦なんだから」
よし。
やっぱり改装しよう。
俺の部屋とラピスの部屋の間に、夫婦の寝室を置こう。
うん、それがいい。
子供部屋はどこがいいかな。
「はぁ。師匠の頭の中には夢がたくさん詰まってるんですね」
呆れたように言うラピスの唇を塞ぐ。
ラピスが「師匠」と呼ぶたびに罰としてキスをすることに決めたのだ。
「別館の奴らもみんな帰ったみたいだし、改装する間は、家具や荷物は別館においておくか」
「改装してる間は、あっちで寝泊まりするんですか?」
ああ。
ラピスの元いた世界では改装にはかなり日数がかかるんだったか。
「魔法で作り直すからな、1時間もいらんぞ」
「え」
全部、土魔法の応用で出来上がる。
内装なんかは、土魔法と、亜属性の木魔法でなんとかなる。
壁紙なんかは、買っておいて風魔法でペターっとやるだけだ。
一つ一つやろうと思うと大変だが、屋敷全体のイメージさえ出来ていればそんなに手間でもない。
「今更ですけど、魔法って便利ですねぇ」
感心したように言うラピスが可愛くて、俺はまたラピスを頂くことにした。
我慢?
散々してきたんだから、今くらいいいだろう。




