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第52話 師匠の回想 3

俺たちの前世についてデフォルメされた絵本を、ラピスがアミュに読み聞かせている場に居合わせたのは、本当に偶然だった。

俺が子供の頃に読んだ絵本。

幼いながらに、どうにもたまらなく切なくなった、あの話。

あの本の主人公の一人が自分の前世だと気がついたのは、いつだっただろう。

もう、遥か昔過ぎて覚えていない。


ラピスは、あの絵本を読んで、どう感じただろう。

自分と同じように、前世を思い出すだろうか。


さりげなく話をしてみれば、ラピスのいた世界には転生の概念があったらしい。



「生まれ変わった二人が出会ったとして、気がつくかどうかは置いておいて、また恋に落ちるのは、前世が影響すると思うか?」



一番聞きたかったこと。

俺は、前世の記憶に引っ張られてラピスに恋をしたのか。

ラピスが俺を好きだと言ってくれるのは、前世の記憶に影響されているのか。


しかし、ラピスはさっぱりと答えた。



「いや、それはないでしょう。これは持論ですが、たとえその人の魂の在り方を好きになったとしても、新しく恋をしたなら、それは、前世とは別の恋だと思うんです。前の世界では、たまに『生まれ変わってもまた結婚しようね』とかいう夫婦もいましたけど、本当に結婚するかどうかは、そのときに生きている人が決めることだと思うので」


「なるほどな。前世の意思は前世のもの。今世の決断は今世の人間のもの、か」



ラピスの言葉に、どこか救われたような、そんな気持ちになった。


でも、まるでラピスはやっぱり前世の記憶に引きづられているのではと思うようなことが、その晩遅くに起こった。

しっかりと安眠魔法をかけたはずのラピスが泣いていると、アミュが俺を起こしに来たのだ。


慌ててラピスの部屋に向かい、小さく名前を呼べば、ラピスはラピスじゃないような様子で、懐かしそうに、嬉しそうに言った。


ほらね、また会えた、と。


それは前世の俺達の約束。

来世で必ずまた会えるから、決して自ら死を選ぶなと、「彼女」は言った。

自死を選んでしまえば、輪廻の輪から外れるから、と。

俺は、いや、あの時の「俺」は、その言葉だけを胸に、何百年も、一人生き続けた。

今よりもっと、高魔力保持者の少ない時代。

既に時の流れから外れた自分の体。

いつになったら終わるのか、全くわからない人生。

孤独に苛まれたことなんて、数え切れないほどある。

それでも、「彼女」と約束したから、少しでもいい世界になるように、たった一人で研究を重ねて、やがて大規模な魔法の構築に成功した。

「俺」の全魔力をもってしても、成功する可能性は半々だったけれど、なんとか成功した。

そして、魔力を使い果たした「俺」は、死を目前にして、久しぶりにとても穏やかな心持ちだった。

その晩は、「彼女」が旅だった日と同じで、とても、月のきれいな夜だった。



ラピスは、自分が見た夢の内容を覚えていないといったけれど、とても幸せな夢だった、と語った。


それから二人で、空に浮かぶ月を見た。

とてもきれいな満月。

そう、あの日のような。


ふと、ラピスの元いた世界で、「愛してる」の意味を持つ言葉を思い出した。



「月が、きれいだな」



そう言うと、ラピスは少し目を見開いて、それから嬉しそうに言った。



「はい。月が綺麗ですね」



ラピスは、俺が意味をわかっていて言ったなんて、思ってもいないのだろうけど、同じ言葉を返してもらえたのが、とても嬉しかった。





その後、ラピスの真名を預かってからすぐに、敵襲があった。

とりあえず、ラピスだけは逃して敵に対峙してみれば、高魔力保持者の中では比較的魔力の弱い、それでいて俺の肩書が欲しくて仕方なくて何度も俺に挑んできている奴だった。

どうやら、ラピスは魔力が弱いという与太話を信じて、人質にするつもりだったらしい。

コイツよりラピスの方が魔力は多いけれど、実戦経験が圧倒的に足りない。

逃して正解だった。


すぐに、映像魔法が浮かび上がって、心配そうなラピスと、落ち着いた様子のルドの顔が見れた。

ルドの発動したこの魔法は、俺とルドたちだけに結ばれていて、敵からは見えない。

音声の接続は切ってくれているのもありがたかった。


別に、不利な戦いではなかったし、コイツを押さえ込んで今度こそ息の根を止めるのは簡単だった。

でも、ラピスのみている前でそれをやるのは、流石に躊躇われた。


そのうち、ルドが呼んでくれたらしいラズが結界に触れたのがわかったので、結界の中に通す。

防御と攻撃しながらでも、そのくらいはできる。

ルドが自分で来るのではなく、ラズを呼んでくれたことに、俺の考えをわかってくれていると、安心した。

ラズも、あまり長く時間をかけたくなかったようで、大きな攻撃魔法をぶつける。

相手に隙ができたのを確認して、ラズと二人で拘束魔法を発動した。

俺一人でも発動はできたが、二人でやったほうが早い。

相手の姿が見えなくなるくらいしっかりと拘束してから、時空の狭間へと飛ばした。


映像魔法を確認すると、泣きそうな、でも安心したようなラピスの顔が見えた。

音声は伝わらないと分かっていたけれど、「待ってろ」と伝えた。

その瞬間、映像魔法が消える。

ラズが何やら言っていたのをまるっと無視して、ルドの屋敷に転移した。

そのまま、目の前にいたラピスを抱きしめる。

少し転生者の話をして、それから自分の家に戻ると、ラズがおかんむりだった。

自分だけ寒い外に置き去りにされたことを怒っていたみたいだ。

ラピスは、自分がなんの役にも立たなかったことを悔いているみたいだったが、彼女には戦闘経験はないし、まだ攻撃魔法などもそれほど教えていない。

防御魔法は少しずつ教えているけれど、高魔力保持者相手に、今のラピスでどこまで通用するか。

何しろ、ラピスがこの世界に来て、まだ2年もたっていないのだ。

ラズは、魔法使い狩りの心配をしていたが、基本的に結界の外をラピス一人で歩かせることはない。どこかへ行く必要があるなら俺も一緒にいるし、それ以前に、本当に必要に迫られない限り、結界から出すつもりはない。

すごく束縛している自覚はあるのに、「家が一番」と言ってくれるラピスは可愛くて、可哀想で、他の世界を知ったら、その考えも変わるのかとも思ったけど、やはり俺には、ラピスを手放すなんて選択肢はなかった。

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