第50話 師匠の回想 1
自分の魔力とラピスの魔力が、ラピスの中で混ざり合う。
何度経験しても、たまらないなと思う。
ラピスはまだ気がついていないが、こうして幾度となく魔力を注ぎ、混ぜた結果、ラピスの瞳は自分と同じ金色に変わり、その魔力からも彼女が不老不死になったことがわかる。
これまで、前世も含めて、自分一人しかいなかった不老不死という存在。
その永遠に等しい時間をともに過ごす存在が、やっと出来た。
自分の周りの人間が先に旅立っていくことは、寂しくはあれど、もういい加減慣れていた。
それでも、永遠をともに過ごしたいと願う存在ができた。
彼女が拒むなら、無理強いはしないつもりだった。
それでも、彼女は自分とともに果てしない時間を生きることを選んでくれた。
この世で何よりも愛おしい存在。
他の何をおいても、守るべき存在。
意識をとばした彼女を抱き寄せて、そっと髪を撫でる。
自分と同じ黒い髪。
それでも、違う世界で生まれたラピス。
膨大な魔力を持ちながら、魔法のない世界で生きてきた彼女。
愛おしくてたまらなくて、結婚したその晩は、理性がどこかへ吹き飛び、かき集めることすら出来なかった。
ただ、欲望のままに彼女を抱き潰し、それでも手放すことが出来なくて、抱きしめたまま眠りに落ちた。
あれから3日。
何度彼女を抱き潰しても、まだ足りない。
その滑らかな、柔らかい肌に触れることを、これまでなんど望んできただろう。
彼女と初めて言葉を交わしたとき。
いや、それよりずっと前。
彼女を見つけて、惹かれ始めたあの頃から。
ラピスが前の世界にいる頃から見つめてきたということは、本人にも伝えた。
でも、どれくらい長い間見つめてきたのかは、伝えていない。
きっと、彼女は知らないだろう。
何年も何年も、自分がラピスだけを見つめてきたことを。
ラピスが、まだ「学校」と呼ばれるものに通っていた頃からずっと。
初めてラピスを見つけた時、俺は、やっと見つけたという喜びとともに、違う世界に離れてしまったことを嘆いた。
すぐに、彼女が魂の片割れだと気がついた。
でも、それを置いておいても、ラピスは魅力的で目が離せなくて、彼女が人見知りで他の男との関わりが殆どないことを喜んだ。
「受験勉強」と呼ばれるものを彼女がしている時も、「就職活動」をしている時も、ずっと見ていた。
ラピスが不意に浮かべる笑顔が可愛くて、コロコロ変わる表情が愛しくて、胸が痛くなるほどのこの感情が恋だと知ったのは、割と早かった。
ラピスが幸せそうだったから、最初は、ただ見つめていられればそれでいいと思っていた。
でも、彼女が成長して、いつか他の男のものになるのかもしれないも思ったら、どうしようもなく苦しくて。
気がつけば、彼女の世界へ渡る方法を探していた。
大魔法使いと呼ばれる自分の魔力をすべて使い果たしてでも、彼女に会いたいと、触れたいと願ってしまった。
そして、それは俺だけではなかった。
時折一緒に映像をのぞき込んでいただけのラズロもまた、彼女に強く惹かれていた。
俺もラズロも、人生で好きになれる相手は一人だけ。
どちらかが結ばれれば、どちらかは気持ちを殺さなければいけない。
ラズロは人嫌いの俺と違って、良い奴だから、もし彼女に会えることがあれば、ラズロが選ばれるかもしれないと思っていた。
その時は、彼らの姿を見ないようにする為に、どこかへ旅に出ようかとすら思っていた。
でも、それすら仮定の話で。
まずは、彼女に会うことが大前提。
何年も何年も、彼女の世界へ行くか、それが出来ないのならせめて、彼女とコミュニケーションが取れる方法をと、あらゆる文献を漁った。
でも、そんな方法、どこにも載っていなくて。
俺の思いだけが募っていって。
ラピスには絶対言えないけれど、彼女を見ながら、身体の内に篭もる熱を逃したことも、数え切れない。
そんな毎日に変化をもたらしたのは、国王陛下からの依頼だった。
魔法省のエリートたちを率いて、聖女を召喚せよ、という。
俺は、前世の記憶から、聖女を召喚したからと言って、簡単にこの国の気候問題が解決するとは思っていなかった。
それでも、これだ、と思った。思ってしまった。
ラピスの魔力量と、前世の繋がりがあれば、彼女の魂がこの世界に馴染みやすいだろうということは簡単に予想できた。
魔法のない世界にいながら、高魔力保持者と同等の魔力を持つ彼女なら、聖女だと自分が言えば納得されるだろうとも。
もちろん、突然別の世界に飛ばされる彼女の気持ちを考えなかったわけではない。
その孤独と絶望は、前世で散々目にしていた。
それに、聖女として喚んでしまえば、国にいいように搾取されるだろうこともわかっていた。
ラピスを聖女として喚ぶと決めた俺は、彼女がこちらに来ても守ることができるようにと、大規模な結界を張った。
その結界から出ることさえなければ、彼女の身の安全が保証されるように。
彼女をこの世界に喚んだら、すぐにこの結界の中に連れてくるつもりだった。
言い訳なんて、なんとでもなる。
召喚当日。
魔法省の中でも魔力の強い者を集めて、大規模な転移魔法陣を展開した。
その頃には、彼女をこちらに喚ぶ方法なら、既に見つけていたから。
転移魔法陣の中心で、別の世界で寛ぐ彼女を映像魔法で見つけて、座標を固定して、魔法陣に膨大な魔力を流し込んだ。
一瞬の光の後、魔法陣の真ん中で呆然とする彼女を見たときは、本当に嬉しくて。
いつか、故郷と引き剥がしたことを恨まれるかもしれない。
それがわかっていても、俺は彼女に近づかずにはいられなかった。
俺たちの言語が理解できていない彼女に、翻訳魔法をかけて、言葉が通じるようにする。
混乱しながらも、元の世界に帰ることが出来ないと知った彼女は、ポロポロと涙を溢した。
(ああ、泣かせてしまった)
申し訳なくて、それなのに、彼女の涙にすら見惚れる自分がいて、適当な言い訳を並べ立てて、その場から自分の結界の中へと、俺は彼女を連れて転移した。
屋敷の中で彼女を見れば、いつの間にか気を失っていた。
彼女が身に着けているのは、この国で過ごすには薄すぎて、また、露出度の高い目に毒な服装。
それが、彼女の世界での夜着だとは知っていたけれど、前の世界の物をいつまでも身に着けさせているのは危険だったし、俺も目のやり場に困ったし、彼女が風邪を引く心配もあったので、すぐにルージュに着替えさせた。
ルージュは、俺が長年彼女を見つめ続けてきたことを知っている。
彼女のために結界を張ったことも。
俺の使い魔なのに、俺の姉のような存在で。
ルージュなら、ラピスのそばに置いておいても安心だと思えた。
でも、それだけでは彼女が寂しがることも分かっていたから、召喚したときに彼女が抱いていたぬいぐるみに、生まれたばかりの使い魔を入れた。
気がついた時にいきなり大人と会うよりは、まだハードルが低いだろうと、彼女が目覚めるまでは、使い魔のアミュだけをそばに置くことにした。
俺は、自分の部屋にいても落ち着かないので、彼女の部屋の前で、ただ、目覚めるのを待った。
願わくば、彼女がこの世界で暮らす決心をしてくれるよう。
今世でも、彼女と愛し合えるよう、願いながら。
「あるじ様ー、目が覚めたでしゅよー」
「わかった」
目覚めた彼女は、俺が思った以上に、元気だった。




