第49話 1週間、ですか?
結婚式の翌朝……いや、翌昼?
私がぼんやりと目を覚ますと、目の前で気持ちよさそうに眠る師匠がいた。
あれ、私のイメージでは、こういう時って相手が起きていて何だか寝顔を見られてキャッ、みたいなシチュエーションが定番だと思ってたんだけど……夢見すぎ?
まあ、寝たの自体、朝方だったわけで、私ももちろんだけど、師匠もだいぶお疲れだとは思う。
何ていうか、その、師匠だいぶ頑張ってたので……
前の世界では婚前交渉は普通だったし、数人との経験がある人もそりゃあいたさ。
でも、私は男っ気のない人生だった。
まだ、24歳だからこれからだとも思ってた。
だから、こうして、「ザ・初夜」って感じなのは、なんというか、気恥ずかしい。
ちなみに、師匠も昨夜がハジメテだ。
自分で言ってた。
それに、ぎこちなさもあったから、たぶんホントのことだ。
それはともかく。
これからどうしたらいいんだろう。
昨日のお客様たちは、みんな別館に泊まっている。
ルージュさんもアミュもだ。
つまり、この屋敷にいるのは私と師匠だけ。
これは、昨晩師匠が私に散々言い聞かせていたから、間違いない。
お腹も空いてきたし、暖炉に火が入っているとは言っても、なにか着ないと寒い。
布団の中とはいえ、師匠の隣で全裸でいるのは、非常に落ち着かない。
でも、私の身体は師匠にガッチリホールドされているし、身動ぎしたら師匠を起こしてしまいそうだ。
いや、起きるのは仕方ないにしても、そうすると私が衣服を身に着けている姿を見られてしまう。
それはそれで恥ずかしい。
いや、確かに昨日、さんざん見られたんだけど。
なんなら、師匠が見ていない部分なんてないくらいだ。
(どうしよう……)
困り果てていると、師匠の瞼が少し動いた。
私を抱きしめる腕の強さも増す。
「師匠……?」
「ん。ラピス?え、なんで……」
そこまで言って、師匠の身体がピシッと固まった。
「そっか、そうだった。結婚したんだった。夢じゃなかった」
一息で言う。
なんだか、顔も赤くなってる。
もしかして、師匠照れてるのかな。
え、昨日あんなコトしておいて?!
「えっと、夢じゃ、ないですね」
「ん……で、お前はどうしたの?」
「いや、服着てご飯食べたいなって」
ああ、と師匠は一言言うと、ベッドの下に落ちていたローブを羽織って身体を起こした。
「持ってきてやるから、お前は待ってろ」
「え?師匠が作ってくれるんですか?」
「いや、ルージュが保冷庫に用意してくれてる」
「じゃあ、私が行きますよ」
「いいけど……お前、身体動くのか?」
生々しいな!
でも確かに、体中がギシギシいってる。
布団を巻きつけて身体を起こしてみたけど、ベッドから降りようとした瞬間に、腰が砕けた。
脚も腰もガクガクで、とてもじゃないけど立てそうにない。
それに、なんだか腕もカクカクしてる。
「ほらな?いいから、お前はおとなしくしてろ」
こんなに?
ハジメテの後って、こんなになっちゃうものなの?
そんな私の気持ちを読み取ったかのように、師匠がしれっと言った。
「まあ、ちょっと昨日は激しすぎたからな」
だから!
生々しいって!
顔が熱くなる。
師匠はそんな私を抱き上げてベッドに横たえると、部屋を出ていった。
とりあえず、下着だけでも身に着けようとベッドの下を探すけど、昨日のベビードールしか見つからない。
全裸よりかはマシかと、仕方なくベビードールを身に着けて、枕を背もたれにしてぼーっと座っていたら、師匠が戻ってきて、ギョッとした顔をした。
「お前、昨日あんだけ啼かされといて、もうやる気満々かよ」
「違います!深読み禁止!師匠のバカ!」
私が怒鳴ると、師匠は半目になった。
「師匠呼びは禁止したはずだけどなぁ?」
「うっ……」
そう。
昨日の夜、これからは師匠じゃなくてフォルって呼ぶように言い渡された。
師匠は料理の乗ったお盆を布団の上に置くと、クイッと私の顎を掴んだ。
「別にいいぜ?ほら、師匠って呼んでみろよ」
「え?し、ししょ、」
言いかけた私に、師匠がキスを落とす。
「はい、やり直し」
「し…フォル」
「おう。何から食べる?」
その後は、師匠に手ずから食べさせられて、お片付けも師匠にお任せ。
なんだか、ものすごく甘やかされている。
「ルージュさんたち、何時頃戻ってくるんでしょうね」
「は?あー、お前、知らされてないのか。ルージュやアミュ含め、この屋敷は一週間、誰も立入禁止だぞ」
一週間、立入禁止?
なんで?
「一週間は、初夜期間だ」
ん?
初夜期間?
なにそれ。
初夜は結婚して初めての夜だから初夜って言うんだよね?
それが一週間続くとはこれいかに。
「一週間もあれば、お前も朝ちゃんと身体が動くようになるだろ」
つまり、一週間ずっと、アハーンでイヤーンなことを続けると。
いや、たしかに新婚さんだけどさ。
それは流石に、ねぇ?
「なんだよ。もっと長い方がいいか?お前が子供宿すまでとか」
「いやいやいやいや」
子供は授かりものです。
仮に毎日そういうコトをしてたからって、すぐに妊娠するとは限らないよ?
まあ、私は月経不順でもないし、これまでの検査でも不妊の可能性があるとか言われたことはないけど。
しかし、私の言葉をどう取ったのか、師匠は私を両腕の間に囲いこんだ。
床ドンならぬ、ベッドドンだ。
「イヤだあ?へぇ、お前には昨日のじゃ物足りなかったか。いいぜ?お前が満足するまで付き合ってやるよ」
「違う!違います、師匠!」
あ、と思った時にはまたキスをされていた。
「ふ、フォルっ、待って……」
「待たない」
押し倒されて、ベビードールを脱がされる。
いつの間にか、師匠もローブを脱いでいる。
「そのっ、まだ少し痛いしっ」
「今度は痛くならないように気をつける」
そういうことじゃなくてー!
いや、気をつけてどうかなるものなの?
完全にスイッチの入ってしまった師匠に翻弄されて、私が満足するまで、というよりもむしろ、師匠が満足するまで続けられた。
呼吸の整わない私の下腹部に手を当てて、師匠が癒やし魔法を発動する。
鈍い痛みは、それで消えた。
昨夜もそうだけど、ただ痛かっただけじゃない。
ちゃんと、一つに重なる幸せも与えられている。
でも、ものすごく身体はだるいし、喉も嗄れている。
そんな私をちゃんと気遣ってくれる師匠は、私をそっと抱き起こしてくれて、果実水を飲ませてくれる。
この果実水は、さっきご飯を食べたときに、水差しごと師匠が持ってきてくれたもので、ずっとベッドサイドに置いてあった。
まるでこうなることがわかっていたみたいに。
師匠、抜かりないですね。
「大丈夫か?」
「ん、とりあえず……」
カーテンは引かれているけど、外はもう暗いみたいだ。
師匠はまたローブを羽織って起き上がると、暖炉に薪をくべて、それからタオルを持ってお風呂場に消えたかと思うと、すぐに戻ってきた。
「身体、ベタつくだろ?拭いてやるから、おとなしくしてろよ?」
「え、いや、恥ずかし……」
「今更だろうが」
言葉とは裏腹に、師匠はどこまでも優しく、私の身体を隅々まで拭いてくれる。
タオルは温水に浸して絞ったみたいで、ホカホカしているし、サッパリしてすごく気持ちいい。
「少し寝てもいいぞ」
「ん?少し?」
「おう、夜はまだまだこれからだからな」
不穏な言葉を聞きながらも、私の意識は遠ざかっていった。




