第48話 結婚式です
その日は朝早くから、ルージュさんにお風呂に投げ込まれ、ここ最近でやっと慣れてきたエステを受け、髪もつやピカに洗い終わったあと、温風で乾かしながら、丹念に櫛で梳かれた。
おかげさまで、サランサランになっている。
今日は式場に着くまで、師匠には会わせてもらえないらしく、自分の部屋で軽食をつまみながら、爪を磨かれ、指先までしっかり保湿され、髪の毛を複雑に結い上げられて、ドレスを着てメイクをされる。
それら全部が終わった頃には、もうまもなく式場へ向かおうかと言う時間になっていた。
最後にもう少しだけ軽食を摘んでから、ルージュさんとアミュと一緒に別館に用意されている私用の部屋へ移動する。
私は別館に行ったことがなくて転移できなかったので、ルージュさんにお任せした。
参列してくださるお客様の誘導や接待は、なんと花婿である師匠がやっているという。
まあ、結界に人を通すのも、別館に人を通すのも師匠じゃなきゃできないし、ルージュさんは私のお世話があるので、師匠がやるしかないのだけど。
それに、全員師匠の友達や知り合いなので、話に花が咲いていることだろう。
……師匠がからかわれている姿が目に浮かぶね。
柱時計が11時を告げると、いよいよ私は会場である大広間へ行くために立ち上がった。
最後にササッとお直しをされて、泣いたらメイクが大変なことになるから、絶対に泣かないようにと脅される。
ルージュさんに手を引かれて大広間の入り口に着くと、黒のローブに身を包んだ師匠が待っていた。
普段のシンプルなローブとは少し趣きが違っていて、ローブの縁は金糸で縁取りされているし、全体も微妙に色の異なる、艶のある黒糸で刺繍されている。
首からは祭祀で使いそうな、長い首飾りを下げていて、どうやらこれが大魔法使いの正装らしい。
向かい合ったまま、しばらく無言でお互いを見つめ合う。
無理。
師匠がカッコよすぎて、言葉が出てこない。
イケメンが過ぎる。
ふ、とルージュさんが師匠の腕を叩いた。
叩かれた師匠は、ハッとして、顔を赤らめていった。
「あー、その……すげぇ綺麗だ。可愛い。似合ってる」
「えと、師匠も、すごくカッコイイです」
お互いに誉めあって、顔を赤くする。
え、なに。
結婚式ってこんなに恥ずかしいイベントなの?
しかも、まだ招待客の前にすら出てないのに。
「では、皆様お待ちですから、中へ」
どこから来たのか、アミュがびゅんっとやってきて、私のドレスのドレープとベールの裾を持ってくれる。
師匠は、左腕を折る。
……あ、そっか。
腕組むのか。
そっと腕を絡めると、ルージュさんが魔法で大広間のドアを全開にした。
「新郎新婦の入場でございます」
拍手に包まれながら、師匠と一歩一歩歩いていく。
ゴールは大広間の一番奥だ。
教会ではないので、新郎席と新婦席が別れているわけではない。
人波の真ん中を突き進んでいく。
師匠のお友達ズ。
知った顔もあれば、知らない顔も一人や二人はいる。
ルドルフさんの隣にいる可愛い女の子は、たぶんルドルフさんの奥さんだろう。
人前には出したがらないって話だったのに、一緒に参列してくれたんだ。
メリッサさんとラズロさんはなんか号泣してる。
あまりの泣きっぷりに、こちらがちょっと冷静になるくらいだ。
師匠と目を見合わせてクスッと笑うと、ヒュウっと指笛がどこからともなく鳴らされる。
参列者の人数はホントに少なくて、アットホームな式になりそう。
一番奥につくと、二人で参列者の方へ振り返った。
二人で礼をして、予め決めてあった宣言文を読み上げる。
それから、誓いの口づけなんだけど……
師匠は私の顔が招待客から見えないように向きを変えて、ベールを持ち上げて、キスをした。
これには、さすがにブーイングの声が上がったが、師匠はなぜか自慢気な笑顔だ。
そんな、勿体ぶるような顔じゃないと思うんだけどね、私の。
普通なら、ベールを上げた状態で挨拶回りをするんだと思うんだけど、師匠の独占欲と、私の人見知りから、ベールを下ろしたまま各テーブルを回った。
私たちがテーブルにつくと、わらわらと参列者の皆さんが寄ってきて、私にプレゼントをくれて、師匠にはお酒を注ぐ。
この世界にはご祝儀というものは特になくて、代わりにプレゼントをするんだそうだ。
「そう……ついにフォルも身を固めるのね」
そう言って、悩ましげにため息をつくのは、はじめましての女性。
メリッサさん経由で知り合った師匠のお知り合いらしい。シェリーさんというこの方は、高魔力保持者ではないとのことで、純粋に私と同じ年くらいだ。
なんだか、師匠に好意を持ってるのかな?と思ってしまう言動だったけど、全然そんなことはなくて、シェリーさんの好みは、もっと紳士的な騎士らしい。
「なんで騎士団長を招待しないのよ!」
「知り合いでもねぇのに招待客するわけねぇだろ!」
シェリーさんは、魔法使いとその使い魔しかいないこの結婚式がご不満な様子。
「大魔法使いのくせに、使えないわね!」
「ぬかせ!」
師匠に遠慮なく物言うところは、いかにも師匠のお友達だ。
「そもそも、てめぇは既婚者だろうが」
え、そうなの?
びっくりしている私に向かって、シェリーさんはにこりと微笑んだ。
「そんなの関係ないわよねぇ?憧れの人には会いたいものよね?」
いや、私に振られても。
「今日は、旦那様はご一緒じゃないんですか?」
「ええ。うちのダーリンは魔法使いじゃないから、魔法使いだらけのところには顔を出しづらいらしいわ」
ラブラブっぽいけど、旦那さんのいないところで他の男を紹介しろって言っちゃうのもどうなのか。
あれかな?
芸能人に会いたかった、みたいな感じかな?
その後も、色んな人と話して、おいしいごはんを食べて、少しだけお酒を飲んで、存分に楽しんだところで結婚式はお開きになった。
ルドルフさんと奥さんは、このまま帰るらしい。
一緒に帰って、後からルドルフさんだけまた来るってことなんだけど、やっぱりあれかしら。奥さんをあんまり人目のあるところに置いておきたくないっていう。
チラチラ見ていた感じでは、ルドルフさんがものすごく甘やかそうとして、奥さんがクールにそれを跳ね除けていた。
ラズロさんは、なんでかまだ泣いている。
プレゼントを渡しに来てくれたときに、私の両手をガッシリ握って、「いつでも逃げてきていいからね」と言っていたけど、何から逃げるというのか。
まさか、師匠?
その他にも、はじめましての魔法使いさん(男性)と挨拶もしたし(師匠は嫌そうだった)、私としては、師匠の交友関係が知れて嬉しかった。
お開きになったあとは、別館に泊まる人は談話室に移動して飲み直し。
私と師匠は、着替えるためにお屋敷に戻った。
とはいえ、師匠はともかく、私は一人ではドレスを脱げないので、ルージュさんに手伝ってもらう。
「さ、ラピス様。どの夜着に致します?」
お風呂から出たあと、ルージュさんが広げていたのは女性のお客様から頂いたプレゼント。
その全てが夜着だった。
スケスケの色っぽいものから、羽化したばかりの妖精さんみたいなもの、ネコのきぐるみ、ベビードール。
うん。
どれも着こなす自信がない。
「この中から選ばなきゃだめ?」
「はい。ちなみに、ネコは却下しましょう」
ルージュさんの一存で、ネコのきぐるみは却下された。
「私のオススメはこれでしょうか」
ルージュさんがベビードールをヒラヒラとさせる。
「主様はわかりやすくスケベなので。あと、脱がしやすいという点も大事ですね」
確かに、師匠はオープンスケベだ。
ぬ、脱がしやすさもね……うん、大事だよね。
結局、私はルージュさんに言われるがままにベビードールを身に着けて、師匠の部屋へと向かったのだった。




