第45話 新年早々お客様です
年が明けて、みんなでお祝い料理を食べてからのんびりしていた。
ちなみに、ルージュさんは昨日の夜は寝ていたはずなのに、なぜか朝顔を合わせたら、ニヨニヨしていた。
いつもの、あらあらウフフな顔じゃない。
もっとこう、喜びを抑えきれないような表情だ。
「昨夜のうちにお赤飯の準備をしておいてよかったです」
お赤飯……
そ、そうね。
おめでたいことだものね。
でも、師匠が結婚するまでは私とそういう関係にならないことを知っているみたいで、起きてきた師匠の耳元で何やら訴えていた。
おかしいな。
師匠と私が結婚することは、まだ誰にも話してないはずなのに。
「師匠。今夜は師匠の好きなグラタンにしますか?」
お昼を過ぎたばかりの時間だけど、師匠に聞いてみる。
「ミートソースの乗ったドリアがいい」
ああ。
あの、某地方風ドリアですね。
はいはい。
ふと、師匠の手元が光る。
これは、師匠のもとにお手紙が届いた合図。
手紙と言っても、空中に文字が浮かび上がるのだけど。
私信だろうし、あまり見ないほうがいいだろうと、みかんっぽい果物の皮を向いていたら、師匠がため息をついた。
「ラピス、ルージュ。今夜は多めに飯作ってくれ。ルドとラズが来る」
「え!お正月なのに?!」
思わず、前の世界の言葉を使ってしまった。
でも、師匠にはちゃんと意味が通じたようで、私の頭をクシャクシャと撫でた。
「そ。正月早々来るんだと。新年の挨拶だとか言ってるが、これまでそんなことしたことねぇくせにな」
確かに、去年のお正月は来なかった。
ていうか、ルドルフさんもラズロさんも、お弟子さん放っておいていいんだろうか。
年末年始は実家のないお弟子さん含めて、家族で過ごすのが普通だよね?
「たぶん、また泊まっていくんですよね?お家空けていいんでしょうか」
「ルドは、嫁さんが家のこと見てるから大丈夫だろうし、ラズはラズで、今は一人だしな」
ん?
今、とんでもないことが聞こえた気が。
「ルドルフさんの、お嫁さん?」
「ん?ああ、お前は会ったことなかったか。嫁っつっても、まだ子供だけどな」
「え……ロリコン?」
チャラ男っぽいルドルフさんに奥さんがいたこともびっくりだけど、その人がまだ子供とか、どういうことだ。
この世界に来て、師匠のお友達ズについては、だいぶ詳しくなってちょっとやそっとじゃ驚かない自信があったのに、その自信がガラガラと崩れていく。
「ロリコンとか言ってやるな。詳しいことはアイツから……いや、アイツに話させると長くなるな。端折って言うと、たまたま仕事で出かけた先で出会った幼女を弟子にしたら、数年後には嫁になってたってことだ」
師匠、それはさすがに端折りすぎだと思うの。
「ルドも寿命は長いからな。嫁がちゃんと大人になるまでは待つつもりらしいぞ」
つまり、籍だけ入れたプラトニックな関係か。
白い結婚とか言うんだっけ。
そして、家を預けても大丈夫な幼女。
なんて頼もしい。
「ルドの場合は、見た目とか年齢より、魔力の相性が良かったのが決め手だからな。嫁さんは、アイツのチャランポランした性格をちゃんと手綱を取れる、年齢の割にしっかりした子だぞ」
「えー、じゃあ会わせてくれても良かったのに」
「それは難しいな。アイツも嫁さんを自分の屋敷から絶対に出さないし、人前にも出したがらないし、前にお前が避難したときは、状況が状況で、それどころじゃなかったしな」
あー、なるほど。
お嫁さん、めっちゃ愛されてるんだなぁ。
「……ふむ。俺はちょっと1時間ほど作業室に篭もる。アイツラが来るのは夕方だからそれまでには戻る。ラピスたちも用意が大変だとは思うが、できるだけのんびりしてくれ」
師匠は何か思いついた様子で、さっさといなくなってしまった。
アミュはお昼寝中で、私とルージュさんは、夕ごはんの支度をするには早すぎるので、ちょっと顔を見合わせた後、またふたりでみかんらしきものの皮を剥いて食べ始めた。
コタツがあれば完璧なんだけど、残念ながらこの世界にはないので、リビングの暖炉の前でみんなで座っている(アミュは寝てるけど)。
そうか、アミュ。
「ルージュさん、この時期でも咲いてる、珍しい花ってありますか?」
「ええ、薬草園のそばに咲いていますよ。この時期しか咲かないので、かえって珍しくていいかもしれませんね」
さすが、デキルメイド、ルージュさん。
私が何を思いついたのか、すぐに察してくれた。
一緒に摘みに行くことになって、私はモコモコと着込んでから、ルージュさんの案内で、師匠の薬草園の隣に咲いていた花をカゴいっぱいに摘んだ。
「アミュも、年明けの日くらい、特別なものを食べたいですよね」
お花しか食べないアミュ。
食べる前には必ず魔法をかけてあげるけど、私達だけ普段とは違うものを食べて、アミュはいつも通りというのは寂しい。
「喜んでくれるかな」
「ええ。きっと」
それから、ルージュさんと二人でしっかり暖炉で温まったあと、のんびりと夕ごはんの支度を始めた。
もうすぐお客様が来るかな、という頃、師匠がリビングに戻ってきた。
「ラピス、ちょっといいか」
師匠に誘われるまま、師匠の部屋へ入る。
昨日の夜ぶりだ。
なんか、思い出して少し恥ずかしい。
師匠は、暖炉の前に私を立たせると、目の前に片膝をついた。
これ知ってる。
海外の映画とかで見たことある。
「ラピスラズリ・ウル・パテル。俺と結婚してください」
ヤバイ。
トキメキがヤバイことになってる。
だって、乙女の憧れじゃない?
昨夜はあんなにあっさりしてたのに!
「はい、喜んで!」
ちょっと、どこかの居酒屋みたいな返事になってしまった。
師匠は、私の左手を取ると、握りしめていたらしい片手から、指輪を取り出した。
それを、ゆっくり薬指に通してくれる。
魔石があしらわれた、シンプルな指輪。
でも、少し捻りが入っていたりして、すごく素敵。
「急いで作ったんだが、よく似合ってるぜ」
そっか。
作業室に篭ってたのは、これを作るためだったんだ。
「この世界でも、指輪を贈る風習ってあるんですか?」
「いや、こっちにはないが、お前のいた世界では常識だったろ?」
「もぉー……師匠、大好きです」
ガバッと抱きつくと、師匠は軽々と受け止めて、抱きしめ返してくれた。
そのままキス……という流れだったと思うんだけど、師匠は視線をあらぬ方へ流して、チっと舌打ちした。
「来たぞ」
「え?……あー」
どうやら、お客様が到着らしい。
「お前は出迎えはいいから、飯の支度頼む」
「はーい」
良かった。
新年早々、アレをやれと言われたらどうしようかと思った。
私はそのままキッチンに戻って、ラピスさんとご飯の支度をまた始めた。
ドリアだけだと寂しいから、クリームコロッケとか、アヒージョとか作ろうかな。
ちなみに、ルージュさんはニコニコとお赤飯を炊いている。
そっか。
小豆があるのか。
私は、少し考えて、ルージュさんから小豆を分けてもらって、ぜんざいを作って、談話室に持っていった。
お餅も入れたかったけど、もち米はあっても、餅つきはできないから、仕方ない。
「ラピスちゃん、今年もよろしくね」
「ラピスちゃん、今年も甘い匂いね」
ルドルフさんとラズロさんに挨拶して、三人の前にぜんざいを並べる。
「あら、これってラピスちゃんのいた国の……」
そっか。
ルドルフさんとラズロさんも、私が前の世界にいる時から師匠とたまに見てたんだっけか。
「お餅はないですけど」
「うまそうだな。ありがとな」
師匠に頭を撫でられて喜んでいると、ふと、視線を感じた。
主に、私の左手に。
「へぇ。ホントに年内に打ち明けたんだね」
「ヘタレの割には頑張ったんじゃない?」
師匠の事情と、私達が婚約したことを察したらしく、二人からお祝いとは言い難いけど、なんとなくお祝いしてもらえた。
ちなみに、私はなぜか二人から、お年玉をもらった。
うん、使い道ないんだけどね。
でもきっと、このお年玉も、私の前の世界にあわせてくれているんだとわかったから、有難く頂いた。




