第44話 告白は続きます
「初めてお前を見たときに、すぐにわかった。魂の片割れだと。でも、別の世界に生まれちまったお前を見て、俺は諦めようと思った。ただ、お前を見守れれば、それでいいと」
師匠は、相変わらず苦しそうな顔をしている。
私も、頭の中はぐちゃぐちゃだけど、少しでも師匠に楽になってほしくて、そっと手を握った。
師匠は、一瞬目を見開いたけど、すぐに苦笑した。
「ずっと、あっちの世界で暮らすお前を見てた」
「え、ずっとって、毎日ですか?一日中?」
「んなわけあるか。俺だって仕事がある。まぁ、3日に一回くらい、数時間だ」
いや、その頻度でも十分恥ずかしいです。
だって、仕事中はともかく、自分の部屋ではダラダラしてたし。
ちょっと女性としてどうかっていう格好で本を読んだりしてたし。
「ストーカー……?」
「ぐっ……まあ、そう言われても仕方ないんだが、ルドやラズと、お前を見守ってるうちに、俺は、どんどんお前に惹かれていった。あ、言っておくが、風呂や着替えなんかは覗いてないからな!」
そこは心配してない。
てか、そこまで見られてたら、恥ずかしねる。
男性陣に全裸晒してたとか。
「えーっと、とにかく、俺はお前に惹かれて、何とかしてお前の世界に行けないかと考えるようになった。だが、どんなに資料を漁っても、魔法のある世界から魔法のない世界への転移は無理だった。逆に、お前をこっちに召喚することなら出来た。
そんな時だ。国から、聖女を召喚しろと言われたのは。俺はその話を聞いて、迷わずお前を召喚することにした。お前に魔力が豊富にあるのはわかっていたし、もともとの魂はこっちの世界で失われたものだから、お前の魂がこっちに定着しやすいだろうこともわかってた。だから……」
ついに、師匠の言葉が止まった。
師匠は、どうせ召喚するのなら、私をと望んだ。
私が元の世界に帰れないことも、一方的に連れてくることになるのもわかった上で。
「俺は、自分の気持ちを最優先にしたんだ。お前の事情も何もかも、まるっと無視して。せめて、喚んでしまったお前だけは守ろうと、大掛かりな結界を張ったが、それだって、お前にしてみれば、鳥籠みたいなもんだよな……」
そっか。
なんで大魔法使いである師匠が、こんなところに引き篭もってるのかと思ったら、私を守るためだったんだ。
あの、空に浮かぶいくつもの魔法陣は、師匠の、私を守りたいという気持ちの表れだったんだ。
「お前は、俺を責めていい。お前にはその資格がある。どうしても、元の世界には還してやれねぇが、ここを出て、ルドの屋敷に行ったっていいし、ラズのところへ行ったっていい。お前がどこにいても、俺はお前を守る」
「……それは、罪悪感からですか?」
「違う。ただ、お前を守るのは俺でありたいっていうただのワガママだ」
師匠は、私がこの話を聞いたら師匠のことを恨むって、そう思ってたのかな。
一緒に暮らし始めてからずっと。
でも、師匠はなんにも分かってない。
「師匠は、私を召喚したことを、後悔してますか?」
「すまん。それでも俺は、後悔してない。お前がこっちの世界に来て、本当に嬉しかったんだ。自分勝手で、本当に悪い」
「意外とおバカさんなんですねぇ、師匠は」
私は、ふぅっと息を吐いた。
師匠の肩が、分かりやすくビクッとする。
舐めてもらっちゃ、困るんだよね。
「師匠。私は、前の世界に帰れないと分かったときから、もうこの世界で一生暮らす覚悟を決めてたんですよ?未練がないって言えば嘘になります。でも、手段がないのならいつまでもウジウジしてたって仕方ないし、それに、私にはもう帰る世界すらないじゃないですか」
あの日。
師匠に元の世界の映像を見せてもらったとき、私は、思ったんだ。
何がどうなったって、この世界で生きていくしかないって。
そして、そのことに思ったよりずっとショックが少なかったことにも気がついた。
だって、私のそばには師匠がいてくれて、ルージュさんや、アミュだって、もう家族みたいなものだ。
ひとりぼっちだったら、泣いて暮らしていたかもしれないけど、私のそばにはずっと、師匠がいてくれた。
師匠のお友達ズだって、ほんとに私にも良くしてくれる。
この世界で私が知ってる人はほんの少しだし、私の知ってる場所だって、結界の中とルドルフさんのお屋敷くらいだ。
でも、不思議なくらい、それを窮屈とか、さみしいとか思わないで生きてこれた。
周りの人に支えられて。
「私は、一生のうち一人しか好きになれない相手が師匠でよかったと思ってるし、なんなら師匠に会うためにこの世界に来たってくらいには思ってます。前の世界にいたままなら、きっと私は生涯おひとり様だったでしょうね。ねぇ、師匠。今更、他の人のとこへ行けなんて、言わないでくださいよ。私は、もう師匠が大好きで、これから先も師匠以外好きにならないのに」
「おひとり様、か。そう言えば、元の世界ではお前、結構おひとり様だったよな。友達や同僚と飯食いに行ったりもあんまりなかったし」
グサッ。
仕方ないじゃないか。
私は人見知りで、その上女子校出身だから男性慣れもしてなくて、友達や同期はみんな忙しそうで。
べ、別におひとり様を寂しいと思ったことなんて、そんなにないもん。
ひとり暮らしだって満喫してたし!
「そのことは、もういいじゃないですか。だいたい、師匠は忘れてるみたいだけど、ずっとそばにいればいいって言ってくれたの、師匠ですよ。まさか忘れちゃったんですか?」
ちょっと唇を尖らせて文句を言えば、師匠は柔らかく笑った。
「覚えてるよ。忘れるわけねぇだろ。お前とのことは、全部覚えてる」
全部、ですか。
すみません、私全部は覚えてません。
さすがストーカー。
記憶力すごいな、師匠。
あ、でも。
「師匠は不老不死なんですよね?で、私やルドルフさんたちは不老長寿。ってことは、師匠に万が一のことがない限り、私たちは師匠を置いて逝ってしまうってことですか?」
「まあ、そうだな。見送るのも慣れてきたが……お前だけは別だ。前世みたいにお前に先立たれるのは辛いし、耐えられねえ。だが、それについては対策済みだ」
師匠は、試験問題を前にしたみたいに、軽く言ってのけた。
「対策済みとは?」
「あー……っとだな。俺と結婚して、その……俺の魔力の篭った、たっ、体液をお前の身体の中に注げば……」
うん?
師匠の体液を、私の身体の中に?
……え?
それって、つまり、そういうコトをすればって意味ですかね?!
唾液だって体液だけど、多分そういうことじゃないよね?
だって、それならとっくに私は不老不死になってるはずだし。
えっと、輸血でもいけるかな?
でも、この世界は輸血が出来るほど科学は進んでない。
だからたぶん、それも違う。
うん。
どう考えても、そういうコトだよね?
チラッと師匠を見ると、真っ赤になっている。
あ、やっぱりそういうコトだ。
「えと……私って、このままだとあとどれくらい生きるんですか?」
「一概には言えねぇが、高魔力保持者の平均寿命は、だいたい250歳前後だな。お前はまだ20年ちょいしか生きてねえから、あと200年はヨユー」
200年。
2世紀分か。
かなり長い。
それでも、師匠はもっともっと生きてきて、これから先も生き続ける。
「怖いか?」
200年を生きることが、だろうか。
それとも、師匠と永遠を生き続けること?
「正直、わからないです。そんなに生きたことないですし。でも、一人きりじゃないならいいかなって思います。だから、師匠は絶対に私より先に死なないでくださいね」
「残酷なこと言うな、お前」
そうかもしれない。
前世でも、私は師匠を残して死んだ。
絵本の通りなら、私の死後、数百年は生きたはず。
それなのに、また師匠を置いて逝きたいと言っているのだから。
「ま。いいよ、それでも。お前が同じ時を生きてくれるなら。ラピス」
「はい?」
「結婚、するか」
まるで、明日特訓するか、くらいの軽さで言われた。
でも、師匠にとっては、そんなに軽くなかったのだとすぐにわかる。
「年が明けたらすぐに式挙げるか?俺は、結婚するまではお前と身体を重ねないと決めてる。だから、できるだけ早く結婚したい。さっさと俺の嫁になれ」
一息で言った師匠の顔は、ほんのり赤い。
イケメンからのプロポーズは、想像以上に破壊力が大きかった。




