第43話 驚きの告白をされました
「ルージュさん、味付けはこれでいいですか?」
「はい、大丈夫です。料理はもういいので、主様の部屋の片付けの手伝いに回っていただけますか?」
「あー、師匠、散らかしてそう」
ルージュさんから指示を受け、私はパタパタと移動する。
今日は一年の最後の日。
日本で言うなら大晦日だ。
日本と同じで、ちゃんと年納めの大掃除がある。
年始の日には、おせちでは無いけど、ごちそうを食べる風習もある。
ただ、年越しそばはない。
年末の夜は静かに迎えるものらしく、二年参りとか、除夜の鐘とか、そういうものはなくて、家族で過ごすのが普通なんだって。
この世界には精霊はいるけど、神様は特にいない。
だから、神様への挨拶はない。
その代わり、家族でランタンを浮かべる、という風習はある。
これは、すでにこの世を去った人の魂を送る意味があるらしくて、精霊流しみたいなものらしい。
私は精霊流しを行う地域には住んでいなかったし、ランタンを空へ浮かべるのも、この世界に来て初めてやった。
師匠のお屋敷は森の奥にあるから、他の家々が浮かべたランタンを見ることはできないけど、ルドルフさんの話では、幻想的できれいらしい。
この年末だけは、魔法使いの下で修行をしている子たちも、実家に帰ったりするらしい。
実家のない子は、自分の師匠と一緒に過ごすんだって。
私ももちろん、去年も今年も師匠やルージュさん、アミュと一緒に過ごす。
「師匠ー、片付け進んでますか?」
「おう。来たのか、ラピス」
師匠は決して散らかし屋ではない。
普段は、結構片付いている。
だがしかし、何故か年末の大掃除の時だけは散らかすのだ。
よくいるでしょう?
片付けしている最中に本とか読み始めて手が止まってしまう人。
師匠はそのタイプ。
読み始めた本が師匠の周りに積み重なって、大変なことになるのだ。
家具は、毎日ルージュさんが掃除しているのでピカピカなのに。
「はぁ、またこんなに本を出しっぱなしにしてー」
「あ、おい。勝手に閉じるなよ?まだ読み途中で、」
師匠の言葉を聞きながら、私は開いている本を次々に閉じていく。
大丈夫。ちゃんと栞は挟んでいる。
その本を、内容別に分けて、更に著者別、その上で大きさ別にして、本棚へ仕舞っていく。
去年は、どうやってしまったらいいのかわからなかったけど、だいぶ魔法についての知識を得た今では、パラパラと中身を見れば判断できる。
そう。
私はだいぶ魔法が使えるようになった。
さすがに師匠やそのお友達レベルには使えないけれど、師匠いわく、魔法省の中堅レベルにはなっているらしい。
結界だって張れるし、念話だって出来る。
映像魔法も使えるようになった。
師匠が前に使っていた影縫いも出来るようになった。
拘束魔法も、簡単なものならできる。
オリジナル魔法は、ご飯を美味しくする魔法以外は出来ないけれど。
師匠には、普通、オリジナル魔法はなかなか編み出せるものではないので、魔法を習い始めてまだ2年にもならない私は焦らなくていいと言われている。
「さ、師匠。風魔法で床のホコリを払っちゃうので、窓開けてください」
「あいよ」
師匠が窓を開けると、フワッと細かな雪が吹き込んでくる。
それに対抗するように、風魔法で部屋の中のホコリを外へ出してしまう。
「風が冷たいだろう。もう閉めるぞ」
師匠が魔法で窓を閉めながら、自分のローブを私に着せかけてくれる。
今日も師匠は優しい。
暖炉に薪を焚べている後ろ姿を見ながら思う。
思えば、師匠は最初から優しかった。
そりゃ、初めのうちこそ、お互いに気を遣いすぎてギクシャクしたり、師匠のスパルタ特訓に泣きそうになったこともあるけど。
でも、師匠は私よりずっとずっと高みにいる人なのに、いつだって、私がちゃんと道を誤らないか、自分との距離が開きすぎないか、足を止めて見守ってくれていた。
イケメンなのに口は悪くて、イケメンなのに子供舌で、イケメンな上に寝起きにキスをする癖があって、
イケメンな上に世界に一人だけの大魔法使いで、天才肌だから教えるのは少し苦手で、そのことがコンプレックスで、猫が大好きで───
師匠のことについて語りだしたら、止まらなくなりそうだ。
「ラピス」
「はい。なんですか、師匠」
「そんなにじっと見られるとやりにくいんだが」
「師匠、もしかして後ろにも目が!」
「あるか。バカタレ」
ちょっとした冗談だったのに、チョップを食らってしまった。
「なあ、ラピス」
「はい?」
師匠は私の方を向いて、珍しく真剣な顔をしている。
「今夜、みんなが寝静まったあとに、話したいことがある。ルージュには早く寝るように言っておくから、お前もアミュが寝たら、この部屋に来てくれるか?」
いつも自信満々な師匠の瞳が、不安そうに揺れている。
そんなに、話しにくいことなのか。
「わかりました。その代わり、私が来るまで寝ないでくださいね」
「赤ん坊じゃあるまいし、寝るか。それから、ちゃんと暖かくして来いよ」
いつもよりどこか力ない師匠に頷くと、私は次の仕事へ向かうために部屋を出た。
その晩、いつもより豪華な食事と、アルコール(私にはちょっぴり)をみんなで食べて、ランタンを浮かべてしばらく見送ると、ルージュさんは明日のごちそうの用意があるから早く寝る、と言って自室へ行ってしまった。
「私たちも寝ようか、アミュ」
「ハイです!明日になったら、アミュも少しお姉さんになるですよー」
「そうだね。楽しみだね」
チラッと師匠と目を合わせて、私とアミュは私の部屋へ戻った。
夜着に着替えて、アミュと一緒に布団に入る。
普段なら、お酒の影響ですぐに寝てしまうところだけど、昼間の師匠の様子が気になって、全く眠くならない。
アミュはすぐにスピスピと寝息を立て始めたので、私はそっとベッドから出ると、夜着の上にカーディガンを着て、更にその上からストールを羽織って、そっと部屋を抜け出した。
コンコン
師匠の部屋のドアをノックすると、まるでドアの前で待ち構えていたかのように、師匠がすぐさまドアを開けた。
「悪ぃな、こんな時間に」
「いえ、それはいいんですけど、話したいことって?」
「あー、まあ、とりあえず中入れ」
師匠に促されるまま部屋の中に入って、勧められるままにソファに座る。
「何から話したもんかな。ずっと、お前には話さなきゃいかんと思ってたんだが、いざこうして話そうとすると、話すことがありすぎる」
どうやら、話は長くなりそう。
私が魔法で二人分のお茶を出すと、師匠は一口飲んだ。
「あー……まずだな。ルドやラズなんかが不老長寿だってのは知ってるな?」
「はい。私もですよね?それに、師匠も」
私が言うと、師匠は「やっぱりそこからか」と眉を寄せた。
「お前が不老長寿なのは合ってる。だが、俺は違う」
「え?でも、師匠も高魔力保持者で、何百年も生きてるんですよね?」
「それはそうなんだが、俺の場合、正確には不老長寿じゃなくて、不老不死だ」
不老不死。
世界の権力者が憧れるあれ。
老いもしなければ死ぬこともない。
「もちろん、首を落とされたり、血が流れ過ぎれば死ぬこともある。だが、基本的には肉体的な限界で死ぬことはない。ここまではいいか?」
まあ、師匠ほどの魔法使いになれば、そんなこともあるんだろう。
とりあえず私は頷く。
「でもって、俺には前世の記憶がある」
話が突然ファンタジーになったよ。
前世の記憶があるっていうと、もしかして。
「異世界からの転生者ですか?」
前に、この屋敷にも前の世界からの転生者が入り込んだことを思い出す。
「違う。俺の前世は、初代の大魔法使いだ。まあ、記憶があるとは言っても、全部覚えてるわけじゃねぇ。記憶は結構曖昧だ。前世の魂があるからこそ、俺は不老不死だとも言える」
「大魔法使いって、凄いんですね」
「まぁな。で、だ。俺は200年ほど生きたところで、自分の魂の片割れはこの世界にはいないと考えた。それで、あらゆる世界線のあらゆる次元の世界を見て、自分の魂の片割れを探し始めた」
師匠は、どこか苦しそうに、言葉を切った。
そんなに、言いにくいことなんだろうか。
それにしても、何年も何年も、いろいろな世界をチェックして自分の唯一を探すなんて、途方もない。
「その結果見つけたのが、お前だ。ラピス」
何となく、どこかで予想していたけど、いざ言われてみると、なんとも言えない気持ちになる。
「お前に記憶はないだろうが、お前は、初代の大魔法使いの恋人の生まれ変わりだ」
今度こそ、私は言葉を失った。




