第42話 特訓します
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「師匠……も、だめ……これ以上は……」
師匠の部屋で、私は荒い息をついている。
「まだまだ。ほら、集中しろ」
「そんなこと言ってもっ……!あっ……」
パチン、と私の手のひらで水球が弾けた。
「ほら、もう。師匠が集中力乱すから」
「これくらいで集中力乱してたら話にならんぞ」
師匠は厳しい。
ちなみに、今私は、師匠の部屋で、魔法の特訓をしている。
水球を一定の大きさに保って、それを割らないように師匠の展開している空間に入れる訓練だ。
それを、師匠が私に弱い魔法を当ててきて邪魔をする。
これがなんの役に立つかというと、万が一魔法戦に巻き込まれたとしても、攻撃を受けつつも自分も攻撃をすることができるようになるんだとか。
これを、水球だけでなく、風球、火球、泥団子、光球でもできるようになったら、次は師匠が出す球を闇魔法で飲み込むという訓練に変わる。
火球と、泥団子は出来た。
なかなかうまくいかなくて苦戦しているのが、さっきまでやっていた風球と今やっている水球だ。
なぜこんな訓練をしているのかといえば、私の周囲が少し不穏になってきたからだ。
基本的には師匠の結界の中でのほほんと暮らしているし、やってくるのも師匠のお友達がほとんど。
だから危険はないのだけど……
魔法省が、何やら企んでいるらしいのだ。
私をなんとか師匠の結界からひっぱり出して、魔法省で天候問題を解決させようとかなんとか。
とはいえ、私が師匠の結界から出ることはない。
引っ張り出そうにも、そんじょそこらの魔法使いでは師匠の結界を破ることもできない。
それこそ、師匠より強い魔法使いでもない限りは。
それでも、もしものことがあるから、と師匠に特訓を受けているのだ。
そういうの、フラグになるからやめてほしい。
ちなみに、もしも連れ出されるようなことがあれば、すぐにでも師匠のもとか、ルドルフさんの屋敷に転移で避難するようにと言われている。
ただ、魔法省では悪事のために魔法を使う犯罪者のために、魔封じの魔導具を持っているらしいので、逃げ切れない可能性もないとはいえないらしい。
一応、姿隠しの魔法は習得済みだ。
これは、光の屈折率を応用した魔法なので、意外に早く習得できた。
闇魔法の応用で、何かの影に入って、姿を消す魔法もあって、それもイメージさえ出来れば簡単に習得できた。
だから、何かがあっても大丈夫だろうとは思うのだけど、師匠は心配性なので。
それともう一つ。
私自身が、師匠の横に立てるほど強くなりたいと望んだ、という理由もある。
過保護な師匠は、最初は嫌がった。
何かあっても、自分が守るから、と。
でも、前に何とかさんが敵襲に来たときに、私はただ見守るしかできない自分を、すごく嫌だと思ったのだ。
それを何度も何度も師匠に訴えて、今に至る。
そうは言っても、基本的に大きな攻撃魔法は教えてもらえなくて、防御魔法と、攻撃魔法を躱す魔法がほとんどなんだけど。
それと同時に、私は北国でもできる農業や酪農についても勉強している。
師匠の屋敷にある図書室には、膨大な蔵書があって、その中には1つくらいそういうことについて記された本があっても不思議はないと思ったのだ。
そして、思った通り、そういう本はあったのだけど、これまでに読んだ本をすべて覚えている師匠ですら、記憶にないというくらいで、詳しく載っている本はなかった。
そこで、疑似太陽を作ったらどうか、と思ったわけだけど、それには、魔法に関する深い知識と、繊細な魔力操作が必要になる。
だいたい、疑似太陽っていっても、光魔法で光の玉を浮かべるのと、より太陽に近い炎のたまを浮かべるのでは結果に大きな違いが出るし、発動する魔法も違う。
そこで、行き詰まっているのだ。
「ラピス、来い」
ぼおっと考え事をしていたら、師匠に抱き寄せられた。
「俺たちが、俺が、お前をこっちに喚んじまったせいで、ごめんな」
「謝らないでください。私は、師匠に出会うためにこの世界に来たんですよ」
「ん」
師匠に抱きしめられながら、森林の香りを吸い込む。
師匠の香り。
私が一番落ち着く香り。
「俺は……まだお前に話してないことがある」
そう言えば、前にもそんなこと言ってたな。
「師匠が話そうと思ったタイミングで話してくれればいいですよ」
「お前は俺に甘いな」
「師匠の方こそ、私に甘いです」
顔を見上げれば、そのまま唇が重なる。
しばらくの間師匠のキスに翻弄されていたけど、やがて師匠は唇を離して言った。
「夕方頃、ルドとラズが来る。俺たちはまた酒盛りするけど、お前はできるだけ早めに寝ろよ」
「また私だけ除け者」
「仕方ねぇな。参加してもいいけど、お前には酒は飲ませねぇからな」
ほらね。
師匠は私に甘い。
私は、もう一度師匠にギュッと抱きついた。
◆◆◆
「ラピス。お前、酔ってるだろ。部屋まで送ってやるから、もう寝ろ」
「はぁい」
ラピスに酒は飲ませないようにしていたはずなのに、またルドかラズが仕組んだらしく、ラピスは酔ってフニャフニャになっている。
抱き上げて、ラピスの部屋のベッドに寝かせると、ラピスはすぐに意識を手放した。
最近では、安眠魔法をかけなくても、ラピスが悪夢にうなされることはなくなった。
それだけ、この世界に馴染んだということだろう。
談話室に戻ると、ルドとラズは好き勝手に飲んでいた。
まあ、いつものことだ。
「魔法省の動きはどうだ?」
「相変わらず、アンタの結界が緩む隙を狙ってるわね。史実と同じように、あの子を人柱にしてこの国の問題を解決するつもりみたい」
「役人の考えることは相変わらずだね」
ラズからの情報に、ルドは嫌そうに肩をすくめる。
そう。
ラピスには詳しく話していないが、魔法省の最終目的は、ラピスの魔法によって国の問題を解決することではない。
ラピスの魔力を使い果たして、大きな魔法を発動させることだ。
そんなことをしたら、ラピスの命がなくなるというのに。
「それで、フォルはまだラピスちゃんに話せてないわけ?」
「なかなか、きっかけがなくて」
「ヘタレ」
この二人の言う「話せてないこと」とは、魔法省のことではない。
俺がラピスをこの世界に喚んだ、本当の理由だ。
「二人の関係はちょっとは進展したわけ?」
「……うるせぇ」
「ヘタレ」
ラピスに対しては、口づけ以上のことは出来ていない。
そりゃ、唇以外にも口付けてはいるが。
「そういうことは、結婚してからだろ」
「固いなぁ。ラピスちゃんの世界では婚前交渉なんて当たり前だったって、わかってるでしょ?」
「アンタが手を出さないなら、アタシが食べるわよ?」
「殺すぞ」
ラズの気持ちもわかる。
俺だってラズの立場なら同じことを言ったと思う。
それでも、ラピスだけは譲れない。
「さっさと結婚しちゃったら?」
「それは、アイツに本当の事を話してからだな」
ケジメは大切だ。
ちゃんと、全部話して、それでもアイツが俺を許してくれるなら、その時は結婚を申し込もうと思っている。
「ほんと、さっさと話しちゃいなさいよ。あの子がその程度で嫌わないってわかってるでしょ?」
わかってる。
それでも、勇気が出ない。
こいつらの言うとおり、俺はヘタレなのだ。
「年が明けるまでには、話す」
俺が言うと、二人は黙って酒を口に運んだ。




