第31話 お客様、でしょうか
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では、どうぞー!
私がこの世界に来て、そろそろ一年だ。
早いなぁ、と思う。
ルドルフさんや、ラズロさんともすっかり親しくなった。
他のお客様(仕事の依頼主とか)が来るときは、なぜか頑なに師匠は私と会わせようとしないけど。
ちなみに、私は魔法はまぁまぁ使えるようになった。
師匠に言わせれば、その辺の野良魔法使い程度らしい。
野良魔法使いというのは、師匠などに教えてもらわないで、独学で魔法使いになった人のことを言うらしい。
師匠にちゃんと教えてもらってるのに、なぜ私が野良魔法使い程度なのか。
地味に落ち込んでいたら、師匠がちゃんと説明してくれた。
なんでも、野良魔法使いのように独学で魔法を学ぶには限度があるらしく、あるラインまで行くと、それ以上の知識を得られないし、強くもなれないそうだ。
いくら、難しい詠唱を知っていても、行使できないという。
私は、今まさにそのラインにいる、ということだ。
だから、ありえないけど万が一、私がここで師匠から離れて一人で暮らし始めたら、私は野良魔法使い程度のレベルで終わってしまうのだ。
ありえないけどね。
「ここからはちっと学ぶレベルが上がるぞ。覚悟しとけ」
師匠にも、そう言われてる。
そんなわけで、上位魔法の詠唱について、本当の意味での理解と、具体的なイメージの仕方を、私は今、師匠から教えこまれている。
前に、魔法を習い始めたばかりの頃、詠唱は祝詞に近いと師匠に言ったことがある。
精霊魔法でもないのに、何に祈るのかと思っていたのだけど、なんと、自分が練り上げた魔力の粒、つまり、魔法粒子に願うらしい。
魔法粒子は、詠唱の言葉と、術者のイメージで、何がしたいのかを理解して、魔法を発動することに繋がるんだって。
たしかに、魔法粒子には意思があるって、前に師匠が言っていた気がする。
だから、最悪、どうしても時間がないときとかは、「私を守って」だけでも防御魔法が発動する。
ただ、それが出来るのは高魔力保持者だけらしいのだけど。
なんでなのかも説明されたけど、流石に私にはキャパオーバーで理解できなかった。
すごく噛み砕いて言うと、免疫力の下がっている人は普通の人に比べて病気になりやすい。
その逆が、高魔力保持者。
ということなのだけど、うん、やっぱりよくわからん。
師匠も、別にそのあたりのことに関しては、将来的に弟子を持つわけでなければ別に知らないままでも問題ないと言っていたから、気にしないことにした。
ラズロさんが来たのは、そんな時だった。
「ラズだ。珍しいな、先触れもないなんて」
師匠がどこかを見るような目で、そう言った。
いつも、どこを見ているんだろうと思っていたけど、これは別にどこかを見ているわけではなくて、頭に直接話しかける念話に集中しているだけらしい。
ルドルフさんが言うには、師匠レベルになると、念話元の相手の姿すらボンヤリと見えるらしい。
「一人じゃないな。誰か連れてるみたいだ。念の為、お前は談話室に近寄るなよ」
「はい」
そう。
私は師匠に言われた通り、談話室には近寄らなかった。
会ったことのない、師匠すら初対面の相手と会うのは危険だからだ。
なのに。
「待てっ、勝手に動き回るな!」
「いいじゃないですかー。大魔法使い様の住まいなんて見る機会ないんだから」
「ちょっと、アンタおとなしくしてる約束でしょ!」
すごく、賑やかだ。
というより、ラズロさんの連れてきたお客様が勝手に屋敷の中をうろついているみたい。
まだ若い、女の子の声がする。
すごいな。
ここまで礼儀知らずな人なんて初めてだ。
私はキッチンでルージュさんと料理の支度をしていたのだけど、ちょっと身の危険を感じて、自室に戻ることにした。
「ラピス様。念の為、転移でお部屋へ行ったほうがよろしいかと」
ルージュさんも心配そうだ。
私も頷いて、転移魔法を発動し始めたんだけど。
その途中で、バタン!とキッチンのドアが開けられた。
ビックリして、詠唱を途中でやめてしまった私と、なぜかキッチンの入り口で仁王立ちしている若い女の子。
そしてその後ろで焦った顔をしている師匠とラズロさん。
うん、カオスだ。
「あの、どちら様ですか?」
「あら、お手伝いさん?さすが、大魔法使い様の家となると、使用人も魔法が使えるのね。でも、そんな設定あったかなぁ」
この子、ヤバイ。
何か、ひしひしとその女の子から危険な匂いがする。
「私はリュージュ。この世界のヒロインよ!」
この子、イタイ子だ。
それか、電波さんだ。
自分で世界のヒロインとか言っちゃうあたり、かなり末期だと思う。
失礼ながら、見た目は少し可愛い程度。
ものすごく可愛いわけではないけど、決して不細工でもない。
愛嬌と天真爛漫さで乗り切るタイプと見た。
そんな風に、どこか冷静に分析していた私だけど、次の瞬間、その子によって大混乱に陥れられた。
「あなたのその顔……もしかして、聖女?転移者じゃないの?」
私の、異世界転移については、トップシークレットだ。
知っている人は、この世界でも上位の魔法使いのみ。
「名前、なんだっけ。ああ、そうだ。ラピス、でしょ?」
怖い。
なんなのこの子。
なんで私の名前を知ってるの?
「でも、本当の名前は、」
そこまで言いかけたところで、ラズロさんがその子の首に手刀を落とした。
私の真名は師匠に預けてあるから、誰にも口にできないはずだけど、それにしたって、ラピスが本当の名前じゃないことを知っているのも怖い。
何か、見落としている気がする。
この子の、さっきからの言動に。
ヒロイン。
設定。
転移者。
気になったのはそのワードだ。
もしかして、もしかすると。
「おい、ラピス。大丈夫か」
「大丈夫?ラピスちゃん」
心配そうに私に駆け寄ってきた二人を、私はまっすぐに見た。
「師匠、ラズロさん。この子……リュージュさんは、たぶん、私がいた世界からの転生者です。それで、ここからは推測ですけど、この子にとって、たぶんこの世界は、ゲームか小説の世界です」
自分でも何言ってんだって思う。
でも、そう考えたら、すべてがしっくりくる。
師匠たちに、理解してもらえるだろうか。
指先が冷たくなって。かすかに震える。
沈黙を破ったのは、師匠だった。
「ああ、そういえばお前のいた国では人気あったな。異世界転生もの」
師匠、そんなことまで知ってたんだ。
師匠の手に包み込まれた手が温かい。
「ラズ。コイツはお前の弟子候補だって話だったが」
「ええ、そうよ。魔力が少ないから、魔法使いにはなれないって教えたんだけど、自分には隠れた魔力があるはずだから、大魔法使い様に確認してほしいって言うから、連れてきたのよ」
転生者の上に、ちょっと中二病なのかな?
それとも、ヒロインに転生したから、ゲームだか小説だかのとおりに進むと思ってるのかな。
「閉じ込めて吐かせるか」
師匠が、あの優しい師匠が虫けらを見るような目で見ている。
でも、この子から何かを引き出すなら、多分その役目は私が適任だ。
同じ、元日本人として。
私がそう言うと、師匠はちょっと苦々しい顔をしたけど、結局は私の意思を尊重してくれた。
私たちは地下室に移動して、その子をかなり強固な結界の中に閉じ込めると、別室に移動した。
尋問…いやいや、質問は、映像魔法ごしじゃないと認めないと、師匠が言ったからだ。
ちなみに、リュージュさんには念の為、魔力無効化の手枷をしてある。
「リュージュさん、リュージュさん聞こえますか?」
何度か声をかけると、やっと、意識が戻った。
自分の置かれた状況に、やたらと驚いている。
そして、私の質問タイムが始まった。