第32話 転生者ですよね?
「リュージュさん、気が付きましたか?」
「あなた……聖女。なにこれ、こんなシナリオしらないんだけど」
シナリオ、か、
ということは、ラノベよりも乙女ゲーの可能性が高いかな。
「リュージュさん。あなた、転生者ですよね」
「そうだけど?あなたも転移者でしょ」
「よく知ってますね」
「そういうシナリオだったもの」
うーん。
この子、どこまで話が通じるかな。
ラノベなんかだと、乙女ゲーの世界のヒロインに転生したら、必ずシナリオ通りに進むと信じて、逆ハー狙ったり、周りに迷惑かける系が結構いるんだけど。
「あなたは、ここが乙女ゲーの世界だと思ってるのよね?」
「いや、むしろそれ以外に何があるのよ。ここって『トワアイ』の中でしょ」
「トワアイ?」
自慢にもならないが、私は乙女ゲーをやったことがないから、タイトルを言われたってわからない。
思わず首を傾げて聞き返してしまった。
「まさか、あなたやったことないの?あの神ゲーを!『永久の愛をあなたと』はみんなやってるよ?!」
みんなって誰だ。
乙女ゲーファン勢か。
少なくとも、私は知らない。
学生時代に乙女ゲーに手を出している子ももちろんいたけど、やらない子も沢山いた。
「少なくとも、私は知らない。どんなストーリーか話してくれる?」
「うっわ。マジで知らないとか引くわー」
大きなお世話だし、引くのはこっちだ。
「あのねぇ。まずこの世界の魔法使いが攻略対象。そんで、ヒロインはリュージュっていう一般市民。まあ、つまり私ね。で、この国で聖女が召喚されるんだけど、聖女には魔力がまったくなくて、役に立たないのよ。それで、魔法使いたちが力を合わせてこの世界を救うっていうのが大まかな流れだけど、攻略対象たちはそれぞれ心に傷を負ってるから、それをヒロインである私が癒やして、みんなに協力させるのよ」
なんていうか、ありがちっぽいし、ヒロインの役どころもどう役に立つんだか今ひとつわからない。
この子の説明の仕方が悪いのか、ゲーム自体のストーリーがしっかりしてないのかわからないけど。
そんな私の困惑をよそに、彼女の説明は続く。
「それでね。どの攻略対象とも仲良くなれる逆ハーエンドに進むには、どうしても隠しキャラである大魔法使い様に会わないといけないのよ。大魔法使い様も心に傷を負ってるからね。それを癒やさないと。
でも、大魔法使い様のところに聖女がいるなんて、シナリオにはなかったわ」
その時点で、ゲームとは違うって認識にならないのかな。
それに、と私は師匠とラズロさんを見る。
心に傷?
二人は、フルフルと首を横に振った。
「もう癒やされてるから」
二人が同時に言う。
そうか、傷自体はあったのか。
癒やされてるなら問題ないけど。
「それで、あなたはヒロインとして何をするの?」
「だからぁ、攻略対象の心の傷を癒やすんだってば」
「うん。それはわかったけど、具体的に」
心の傷を癒やすって言っても、その手段は様々だと思うし、何より、ここにいる二人はもう傷は癒えているらしいし。
「そんなの、選択肢が……」
「出るの?空中に?」
流石にそれは初耳だ。
そんなことが起こったら、そりゃ、ゲームの世界だと信じても仕方ない。
「出ないけど。何周もしてるから、対応なんて覚えてるのよ!」
「ラズロさんにも同じようにしたの?」
出ないんだ。
少しがっかり。
「ラズロは、なんかゲームと流れが違ったから」
「ふぅん。で、ちなみに他の攻略対象は誰がいるの?」
そこは、少し興味がある。
イケメンな見た目だけで言うと、師匠とラズロさんとルドルフさんは確定だけど。
「そんなの、教えるわけないじゃない。あなたに邪魔されても困るし」
ええ?
そんな意味のないことしないよ。
なんで私が。
まぁ、いいや。話を進めよう。
「で?ヒロインはどうやって世界を救うの?」
そこが気になる。
この国の天候問題を解決できるんなら、ぜひともお願いしたい。
「そんなの知らないわよ。だって、救うのは攻略対象たちだし、ヒロインは見送るだけで、救うシーンは出てこなかったもの。どうせ、魔王とか倒して終わりでしょ?」
「魔王」
思わず復唱してしまった。
この世界には、魔王なんていない。
視線を師匠たちに流せば、ポカンとしている。
「あの、この世界に魔王なんていないわよ?」
「え」
え、じゃないよ。
設定ガバガバじゃん!
「じゃあ、世界を救うって何するの?」
「たぶん、この国の天候問題を解決することだと思うけど」
「はぁ?そんなんでいいわけ?」
そんなんって言うけど、それが出来ないから私が喚ばれたんだけど。
喚ばれた私にだって、まだ解決策は浮かんでないし。
「あなたには、何かいい策でもあるの?」
「なんで私なのよ。だから、そういうのは魔法使いたちが、」
「どうにかできなかったから、私が喚ばれたのよ?」
言葉を遮るように言えば、彼女はむっつりと黙り込んだ。
と、急に目の前の映像が消える。
あれ?
師匠を見ると、なんかぐったりしてる。
「もういいだろう。あとあの女から聞き出せることがあるとしたら、攻略対象とやらの名前とその傷くらいだ。俺達が知っても意味がない。あの女には魔臓もないから、精霊魔法が使えるわけでもねぇし」
そりゃそうだ。
別に、私たちが攻略するわけでもないのだから。
師匠は、更に言った。
「アイツは魔法省に連れて行く。ああいう別世界のことを話す人間は、魔法省のやつらの好物だからな。まぁ、どうやって聞き出すかの手段は選ばん奴らだが」
うわあ、エゲツない。
まあ、私としては、私とその周りの人に影響しないなら、別にどうでもいい。
薄情だと思われるかもしれないけど。
でも、連れて行くってどうやって……と思ったら、あのまま魔法省へ強制転移させるらしい。
もちろん、師匠からのメッセージ付きで、だ。
「送った」
はやっ!
手段を聞いたと思ったら次の瞬間にはもう送ってたよ。
一切迷いなしだ。
さすが師匠。
「それで、だ。ラズ」
師匠の厳しい視線がラズロさんに向く。
そうだよね。
聞かないわけには行かないよね。
「お前、なんであんなよくわからんもん連れてきた」
「あー……いえね?あの子が、自分の隠された能力はアンタしかわからないし、この世界の問題を解決するのには、その力が役に立つって言うから」
「たったそれだけで?」
ほんと、それ。
いくらラズロさんとは言え、たったそれだけで、結界の中の師匠に会わせる?
「あの子は魔力がないから特に問題は起こさないと思ったし、もしかしたら、何かしらラピスちゃんの役に立つんじゃないかと思ったのよ」
まさかの私の為だった。
いや、結局なんの役にも立たなかったわけだけど。
「えーっと、お気遣いありがとうございます?」
「疑問形になってるー!」
だって、ねぇ。
「お前、迷惑しかかけてねぇし」
いや、私そこまでは言ってないよ?
あくまで、師匠個人の見解です。
「それにしても……師匠の心の傷を知ってるって言うなら、聞いておきたかったかな」
だって、普段の師匠はそういった面は一切見せてくれないし。
「もう癒えてる傷の話なんざ聞いたってしょうがねぇだろうが」
「そりゃそうですけどー」
「言っておくが、癒やしたのはお前だぞ?」
へ?私?
私、師匠に何かしたっけ。
疑問符を浮かべる私に、ラズロさんもいい添えた。
「アタシの傷を癒やしたのもラピスちゃんよ」
ラズロさんの心に傷があった事自体、正直びっくりなのだけど、まあ、心に傷のない人なんていないと思うし。
それはいいけど、師匠どころかラズロさんの傷まで癒やした覚えはない。
どちらかと言えば、私は師匠やその周りの人たちに甘やかされて暮らしている自覚があるから。
それにしても。
「疲れたな。茶でも飲もう」
「そうね」
「そうですね」
3人意見が一致して、談話室に行くと、どこから様子を見ていたのか、すかさずルージュさんがお茶をいれてくれた。
「塩まいておきますね」
日本人な言い回しをしたルージュさんに、誰もつっこまなかった。




