第30話 ネコはお好きですか?
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では、どうぞー!
師匠に魔法の杖を作ってもらった。
お礼をしなければ。
でも、本当に、ルドルフさんの言っていた方法で喜んでくれるのだろうか。
ルドルフさんだけに、すごく不安だ。
とはいえ、師匠はお金持ちなので何でも手に入るからか、物欲がなさそうだし、魔導具作成に使える何かを、とも考えたけど、素人の私にはどんなものがいいのかすら分からない。
一応、夕ごはんは頑張った。
消え物だけど、こういうのは気持ちだし!
でも、ルドルフさんがあんなに言うんだから、やっぱり教えてもらった魔法も試してみよう。
朝起きてすぐに、私はそれらのことを数分で考えて、とりあえず朝の支度を済ませた。
さあ、いよいよルドルフさんに教わった魔法の出番だ。
詠唱は、短いけれどちょっと恥ずかしいので人には聞かせられない。
ルドルフさんに聞かされたときは、詠唱なのにこんなに恥ずかしい文言なのかと、かなり驚いた。
鏡を見て、魔法が成功したことを確認すると、前に借りたままになっていた師匠のローブを服の上から着て、フードをしっかりかぶる。
師匠は背が高いので、私が師匠のローブを着ると、裾をズリズリと引きずることになるのだけど、この際、細かなことは気にしていられない。
ドキドキしながら食堂に行くと、師匠はまだ来ていなかった。
と言うことは、きっと寝ているのだろう。
師匠を起こしに行くのは、キスの危険もあるのだけど、それさえクリア出来れば、大丈夫。
トントン。
「師匠。起きてますか?」
今日も返事はない。
別に、師匠が起きてこない日に毎日起こしに来るわけではないけれど、師匠がいないとションボリ食べているとルージュさんから聞かされた師匠が、寝る前に起こすなと言ったとき以外は起こせ、と言ってくれたのだ。
ルージュさんありがとう!
でも少し恥ずかしいよ!
「師匠、入りますねー」
床を引き摺るローブを着て、フードまで被った状態の怪しさ満載な私は、少しずつ師匠に近づく。
「しーしょー。起きて下さーい」
「ん……」
返事らしきものはあったけど、全然起きない。
今日はどうやら、深く眠っているみたいだ。
私は、自分の唇を手でガードしつつ、もう片方の手で師匠の身体を揺する。
「ご飯できてますよー。起きてー、師匠」
「うるせぇな」
師匠の手が私の後頭部に伸びる。
だが今日は大丈夫。
ガードしているから!
そう思っていた頃が、私にもありました。
私に腕が2本あるように、師匠にも腕は2本ある。
師匠は、私が唇を覆っていた手を、邪魔そうにもう片方の手で退けたのだ。
その手をどけようとしたら、必然的に師匠を揺すっていた手を使うことになるので、支えを失くした私は師匠の身体の上に乗っかることになる。
かくして、今日も私の唇は奪われた。
眠りが比較的浅いときなら、ちゃんと避けられるのに。
しかも、だ。
眠りの深いときの師匠は、キスの続きがある。
初めて師匠を起こしたときと同じだ。
なぜか、抱き込まれてしまう。
有り体に言えば、抱き枕にされてしまうのだ。
「もー、ししょー。起きてってばー」
頭で顎に1発食らわせれば流石に起きそうだけど、それは私も痛いので嫌だ。
そう思いながら師匠を見上げていると、うっすらと目が開いた。
満月を写し取ったように金の瞳が、私を捉える。
「おー……ちゃんと魔法使いに見えるぜ」
ん?
ローブ着てるからかな?
「………ラピ、ス?はっ?」
どうやら、やっと覚醒したご様子。
腕の中に閉じ込めていた私を解放したり、あちこちキョロキョロしたり、大忙しだ。
なぜか、特にベッドの様子を気にしている。
「俺、また何かしたか」
「いつも以上のことはないですよ」
「一応聞くが、そのローブの下に服は」
「着てます!」
なんて破廉恥な!
いや、破廉恥とかすでに使われないな。
でも、咄嗟に頭に浮かんだのはその言葉だった。
それより、これでようやく作戦開始できる。
私がローブのボタンに手をかけると、師匠は焦ったように私に手を突き出した。
「お前っ!俺の前で脱ぐ気かっ」
「ローブを脱ぐだけですよ。中に服着てるってさっきも言ったじゃないですか」
そんなことより、師匠には見てほしいものがあるのに。
私はフードを取り払って、大きなローブを脱いだ。
「は………はぁっ!?」
私の姿を見た師匠は、多分私が知っている中で、一番驚いていた。
その反応に、またドキドキがぶり返してくる。
これは喜びの反応なのか、それとも拒絶なのか、はたまた単なる驚愕なのか。
「えと、師匠が猫を好きだっていうのと、男のロマン?って聞いたんですけど、似合わないですか?」
私の頭に生えた耳が、びょこぴょこと動くのがわかる。
お尻のあたりから生えている尻尾は、たしんたしんと、床を叩いている。
師匠は目を見開いたまま、無言だ。
「師匠?」
「本物か?触っていいか?」
今さっきまで呆然としていたくせに、突然興味がわいたようで、私にワキワキと手を伸ばしてきた。
この、ネコ耳ネコ尻尾は、師匠へのお礼なのだから、何でもしてください、と思っている。
師匠は、まず人間の耳がある辺りに触れた。
今現在、そこに私の耳はない。
すごく不思議な感覚。
次に触れたのは、ネコ耳。
「ニャッ」
くすぐったい。
あまりにもそうっと触るものだから、指が耳の毛先に触れて、ものすごく、くすぐったい。
耳がピルピルと震えるくらいだ。
「あの、もう少し強くても大丈夫です」
「そ、そうなのか」
師匠は何かの覚悟を決めたように、むにゅっと私のネコ耳を揉んだ。
そのまま、毛の流れに沿って撫でてくれる。
思ったより気持ちいい。
特に耳の根本をゴシゴシされると、血のめぐりが良くなるのか、気持ちよくてついつい、手に押し付けてしまう。
とはいえ、耳って結構敏感な場所だから、そろそろやめてほしい。
次に師匠はスカートの裾から出ている尻尾に手を伸ばした。
尻尾の先の方を、にぎにぎしたり、ナデナデしたり。
今までそんな素振りを見せたことはなかったけど、きっと、本当に猫が好きなんだと思う。
尻尾の付け根の方へと手を伸ばしていたはずの師匠は、夢から覚めたみたいに真顔に戻って(顔色は赤い)、手を引っ込めた。
「尻尾、もういいんですか?」
「いや。その、だな……お前、スカートだろ?見える」
師匠は何が、とは言わなかった。
だから、私もどこまで見られたのかはわからない。
ただ、スカートの中は見られた。
それは間違いない。
慌てて尻尾を下ろして、ご飯ですからねっと一声残して師匠の部屋から逃げ出した。
朝食のときは、ルージュさんは相変わらず、あらあらウフフな顔をしてこちらを見ているし、アミュは私が猫さんになったと大騒ぎ。
耳はアミュの方が長いと自慢された。
「ルージュ。確か、穀物庫にクララスの実があったよな」
「ありますよ。イケナイ主様」
え、イケナイ主様って、師匠は何を企んでいるの?
すぐに、ルージュさんが小さな袋を持ってくる。
中身はわからないけど、なんだか、普段はしないいい匂いがする。
「ほう。思った通り五感も鋭くなってるみたいだな」
よくわからないけど、私の目は師匠の手に渡された袋に釘付けだ。
「飯は全部食ったな?じゃ、俺の部屋へ行くぞ」
師匠の言葉にと言うより、布袋に釣られるように、私はパタパタと師匠のあとを追いかけた。
師匠が部屋の中で、袋の中身を出してくれる。
何かの実のようだ。
多分さっき言ってたナントカの実。
そんなことはどうでもいいのだ。
すごい。
ものすごい酩酊感。
「ふにゃあ」
これじゃ、麻薬だ。
かすかに残った理性が言う。
麻薬……そうか、これはマタタビか。
でも、そんなこともどうでもいい。
「流石に効きすぎるか」
師匠がマタタビを袋に戻してしまった上に、仕舞ってしまったけれど、師匠の手のひらにはしっかり匂いが残っている。
師匠の手のひらにスリスリと顔を擦り付ける。
もはや、師匠自身がマタタビだ。
「うわっ、待てっ。ちょっと落ち着け」
師匠の身体にスリスリしていたら、師匠が焦ったように私を引き離す。
「ネコ耳と尻尾、似合ってないですか?」
悲しくなってそう言うと、師匠は私から目を逸らした。
「いや、よく似合ってる。もはや猫だ。いや、猫より可愛い」
「うにゃあん」
大満足だ。
師匠も喜んでくれたし、私も気持ちがいい。
それに褒められた。
「で、その魔法はどれくらいで解ける」
「効果は1日だって」
「マジか」
結局その日は1日、師匠と猫として遊んで、遊びながらベッドの中で眠ってしまった。
翌朝、師匠のベッドで目を覚ました私が後悔することを、このときの私は知りもしなかった。




