第29話 魔法の杖を作ってもらいます
ルドルフさんのお屋敷から帰ってきて、師匠は約束通り、早速私の杖を作る準備を始めてくれた。
滅多に入ることのない、師匠の作業部屋に入れてもらって、ちょっと緊張してしまう。
「お前、この中で一番魔力が流しやすそうなものをちょっと探してみろ。実際に手にとって魔力を少し流すとわかりやすい」
「はい」
いくつも並べられた、木の枝みたいな素材を、一つ一つ手にとって、微量な魔力を流していく。
全部試して、一番流れやすかった素材を師匠に伝えると、手にとってフンフンと頷いた。
「樫の木か。樫なら壊れにくいし、まぁいいかもな」
それ以外にも、魔石とか、色々なものとの相性を試して、やがて師匠がそれらをまとめた。
「素材は決まった。ここからは俺の仕事だ。まあ、そうだな。今夜一晩もあれば出来上がるだろうから、楽しみにしとけ」
え。
魔導具ってそんなにすぐ出来るものなの?
それとも、魔法の杖が、比較的作りやすいのかな。
疑問に思いつつも、私が居残っても邪魔になるだろうから、作業部屋を出て、キッチンへ行った。
今から夕ごはんの支度をすれば、ちょうどいいだろう。
あ、でも師匠はもしかして、ご飯食べないで作成にかかりきりになるのかな。
それはいけない。
ご飯大事。
私は、師匠が少し手も食べたくなるように、グラタンを作って、それからルージュさんと二人で、ハンバーグも作った。
意外にも子供舌の師匠は、こういうものが大好きなのだ。
ちょっと考えて、ファミリー向けのイタリアン料理チェーン店の某地方風ドリアも作る。
これは、今日初めて作ったから、師匠も驚くと思う。
喜んで食べてくれるといいけど。
たぶん、師匠はこういうものが好きだと思うんだよね。
何種類も作っちゃったけど、師匠なら、きっと気に入りさえすれば全部食べてくれると思う。
これまで、あまり食事をしなかったというのが不思議なくらい、師匠はよく食べるのだ。
すっかり日が沈んで、料理も完成したところで、師匠を呼びに行く。
普段なら大抵自分から顔を出すのに、今日は来ないということは、きっと集中しているんだろう。
コンコン、と作業部屋のドアをノックする。
「師匠、ご飯ですよー」
「あー、わかった」
ガタゴトと音がして、師匠が顔を出す。
と、同時に、私の首筋に顔を埋めた。
「グラタンの匂いがする」
「そうですよ。今日はグラタンですから」
ドキドキしちゃう胸を隠して、私は何でもないように言った。
師匠は、私の首に顔を埋めたままだ。
「食いたい」
グラタンをだよね?!
それ以外の意味なんてないよね?!
あのですね、師匠の吐息がくすぐったいんですよ!
ちょっと、妙な気分になっちゃうから、距離を取りましょう。
ススス、と後退る私。
腕を伸ばしてそれを妨げる師匠。
なぜ?!
「師匠、グラタンは食堂にありますよ」
決して、私の首元にはありませんよ。
「わかってる」
師匠は、何故か私をお姫様抱っこして、食堂へと歩き出した。
「アレ、やってくれ」
「え、アレやるんですか?」
あまり気が進まない。
でも、師匠のご要望とあらば仕方ない。
食堂についた私は、師匠のお皿に向けて、「魔法」をかけた。
そう、例のアレだ。
「ご主人様のご飯、おいしくなぁれ。愛情こめこめラブラブキュン♪」
少しばかりセリフが変わったのは、師匠からの要望、と言うわけではない。
絵本を読んで少し知恵のついたアミュが、パパとママはラブラブ、という知識を得たのだ。
そして、なぜか、師匠がパパで、私がママということになってしまった。
パパとママはラブラブなので、ラブラブキュンの方がいいと、アミュが提案したのだ。
私の恥ずかしさは倍増した。
そして変な扉を開きそうと言っていたはずの師匠は何が楽しいのか、たまに私にこれを言わせるようになってしまったのだ。
「アミュも、アミュもー」
「はいはい。愛情こめこめ萌え萌えキュン」
アミュのお花ご飯にも、ちゃんと「魔法」をかける。
自分で試したことはないからわからないけど、これをやると、実際に料理の味が良くなるらしいというから不思議だ。
普通は魔力を流したって、おいしくならないらしいのに。
ちなみに、使い魔のルージュさんがやっても、味は変わらなかった。
よくわからない。
試しにと、一度だけルドルフさんとラズロさんのご飯にもやってみたけど、これも味は変わらなかったらしい。
でも、師匠のご飯をつまみ食いした二人も、確かにおいしくなっているといっていた。
もはや意味不明だ。
そして、隙をみせると、ルージュさんがメイドっぽい服を着せようとするようになった。
それはともかく。
思った通り、作った料理を全部食べてくれた師匠は、杖の出来上がりまであと少しだから、とまた作業部屋に篭った。
ちなみに、ドリアもハンバーグも、すごく喜んでいた。
あからさまに表情に出るわけじゃないけど、食べ進むスピードとか、口元でわかるようになった。
私は、食事のあと、少し詠唱の勉強をして、それからお風呂に入って、いつものように暖炉の前で乾かしながらウトウトしていた。
コンコン、ノックの音がするのと同時に、ドアが開かれる。
「入るぞ」
「師匠。それだとノックの意味がないって、何度も言ってるじゃないですか。もし、私が着替え途中とかだったらどうするんです」
「お前が着替えてるかどうかは気配でわかるから問題ない」
そうじゃない。
そういうことじゃない。
むしろ、着替えている気配が伝わってるとか、恥ずかしねる。
「そんなことより、おら、出来たぞ」
師匠が差し出したのは、私のお願いしていた魔法の杖。
「わぁ、本物だ。なんだろう、カッコいいっていうより、きれい?」
「お前のイメージに合わせたらそうなった」
ビビディバビディブーな魔法使いのイメージだ。
カボチャも馬車にできそう。
しないけど。
そういえば、前の世界のアニメ映画に出てきた、イケメン魔法使いさんは、杖を使っていなかった。
「師匠。杖があるのとないのとでは、違いが出るんですか?」
「そうだな。まぁ、少なくともこの世界においては、杖があったほうが繊細な魔法をかけられる」
「空も歩けますか?」
「歩けるが……転移した方が楽だぞ」
歩けるのか!
あのアニメ映画だけじゃなかった!
さすがにほうきに乗ってとぼうとは思わないけど、空中を歩くのには少し憧れがあったのだ。
「まさかとは思うが……歩きたいのか?」
「はい!」
「仕方ねぇな。だが、お前だけでは無理だ。俺が補助してやる」
おお。ますます、あのイケメン魔法使いみたいだ。
師匠のイケボで「上手だ」とか、耳元で言われてみたい。
いえね。
これまでも、新しい魔法を使えるようになると、師匠から「そう、上手だ」って言われているんですけどね。これがたまらんのです。
この世界に来て、私は初めて、自分が声フェチなんじゃないかと思ったくらい。
「何悶えてやがる。変なやつだな。ほら、行くぞ」
そのあと、師匠と一緒に外に出た私は、あのアニメ映画のように後ろから師匠に補助されて、空中を歩き、テンションマックスになった。
結論。
師匠はいつでも声がいい。




