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第26話 大魔法使いはすごいようです

あれから数ヶ月。


たまに来る師匠のお友達をお迎えしたりしなかったりしながら、私は順調に魔法の使い方を身に着けていった。


今では、古代語もスラスラ読めるし書ける。

アミュも、だいぶ古代語を覚えたみたいだけど、最初の頃にルージュさんが言っていたとおり、精神年齢は幼児並みみたいで、しょっちゅう絵本の読みきかせをねだってくる。


そんなわけで、今日も、勉強と調理の合間に読み聞かせだ。

今日は、少し難し目な内容の、東の大陸の古い絵本。




『月の女の子と大魔法使い』



『ずっと昔。

東の大陸は、今よりずっと寒い日が多くありました。

その頃は、北の大陸に住む人はほとんどいませんでした。

東の大陸に住む人たちは、もっと暖かな場所へ国土を拡げようと、戦争を起こしました。

けれど、暖かな南の国に住む人たちは強く、なかなか勝てなかったので、東の大陸の王様は、国内の僅かな魔法使いを集めて、魔力の豊富な月の住人を召喚することにしました。


喚び出された月の住人の少女は、戦争を嫌がって、故郷を恋しがって、毎日毎日泣き続けました。

でも、どれだけ泣いても、月には帰してもらえません。


女の子は、無理矢理、戦場へ連れ出されました。

女の子が泣くと、地面が揺れ、海面には波が立ち、強い風が吹き荒れました。


最初は女の子を利用しようとしていた、東の大陸の王様も、女の子の扱いに困ってしまいました。


そんな時、南の大陸に、とても強い魔法使いが現れました。

その魔法使いの青年は、あまりにも強すぎたために、ずっと長い間、南の大陸の奥地に隠されていました。


魔法使いの青年は、南の大陸の王様に言われるとおりに、東の大陸に、攻撃を仕掛けました。

月の女の子と、魔法使いの青年の魔法がぶつかります。

地面が割れ、毎日大雨が降りました。


月の女の子と、魔法使いの青年は、このままでは世界にとって良くないと考えました。

そして、二人でこっそり会って、何度も話し合いました。

そうするうちに、月の女の子は魔法使いのことを、魔法使いの青年は月の女の子のことを好きになりました。


二人は、特別な魔法を使って、東の大陸が住みやすい国になるようにしました。

そして、その分、北の大陸も人が住めるほど暖かくなったので、東の大陸の人の一部は、北の大陸に移り住みました。


しかし、二人が使った魔法はあまりにも大掛かりな魔法だった為に、月の女の子は長く生きられず、月に帰ることも出来ないまま、魔法使いの腕の中で息絶えました。


魔法使いの青年は、この世界で初めての「大魔法使い」と呼ばれ、何十年も、何百年も生き続けました。


本当は、魔法使いの青年も、月の女の子と一緒に命を絶とうと思っていましたが、月の女の子が死ぬ前に約束したのです。


私達二人ともが息絶えたなら、必ずもう一度巡り合って、幸せになろう、と。

でもその為には、決して自分で命を絶ってはいけないと。

そしてもう一つ。

次に二人が生まれ変わったときに、世界が幸せであるように、出来るだけ世界を平和に導いてほしい、と。


大魔法使いになった青年は、女の子との約束の為だけに生き続け、果てしない時間がたったある日、世界のどこにいても人間が生きやすいように、とてもとても大きな魔法を使って、そして、その魔法の反動で命を落としました。


大魔法使いは、生涯誰とも結婚せず、弟子も取らず、ひとりぼっちでしたが、最後の大きな魔法を使う直前にこう言いました。


これでもう一度彼女に会える。

必ず見つけ出して、今度こそ死なせはしない、幸せにする、と。


それは、とても月のきれいな夜のことでした』




「おしまい」



絵本を閉じると、アミュはふぁーっとため息をついた。



「月の女の子と、大魔法使いはまた会えたですか?」


「うーん。どうだろうね。もしかしたら、出会っていても気が付かないかもしれないし」


「そんなのイヤなのですー」



ロマンチストなお子様アミュにとっては、ヒロインとヒーローは、絶対に今度こそ幸せになってもらいたいようだ。



「このおはなし、なんだか少しルリちゃと似てるです」


「そうかなぁ。うん、そうかもね。私は月から来たわけじゃないけど、召喚されたっていうところと、大魔法使いに会ったっていうところは同じだね」



絵本の表紙をそっと撫でていると、後ろから影がさした。



「うわっ、師匠。もう、気配を消して近寄るのはやめてって言ったじゃないですか」


「別に消してない。お前が気が付かなかっただけだろ」



そう言うと、師匠は私が手に持っていた絵本に目をやった。



「ああ、今日はそれを読んでいたのか」


「師匠も読んだことありますか?」


「まあ、ちっせぇ頃にな」



小さな師匠。

どんな子供だったんだろう。

性格はわからないけど、見た目は絶対可愛かったに違いない。

絵本を読んでいたということは、性格も可愛げがあったのかも。



「小さい頃の師匠、会ってみたかったなぁ」


「そりゃ、無理な話だろ」



軽くそう言って、師匠はちょっと私を見つめた。

なんだろう。

師匠に見つめられるとドキドキするから、見つめるなら私が気が付かないときにしてほしい。



「お前は、この話読んで、どう思った?」


「んー。大魔法使いが使ったとされる魔法には興味ありますね。あと、私がいた世界には、生まれ変わりの概念があるんです。輪廻転生っていって。だから、二人が生まれ変わってまた出会っても不思議ではないです。ただ」


「ただ?」


「生まれ変わったら、生育環境とかで性格も変わるわけですし、出会ってもその人だって気がつくのかなって」



思ったままを答えると、師匠は少し目を伏せた。



「生まれ変わった二人が出会ったとして、気がつくかどうかは置いておいて、また恋に落ちるのは、前世が影響すると思うか?」


「いや、それはないでしょう」



私はさっぱりと答えた。

転生は、前世の魂を引き継ぐことだ。

記憶が残っている場合も、残っていない場合もある。

それでも、魂どうしが引き合うことはあっても、必ずしも恋に発展するかは別問題だと思うのだ。



「これは持論ですが、たとえその人の魂の在り方を好きになったとしても、新しく恋をしたなら、それは、前世とは別の恋だと思うんです。前の世界では、たまに『生まれ変わってもまた結婚しようね』とかいう夫婦もいましたけど、本当に結婚するかどうかは、そのときに生きている人が決めることだと思うので」


「なるほどな。前世の意思は前世のもの。今世の決断は今世の人間のもの、か」



そう言った師匠の顔は、少し晴れ晴れとして見えた。



「まあ、これはあくまでも私の考えに過ぎないので、実際に前世のパートナーと出会った人に聞いてみないと、わからないかもしれないですね」


「案外、本人たちにもわからないかもな」



師匠は私から本を取ると、パラパラと中身を見た。



「月からの召喚ってのがどこまで本当かはわからんが、この話は、史実が元になっていると言われてる」


「ということは、戦争があったってことですか?」


「そうだな。史実では、その時代の大魔法使いが戦争を収めたとも言われている」



大魔法使いすごい。

師匠も大魔法使いだし、師匠もすごいと思うけど、大魔法使いって、歴史に残っちゃうくらいの肩書なんだ。


少し渋い表情の師匠を、私はこっそりと見つめた。


願わくば、いつまでもこの人のそばにいられますように。

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