第22話 メイド魔法は恥ずかしいです
外は雪が降っていたけど、アミュは今日のお昼も、森の中に咲く花を食べに行っているらしい。
冬なのに咲く花と言ったら、何があったっけ。
蝋梅と寒椿くらいしか思いつかないけど、たぶん、他にも咲いてるんだと思う。
お昼の準備は、私もルージュさんを手伝って、色々と作った。
何度か料理をするうちに、この世界独特の食べ物や調味料なんかにも詳しくなった。
ありがたいことに、東の国で作られているという、味噌や醤油、鰹節なども揃っているので、日本食を作ることもできる。
というわけで、今日のお昼は日本食。
天ぷらだ。
何しろここは森の中。
山菜には事欠かない。
年中冬みたいなものだとは言っても、ちゃんと根菜や山菜は栽培されている。
ナスはないけど、蓮根やサツマイモもどき、キノコたちに山菜、それから大きなエビもあったから、ルージュさんに許可を取って、エビも天ぷらにすることにした。
天ぷらは、揚げたてが一番なので、とにかく私がどんどん揚げていって、それをルージュさんに運んでもらっていたのだけど、私がつまみ食い程度しかしていないことに気がついた師匠に、ストップをかけられてしまった。
揚げたてじゃなくても美味しく食べる方法はないのかと聞かれたので、天丼を提案したら、それを作れと言われた。
師匠たち、結構な量の天ぷらを食べたあとだと思うんだけど、まだ入るのか。
さすが男性だ。
とりあえず、ご飯を炊いている間に天ぷらを揚げて、更にその傍らで天丼のタレを作る。
「熱っ」
天ぷら油が跳ねて、思わず声が出た。
と言っても、本当に小さな声だったのに、師匠は食堂からとんできて、すぐに小さな火傷を魔法で治してくれた。
これくらいの火傷なら、大したことないのに、なんだか申し訳ない。
そして、師匠はやっぱり過保護だ。
天ぷらもだけど、天丼も大好評だった。
よかった。
「ああ、そう言えばフォル。アレ、手に入ったわよ」
食後、懐からきれいな水晶っぽいものを取り出すラズロさん。
「おう、ありがとな。なかなかイイモノだな」
「そうよぉ。これだけ純度の高い魔水晶を探すのは大変だったんだからね」
師匠はその魔水晶とやらを受け取ると、ふと私を見た。
「俺はこれからちょっと作業に入る。お前も、部屋であったかくして、本でも読んでろ」
それはいいですけど、お客様ほったらかしですか?
そう思ったのだけど、お客様二名は、特に気にしていないらしい。
談話室で酒盛りを始めると言っている。
「絶対に飲ませないから、ルリちゃんも最初だけ付き合ってよ」
「だめだ。コイツはビックリするくらい酒に弱い。子供のほうがまだ飲めるくらいだ」
師匠。
それはそのとおりかもしれないけど、そんなにはっきり言わなくたっていいじゃないですか。
「俺のいない場所では、絶対に飲ませない」
「あー。そういう」
どこか納得した様子のルドルフさん。
「わかった。本当に、一滴も飲ませない。約束する。だから、最初だけ貸してよ、ね?」
「くそっ。最初だけだからな」
ルドルフさんに押し負けて、師匠は私が酒盛りに参加する許可を出した。
と言っても、多分ほんとに最初だけだと思うけど。
談話室でお酒とグラス、それから私用の果実水を用意すると、早速二人は水のようにお酒を飲み始めた。
「いやー、ルリちゃんの手料理おいしかったなぁ」
「ホントよねぇ。フォルったら、ルリちゃんの手料理を好きなときに食べられるなんてズルいわ」
こんなに褒められたって、どう反応したらいいのか困る。
素直に喜べばいいんだろうけど、それはそれで気恥ずかしい。
だってたぶん、お世辞も入っていると思うし。
それにしても、緑と赤の髪の二人は目立つだろうな。
白髪の人が間に入れば、イタリア国旗の完成なのに。
「今日の天ぷら、だっけ?ルリちゃんはどの具材が一番好きなの?」
「そうですね、全部好きですけど、一番はエビでしょうか。キスも好きですけど」
そう言うと、二人は目を瞠った。
「ごめんなさいね、急に話が飛んだからびっくりしたけど、ルリちゃんとフォルはそういう仲なの?」
そういう仲とは。
天ぷらを作ってあげる仲、というわけじゃなさそうだけど。
「えと、どういう仲でしょう」
逆に私が聞いてしまった。
ゴツい身体でモジモジしだすラズロさん。
ルドルフさんは、平然と言ってのけた。
「キス。好きなんでしょ?」
そっちか!
なんて、ベタな勘違い。
「あのですね、キスっていうのは、魚の名前です」
「口づけのことじゃなくて?」
「じゃなくて」
はぁ、とラズロさんとルドルフさんが息を吐く。
「アイツ、何タラタラしてんのかしら」
「恋愛経験ないからな。奥手なんだろ」
たぶん、師匠の話だよね?
師匠は恋愛経験ないのか。
よかった、私だけじゃなさそうだ。
それにしても、なんだか、二人は師匠が早く手を出せばいいと言っているような気がするんだけど、相手は私でいいのだろうか。
いや、勘違いだったらイタすぎる。
師匠は超絶イケメンだから、相手なんていくらでもいるだろうし。
森の外に出たら、砂糖に群がるアリのように、女性が寄ってくること間違いない。
確かに、私は師匠と一緒に住んでいるけれど、そういう関係ではない、から。
果実水を飲み終わったタイミングで、私は談話室を出て、自分の部屋へ戻った。
そして、夕ごはんの時間。
かなりの量のお酒を飲んだと思われるお客様二人は、ケロッとした顔で食堂に現れた。
この人たち、どうして酔わないんだろう。
コッテリしたものでも、問題なく食べられるというので、鶏に似た魔獣の肉で、唐揚げをたんまり作った。
もちろん、捌くのはルージュさんがやってくれてあったので、私はスーパーで買った鶏のように調理しただけだ。
他にもサラダとかスープとかを並べていく。
お散歩から戻ったアミュも、お花の入ったお皿を目の前において、いい子で待っている。
呼びに行こうかと思っていたら、師匠もちょうど来たので、みんなで夕ごはんを食べ始めた。
「そうだ、ルリ。お前、アミュの飯に魔法かけてやれよ」
「いいですけど」
「ルリちゃ、魔法かけてくれるです?なんとかなんとかキュンってやつがいいです」
え、まさか朝やった「萌え萌えキュン」ですか?
師匠をチラッと見ると、ニヤニヤしている。
「そうだよなあ。あれはおいしくなる、特別な魔法だもんな?」
「はいです!」
確かに、「おいしくなぁれ」とは言うけど、普通に魔力流すのと効果は変わらないと思う。
それに、そんな話を聞いたら黙っていない人たちが。
「なにそれ。ルリちゃんの独自魔法?」
「あら、それは見てみたいわね」
ほらあ。
私はジト目で師匠を見たけど、師匠はニヤニヤしているだけだ。
そして、私を見上げてくるつぶらな瞳。
こうなったら、おんなは度胸だ!
「おいしくなぁれ、萌え萌えキュン」
ちゃんと手でハートを作って魔力を流す。
「わぁい、甘いですよー」
熱くなった顔を隠すように、俯く。
やっぱり、人前は恥ずかしい。
「モエモエ?なんか燃やすの?」
ほらあ。
萌えの文化を理解してないと、あのセリフは意味不明なんだってば。
師匠は、大爆笑だ。
かと言って、私ではちゃんと萌えについて説明できない。
萌えは奥が深いのだ。
むしろ、異世界のことなのに理解できてる師匠がおかしい。
「私のいた国では、お店でメイドの服を着た若い女の子が、こう言ってお客様に料理を提供するんです」
色々と端折って説明した。
そして、もう二度と人前でこの「魔法」は使わないと決めた。




