第21話 お客様をお迎えしましょう
チリリリリリーン!
玄関に置かれているベルが鳴る。
そんなに鳴らさなくても聞こえてるって。
うるさいよ。
師匠もうるさそうに顔をしかめている。
どうやら、今日のお客様は賑やかな方らしい。
「ルリ」
玄関のドアを開ける前に、師匠がコソッと話しかけてきた。
「え、本気ですか?」
「面白くなりそうだろ?」
「ええ……?」
師匠の提案に、私は戸惑う。
師匠はどうみても、イタズラを思いついた子供そのものだ。
でも、師匠が言うなら、逆らうわけにはいかない。
「おし。んじゃ、ドア開けるぞ」
師匠が目線だけこっちに送って、バッ、とドアを開ける。
「フォル、アンタおっそい……」
「お待ちしておりました、ご主人様♪」
文句を言いかけた声が、私のセリフでたち消える。
「え?」
「ぶっ……!」
しっかりお辞儀までした私に戸惑った雰囲気のお客様の声と、吹き出したのはたぶんルドルフさん。
「フォル。アンタ………こういう趣味があったの?」
顔を上げると、盛大に顔を引きつらせた、ガタイのいい男性がいた。緑色の髪だ。珍しい。
何か言いたげに、私と師匠の顔を交互に見ている。
いや、何か言いたいのはむしろ私の方だ。
この方、オネエ様だろうか。
それにしては、着ている服は普通に男性物だけど。
やらせるだけやらせておいて、師匠はルドルフさんと一緒に大爆笑だ。
「アナタ、大丈夫?コイツに変なことさせられてんのね?」
「いや……ええ、まぁ」
どうしよう。
否定も肯定もできない。
別に、普段から師匠にこういう趣味があるわけじゃないけど、今回やらされたのは確かだ。
浮かべていた作り笑顔が引き攣る。
「アホか。んな趣味あるわけねぇだろうが。ルリ、お前もきっぱり否定しろ」
「でも、やれっていったのは師匠ですし」
「可哀想に!今からでもアタシの弟子に鞍替えする?」
気持ちはありがたいが、ノーサンキューだ。
師匠に不満はないし、オネエ様に偏見はないけど、見た目だけで言うならガッシリした男らしいイケメンさん相手だと、なんだかおかしな扉を開いてしまいそうだ。
「まあまあ。とにかく入ろうよ」
「お前はいつもいつも図々しいな!」
ルドルフさんと師匠のやり取りは、この間と変わらない。
たぶん、いつもこんな感じなんだと思う。
「ルリ、コイツはラズロ。こんなでも高魔力保持者の魔法使いだ」
「はぁ。あの、ルリです」
「かっわいいわねぇ、食べちゃいたい」
いや、ご遠慮したい。
「えと、とりあえず、談話室へどうぞ」
「あら、ありがとう」
談話室にみんなで入ると、やっぱり既にお茶の用意がしてあった。
ホカホカと温かそうで、バッチリのタイミングでルージュさんが準備したことがわかる。
お茶菓子に至っては焼き立てだ。
いつのまに準備したんだろう。
「ルリ。聞きたいことがあるなら聞いておけ」
それぞれソファに座ると、師匠が水を向けてくれる。
それって、やっぱりラズロさんについてだよね。
聞いていいものか迷っていたけど、師匠がこういうならいいんだろう。
「あの。ラズロさんは心も女性ですか?」
一瞬、シンとなる談話室。
あれ、やっぱり聞いちゃだめなことだった?
焦る私に、ラズロさんはニカリと笑った。
「アナタは、アタシのこと気持ち悪いと思う?」
「いえ?別に。そういう方がいることは知っていますし」
オネエ様だからって、何か迷惑をかけられるかといえばそうじゃない。
本人の個性だと、私は思っている。
「うふふ。アタシはね、別に心も女なわけじゃないのよ。ただ、女言葉のほうが柔らかく聞こえるじゃない?フォルみたいな乱暴な口調よりも。それにほら、アタシってば見た目がゴツいでしょう?だから、ね」
どうやら、口調も中身もオネエ様なわけではないみたいだ。
ラズロさんなりに色々考えた結果なんだろう。
ふぅん、と納得してお茶を飲む私を、ラズロさんはじっと見てくる。
なんだろう。
「アナタ、本当に気にしないのね。アナタのいた世界では、アタシみたいな人は普通にいたの?」
「そうですね、一定数いたとは思います。私の知り合いにはいなかったですけど、そういう方が集まるお店とかもありましたし。そういう場所では心も女性という方がほとんどでしたけど」
「生きやすそうな世界ねぇ」
それはどうだろうか。
確かにいる所には普通にいたけれど、社会で当たり前に受け入れられていたかと言われると、決してそうではなかった気がする。
マイノリティーの人にとっては、やはり日本は生きやすい場所ではなかったのではなかろうか。
「ルリちゃん。俺と会ったときよりも沢山話してるね。ラズみたいなやつの方が、やっぱり話しやすい?」
「ある意味では」
だって、ルドルフさんチャラいし。
私は、チャラ男は苦手なのだ。
その点、喋り方だけがオネエ様のラズロさんの方が、若干ではあるけれど話しやすい。
「私は、学生時代はずっと女子校だったので、女言葉のほうが慣れているのかもしれません」
その分、オネエ様に出会う機会はなかったけど。
逆に女子校あるあるで、女子に人気のカッコイイ運動部の先輩とかはいた。
ある種、宝塚状態だったのだ。
私と同じクラスだった子は剣道部だったけど、下級生からものすごい人気だった。
掛け声の出し過ぎで少し掠れた声で「君、かわいいね」なんて言おうものなら、大変な騒ぎになった。
今となっては懐かしい思い出だ。
「その、女子校っていうのは、女の子しかいないの?」
「先生には男性もいましたけど、やっぱり若い女の子を相手にするからか、おじいちゃんばかりでしたね」
「そんな!恋が芽生えないじゃない!」
ラズロさんが悲壮な顔をする。
確かに私には出会いはなかったし、付き合った男性も皆無だけれど、それほどのことはないのだ。
「女子校ってなぜか人気があるので、合コン……えっと、男女入り混じっての飲み会とかはありましたし、学園祭にも他校の学生がたくさん来ましたね」
ナンパならされたことはある。
それこそ、学園祭で。
でも、声をかけてくる人って、やっぱりどこかチャラく感じてしまって、おまけに私は人見知りだし、そこから発展したことはない。
「それでも、ルリちゃんは恋愛をしてくることがなかったのね」
何故バレた。
いや、いいんだけど。事実だし。
そんなに、恋愛から程遠い空気を醸し出しているだろうか。
「こら、ラズ」
「え?あっ、ごめんなさいね、ルリちゃん。私はたまたま、そういう勘があたるのよ」
ルドルフさん、ラズロさん。
フォローありがとうございます。
師匠は……特になんの反応もない。
これはこれで、ちょっとさみしい。
「そういや、お前ら今夜も泊まってくのか?」
「俺はそのつもりだけど、ラズもだよね?」
「もちろん!ルリちゃんとも沢山話したいし」
それを聞いた師匠は、私を見てニヤリと笑った。
絶対、なにか良くないことを企んでいるに違いない。
またメイドさんごっこか。
いや、ここには凄腕メイドなルージュさんがいるから、それはないだろう。
私がメイドの真似事なんてしたら、ルージュさんの足を引っ張ってしまう。
そう、思っていたのだけど。
私は師匠の企みにむざむざとのせられることになる。




