第14話 師匠に質問します
食後、三人で談話室へ行く。
もちろん、私はまた、あの不味い薬を飲まされた。
半ば無理やり口を開けられ、粉薬を突っ込まれたのだ。
いくらなんでも乱暴じゃなかろうか。
危うく粉でむせる所だった。
まぁ、薬のすぐあとで、水も流し込まれたのだけれど。
ちなみに、色気は皆無だ。
顎を強く掴まれて、ぱかっとあいた口に流し込まれたのだ。
溺れるかと思いましたよ、ええ。
なんの水責めかと。
それはともかく、不味い薬を飲まされても、頭のフワフワは消えなかった。
フワフワしたまま、師匠に抱っこされて、談話室へ移動したのだ。
「いやあ、仲が良さそうで何よりだよ」
「ほっとけ!それで、ルリは何が知りたいんだ」
ルドルフさんを軽くいなして、師匠が隣に座る私に目を向ける。
師匠に聞きたいこと。
「師匠は、なんの魔法が得意ですか?」
「得意な魔法?いや、特にはないな」
特にないですと?
つまり、すべての魔法をまんべんなく使える、と。
「でも、フォルにしか使えない魔法はあるよね」
ルドルフさんの言葉に、私は目を輝かせる。
師匠にしか使えないとか、何それカッコイイ。
オリジナル魔法とかだろうか。
私がキラキラした目を向けると、師匠は少し面倒そうな顔をした。
「お前が期待してるような、珍しい魔法じゃねーぞ?ただ、ちょっと古代魔法を使えるだけだ」
「古代魔法」
まだ、魔法を習い始めたばかりの私には全然ピンとこない。
普通の魔法だって、詠唱は古代語なのに、一体何が違うのか、チンプンカンプンだ。
「大規模攻撃魔法とか、この森を守っているような、大型結界なんかがその一つだよ。多重結界を張ってるんだ」
ほうほう。
ルドルフさん、解説ありがとうございます。
この世界には、戦争は殆ど無いって教えてもらったけど、大規模攻撃魔法ということは、昔は戦争していたのかな?
「ちなみに、何ていう魔法ですか?」
師匠はちょっと嫌そうな顔をしている。
でもちゃんと教えてくれた。
「メテオ・インパクトとかな。うっかり古代語で言うと発動しかねないから口にはしないが」
なんだか、名前からしてすごい。
そしてかっこいい。
ザ・魔法って感じだ。
「君がうっかり魔法を発動させちゃうなんてこと、間違ってもないでしょ。その辺りの制御は完璧なくせに。どうせ、ルリちゃんが古代語だと分からないから、現代語で言ったんでしょ」
パッと師匠の顔を見ると、赤くなっている。
これは、もしかして。
「師匠、酔っ払ってます?」
「バカタレ!酔っ払いはお前の方だろうが」
叱られた。
おかしい。
私はそんなに酔っていないはず。
たぶん。
「他に聞きたいことはあるか?」
どうやら、まだ質問タイムは続いているようだ。
今のうちに聞けることは全部聞いておかないと。
「えっと、師匠の趣味は?」
「魔導具の作成」
「じゃあ、好きな食べ物は?」
「グラタン」
面倒そうに、でもちゃんと師匠は答えてくれる。
ちなみに、なぜかルドルフさんは笑いこけている。
「好みの女性のタイプは?」
ついに、師匠が黙り込んでしまった。
ルドルフさんは、ソファの肘掛けにもたれかかって、プルプル震えている。
「やっぱり、おっぱい大きい方がいいですかね」
「あほか!この酔っ払いが!もう寝ろ」
「ふははっ、もうダメっ」
師匠は怒っているし、ルドルフさんは爆笑しているし、収拾がつかなくなっている。
師匠は、強引に私を抱き上げると、スタスタと談話室を出る。
「私じゃ、おっぱい小さいですかね」
「お前はどんだけ胸にこだわるつもりだ」
「だって……」
「このアホが。お前は、胸の大きさなんて気にしなくていいんだよ」
それはアレだろうか。
私は師匠の中で、女性として見られていないから、胸の大きさも気にしないということ?
「ひどい。私はこんなに師匠のこと好きなのに」
「ばっ……!お前は、酔ってるからってそういうことを簡単に言うなっ」
「簡単じゃないもん。ホントのことだもん」
「わかった!わかったから少し黙れ」
口調とは裏腹に、ベッドの上に優しく寝かされる。
頭を撫でられて、その手が目元に下がってくるのを来るのを感じて、私は身をよじった。
「まだ、寝ない」
「ワガママ言うな。お前、病み上がりの上に酔っ払ってるんだから、もう寝ろ」
でも、まだ寝たくない。
だって、師匠から返事を聞いていない。
好きだって伝えたのに、師匠の気持ちを聞いていない。
口を尖らせた私に、師匠は苦笑する。
「言いたいことがあれば言ってみろ」
「師匠、すき」
「お前な」
師匠はため息をついて、顔を背けた。
僅かに見える顔が赤らんで見えるのは、ランプの明かりを反射しているからだろうか。
師匠は優しい。
男性に免疫のない私は、出会ってたった一週間で、師匠のことを好きになってしまった。
師匠の見た目より、その優しさを好きになってしまった。
甘やかされて、簡単に好きになってしまった。
単純といわば言え。
そう言えば、学生の頃に友達から、悪い男にひっかかりそうと、嬉しくない評価をもらったことがあったのを、思い出す。
(師匠は、悪い男じゃないもん)
「こんな状況で告白なんてして、お前何されても文句言えないぞ?」
ほらね、師匠は優しい。
本当に悪い男だったら、こんなことわざわざ言わない。
「師匠なら、いいです」
「そこは、困りますだろう」
そう言う師匠こそ、困りきった顔をしている。
私が、困らせてるの?
私の想いは、師匠には迷惑?
そう言えば、師匠は一途だって、ルドルフさんが言ってた。
もしかして、まだ一途に誰かのことを思ってるんだろうか。
羨ましい。
師匠に一途に想われているその人が。
もっと早く出会えていたら、私を想ってもらえる可能性もあったのかな。
でも、もっと早くってどれくらい?
私はまだ二十四年しか生きていないけど、師匠は100年以上生きてる。
その差が、今は無性に悲しい。
私の潤んだ瞳を、師匠は今度こそ手のひらで覆った。
「……俺の方がきっと、お前の事好きだぜ」
ポツリと呟かれたのは、夢か現か。
もしかしたら、私の願望が見せた夢だったのかもしれない。
「いい夢を、ルリ」
師匠の優しい声が、夢の中で聞こえた気がした。
◆◆
「おかえり。ルリちゃん寝た?」
「無理やり眠らせた」
深いため息をつく。
あんな爆弾、ズルいだろう。
「フォルはホントに一途だよねぇ」
「うっせぇな」
話を終わらせるつもりで言ったのに、目の前のやつには全然通用しない。
そう言えば、昔からコイツはこういう奴だった。
「一歩間違えばっていうか、ほぼ確実にストーカーだと思うけど、君がそんな男だって知っても、ルリちゃんは君を慕ってくれるのかな」
うるさい。
自分がストーカーなのは、ちゃんと自覚している。
だけど、その姿を毎日見守らないと安心できないくらい、想っていた。
いや、過去形じゃない。
現在進行系か。
一瞬たりとも、目を離したくない。
初めて見たあの日から、ずっとずっと、彼女を見てきた。
自分の想いがあまりにも重すぎて、簡単に口にできないくらいに。
「難儀だねぇ」
「ほっとけ」
俺は、グラスの中の酒を、一気にあおった。




