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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
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望まぬ再会

暗鬼が現れた夜から五日目。


あれから暗鬼の動きはなく、敢えて変わった事と言うならば、真は家から一歩も出ずに引き篭っていた。

強制ではないジムも全く通っていない。


行かなければ…と頭では思ってはいるものの、億劫で、昼間でも外に出ようとするとあの夜の情景が鮮明に頭の中に蘇り、きっと恐れが身体中に絡みついているのだろう。体がすくんでしまう。

何をする訳でもなく、ただ寝具の上で時の流れを待っていたり、テレビを見たりして過ごしていた。


そうなると生活も不規則で、食事も一日あって二食になる。だがそんな生活でも日が経てば食料が無くなるもので、冷蔵庫には食品を仕入れなければならない状態になってしまった。


そんな時、遥鳴から呼び出されたのだ。

とは言うものの電話がない真にとって連絡手段は遥鳴が家に訪れて口言するのみ。

そしていつものようにテレビ鑑賞をしていた真の家を急に遥鳴が尋ね、先日の事もあって様子見も兼ねてか、後日、遥鳴の家を訪ねるよう言葉を残し、急いでいたのだろう訪れてから5分もしないうちに足早に去って行った。


急にも程がある。

まだ…外に出られる状態ではないのに。

暗鬼の存在が離れられない…。


しかし遥鳴の言う事に逆らえる筈もない。遥鳴が去った後も一人悶々と複雑な感情と対峙していた。


それと、遥鳴はこの家に[護]をつけてあると言っていた。大体[護]とは何なのか…身を守る術だというのは解ってはいるが、どうもその[護]に捕らえられている気がしてならない…

確かにその御蔭で家にまで暗鬼は奇襲して来ないが、一抹の不安は心に残る。

だが食料が尽きた以上。このままの生活の果ては飢えた孤独死…

そんな情けない死に方をする訳にはいかず、真は深いため息を尽きながらも覚悟を決めた。






そういう訳で今に至る。


空は快晴。真冬にしては天からの陽射しが強く、風の無い空気は温かみがある。

外に出るまでは連日の煩悶もあり、暗澹な面持ちで、進む一歩に重みがあったが、実際外に出るとこの好天が先程までの憂慮を見事に吹き飛ばした。


暗鬼への不安は薄れたが違った意味での不安がまたのしかかる。

一体真は何の為に遥鳴の家まで呼び出されるのか。

今まで何か用事があれば遥鳴自ら赴いて意向を伝えていた。


特別な意図でもあるのだろうか。


自分の短所なのだろう悪く悪く思考は向かって行く。

遥鳴の家へは引越してから一度地図で教えて貰った事がある。訪れた事はないが、色々目印になるようなものは既に聞いていたので地図を宛にすれば問題なく着けると思う。


ただ一つ、時間の指定が無かったのだ。

いつ向かえばいいのか、それを聞く前に遥鳴は去ってしまったので知り用がない。


考えた一応の末、午前に買い物を済ませ、昼食過ぎの時間帯に家を後にした。

遥鳴の家は真の家から駅一駅分の距離。

それから歩いて15分も歩けば着く。


直ぐに解るような事を言っていたが…此処は住宅地。そして明らかに住宅地の前に高級の文字が付く。

たった一駅でここまで景観が違うとは…


真の実家であった場所は今の住まいに比べれば言われようのない田舎だが、路線に面し、マンションもショッピングモールも立ち並ぶ、生活には申し分な居住区であった。

それでも目の前に佇む高級な住まいは珍しものであった。

それが家柄を競い合うかのように綺麗に並んでいる。


遥鳴の家に着く前に真は気後れしてしまった。


何とか遥鳴の自宅迄辿り着こうと足を進ませるが、一つの家を通り過ぎるのに距離があるため、いくら駅から近いとは言え、多少の時間がかかってしまった。


それでもようやく遥鳴の住所通りの番地へ辿り着き、『蒼間』と書かれた表札が目に入った。


しかし。

それに真は「え?」っと目を見開いて蒼間と掲げられてある家を内心の焦りと共に見上げていた。


『…蒼間は、遥か昔、平安以前から国を裏から牛耳ってきた…』


そう聞いた。

そのため家も立派な門構えの至って純和風。平安時代を漂わせるような日本屋敷。

年期を感じる木製の門は深い色みを帯びていて、いつか腐り崩れてしまうのではないか。


―――――――そんな家だと思っていた。


少なくとも、今目の前にある光景を目にするまでは。

表札に蒼間と書かれたその家は、真の想像と遥かに食い違っていて、普通に辺りの家に溶け込んで至って洋風な面持ちの屋敷だった。

土地の大きさで身分を競い合っているような家よりも、目立ず周囲よりも不釣合いな多少の大きさの家だが、完全に目立つことなく馴染んでいた。


本当にこれが遥鳴の家か。

地図を見ながら真は戸惑ってしまう。番地も住所も間違いなく遥鳴の家なのは確かである。


「・・・・」



真はただ地図の位置とを比べながら、遥鳴の家であろうその門の前に立ち、チャイムを押していいものだろうかと、呆けた顔でその大きな家を見上げていた。


結構な時間が経過する。


辺りを軽く見回しても真が想像していたような日本屋敷は見当たらない。

それならこれ以上考えても無駄な時間にしかならない。


きっとこの家が遥鳴の家だろう。

違ったならば家主に聞けばいいだけの話だ。

真は小さく呼吸を整える。いつになっても人様の家を訪れる時は無駄に時間がかかってしまう。

チャイムを押す指先に力が入り、息を、心を整える前に指がボタンを押してしまう。


チャイムの音が自分にも、家にも響き渡る。


「・・・」



インターフォンをじっと見つめ、対応の言葉を頭の中で紡ぎ出す。

全く社交的でない真にとっては苦境と緊張の時間でしかない。


少しの間その時間を待っていると、ガチャッという音と共に玄関の扉が開いた。

まるで訪れた来客を察したかのような開け方で、その人物は紛れも無く希求していた遥鳴であった。


ここが遥鳴の家だと解った途端、たちまち小さな安堵の溜息が零れた。

遥鳴は真の姿を確認すると朗らかな笑みと歓迎の挨拶を真に向ける。



「この時間に訪れてよかったですか?」


一通りの挨拶をかけると最も気にしていた質問を直球に投げかける。

敬語での距離は相も変わらず縮まらない。



「指定はしてなかったからね。どうぞ入って。」



そんな事は時間が解決するであろうと取り合えず真を家の中へと促す。

遥鳴に言われるままに家へと足を運び入れる。

異性の家にお邪魔するなど今まで一度も無かったし、これからも無いだろう。

そう思っていた。


遥鳴との出逢いで自分は色々な経験をしている…多分…これからも…。


何か手土産でも持ってくれば良かった。

そんな事を考えながら玄関に入ると心が感嘆の声を上げた。

それは玄関としては十分過ぎる程の広さで、フローリングに敷かれた廊下、白を基準とした壁は清潔感漂う。

唯一壁に掛けられた花の額縁はシンプルさとささやかな癒しの空間を生み出していた。



自分の住んでた家とは程遠く、玄関からして以前から秘めていた(こんな家に住んでみたい)という理想そのものだった。

遥鳴を心底羨ましいと思いつつ、丁寧に靴を揃え、静かに遥鳴の後を付いて行く。

遥鳴もまた、真の様子を見ながら部屋へと先導してく。

一般的な家と比べて長い廊下を二人の足音だけが奇妙にひしひしと伝う。


遥鳴の足が1つのドアの前で止まった。



「この部屋に入って。」



優しい口調の遥鳴に言われるまま、真はその部屋に入った。


そこで目に入ったものに真は息を忘れるほどに目を見開いた。

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