3
暗闇の部屋を月明りと外灯が怪しく照らす。
照らし出された真は身動きもせずにベッドに俯せっていた。
凌辱を受けた真は逃げる様に家に駆け込み、そのままベッドに倒れ込んだ。
悔しさが溢れ、何も考える事もする事も出来ない。
そうこうしているうちに、日は傾き、沈み、月と闇だけが空を支配していた。
―――どれくらい経ったんだろ。
真の視線だけがカーテンの開かれた窓へと動く。
普段なら、日の沈む不快な闇夜が嫌で、早くからカーテンを締めるのに、何もする気になれない。
目を閉じれば脳裏に先程の出来事がはっきりと写し出されて胸が締め付けられる。
―――痛い――。
真の心は再び、学校に居た時のあの闇の中に沈みかかろうとしていた。……が静寂った部屋に響き渡る訪問者を告げる音により、真の意識は覚醒される。
精神的にも怠い躯をゆっくりと起こし、ドアへと歩む。
その足取りは重い…
玄関の電気を付けると、鍵をかけていないことに気付く。
―――不用心だな・・・。
そう思いながら、ドアを開け、現れた人物に思わず「あっ」と声を漏らしてしまった。
家を訪ねたのは遥鳴だった。
真は遥鳴が後から来る。と言う約束を完全に忘れていた。いや、それどころではなかった。
自分の顔が強張るのがはっきりと解った。
「帰ったって聞いたから…良かった。家に居たんだね」
「…ご…ごめんなさぃ…」
真の姿を見て安心した遥鳴に、真は謝らずにはいられなかった。
遥鳴に対する謝意の気持ちでいっぱいになる。しかし、帰った理由を言える筈が無く、押し黙る。
遥鳴も、真の様子を見て、あえて何も言わない。
玄関の電気は付いているが、部屋には電気が付いていない。
それに、修練場での少年達の様子からして真が何をされたか理解は付く。
遥鳴にまた、少々の罪悪感が付き纏う。
「―――どうだった?」
「え?」
遥鳴の問いに俯いた真の目線が合わさる。
「訓練…真も受けれそう?」
今、こんな事を言うのは酷かもしれないが、遥鳴がしてやれるのは気付かないふりをするだけだ…。
変に介入すれば、一族からの風当たりは酷くなるだけ、きっと真も望んでいない。その証拠に、今日遭った出来事を遥鳴に話さない。
―――あの場には行きたくない…だからと言って断る訳にはいかない―――
「ぁ…の…まだ私、あそこでやれる自信がない……体力ないし…だから…しばらく上の階で体力つけて行きたい…」
不安なのか、最後の方は聞き取れないほど小さな声だったが、遥鳴の耳には届いていた。
嫌な筈なのに、辛い筈なのに、それでも断らない真の健気さに遥鳴は胸を締め付けられる思いだった。それを拒否出来る筈がない。
「それじゃあ…明日か明後日か…気が向いた日に運動出来る服を持っておいで。
手続きはもう出来てるから」
これ以上真を不安にさせないよう遥鳴は微笑み、真の頭に手を乗せた。
真が頷くと遥鳴は「それじゃあ」と言い残して帰って行った。
遥鳴が見えなくなるまで真はずっと玄関の外から眺めていたが、真冬の夜風に身震いし、部屋へと戻るようにした。
勿論、鍵を閉め忘れずに。
一日の最後を終え、真はベッドに横たわり、考えた。
色々あって複雑な考えが頭を巡る。
それは全て、自分の事と、蒼間の事。
後悔も不安も、募るばかりで納まる事を知らない。
しかし、自分の為に良くしてくれてる遥鳴だけは信じたいし、期待を裏切りたく無かった。
丸一日悩んだ結果、真は意を固めてジムに通う決心をした。
不安は、とてつもなく大きい。
だが、今真が置かれている立場は蒼間の手の上。
足を踏み入れたからには、逆らうことなどできない。
―――強くなる為…
…居場所を見つけなくては―――
真はそう自分に、強く、何度も言い聞かせた。
辛いからと言って、クラスから、学校から、土地から逃げた。これ以上は逃げたくない。
―――強く…なりたい。
もしかしたらジムで地下いた奴等に出会うかもしれない。
また、見下され、蔑まれるかもしれない…その事を考えると胸が痛む。
だが、一般人のジムになんて来る筈もない。
そんな気もした。否、これは確信だ。
蒼間というだけでの面目をもっている一族は、自尊心が以上に高い。
[普通]の人間を完全に見下している。
あの時の態度で解る。
そんな人間が一般人と一緒にトレーニング。なんてする訳がない。
それにレベルが違う。
普通に支給されてる機具なんかで訓練になんてなる筈がない。
蒼間は幼少から過酷な訓練を受けているらしかったから。
それに真が行く日は平日だ。
彼らが学校に通っている限り、会うことはない。
そう考えると肩の力が少し和らいだ。
―――頑張らなくては―――
明日に備え、部屋の隅に置かれている衣装棚からジャージを取り出す。
その手は微かに震えていた。




