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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
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そして決断


真が一人暮らしを始めて一週間が経過した。


蒼間から宛われたアパートは、駅から割と近くの閑静な住宅街で、オートロックなどは付いてないが、心強い事に住人が全員女性の専用アパートである。

真はその2階建ての2階に住んでいる。


この一週間、真は蒼間から予め用意された必需品以外で生活に必要な用品を買っていた。ティッシュに調味料、洗面具。皿。家具…量こそ大したものではないが、見知らぬ新境地で店の場所も判るはずもなく、迷いに迷った挙げ句。買い物だけに一週間全てを費やしてしまった。

その御蔭で少々道にも詳しくなった。

金は全て蒼間から寄せられ、自由に使っていい、と遥鳴には言われたものの、他人の金を易々と使うのも図々しく、罪悪感があるので、真が自分の為に買ったのは料理本数冊。

娯楽に関しては、自分の家から移送されたテレビや漫画だけで充分だった。


何もかもが自由だった…。


しかし、一つだけ…親との連絡だけは頑なに禁止された。

蒼間の存在の漏洩を防ぐ為…理解は出来ても、納得はいかない。


その為に、真の部屋に電話は無い。

必要以上に縛られるのも嫌いで、大して仲の良い友人も居なかった真は今時携帯電話も所有して居なかった。


親との連絡は許されないとは言え、独りに馴れきっている真には、今更淋しいなどの感情は無かった。



それから更に一週間。

蒼間からの音沙汰は何も無い。

まだ遥鳴が気を使ってくれているのであろうか。

しかし電話が無ければ連絡の手段が取れない。かと言ってそれほど気にはならない。

連絡が来ないならこのままでも良かった。



真は一ヶ月程早い冬休みを満喫していた。学校には行ってない。

あれから元居た学校がどうなったかなどの関心は既に消散していた。

自分が受験生というのも忘れ、勉強には一切手も付けていない。


真は受験で出来なかったショッピングを専ら楽しんでいた。

都会なだけに品揃え豊富で、着ている服こそシンプルだが部屋の小物など買った。

蒼間の金は使わず、真が今迄貯めた貯金で賄った。


受験生だっただけに、此処まで気ままに遊べたのは本当に久しく、良いストレスの解消になっていた。


孤独だったが、幸せだった。



部屋にも生活感が現れ始めた頃の昼間。

真は昼食に作ったカルボナーラを満喫し、片付け終わった後程に鳴る事は無いだろうと決めつけていたチャイムが部屋を響かせた。


部屋にはインターホンが無い為、勧誘か何かだろうと相手を浮かべながら鍵の掛かったドアを開け、顔を確認した途端、自分の顔が引きつったのが解った。


真を訪れたのは遥鳴だった。


何故遥鳴が自分の家を知っているのか―…疑問が一瞬過ぎったがこの家を真に与えたのは蒼間。しかも当主である遥鳴が知らない訳がないと考え直す。

一応の挨拶を交わすと部屋に入れない訳にはいかず、渋々遥鳴を部屋に招き入れた。

ソファーが無い為、カーペットのひかれた床に座るよう促すと、真は台所へ赴き適当にあるお茶を入れた。


「綺麗な部屋だね」


「・・・どうも・・」


お茶を遥鳴に差し出すと真はテーブルを挟んで遥鳴の前に座り込む。

真は後ろにあるベットにもたれかかり、お茶を啜る。


「生活には慣れた?」


「…はい‥まぁ…御蔭様で…」



長くは続かない会話。生まれて一度も友人処か異性をも部屋に入れたことのない真には、居た堪れない空気。

その緊張もあって会話を紡ぎ出すことが出来ない。

そんな真の様子に遥鳴は困った顔一つ見せない。遥鳴も真の性格を事前に収集した情報である程度把握していた。

いじめに遇っていた…と言う事実迄は知らないが、中学の個人データを裏から仕入れ、真が人見知りで大人しく、人に介入しない…等の担任の評価や、成績、通院歴を把握していた。

プライバシーの侵害は軽く超えている。

しかし蒼間に来たからには身元は明確にしなければならない。

狭間と繋がっていないと確証はないのだから。

遥鳴にも、少々の罪悪感はあった。この事実を真が知ったらどう思うだろうか…だが遥鳴は、蒼間が此処まで調べ上げている事を真は既に解っている様な気がした。


真はまだ視線を下げたままお茶を啜っている。と言うより視線を合わせようとしていない。

膝を立てて座っている真の姿は遥鳴との距離を更に感じさせる。

15にしてはシンプル過ぎるが清楚な部屋、無駄な飾りは皆無に近い。それは服装にも言えた事だった。

遥鳴はただ真の様子を眺めている。



初めて真に出会った時。

たまたま親戚の家を訪れていた遥鳴は暗鬼の気配を感じて直ぐさま家を飛び出した。


気配を辿り、屋根から屋根へ、人間離れした身体能力で跳び交わし、辿り着いた先は中学の体育館。

最悪の事態が起きたのだ。

直ぐさま体育館に入り込もうとした時、気配が消えた。


そして目の前には武器を持つ血を滴らせた少女…それが真。

その遥鳴を睨む瞳には力があり、殺伐とした殺気と気迫は引っ掛かる物があった。


本来なら他の生徒等同様、記憶を処理させるのだが、大老共に話を付け、真を蒼間に迎えた。

真がすんなりと話を承諾したのは予想外だったが、入るように仕向けたのは遥鳴だ。

蒼間の当主として、真の潜在能力を放っておける訳がなかった。

真の身辺を調査させて、狭間との関わりが見受けられない事が判明した。


もしかしたら、蒼間の戦力になるかもしれない。


―――しかし―――この15の少女を自分自らの手で蒼間の運命に括りつけて本当に良かったのだろうか―――


罪の意識が遥鳴を締め付ける。

暗鬼の問題もあるが、それ以上に蒼間に関わるからには死と隣り合わせなのは確かなのだ。

それなら幾分、記憶を消して普通の生活に戻した方が幸せかもしれない。

蒼間は異常だ。この17年、身を通して良く解る。



だが…過ぎた事は後戻り出来ない。


後悔しても既に遅いのだ。




そして遥鳴は口を開いた。

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