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obsession  作者: 礼央
第三章 目覚めたモノ
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雪乃は幸希の姿を固唾を飲んで眺めていた。

支えている真の顔色はまだ優れず、震えた足で体重を支え、必死に取り繕うとして見える。今雪乃がすべき事は真を守る事だ。

周囲に姿を現している暗鬼がいつ此方に向かってくるか、他にも暗鬼が襲ってくるのかもしれない事から意識は敏感に辺りを巡らせているが、視線だけは幸希に釘付けになっていた。

暗鬼について、噂だけは知っていた。

真に関わるに辺り、身近なものだと認識もし始めていた。

それでも、やはり初めて姿を目にすると、やりきれない恐怖を感じてしまう。漆黒の肢体は温かみが無く、表情を読み取れ無い。人間ではないのだから当たり前なのだが、畏怖と言う物を身に沁みて感じてしまう。

暗鬼の気配にも、一切気付かなかった。

気付かないと言うより、解らなかった。気配そのものが、人の気配なら感じ取れる事はあった。その事が、いくら学校内じゃ実力者の枠に入っていても暗鬼を倒すには遥かに達さないレベルなのではないか―――――――?そんな不安が酷く過った。


幸希を見ていて、更にその思いが強まる。

柱である幸希が自分よりも実力があるのは知っていた。

しかし、その程度の認識なのだ。目の前の幸希は素早い動作で軽々と、そして着実に一体。また一体と暗鬼を消している。武器を持たずに。

術式も簡単な治癒法しか知らない雪乃に取ってその光景は未知のものだった。

それに幸希はまだ一切本気を出していない。

あんな大勢の暗鬼を相手にしていても、何処か余裕のある、相手の見方を定める動きを見せている。


何処か――――――――。

雪乃が本気を出せば、何処か幸希に勝てるのではないかと心の隅で感じていた事はあった。

だがどうだろう。自分がこの場に居て役に立つのだうか?

後ろにいる真を守る事すら出来るのだろうか?

唇を噛み締め、幸希の動きをただ眺めるだけしか出来ない自分の愚かさと弱さを酷く悔んだ。


着実に暗鬼の数を減らしていく幸希。

暗鬼のあの鋭く尖った指先に少しでも掠めれば深手を負うのは明らかだが、暗鬼の体躯からして素早さはまだ欠ける。暗鬼よりもまだ幸希の方が実力は上らしい。

複数同時の暗鬼の攻撃を一撃も受ける事無く、幸希はあの量の暗鬼を全て消し去る。

最後の一体をも消し去り、一息吐く。

手を見やると完全に乾ききった血がこびり付いていた。そして確認の為周囲に視線を向ける。

雪乃や真に意識を向け続けていた為に若干の気疲れはしているものの、まだ、暗鬼の力が使役出来た程度だった事に安堵する。

人払いの効果もいつの間にか効いていた様で、一般人の姿は見当たらない。


幸希は2人の元へ駆け寄る。


「大丈夫か?」


その、幸希の問いかけに雪乃は首を縦に振る。真は相も変わらず顔色は悪いが、先よりも落ち着いては来ているらしい、呼吸が安定している。それ以外の目立った変化は見られない。


「今のうちに少しでもこの場を離れるぞ」


2人の無事を確認すると、すぐさまそう促す。暗鬼の姿は視認できないが、ねっとりと絡みつく気配だけはまだ消えていない。真の様子だけ見て言うなれば、完全に暗鬼の気配に遣られているのだろう。自分では気配以外何も感じないが、真にだけ何か感じるものがあるのかもしれない。

このまま逃げても暗鬼の気配はついてくるかもしれないが、だからといってこの場に居続ける事も出来ない。真を思うのであれば、暗鬼から離れた場所に避難しなければ。

雪乃も幸希に賛同し、真を促す。


数歩。踏み出した途端、願い空しく暗鬼は再び、影と言う影から姿を現した。

今度は倍にも及ぶ数で。その数に雪乃は尻込んでしまう。幸希にも、僅かな焦りが感じられる。

逃げ場を無くす程、3人は周囲を囲まれていた。

幸希は改めて考える。これが全て真を狙っているのであれば暗鬼は何が狙いなのか?真を此処までして狙う訳は一体何なのか?疑問だけが沸いて来る。この数でも流石に血の使役は無理だと悟る。

じりじりと間を詰めてくる暗鬼に意識を向けつつ、右手を握る手に力を入れる。


その時、全ての暗鬼が何処からか黒い飛沫を上げて消滅した。何事かと視線を向けると、そこには見知った顔があった。


「遥鳴・・・と狭間?」


何故か遥鳴と、一度逢った事のある狭間の当主。それと、狭間の人間であろう女の姿があった。


「大丈夫か?」


遥鳴の問いに答えつつも狭間の人間に戸惑いが隠せない。


「どうして狭間なんかと一緒に・・・・」


「これだけ酷い気配に気付かない訳ないだろう。あの2人もだ。

此処に向かっている最中たまたま遭遇したに過ぎない」


その遥鳴のどこか強まった言葉に改めて視線を2人に向ける。2人とも見知った学生服を着ており、年も近いと感じる。女の方は、清治の物であろう宝刀を手にしている。きっと彼女が狭間での柱にあたる人物であり、その宝刀で、今居た暗鬼を消し去ったのだろう。



「真ちゃんっ。大丈夫?」


駆け寄って来た那穂に、真は安堵しながらも、小さく頷く。


「・・・暗鬼の気に当てられたみたいで・・・」


初対面ながら自己紹介もしていられない状況で、雪乃は真の状態を伝える。

きっと、彼女が以前から聞いていた那穂だろう。那穂と、当主と思わしき凪砂とを一瞥する。

こんな状況でなければ、色々話したい事があったのに―――――――。そう、惜しむ。


真も、3人の介入で、少しばかり安心していた。未だ気持ちは優れないのは確かだが、先程よりは呼吸がしやすい。お陰で大分冷静に物事を判断するまでは回復したらしい。



「咲妃達は?」


幸希のそれに遥鳴は答える。


「無事に隠密を呼んである。今は隠密の元で人払いよりも上の結界を張る手伝いをしている」


2人の無事にほっと息継ぐ。そして凪砂を横目で見やる。


「この場に狭間も入れたんだな・・・」


「結界のある前に出会ったのもあるが、俺が入れたんだ。気配が尋常じゃなかったからな・・・」


当主程の実力じゃ難無く侵入する事も出来そうだが、肝心の凪砂の表情は感情が読み取ることが出来ない。


「とりあえず、此処にまだ暗鬼の気配が消えてない以上、この場に留まるのは危険だ」


遥鳴の言葉に全員が頷く。






「―――――――なぁんだ。やっぱあの程度じゃ話になんねぇか」


何処からか、声が響いた。皆が声の発された方向へ視線を向ける。

周囲の高層ビルに囲まれた土地。その中で一際低い高さの建物。屋上に人の影が垣間見えた。此処からは距離があるが、顔ははっきりしない。声が響くように聞こえたのは結界の所為だろうか。



「何者だ」


遥鳴の厳かな声が向けられる。

それもその筈、今この空間には人払いの他に結界が張られている。この場に居ると言う事は何かあるのだろう。

声を向けられた人物は、6階程の高さのあるビルから猫の如くしなやかに地に降りた。骨折しても可笑しくない高さなのだが重力を無くしたかの様に軽々と。

近付いた男は遥鳴より少し上か、20前後に見えた。一言で言えば派手。刈り込みを入れた黄色い髪に、耳に付けられた多くのピアス。ダメージの大きいジーンズ。見た目だけなら不良に分類されるであろう風貌。凪砂の比で無い目つきの悪さだが、口元はとてもにやけていた。

男は5人を一通り眺める。


「お前等蒼間に狭間だろ?ふはっ。本当笑い物だな。何十年も無駄に争ってんだからな」


男の歪んだ、蔑むような微笑に遥鳴の表情が剣呑な者に変わる。


「やはり第三者の組織・・・何故俺達の事を知っている」


皆から険しい視線を向けられて、男は愉快で仕方の無い様子。


「良いぜ。まずは自己紹介してやるよ。俺の名は高藤恭政(たかとうきょうせい)だ。良く覚えておけ。・・・そうだな。お前等見たいに組織名を敢えて言うのであれば[道](たお)だ」


―――――――道―――――――。


心の中で呟いてみるが、遥鳴の記憶には心当たりが無い。自分以上に歴史に詳しい幸希でさえ思い当たる節が無い様子で眉を寄せている。

そんな遥鳴の様子を見て心中でも察したのか、恭政は語り始める。


「お前らが知らないのは無理も無い事だ。歴史が違げんだよ。蒼間の根源は渡来から伝わった五行思想から成る。それを伝えたのが俺達の始祖だ。

蒼間がそれを基盤に自然界の陰陽、五行、占術、天文学などの知識を得て陰陽道を作り上げ、陰陽師と言う役職の組織を作りあげた。そんな中俺達道は国に戻ること無く人知れず力を携えて来た訳だ。

元は一緒なんだよ。暗鬼操れるのも蒼間だけとは限らないってこった」


その台詞に真以外のメンバーは言葉を失った。まさか自分達の組織以上に歴史ある組織の存在。歴史に精通している幸希でさえ知らない話。


「道って名は道教やら天文道、暦道辺りから取った名らしいな」


遥名達の反応を楽しみつつも向けられる殺気を意に介さないと言った様子で恭政は語る。



「その道とやらの組織が何故暗鬼を使って相模を狙っている?」


此処に来て、漸く凪砂が口を開いた。恭政は、内容を良く理解していない様で、凪砂の問いに疑問符を浮かべた。


「相模・・・?――――――嗚呼。そこで暗鬼の臭気に当てられてる奴か。

俺達が狙ってる訳じゃねぇよ。暗鬼が狙ってるんだ。―――――――つまり、お前が核って事だ」


恭政の視線が真へと向けられ、目付きが更に険しい物へと変わった。その鋭い視線に背筋が凍るものを感じた。


「まぁ。暗鬼の気に当てられて使い物にならなさそうだし、とりあえず他のを始末しとくか」


そう言うと恭政はワイヤーにでも引かれているかの如くふわりと距離のある後方へと退いた。その同時のタイミングでまた、光を遮る影の色が濃さを増し、数多くの暗鬼が姿を現した。


「―――――うっ――――」


その数と形状に真は再び悪心に襲われる。この空間に居続け、暗鬼の気配に慣れた所為か大分落ち着いて来ていたのだが、今度こそ本気で意識を失ってしまいそうだ。脚の力が抜ける。


「真っ」


雪乃が真を支えた事によって、地面に倒れるのは逃れたが、ギリギリの意識を暗鬼に向ける。

現れた暗鬼は先のモノよりの形態が変わっていた。肉付きが筋肉質のものへ変わり、背丈も伸びていた。そしてこの悪化した様な臭い。きっと成長しているのだろう。冷や汗が真の額を伝う。

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