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obsession  作者: 礼央
第三章 目覚めたモノ
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現れた者は


雪乃のサポートと、真の頑張りもあってか何とかテストでは赤点を回避することが出来た。

苦手な理数系は思ったほど伸びなかったが他の教科では結構な成績を納める事が出来た。

雪乃は高得点を当たり前の様に取り、咲妃や奈々絵も赤点には程遠い安全圏の点数を得ている。だが何より気に入らないのが自分よりも今迄低い成績であった幸希が全ての点数において真よりも好成績を納めている事だ。

自分の不甲斐無さと不出来さが悔しくて仕方無いが、以前咲妃が言っていた話は本当らしく中でも古典の成績が飛び抜けて良かった。

本人は本気で100点を狙っていたらしいがケアレスミスをしたらしく、残念ながら満点はおろか雪乃すら超えられなかったのを珍しく悔いていた。


何はともあれ皆赤点を回避し夏休みを返上させらせることは無くなったのだ。クラスメイトもテストが終了し、夏に向けて浮き足立つ者と夏休み返上で気落ちしている者とで別れている。前者である真らも同様浮かれており、昼までの授業を終えると遊びに繰り出しているのだ。


「とりあえずはお昼よね?どこ行こうか?」

「マックでいいんじゃない?安いし、このくらいなら幸希が奢ってくれるってー」


「はぁ?何で?」

「いいね。それ幸希ってばやっさしー」


眉をしかめて反論する幸希を気にする様子もなく、勝手な咲妃の物言いに雪乃も同意し話を進める。

何処の店で食べようか、新商品はあったか。2人だけで盛り上がっている様子をついて行けない真と奈々絵はそれを眺めながら控え目に幸希に問う。


「大丈夫なの?自分の分位なら払うけど・・・」


幸希は自分の頭を掻きむしると諦めたかの様に手を降り否定を表す。


「あー、良いよ。俺も今回はわりと頑張ったし、相模も頑張っただろ?俺が払うよ」


「でも・・・お金あるの?急だし・・・」


流石に申し訳ない。そう言おうとした真を幸希は遮る。


「金なら心配する事ねえよ。とりあえず持ち合わせはあるからな」


メニューなどが決まったのだろう雪乃と咲妃は漸く真の会話に割って入って来た。


「そうよ~。気にする事ないわ。元々蒼間の財力は財閥レベルなの。四谷はその中の名家だもん、金持ってるもの。遠慮しちゃ駄目よ、勿体無いわ、生活費が」


そう、幸希の肩を組みながら雪乃は語尾を強めて答えた。雪乃が言う位だから相当なのだろう。以前咲妃が話題にしていた格差と言うものを身に染みて感じた。

途端、遠慮と言う単語が自分の中からすぅーっと消失した。


「なら私は焼き肉か回らないお寿司が食べてみたいな」


夜ご飯に。そう付け加えて。

更に雪乃は便乗してくる。


「良いね!!私も食べたい!!!

幸希そういう店知ってるんでしょ?何かオススメ連れてってよ」


「知らねーよ。大体そこまで金持ってねーし、俺学生だぜ?」


「でもカード持ってるんでしょ?」


咲妃の助言に幸希は完全に狼狽し、閉口してしまう。


「・・・何でそれを・・・」


「叔母さんに聞いた。心配だから持たせてるって」


幸希は力無く肩を落とし、完全に項垂れてしまった。反抗するしても無駄だと悟ったのだろう。其れほど雪乃と咲妃の口が回るのだ。

幸希を弄るのはそこそこにして、真はふと思い返す。幸希以外とは良く遊んだりしたことはあったが、幸希と遊ぶのは初めてでは無いだろうかと。

此方に転校してから共に行動するのが多かった為に大して意識した事が無かった。一緒に帰るのはあったが、やはり何だか新鮮だ。


物思いに耽っていた所で、2人も幸希で遊ぶのに飽きたらしく先ずは目的の飲食店へ向かう事にした。





「皆は夏休みどうするの?」


ある程度お腹が満たされたであろう頃を見計らって雪乃は改まって話題を出した。きっとこの目的があっての集まりなのだろう。


「私と奈々絵は既に話し合ったんだけど特に予定は無いかな?総本家には一度顔を出すくらいかな?ねっ」


そう確認の意味合いを持って奈々絵に語りかけると肯定の頷きを見せる。


「真は?」


「全く無いよ」


実家も無いし。そう考えたが口にしてしまうと空気が悪くなってしまいそうなのでそこは噤んだ。折角明るい雰囲気を無駄にしたくは無い。


「ふーん。幸希は?」


「俺は実家と総本家だな」


嫌々そうに答える辺りきっと本意では無いのだろう。


「まぁ幸希は忙しいだろうね。真とは話したんだけど折角の夏休みだから温泉か何処か行こうって話。色々行きたいねって話してたの。幸希は旅行無理だけど時間が合えば日帰りで遊園地なんてどう?

私も総本家には顔出すつもりだけど二ヶ月も有るんだからとことん遊ばないとね」


そう語る雪乃に咲妃と奈々絵は悩む事無く賛同する。やはり年頃の女の子だけあって青春は満喫したいのだろう。

幸希は視線を落とし、少しばかり悩んだ後残念そうに口を開いた。


「そうだな。旅行は色んな意味で無理だろうな。けど、日帰り位なら時間取れるかもな。

早めに予定決めててくれたら助かる」


「じゃあ今週中には予定決めるよ」


「四谷は実家に行って何かするの?

夏休みって二ヶ月もあるのに?」


いくら跡取りだからといって夏休み全てを一体実家で何をするつもりなのだろうか?蒼間なりに事情が有るのだろうが、それがやはり理解し難い。雪乃や咲妃、奈々絵も四谷に関しては疑問を持った風ではないし、寧ろ当たり前といった様子だ。


「前に言った事あるだろ?俺の一族は古い文献管理してんだよ。跡継ぎの俺はその文献全てをもしもの為に暗記してなきゃいけない。数年前迄は此処にいたしな」


「・・・それって・・・」


前に四谷が何度か言った事。自分の護衛を兼ねて此処に越して来たのだと、だとすれば自分の所為で四谷に苦労させているのではないのか?顔色が若干青ざまった真の思考を読んだのか、幸希は真の言わんとする言葉を遮る。


「相模が気にする事ねぇよ。

お前は何でもかんでも気にしすぎなんだよ。一応役割だし…今までさぼってたってのもあるからな。自業自得って奴だ」


その発言に咲妃はまるで我が子の様に感慨深げな表情でしみじみと頷いた。身内だからか、近くで見続けていた所為か心配する要素があったのだろう。

柱として、名家の長男として忙しいのだろうと大凡の理解は出来る。


「四谷ってクラスじゃ誰とでも会話してるけど、特定の人と遊んだりしないの?

クラスの人まだ全員把握した訳じゃないけどさ、誰と仲良いのかなって」


ふと湧いて出た疑問にに吹き出したのは雪乃と咲妃。どういう事か肩を震わせ笑みを零さない様に手で押さえ、我慢してさえ見えた。

そして苦笑いの奈々絵と何とも形容し難い表情の幸希。その空気を理解出来ずに首を傾げる。

何か、変な事でも言ったのだろうか?


「あんた・・・それ人によっては友達居ないの?って聞いてる様なもんだよ」


声を震わせながらの咲妃の台詞にはっと理解する。


「ご、ごめん。そう言う変な意味で聞いたんじゃないの。

ただ、休み時間とかで私達以外のクラスの子とあんまり一緒に居るイメージないから・・・」


「まぁ、何を言いたいかは分かるけど、あんた以外と鈍いのね。他の事とかは割と敏感なのに。

幸希は人当たりは良いから友達は多い方だとは思うんだけどね。やっぱ何処かで四谷の家でしかも蒼間中枢の柱って事でクラスの中じゃ畏怖もあってかどこか差があるんじゃないの?

それ以前に私達で完全にグループ作ってるもの、あそこまでほぼ四六時中一緒にいれば逆に周りが近寄り難いイメージを持つわよ。

気付かなかった?」


雪乃の回答にそういえば、と思う。確かに皆席がそこそこ近いのもあってか、一緒に居る事が多い。


「折角だからついでに教えてあげるけど、幸希と真は中学一緒だったでしょ?此方にくる前の。だから、どちらかが追い掛けて来た、2人は出来てるって噂も立ってるのよ」


「「え」」


予想もしてなかった雪乃の報告に2人とも初耳だったらしく、声が重複する。


「あっ、私も最近聞かれた」

「・・・私も・・・」


咲妃と奈々絵も肯定する。


「噂は蒼間を知らない外部からの出処なんだけどね、以前あんたらが一緒に帰るのを見た子が何人かいたみたいで、少しずつ少しずつ確信にかわってきたらしくてね、聞かれたの。

本当、ここ2、3日の話よ?」


確かに、何度か帰宅を共にした事はあった。だがそれは暗鬼の件が大多数だ。四谷の事は嫌いではない、が、好きでもない。様々な意味で正直やめて欲しい。

真の不快感露わな表情はさらに眉間に深いしわを刻ませていた。


「女子の噂って恐ろしいな・・・確かに俺が相模を追っかけた形にはなるが・・・一緒に帰ったくらいで・・・」

「いや、普通男女2人っきりで何度も帰宅なんて付き合わない限りしないと思うけど・・・」


理解出来ないといった感じの幸希に冷めた様子の咲妃がテーブルに肘を立てたまま即座に突っ込む。


「・・・そういえば四谷中学時代凄い浮名侍らせてたけど、何か理由が分かった気がする・・・」


真は中学時代を薄っすら追憶しながら呟いた。

「は?俺そんな噂立ってた訳?」


初耳だった様子で幸希は真に視線を向ける。納得していない様子だが、その噂が事実か否かであっても肝心の四谷がこうなのだ。

どうでも良くなった気がした。


呆れながら嘆息する真を眺めながらも、雪乃は内心ほくそ笑んでいた。すい数週間前までは真にそんな噂は一切立たなかった。あり得ないとも思っていたのだが、やはり年頃の女の子はささやかな事でも恋愛に関しての話題には敏感らしい。ましてや完全に人見知りをこじらせている真と、対照的な幸希なのだ。

蒼間という裏方知らないクラスの子数人が雪乃が一人の時を見計らってこっそり尋ねて来たのだ。

ありえないと笑って一蹴する雪乃に、安堵する者と噂を楽しんでいるがっかりする者。前者はそれなりに想いを寄せているんだろうと感じながらも、そんな真の噂に母親のような安心感を覚えていた。

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